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2年生
王宮へ
「え、王宮に?」
夏休みに入り、僕は毎日のようにスパルタ妃教育に勤しんでいた。今日はマヤさんではなく別の講師によるレッスンを受けていたのだが、夕食前に父親の部屋へと呼び出され、明日から王宮に泊まるよう言われた。
「昨日マヤさんの母が倒れたようで、王都を離れるわけにはいかなくなったらしい。本当は学園寮に戻ってもらうつもりだったんだが、フィオーネ殿下のお心遣いにより王宮に泊まる許可を得たんだ」
「フィオーネ様の……」
心臓がバクバクと鳴り始め、身体が震えてくる。僕は両腕でそっと身体を包み、ギュッと服を掴んだ。
「夏休みの間はずっと居ていいとおっしゃっていたよ。よかったなマリス」
「はい……」
父は満面の笑みで僕を見た。僕も必死に笑顔を作ってみせたけど、しっかり笑えていたかはわからない。話が終わった後は夕食を食べたのだが、全く味がしなかった。
王宮に到着したのは昼を過ぎた頃だった。この国一広く大きい建物である王宮には、パーティーのときくらいしか入る機会はない。
応接間に案内され、ソファに座るよう促される。しばらくすると、何人かのメイドや執事を連れて宰相がやってきた。
挨拶を交わした後は父と別れ、客室へと案内される。
王妃教育は明日から再開するとのことで、今日は自由にして良いと言われた。
城内は基本自由に出歩いて良いが、出歩く際は必ず外で控えている護衛を付けなければならない。
王宮探索は子供の頃にし尽くしたので、今日は部屋の中でごろごろさせてもらう。
キングサイズのベッドに倒れ込み、早速昼寝を満喫した。
夜になり、明日に備えて早く寝ようと支度をしていたところだった。コンコンと控えめなノックをされたので返事をすると、すぐに扉が開いた。
部屋に入ってきたのはフィオーネだった。一瞬息が詰まったが、すぐに平静を取り戻す。
「夜分遅くにすまない」
「いえ。あっ、お茶の用意をしますね」
「あぁ、客人なのに悪いね。ありがとう」
「いえ、お気になさらないでください」
フィオーネがソファに座ったので、僕は慌ててお茶の用意をする。
二人分の紅茶を運び、僕はなるべく距離を開けてフィオーネの隣に座った。
「この度は、僕を受け入れてくださり大変感謝しております」
「そんな固い挨拶はよしてくれよ。それに、俺が無理を言って来てもらったんだ。本来なら君は寮に戻る予定だった」
フィオーネが、僕の淹れた紅茶に口をつける。前回あんなことをしたというのに、よく何の警戒も無しに飲めるものだ。
僕は無意識にフィオーネの方をじっと見ていたようで、目が合ったフィオーネに微笑まれた。
「そんなに見られたら身体に穴が空いちゃうよ。もしかして、この紅茶に何か入れたの?」
フィオーネは全てを見透かしたような笑みを浮かべていた。
「いえ」
「この前は感情的になってしまって悪かった。マリス、そんなに警戒してないでもっとこっちにおいで」
「は、はい……」
僕はフィオーネのすぐ隣に座り直した。
フィオーネは、僕に対して酷い態度を取った後はいつもこうしてとびきり優くなるのだった。
フィオーネは紅茶をもう一口飲んだ後、僕の頭をゆっくりと撫で始めた。
「マリス。明日、父と会ってもらうことになったよ」
「へ、陛下に?」
「そんなに緊張しなくて大丈夫だよ。軽い挨拶だから」
すり、とフィオーネの手の甲が僕の頬を滑る。大丈夫と言われても、この国で一番偉い人に会うのだ。
子供の頃はよくわかっていなかったから平気だったが、今となっては緊張しない方がおかしい。
「それでは、俺はそろそろ自室に戻るよ。おやすみマリス、良い夢を」
「おやすみなさい、フィオ様」
フィオーネは僕の頬に軽いキスを落とし、部屋から出ていった。
夏休みに入り、僕は毎日のようにスパルタ妃教育に勤しんでいた。今日はマヤさんではなく別の講師によるレッスンを受けていたのだが、夕食前に父親の部屋へと呼び出され、明日から王宮に泊まるよう言われた。
「昨日マヤさんの母が倒れたようで、王都を離れるわけにはいかなくなったらしい。本当は学園寮に戻ってもらうつもりだったんだが、フィオーネ殿下のお心遣いにより王宮に泊まる許可を得たんだ」
「フィオーネ様の……」
心臓がバクバクと鳴り始め、身体が震えてくる。僕は両腕でそっと身体を包み、ギュッと服を掴んだ。
「夏休みの間はずっと居ていいとおっしゃっていたよ。よかったなマリス」
「はい……」
父は満面の笑みで僕を見た。僕も必死に笑顔を作ってみせたけど、しっかり笑えていたかはわからない。話が終わった後は夕食を食べたのだが、全く味がしなかった。
王宮に到着したのは昼を過ぎた頃だった。この国一広く大きい建物である王宮には、パーティーのときくらいしか入る機会はない。
応接間に案内され、ソファに座るよう促される。しばらくすると、何人かのメイドや執事を連れて宰相がやってきた。
挨拶を交わした後は父と別れ、客室へと案内される。
王妃教育は明日から再開するとのことで、今日は自由にして良いと言われた。
城内は基本自由に出歩いて良いが、出歩く際は必ず外で控えている護衛を付けなければならない。
王宮探索は子供の頃にし尽くしたので、今日は部屋の中でごろごろさせてもらう。
キングサイズのベッドに倒れ込み、早速昼寝を満喫した。
夜になり、明日に備えて早く寝ようと支度をしていたところだった。コンコンと控えめなノックをされたので返事をすると、すぐに扉が開いた。
部屋に入ってきたのはフィオーネだった。一瞬息が詰まったが、すぐに平静を取り戻す。
「夜分遅くにすまない」
「いえ。あっ、お茶の用意をしますね」
「あぁ、客人なのに悪いね。ありがとう」
「いえ、お気になさらないでください」
フィオーネがソファに座ったので、僕は慌ててお茶の用意をする。
二人分の紅茶を運び、僕はなるべく距離を開けてフィオーネの隣に座った。
「この度は、僕を受け入れてくださり大変感謝しております」
「そんな固い挨拶はよしてくれよ。それに、俺が無理を言って来てもらったんだ。本来なら君は寮に戻る予定だった」
フィオーネが、僕の淹れた紅茶に口をつける。前回あんなことをしたというのに、よく何の警戒も無しに飲めるものだ。
僕は無意識にフィオーネの方をじっと見ていたようで、目が合ったフィオーネに微笑まれた。
「そんなに見られたら身体に穴が空いちゃうよ。もしかして、この紅茶に何か入れたの?」
フィオーネは全てを見透かしたような笑みを浮かべていた。
「いえ」
「この前は感情的になってしまって悪かった。マリス、そんなに警戒してないでもっとこっちにおいで」
「は、はい……」
僕はフィオーネのすぐ隣に座り直した。
フィオーネは、僕に対して酷い態度を取った後はいつもこうしてとびきり優くなるのだった。
フィオーネは紅茶をもう一口飲んだ後、僕の頭をゆっくりと撫で始めた。
「マリス。明日、父と会ってもらうことになったよ」
「へ、陛下に?」
「そんなに緊張しなくて大丈夫だよ。軽い挨拶だから」
すり、とフィオーネの手の甲が僕の頬を滑る。大丈夫と言われても、この国で一番偉い人に会うのだ。
子供の頃はよくわかっていなかったから平気だったが、今となっては緊張しない方がおかしい。
「それでは、俺はそろそろ自室に戻るよ。おやすみマリス、良い夢を」
「おやすみなさい、フィオ様」
フィオーネは僕の頬に軽いキスを落とし、部屋から出ていった。
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