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過去編
彼女を救うため
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この後の数日は、三人で昼食を続けていた。今日も早速、美玖と一緒に出発しようとしたある日の昼休み、これまた聡も話し掛けてきた。
「おーい、お前ら」
およそ二週間ぶりの昼時に聞く声で、そういえばと思い出した。未来と話すようになってからというもの、こいつのことをずっと無視していたのだった。
「はい、なんでしょう」
聡は外に指を向け、「毎日昼になると会いに行ってるあの子は誰だ?」 と言った。
それを聞いた美玖は話す。
「あーっと、未来ちゃんっていう一年生の子がいるんだけど、まぁ込み入ったことがあってね」
僕は少し考え、聡にも協力を仰いでも良いかもしれないと思った。
「聡にも美玖が聞いたことを話しても良いと思うぞ」
それに美玖は了解と頷き、ここまでの未来との間でしていたことを話した。
「そうか、俺に任せろ」
聡は未来のことを聞き、歓迎といった様子だった。三人集まればきっと、未来のことを助ける現実味を帯びるのではないかと思い始めた。それと同時に、悩み始める。
二人には未来の『未来』を教えるべきだろうか。僕一人には荷が重すぎるのではないかと少々感じていた。なにぶん、自殺を選ぶ原因がわからないのだ。原因がわからないものを邪推し続けていても、何も解答は生まれないのではないか。
一人では気付けないことも、この二人がいればわかるということもあるかもしれない。しかし、あの『未来』を教えてしまうと、未来とは一歩距離を作ってしまうのではないか。彼らを疑うのは非常に申し訳ないが、未来との接し方に丁重を意識しすぎるあまり、腫れ物扱いのようになってしまうかもしれない。
僕は「うーん」と唸りながら杞憂していると、その姿を見かねた二人は言う。
「お前、何を悩んでるんだ?」
「一人で考え込まないで、私たちにも頼んでみたら? その悩みの種って、未来ちゃんのことでしょ」
そう言って、二人は微笑む。気の利く奴らだ。改めてそう思った。
「そうだな、うん。話しても良いが、かなり深刻だからな。もちろん他言無用だ」
「わかってるさ」
「もちろんだよ」
そうして、あの『未来』を話し始める。
「……」
未来の話をしている間、二人は一切の言葉を挟まず、真剣に聴いていたようだ。僕はというもの、反応が怖かったがために、下を向いて話していた。そして話し終え、表情を窺ってみる。
予想できていたことだったが、二人は何と言ったら良いのかといった表情をしていた。当然のことだ。「死」という想像以上の事実を突きつけられしまっては、誰だってこういう反応を見せる。まして自殺なのだから。僕だってそうだった。僕は補足するように話す。
「今話したことを踏まえて、未来を一人にしておけないと思ったから、最近はずっと会いに行っていたんだ。話さずすまん」
そう言って、頭を下げた。
その姿を見た二人は、慌ててとりなす。
「いや、頭を下げるな。お前は悪くないし、俺だってそれほどの大ごとを抱えていたら躊躇うさ」
「うんうん、私もそう思うよ。兄さん一人じゃとてもじゃないけど、抱えきれる問題じゃないよ」
そう言う美玖は、悲しみのあまり思わず涙を浮かべている様子だった。
「今聞くことじゃないかもしれないんだが、お前のその『未来視』って、どう視えるんだ?」
聡は疑問符を浮かべた様子で聞いた。
「ああ、二人には詳しく説明していなかったな。まず、僕のこの能力は昨年末の父が関係しているが、それは言わずもがなだと思う。そして、これは僕の左目にだけに映る」
左目に指を当てて言った。これに疑問を持った美玖は聞いてくる。
「ということは、その能力で視ている間は、右目には何が見えてるの?」
「何も映っていないぞ。右目は私生活で機能して、左目は『未来視』で機能している形だな。ちなみに能力を使用中、意識は完全にあっちに行っているようだから、肩を叩いたりしても無駄だぞ。僕はその間失神しているような状態だろうけど、何も心配はいらない」
「そ、そっか」
美玖は引け気味言った。そして聡も疑問を挟む。
「それは、いくら使っても負担とかないのか?」
「まぁ、生活に多少なりともの支障をきたしているかもしれないな」
「そうだよなー失神状態になるんだもんな。だいぶ支障あるよそれは」
はっはっはと笑いながら、聡の肩をバンバンと叩いた。
「ちなみにその視える『未来』って、選べるのか? というのも、例えば俺に彼女はできるのかとか。それともランダムなのか」
「どうやら選べるみたいだ。咲美さんに使った場合でも、何か悩んでいそうだったから、その種を知りたいと願ったら視えたからな。ただし、指定がなければランダムだ」
「私からも質問。いつ起こる『未来』なのかってわかるの?」
「それがわからないんだ。だから視えた景色から自分で推理するしかない」
それを聞いた美玖は、「大変だね~」と大きくうんうんと頷いた。
「そうだ、確認だけど、その『未来』は変えられるんだよね?」
「ああ、変えられる……はずだ。というのも、僕のこの能力はその『未来』に至る原因を知ることができないんだ。だから、いくら過程を変えたところで、その原因を取り去らない限り無意味な可能性もある。今まで、これほど大きな問題に直面したことは初めてで経験がないんだ。だから、頭を悩ませていたところだった」
僕はこう言うと、またありがとうと頭を下げる。
これらの話を聞いた美玖は、何かを考えているようだった。顎に指を添えてうなっている。
「そうだ、兄さん、最後に聞きたい。その能力って持て余してない?」
「う、まぁ持て余しているな」
本当の意味で役立ったことは今回が初めてだろう。そもそも本来の使い方はこういう人助けだと思うのだが、それは置いておく。
「未来ちゃんと私たちが常に一緒にいられる大義名分となって、学校受けも良い。そんなことを思いついたよ」
そして、美玖は人差し指を立て、アイデアを示す。
「その『未来視』を活かした部活を作るというのはどう? 活動内容は、人生相談を受け、能力で解決するということで。メンバーは兄さん、私、聡くん、未来ちゃんの四人。我ながら凄く良い考えだと思うよ」
「な、なるほど! その手があったか!」
僕は考えもしなかったことを聞き、大袈裟にリアクションをとった。やはり、一人で抱え込まず相談して正解だった。ただ、一つ気になる点があった。
「一つ気を付けて欲しいことがあってだな、人生相談を受けるのは構わないんだが、この能力で解決まで導けるかどうかは別問題だぞ。あくまで人生相談という名を冠した占いのようになると思う」
美玖は自分の胸に拳を当て、「任せて」と言う。「大丈夫、解決に関しては、私たちみんなで話し合えばなんとかなるよ」
なるほどと思った。これは良い考えであろう。しかし、また気になった。
「僕だけ負担が大きくないか?」
僕は不満を露わにした。これには、我ながら面倒なことを言うなと思った。
「そこは安心してよ。相談者を探す仕事は私、未来ちゃん、聡くんが担当するからさ。兄さんは、私たちが連れて来るまで惰眠を貪っていても良いよ。ね? 聡くん」
これまで特に何も口を挟まなかった聡は、仰せのままにというように頷いた。
「俺は良い考えだと思うぞ」
これで三人は確定したから、残りは最重要である未来か。
三人でずいぶん長いこと話し合っていたようだ。昼休みが始まって、既に二十分も経過している。この話し合いについて、未来には何も連絡をしていなかったため、今の今まで待たせ続けているかもしれない。
僕は窓辺に寄り、窓を開いていつものベンチを見た。未来は座っていた。どうやら既に弁当を食べているようだ。僕らは急いで未来のもとへと向かった。
「ごめんな、咲美さん、遅くなった」
急いだために上がった息を整え、開口一番に謝罪をし、頭を下げた。
「良いですよ、全然。ただ、先に食べちゃいました。その話は置いといて、後ろにまた新しい人が見えますね」
手を聡へと向けて言った。
「君が未来ちゃん? 初めまして、俺は社陸聡」
未来はその名前を聞いて驚き、「ホームズの子孫のかたですか?」 と手に口を当てながら言った。僕は口をはさむ。
「そうだぞ、僕の助手だ」
これを聞いた聡は、「違うよ。俺の先祖は農家だ」 と僕を無視して言った。
「どうも初めまして、わたしは咲美未来と言います。石岡先輩の友達のかたですね。先輩がいつもお世話になっています」
未来は丁寧に挨拶とお辞儀をして言った。
「未来ちゃんね。いつもヒロを世話してます。これからよろしくね。それに敬語は良いからさ。俺のことは聡くんとでも呼んでくれ」
聡はそう言って握手を求めた。それを受けた未来も手を差しだし、互いに握手をし合った。これを見た僕は怒りにかられた。僕だけ妙に距離が遠いのは気のせいではないはずだ。社交的な聡が憎い。僕は歩み寄ることに決めた。
「咲美さん、僕にも敬語はいらないよ? ヒロくんとでも呼んで貰って構わない」
それを聞いた未来は笑顔になった。
「それじゃあ……ヒロくん。ヒロくん。わたしのことも未来と呼んでください。でも、敬語はやめません。ヒロくんは特別ですから」
こうして僕らはベンチに左から僕、未来、美玖、そしてアフリカンマリーゴールドの植えられた花鉢を挟んで聡が。という並びで座ることが常となった。
そして、僕らは本題へと入ることにした。
「未来は確か部活には入ってなかったよな」
「はい、入っていませんよ。帰宅部です」
「実は、僕らは部活を作ろうと思っている」
「へ~そうなんですか、どんな部活ですか?」
ここで肝心なことを忘れていた。僕は未来に『未来視』の存在を教えていなかった。果たしてどうしたものか。
「未だ仮名段階だが、活動内容は、みんなの人生相談に乗ってあげること。なつもりだ。つまりそのまんま人生相談部というわけだな」
「なるほど! それ良いですね! なんてったって、社会奉仕活動ですし、学校受けも生徒受けも良さそうです! さすがですヒロくん!」
「いや、アイデアを出したのは美玖なんだがな。まぁそれは良いとして、どうだ? 未来も入ってみる気はないか? メンバーはここにいる総勢四人のつもりだ」
こうして話す僕を補足する形で、美玖は言う。
「人生相談を受けるのは主に兄さんで、私と聡くんと未来ちゃんは一緒に相談者を探す役目のつもりだよ」
それを聞いた未来は大きく頷いた。
「とっても良いと思います。わたしも仲間に入りたいです!」
未来はすんなりと承諾してくれたようだ。そして彼女は言う。
「ヒロくんは、どうやって相談に乗ってあげるんですか?」
さすがにそこは突っ込むか。僕は先日未来に使ったことは伏せ、正直に話す。
「僕は『未来』が視えるんだ」
これを聞いた未来は、ポカーンとなった。
「ど、どういうことですか? わたしのことは見えていますよね」
うっかりしていた。『未来』と未来は字面も発音も被っているのだった。ややこしいことこの上ない。
「未来の方じゃないんだ。『未来』の方だ。咲美未来の未来じゃなく、フューチャーの方の『未来』だ」
これを聞いた未来は、これまた口をポカーンと開いた。開いた口が塞がらないとはこのことだ。それでも開いた口を慌てて動かし、「そ、それは凄いですね……」 と全く信じていない様子だった。
ええいままよ。実際に使ってみるしかあるまい。百聞は一見に如かずというものだ。
「じゃあ、これから聡の『未来』を視るから。よく見ていろ」
僕は唐突に聡に対し、不意打ちを仕掛けた。
「は? ちょ、待っ!」
残念だったな聡、この能力を使用中は話を掛けても無駄だと言っただろう。聞いていなかったのか? と言っても、それは『未来』を視ている最中の話なので、準備段階においては無駄ではないし、その間だけ止められる。しかしそんなことは話していない。強者は能力の長所を見せびらかしても、欠点は教えないのだよ。
僕はその間も準備をする。
(神よ、どうかお許しください。社陸聡のこれから歩むだろう『未来』のごく一部を私めが盗み見ることを)
すると、瞼の裏側に色のついた景色が見えてくる。
「おーい、ヒロ。次はお前の番だぞ」
聡が前にケンケンパのケンの状態で立っている。僕の姿も認められ、パの状態だ。
これは恐らく今日の話だ。制服を着ているため、一見していつ起こる出来事かはまるでわからないものの、履いた靴下が今日のものと同じだからだ。
どうやら、健健溌をしているらしい。
僕の顔を見ると、非常に面倒臭そうな顔をしている。これは間違いない。自分のことは自分が一番わかるのだ。このゲームを一刻も早くやめたいのだろう。何せ疲れるから。
すると、悪だくみを思いついたらしい僕は、唐突に明後日の方向へと石を蹴り上げた。このとき、ケンの体勢ではなかった。よって、聡は不戦勝した。
「よっしゃー俺の勝ちー」
本気のガッツポーズを決めている。その間、僕は何事もなかったかのように帰るため歩き始めていた。するとその瞬間、「バッカモーン」 との声がどこからか聞こえてきた。
僕は慌てて首を回し、声の在処はどこかと探している。そして見つけた。道路で停車している軽トラックだ。トラックのオヤジさんの車を傷つけてしまったようだ。それを見た僕は、脱兎の如く逃げ出す。聡を後ろに置いてきた。
彼奴は後ろで、「待てよヒロ逃げるなーー!」 と叫んでいる。これは置き土産なのだろう。
こうして『未来視』は終わった。
今視たものをみんなに向けて話す。そして聡は当然のことを言う。
「それはほとんどお前の『未来』なようなものじゃないか」
こういうこともあるのだ。
「とまあ、こういう内容を視たわけだ。恐らくこのまま変なことをしない限り、この通りのことが放課後起こると思うから、一緒に見るか?」
そう言うと未来は首を横に振った。
「いや、わたしはいいです、はい。明日報告してくれれば大丈夫です」
少し呆れたように言った。そのとき、未来との距離が途端に離れた気分になった。話題を変え、未来には聡と美玖にしたように、この能力についての概要を話した。もちろん、未来の死については伏せた。
そうして未来は、「ぜひ、部活やりたいです!」 と言った。
「そうか、それなら良かった」
とりあえず、事は上手く進んだようだった。未来はみんなに向かって姿勢を正し、「これからよろしくお願いします!」 と挨拶をした。
これで、晴れて人生相談部が結成となった。
「おーい、お前ら」
およそ二週間ぶりの昼時に聞く声で、そういえばと思い出した。未来と話すようになってからというもの、こいつのことをずっと無視していたのだった。
「はい、なんでしょう」
聡は外に指を向け、「毎日昼になると会いに行ってるあの子は誰だ?」 と言った。
それを聞いた美玖は話す。
「あーっと、未来ちゃんっていう一年生の子がいるんだけど、まぁ込み入ったことがあってね」
僕は少し考え、聡にも協力を仰いでも良いかもしれないと思った。
「聡にも美玖が聞いたことを話しても良いと思うぞ」
それに美玖は了解と頷き、ここまでの未来との間でしていたことを話した。
「そうか、俺に任せろ」
聡は未来のことを聞き、歓迎といった様子だった。三人集まればきっと、未来のことを助ける現実味を帯びるのではないかと思い始めた。それと同時に、悩み始める。
二人には未来の『未来』を教えるべきだろうか。僕一人には荷が重すぎるのではないかと少々感じていた。なにぶん、自殺を選ぶ原因がわからないのだ。原因がわからないものを邪推し続けていても、何も解答は生まれないのではないか。
一人では気付けないことも、この二人がいればわかるということもあるかもしれない。しかし、あの『未来』を教えてしまうと、未来とは一歩距離を作ってしまうのではないか。彼らを疑うのは非常に申し訳ないが、未来との接し方に丁重を意識しすぎるあまり、腫れ物扱いのようになってしまうかもしれない。
僕は「うーん」と唸りながら杞憂していると、その姿を見かねた二人は言う。
「お前、何を悩んでるんだ?」
「一人で考え込まないで、私たちにも頼んでみたら? その悩みの種って、未来ちゃんのことでしょ」
そう言って、二人は微笑む。気の利く奴らだ。改めてそう思った。
「そうだな、うん。話しても良いが、かなり深刻だからな。もちろん他言無用だ」
「わかってるさ」
「もちろんだよ」
そうして、あの『未来』を話し始める。
「……」
未来の話をしている間、二人は一切の言葉を挟まず、真剣に聴いていたようだ。僕はというもの、反応が怖かったがために、下を向いて話していた。そして話し終え、表情を窺ってみる。
予想できていたことだったが、二人は何と言ったら良いのかといった表情をしていた。当然のことだ。「死」という想像以上の事実を突きつけられしまっては、誰だってこういう反応を見せる。まして自殺なのだから。僕だってそうだった。僕は補足するように話す。
「今話したことを踏まえて、未来を一人にしておけないと思ったから、最近はずっと会いに行っていたんだ。話さずすまん」
そう言って、頭を下げた。
その姿を見た二人は、慌ててとりなす。
「いや、頭を下げるな。お前は悪くないし、俺だってそれほどの大ごとを抱えていたら躊躇うさ」
「うんうん、私もそう思うよ。兄さん一人じゃとてもじゃないけど、抱えきれる問題じゃないよ」
そう言う美玖は、悲しみのあまり思わず涙を浮かべている様子だった。
「今聞くことじゃないかもしれないんだが、お前のその『未来視』って、どう視えるんだ?」
聡は疑問符を浮かべた様子で聞いた。
「ああ、二人には詳しく説明していなかったな。まず、僕のこの能力は昨年末の父が関係しているが、それは言わずもがなだと思う。そして、これは僕の左目にだけに映る」
左目に指を当てて言った。これに疑問を持った美玖は聞いてくる。
「ということは、その能力で視ている間は、右目には何が見えてるの?」
「何も映っていないぞ。右目は私生活で機能して、左目は『未来視』で機能している形だな。ちなみに能力を使用中、意識は完全にあっちに行っているようだから、肩を叩いたりしても無駄だぞ。僕はその間失神しているような状態だろうけど、何も心配はいらない」
「そ、そっか」
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「それは、いくら使っても負担とかないのか?」
「まぁ、生活に多少なりともの支障をきたしているかもしれないな」
「そうだよなー失神状態になるんだもんな。だいぶ支障あるよそれは」
はっはっはと笑いながら、聡の肩をバンバンと叩いた。
「ちなみにその視える『未来』って、選べるのか? というのも、例えば俺に彼女はできるのかとか。それともランダムなのか」
「どうやら選べるみたいだ。咲美さんに使った場合でも、何か悩んでいそうだったから、その種を知りたいと願ったら視えたからな。ただし、指定がなければランダムだ」
「私からも質問。いつ起こる『未来』なのかってわかるの?」
「それがわからないんだ。だから視えた景色から自分で推理するしかない」
それを聞いた美玖は、「大変だね~」と大きくうんうんと頷いた。
「そうだ、確認だけど、その『未来』は変えられるんだよね?」
「ああ、変えられる……はずだ。というのも、僕のこの能力はその『未来』に至る原因を知ることができないんだ。だから、いくら過程を変えたところで、その原因を取り去らない限り無意味な可能性もある。今まで、これほど大きな問題に直面したことは初めてで経験がないんだ。だから、頭を悩ませていたところだった」
僕はこう言うと、またありがとうと頭を下げる。
これらの話を聞いた美玖は、何かを考えているようだった。顎に指を添えてうなっている。
「そうだ、兄さん、最後に聞きたい。その能力って持て余してない?」
「う、まぁ持て余しているな」
本当の意味で役立ったことは今回が初めてだろう。そもそも本来の使い方はこういう人助けだと思うのだが、それは置いておく。
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そして、美玖は人差し指を立て、アイデアを示す。
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「な、なるほど! その手があったか!」
僕は考えもしなかったことを聞き、大袈裟にリアクションをとった。やはり、一人で抱え込まず相談して正解だった。ただ、一つ気になる点があった。
「一つ気を付けて欲しいことがあってだな、人生相談を受けるのは構わないんだが、この能力で解決まで導けるかどうかは別問題だぞ。あくまで人生相談という名を冠した占いのようになると思う」
美玖は自分の胸に拳を当て、「任せて」と言う。「大丈夫、解決に関しては、私たちみんなで話し合えばなんとかなるよ」
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「僕だけ負担が大きくないか?」
僕は不満を露わにした。これには、我ながら面倒なことを言うなと思った。
「そこは安心してよ。相談者を探す仕事は私、未来ちゃん、聡くんが担当するからさ。兄さんは、私たちが連れて来るまで惰眠を貪っていても良いよ。ね? 聡くん」
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「俺は良い考えだと思うぞ」
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僕は窓辺に寄り、窓を開いていつものベンチを見た。未来は座っていた。どうやら既に弁当を食べているようだ。僕らは急いで未来のもとへと向かった。
「ごめんな、咲美さん、遅くなった」
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「良いですよ、全然。ただ、先に食べちゃいました。その話は置いといて、後ろにまた新しい人が見えますね」
手を聡へと向けて言った。
「君が未来ちゃん? 初めまして、俺は社陸聡」
未来はその名前を聞いて驚き、「ホームズの子孫のかたですか?」 と手に口を当てながら言った。僕は口をはさむ。
「そうだぞ、僕の助手だ」
これを聞いた聡は、「違うよ。俺の先祖は農家だ」 と僕を無視して言った。
「どうも初めまして、わたしは咲美未来と言います。石岡先輩の友達のかたですね。先輩がいつもお世話になっています」
未来は丁寧に挨拶とお辞儀をして言った。
「未来ちゃんね。いつもヒロを世話してます。これからよろしくね。それに敬語は良いからさ。俺のことは聡くんとでも呼んでくれ」
聡はそう言って握手を求めた。それを受けた未来も手を差しだし、互いに握手をし合った。これを見た僕は怒りにかられた。僕だけ妙に距離が遠いのは気のせいではないはずだ。社交的な聡が憎い。僕は歩み寄ることに決めた。
「咲美さん、僕にも敬語はいらないよ? ヒロくんとでも呼んで貰って構わない」
それを聞いた未来は笑顔になった。
「それじゃあ……ヒロくん。ヒロくん。わたしのことも未来と呼んでください。でも、敬語はやめません。ヒロくんは特別ですから」
こうして僕らはベンチに左から僕、未来、美玖、そしてアフリカンマリーゴールドの植えられた花鉢を挟んで聡が。という並びで座ることが常となった。
そして、僕らは本題へと入ることにした。
「未来は確か部活には入ってなかったよな」
「はい、入っていませんよ。帰宅部です」
「実は、僕らは部活を作ろうと思っている」
「へ~そうなんですか、どんな部活ですか?」
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「未だ仮名段階だが、活動内容は、みんなの人生相談に乗ってあげること。なつもりだ。つまりそのまんま人生相談部というわけだな」
「なるほど! それ良いですね! なんてったって、社会奉仕活動ですし、学校受けも生徒受けも良さそうです! さすがですヒロくん!」
「いや、アイデアを出したのは美玖なんだがな。まぁそれは良いとして、どうだ? 未来も入ってみる気はないか? メンバーはここにいる総勢四人のつもりだ」
こうして話す僕を補足する形で、美玖は言う。
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それを聞いた未来は大きく頷いた。
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こういうこともあるのだ。
「とまあ、こういう内容を視たわけだ。恐らくこのまま変なことをしない限り、この通りのことが放課後起こると思うから、一緒に見るか?」
そう言うと未来は首を横に振った。
「いや、わたしはいいです、はい。明日報告してくれれば大丈夫です」
少し呆れたように言った。そのとき、未来との距離が途端に離れた気分になった。話題を変え、未来には聡と美玖にしたように、この能力についての概要を話した。もちろん、未来の死については伏せた。
そうして未来は、「ぜひ、部活やりたいです!」 と言った。
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ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
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