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黒牙の盗賊団
クラスメイトの死
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時は少し前に遡る。
音宮とクロエがまだ修行をしている頃、リスランダ王国では事件が起きていた。
「千里…千里!おい、起きろよ!」
「いや…なんでこんな目に…」
「嘘でしょ…ねえ、起きてよぉ…」
「申し訳ありません。我々が到着した時には寧々島様は既に…」
そこには血まみれの寧々島千里が横たわっていた。
天野班の仲間たちが涙を流しながら寧々島へと話しかける。
息が荒く、まともに呼吸が出来ていない。
誰がどう見ても致命傷だと理解できる程の深手を負っている。
「千里の身になにがあったんですか…千里は…千里は治るんですよね?」
「寧々島様には音宮様と安藤様追跡の任に同行して頂いていました。
彼の『千里眼《クレアボヤンス》』のスキルがあれば発見できると思っての事です。
任務には第2騎士団団長のギル・オーガイも同行していた為、万全の準備を施したつもりだったのですが…道中、予想外の襲撃を受けてしまい寧々島様は重傷を負ってしまわれました。
治療の限りを尽くしているのですが、なんせ私の治癒魔法では血を止めるのが精いっぱいで…申し訳ありません。」
セルジールが寧々島の傷跡に手を添え、回復の魔法をかけている。
だが、寧々島の容体は一向に良くならない。
「予想外の襲撃って…一体誰なんですか!千里をこんな風にした奴は!」
「それは…」
「セルジールさん。答えて下さい。」
言うべきが否か迷っていたセルジールだったが、天野だけではなく、同じ班の大井にも迫られ、残りの女子2人の顔を見ると覚悟を決めたかのように見つめ返して来る。
「これは確定ではないのですが…音宮様と安藤様は魔王軍に操られている可能性があります。寧々島様と我が騎士団を襲ったのは魔王軍幹部のルドーです。
彼らは2人の後を追っていた隙を魔王軍に狙われました。
まるで最初からこちらの出方が読まれていたかのように。
だとしたら、音宮様と安藤様は囮として魔王軍に使われている可能性が高い。
我々に助けを求めて来ないところを考慮すると、なんらかの術で操っていると思われます。」
「2人が魔王軍に操られている…」
「あくまで可能性ですが十分ありうるかと。」
「…セルジールさん、そのルドーとかいうやつのせいで千里はこんな目にあって、音宮君と安藤さんは王国に帰って来る事が出来ないんですよね。」
「ええ…そうです。」
「わかりました。今度は僕を連れて行ってください。
こんな事を知って大人しくしていられる程僕は大人じゃない。
それに僕のスキルは『勇者《ブレイバー》』。
クラスメイト皆を助けるのが僕の役目だ。」
天野光輝《あまのこうき》の体から金色の魔力が放出される。
魔力の勢いが突風のように周囲の物を蹴散らしていった。
「待ってろよ千里。お前の敵は俺がうってやるからな。」
薄れる意識の中で天野の声を聞いていた寧々島は彼に呼びかけようとする。
違う…違うんだ、光輝。
俺がやられたのは魔王軍なんかじゃない。
頼む…早く逃げてくれ。
この世界は俺たちを受け入れてなんかいない。
そう叫びたいのに声が出ない。
だんだん体の力が抜けていく。
ああ……俺はもうここまでか。
せめて誰か一人だけでもこの世界から逃げ切ってくれ…
寧々島の息は途絶えてしまった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「大変申し訳ありませんでした。我々の責任です。」
「少し…僕たちだけにして下さい。」
寧々島の死体の前で泣きじゃくる天野班をおいて、セルジールは天野に言われた通り、部屋を出ることにした。
「そこにいるんだろう。ギル。」
「なんだバレてたのか。」
セルジールが歩いていると、背後の暗闇からギルの姿が現れた。
その体はぴんぴんしているようだ。
「俺のやり方どうだった?友人の前で死ぬ。随分いいシナリオだったろ。」
「どこがだ。あれでやっぱり戦いたくないなどと言われる方が面倒だ。
奴らにはしっかりと捨て駒になって貰わねば困る。
ギル、今度から殺すときは首を刎ねろ。
わかったな。」
「へいへ~い。ったく、死ぬことには変わりねえだろ。
それに、団長だって回復魔法使ってるふりしてジワジワに攻撃してただろ。」
先程セルジールが寧々島に使っていたのは回復魔法などではない。
自身の魔力を寧々島に流し込み、細胞を破壊していたのだ。
「お前が止めを刺していないからだ。あの距離でバレずに殺すにはああする以外なかった。」
「そうですかい。何はともあれ任務成功ってことで。今度はもっと骨のある任務下さいよ。雑魚を殺すほどつまらねえ仕事はねえ。」
「それならピッタリの任務がある。殺す前に寧々島のスキルで見つけた音宮と安藤だが、ようやく居場所が判明した。
どちらかお前に行かせてやる。」
「しゃあ!ラッキー。それじゃあ…こっちかな?」
「ほう、お前はそいつを選んだか…」
「ああ、こっちの方が面白そうだからな。待ってろよーーーーー」
音宮とクロエがまだ修行をしている頃、リスランダ王国では事件が起きていた。
「千里…千里!おい、起きろよ!」
「いや…なんでこんな目に…」
「嘘でしょ…ねえ、起きてよぉ…」
「申し訳ありません。我々が到着した時には寧々島様は既に…」
そこには血まみれの寧々島千里が横たわっていた。
天野班の仲間たちが涙を流しながら寧々島へと話しかける。
息が荒く、まともに呼吸が出来ていない。
誰がどう見ても致命傷だと理解できる程の深手を負っている。
「千里の身になにがあったんですか…千里は…千里は治るんですよね?」
「寧々島様には音宮様と安藤様追跡の任に同行して頂いていました。
彼の『千里眼《クレアボヤンス》』のスキルがあれば発見できると思っての事です。
任務には第2騎士団団長のギル・オーガイも同行していた為、万全の準備を施したつもりだったのですが…道中、予想外の襲撃を受けてしまい寧々島様は重傷を負ってしまわれました。
治療の限りを尽くしているのですが、なんせ私の治癒魔法では血を止めるのが精いっぱいで…申し訳ありません。」
セルジールが寧々島の傷跡に手を添え、回復の魔法をかけている。
だが、寧々島の容体は一向に良くならない。
「予想外の襲撃って…一体誰なんですか!千里をこんな風にした奴は!」
「それは…」
「セルジールさん。答えて下さい。」
言うべきが否か迷っていたセルジールだったが、天野だけではなく、同じ班の大井にも迫られ、残りの女子2人の顔を見ると覚悟を決めたかのように見つめ返して来る。
「これは確定ではないのですが…音宮様と安藤様は魔王軍に操られている可能性があります。寧々島様と我が騎士団を襲ったのは魔王軍幹部のルドーです。
彼らは2人の後を追っていた隙を魔王軍に狙われました。
まるで最初からこちらの出方が読まれていたかのように。
だとしたら、音宮様と安藤様は囮として魔王軍に使われている可能性が高い。
我々に助けを求めて来ないところを考慮すると、なんらかの術で操っていると思われます。」
「2人が魔王軍に操られている…」
「あくまで可能性ですが十分ありうるかと。」
「…セルジールさん、そのルドーとかいうやつのせいで千里はこんな目にあって、音宮君と安藤さんは王国に帰って来る事が出来ないんですよね。」
「ええ…そうです。」
「わかりました。今度は僕を連れて行ってください。
こんな事を知って大人しくしていられる程僕は大人じゃない。
それに僕のスキルは『勇者《ブレイバー》』。
クラスメイト皆を助けるのが僕の役目だ。」
天野光輝《あまのこうき》の体から金色の魔力が放出される。
魔力の勢いが突風のように周囲の物を蹴散らしていった。
「待ってろよ千里。お前の敵は俺がうってやるからな。」
薄れる意識の中で天野の声を聞いていた寧々島は彼に呼びかけようとする。
違う…違うんだ、光輝。
俺がやられたのは魔王軍なんかじゃない。
頼む…早く逃げてくれ。
この世界は俺たちを受け入れてなんかいない。
そう叫びたいのに声が出ない。
だんだん体の力が抜けていく。
ああ……俺はもうここまでか。
せめて誰か一人だけでもこの世界から逃げ切ってくれ…
寧々島の息は途絶えてしまった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「大変申し訳ありませんでした。我々の責任です。」
「少し…僕たちだけにして下さい。」
寧々島の死体の前で泣きじゃくる天野班をおいて、セルジールは天野に言われた通り、部屋を出ることにした。
「そこにいるんだろう。ギル。」
「なんだバレてたのか。」
セルジールが歩いていると、背後の暗闇からギルの姿が現れた。
その体はぴんぴんしているようだ。
「俺のやり方どうだった?友人の前で死ぬ。随分いいシナリオだったろ。」
「どこがだ。あれでやっぱり戦いたくないなどと言われる方が面倒だ。
奴らにはしっかりと捨て駒になって貰わねば困る。
ギル、今度から殺すときは首を刎ねろ。
わかったな。」
「へいへ~い。ったく、死ぬことには変わりねえだろ。
それに、団長だって回復魔法使ってるふりしてジワジワに攻撃してただろ。」
先程セルジールが寧々島に使っていたのは回復魔法などではない。
自身の魔力を寧々島に流し込み、細胞を破壊していたのだ。
「お前が止めを刺していないからだ。あの距離でバレずに殺すにはああする以外なかった。」
「そうですかい。何はともあれ任務成功ってことで。今度はもっと骨のある任務下さいよ。雑魚を殺すほどつまらねえ仕事はねえ。」
「それならピッタリの任務がある。殺す前に寧々島のスキルで見つけた音宮と安藤だが、ようやく居場所が判明した。
どちらかお前に行かせてやる。」
「しゃあ!ラッキー。それじゃあ…こっちかな?」
「ほう、お前はそいつを選んだか…」
「ああ、こっちの方が面白そうだからな。待ってろよーーーーー」
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