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2年生
好き、かも……
朝食を終えた後、謁見の間にて、フィオーネの父である国王と面会をした。国王はフィオーネによく似た金髪青目をしており、その顔にもフィオーネの面影がある。
「久しいな、マリス。ずいぶん大きくなったじゃないか。もっと近くに来て顔を見せてくれ」
「は、はい」
王立バーバリア学園の卒業生で父と同級生だった国王陛下は、僕にも気さくに話かけてくれる。近くに来てと言われどうしたらいいかわからず戸惑っていた僕を見かねた騎士の一人が、国王の傍まで誘導してくれた。
僕は再び跪いた。
「顔を上げてくれ」
言われたとおり顔を上げる。
「うむ、やっぱり君はリリアンによく似て愛らしい顔をしているな」
「光栄です」
「フィオーネの未来の妻として、日々勉強を頑張っているようだね。他の妃の子たちのお手本になれるよう、これからも頑張ってくれたまえ」
「……はい。精進します」
王との謁見が終わり、妃教育が行われる勉強部屋へと向かう。踏み出す足の一歩一歩がとても重く感じられた。この城の重力は、僕には重たすぎて息苦しい。
(勝手に婚約させられて、フィオーネの『もの』として生きて、僕は男で後継ぎも産めないから、フィオーネと他の誰かが生んだ子供を遠くから眺めるだけ。僕の……マリスの人生は……)
王宮に飼い殺しにされるのも、婚約破棄されてどこかで野垂れ死ぬのも、大して変わらないのではないか。
このままいけばマリスの破滅エンドを回避することはできるが、フィオーネに婚約破棄してもらうことは厳しいという現実が見えてきた。
僕から婚約破棄ができたらどんなにいいかと願ったが、相手は王族だ。誰もが納得する正当な理由が無ければ、こちらから婚約破棄などできるわけない。
仮に僕一人だけの感情で動き、王族の反感を買ってしまったら、父や兄にも迷惑をかけるかもしれない。特に、大好きな兄に迷惑をかけることだけは絶対に避けたい。
僕は今すぐにでも泣きたくなったが、突然廊下で泣きだしたら、僕についてくれている護衛の方をびっくりさせてしまうと思い、なんとか涙を堪えた。
王宮で過ごすことになってから何日が経ち、今日は一日お休みをいただいた。王宮での生活もあと一週間くらいで終わるだろう。それに、いよいよ明日は建国際……夏祭りイベントがある。
そわそわしながら明日のことを考えていると、コツンと窓に何かが当たる音がした。窓の方に目を向けると、窓越しにグランが立っていた。
目が合ったグランは笑いながら手を振った。僕は慌てて窓を開ける。
「よっ!」
「グラン!」
僕の泊まっている部屋は一階にあり、ちょうど中庭に面している。僕はグランに部屋に入るよう促した。
「悪いな」
口ではそう言いながらもグランは遠慮なく部屋に入ってきて、ドカリと勢いよくソファに座った。僕は二人分の紅茶を用意して、グランの隣に座る。
「サンキュ」
「それにしても……本当に第二王子なんだね」
護衛も無しに中庭を自由に歩ける人間は王族くらいなものだろう。といっても、いくら敷地内とはいえ単独行動は危険なので、王族であっても基本は護衛と共に移動するはずなのだが。
「何、俺のこと疑ってたの?」
「そういうわけじゃないけどさ、改めて実感したよ」
「そうかそうか。そりゃ光栄だ」
グランは紅茶を一気に飲み干した。
「ところで、何か僕に用事?」
「いや? 暇だったからさ。今日は例の勉強はねえの?」
「うん。今日と明日はお休みだよ」
「そういや明日は建国際だもんな」
建国際は街中にたくさん屋台が出たり、夕方から花火が上がったりする。そのため、街に住んでいる人たちは準備に忙しいらしい。
「明日の建国際はやっぱりセオと行くのか?」
「えっ!? う、うん。よくわかったね」
セオという単語に思わず動揺してしまう。
「当てずっぽうだったんだけど。お前らってマジでまだ付き合ってねえんだよな?」
「うん、まだ……まだ? いや、まだも何も、今後付き合うかどうかもわかんないし」
「でもマリス、もう完全にセオのこと好きだよな? 顔がリンゴみたいになってるし」
指摘されるとどんどん顔に熱が帯びてくることを自覚させられた。熱くなった顔を片手で仰ぎながら、紅茶を喉に流し込む。
「で、どーなんだよマリス?」
グランはニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべた。
「うん……好き、かも……」
声に出して言ってみると、余計に恥ずかしさが増す。赤かった僕の顔はさらに紅潮しているだろう。
赤い顔を隠すように俯いていると、視界の端にスッと手が伸びてくるのが見えた。
「わっ!」
グランは僕の頭をぐしゃぐしゃに撫でた。せっかく整えてもらった髪がボサボサだ。
「もう、いきなり何するんだよ!」
「べーつに。じゃあ俺、そろそろ行くわ。お前たちのこと応援してるからさ、進捗報告よろしくな」
「へ!? あ、ちょっと! ま、またね!」
さっさと部屋を出て行ってしまうグランの背中に呼びかける。グランは振り向かずに手だけをひらりと揺らした。
部屋に一人残され、少し寂しい気持ちになる。僕はすっかり冷めた紅茶を飲んだ後、やることがないので昼寝をすることにした。
「久しいな、マリス。ずいぶん大きくなったじゃないか。もっと近くに来て顔を見せてくれ」
「は、はい」
王立バーバリア学園の卒業生で父と同級生だった国王陛下は、僕にも気さくに話かけてくれる。近くに来てと言われどうしたらいいかわからず戸惑っていた僕を見かねた騎士の一人が、国王の傍まで誘導してくれた。
僕は再び跪いた。
「顔を上げてくれ」
言われたとおり顔を上げる。
「うむ、やっぱり君はリリアンによく似て愛らしい顔をしているな」
「光栄です」
「フィオーネの未来の妻として、日々勉強を頑張っているようだね。他の妃の子たちのお手本になれるよう、これからも頑張ってくれたまえ」
「……はい。精進します」
王との謁見が終わり、妃教育が行われる勉強部屋へと向かう。踏み出す足の一歩一歩がとても重く感じられた。この城の重力は、僕には重たすぎて息苦しい。
(勝手に婚約させられて、フィオーネの『もの』として生きて、僕は男で後継ぎも産めないから、フィオーネと他の誰かが生んだ子供を遠くから眺めるだけ。僕の……マリスの人生は……)
王宮に飼い殺しにされるのも、婚約破棄されてどこかで野垂れ死ぬのも、大して変わらないのではないか。
このままいけばマリスの破滅エンドを回避することはできるが、フィオーネに婚約破棄してもらうことは厳しいという現実が見えてきた。
僕から婚約破棄ができたらどんなにいいかと願ったが、相手は王族だ。誰もが納得する正当な理由が無ければ、こちらから婚約破棄などできるわけない。
仮に僕一人だけの感情で動き、王族の反感を買ってしまったら、父や兄にも迷惑をかけるかもしれない。特に、大好きな兄に迷惑をかけることだけは絶対に避けたい。
僕は今すぐにでも泣きたくなったが、突然廊下で泣きだしたら、僕についてくれている護衛の方をびっくりさせてしまうと思い、なんとか涙を堪えた。
王宮で過ごすことになってから何日が経ち、今日は一日お休みをいただいた。王宮での生活もあと一週間くらいで終わるだろう。それに、いよいよ明日は建国際……夏祭りイベントがある。
そわそわしながら明日のことを考えていると、コツンと窓に何かが当たる音がした。窓の方に目を向けると、窓越しにグランが立っていた。
目が合ったグランは笑いながら手を振った。僕は慌てて窓を開ける。
「よっ!」
「グラン!」
僕の泊まっている部屋は一階にあり、ちょうど中庭に面している。僕はグランに部屋に入るよう促した。
「悪いな」
口ではそう言いながらもグランは遠慮なく部屋に入ってきて、ドカリと勢いよくソファに座った。僕は二人分の紅茶を用意して、グランの隣に座る。
「サンキュ」
「それにしても……本当に第二王子なんだね」
護衛も無しに中庭を自由に歩ける人間は王族くらいなものだろう。といっても、いくら敷地内とはいえ単独行動は危険なので、王族であっても基本は護衛と共に移動するはずなのだが。
「何、俺のこと疑ってたの?」
「そういうわけじゃないけどさ、改めて実感したよ」
「そうかそうか。そりゃ光栄だ」
グランは紅茶を一気に飲み干した。
「ところで、何か僕に用事?」
「いや? 暇だったからさ。今日は例の勉強はねえの?」
「うん。今日と明日はお休みだよ」
「そういや明日は建国際だもんな」
建国際は街中にたくさん屋台が出たり、夕方から花火が上がったりする。そのため、街に住んでいる人たちは準備に忙しいらしい。
「明日の建国際はやっぱりセオと行くのか?」
「えっ!? う、うん。よくわかったね」
セオという単語に思わず動揺してしまう。
「当てずっぽうだったんだけど。お前らってマジでまだ付き合ってねえんだよな?」
「うん、まだ……まだ? いや、まだも何も、今後付き合うかどうかもわかんないし」
「でもマリス、もう完全にセオのこと好きだよな? 顔がリンゴみたいになってるし」
指摘されるとどんどん顔に熱が帯びてくることを自覚させられた。熱くなった顔を片手で仰ぎながら、紅茶を喉に流し込む。
「で、どーなんだよマリス?」
グランはニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべた。
「うん……好き、かも……」
声に出して言ってみると、余計に恥ずかしさが増す。赤かった僕の顔はさらに紅潮しているだろう。
赤い顔を隠すように俯いていると、視界の端にスッと手が伸びてくるのが見えた。
「わっ!」
グランは僕の頭をぐしゃぐしゃに撫でた。せっかく整えてもらった髪がボサボサだ。
「もう、いきなり何するんだよ!」
「べーつに。じゃあ俺、そろそろ行くわ。お前たちのこと応援してるからさ、進捗報告よろしくな」
「へ!? あ、ちょっと! ま、またね!」
さっさと部屋を出て行ってしまうグランの背中に呼びかける。グランは振り向かずに手だけをひらりと揺らした。
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