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いきなりの婚約破棄?

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今日はエンミリオン王国現王妃の誕生祭で大ダンスホールには各貴族達が夫人、子息、令嬢を引き連れ、現王妃の誕生祭を祝い、ダンスに軽食に美酒と思い思いに楽しんでいた。

「ジュディアンナ!!!今この時、この場をもって、貴女の婚約を破棄させてもらう!!」

いきなりの大声に王宮自慢の大ダンスホールが一瞬で静まってしまった。

振り向くと、ホールを陣取る、この国の第2王子、エリック殿下がいた。
靡く美しい金髪、緑色の瞳。白を基調とした正装に身を包み、すらりと伸びた細身の身体。
絵本に出てくる物語りの王子がそのまま出て来たかのような王子が眉間にシワを寄せこちらを睨んでいる。
そんなエリック殿下の傍らに一人の少女が身を小さくして立っている。
腰まで伸びた長い髪は栗色でフワフワとさせ、零れ落ちそうな大きな水色の瞳は目尻に涙を溜めている。
濃いピンクのドレスに身を包み、全体的に小さくて、なんだか小動物を連想させる少女だ。

ところで、なんで、こちらを見て怯えているんでしょうか?

「ジュディアンナ!!聞いているのか!?」

ああー、やっぱり聞き間違いでは無かったのですね。
人違いだと、淡い期待をしていました。
再び名指しで呼ばれ、吐きそうな溜息を飲み込み、持っていたワイングラスを近くにいた給仕に預け、殿下と少女へ向き直る。

気品よく真珠の髪飾りでアップに結い上げた漆黒の髪に瑠璃色の瞳を持つ美女。
藍色のシンプルだが品の良いドレスを身に纏い、優雅に佇んでいる。

由緒あるマーシャル公爵家の娘。ジュディアンナ・ルナ・マーシャル。
それが、私の名前だ。

私は、左手を胸にあて、右手で身につけている藍色のドレスの裾を軽く持ち上げ、殿下へ頭を下げる。

「・・・・・失礼します」

王族へ発言する際の礼儀の動作。貴族出での令嬢で在れば誰もが叩き込まれる礼儀作法の一つだ。

「殿下、本日は王妃様の御誕生日を祝福する大切な日。個人的な発言は後日、日取りを改めた方がよろしいかと」
「ええい!!誰が発言を許した!!勝手に喋るな!!」
「・・・・・失礼いたしました」

ジュディアンナの発言を遮るように怒鳴り散らす殿下。

頭を下げた状態で殿下に悟られないように溜息をつく、ジュディアンナ。

私と殿下は広い意味での幼馴染みの関係にあり、幼い頃には、父に手を引かれ、よく殿下の遊び相手をさせられた。
だが、眉目秀麗な見た目、幼少期から愛らしい外見で周りから何かと持てはやされ、甘やかされて育った為か、かなり短気な性格で、気に入らない事があれば直ぐに癇癪を起こす。

そんな幼少期の殿下の相手は正直憂鬱なモノだったとジュディアンナの記憶にある。
10歳の時、王立学園へ入学してからはある程度の交流しか無かったけど、あの短気な性格は未だに治っていないらしい。

「今日は、母上の誕生祭。多くの貴族達が集まるこの場で、お前の罪を暴いてくれる!!!」
「・・・・・・・・・・・はぁ?」

いきなり、何を言い出すのか。

「ジュディアンナ!!!お前は私の婚約者と言うことを利用して、ここに居るモニカ・グーデルに対し陰湿な嫌がらせを繰り返した。モニカが全てを打ち明けた!!」

いや、本当何を言い出すのこの人。

「ねぇ、殿下の隣の女性、確かグーデル男爵家の令嬢では無かったかしら」
「ええ、学園の入学当初から、何かと注目を集めていた方ですわ」
「それにしても、随分と思い切った行動を。この場の状況を理解していらっしゃるのかしら」

殿下に聞こえないようにヒソヒソと話す令嬢達。
どうやら、殿下の隣の彼女は色々と有名人らしい。
男爵令嬢のモニカ・グーデル、ねぇ、知らなかった。

「失礼いたします。殿下、コレは一体どう言う事でしょうか」

私と一緒に軽食と談話を楽しんでいたお父様が静かに私の前に出る。

あ、お父様の額に青筋が・・・・・。

「我が娘、ジュディアンナがそこに居られる男爵令嬢に何をしたと言う事なのでしょうか」

場が場なだけになるべく穏便に済ませようとしているけど、お父様、顔は笑顔だけど、目が笑っていません。声低いです。怒っていらっしゃる。

「もし、仮にジュディアンナが殿下のお気に触れるような事をしたのならば、謝罪はこの私が」
「お父様」

お父様が殿下に謝罪する。

「ふん、自分のしでかした事を親に謝罪させるとは、益々見損なったぞ。ジュディアンナ」

頭を下げるお父様を卑下するように見下す殿下に、思わず顔を顰める。

「・・・・・・・・お父様、頭をお上げ下さい。私はこの身、マーシャル家に恥じるような行いをした覚えはございません」
「ッ、罪を認めないと言うことか!!ジュディアンナ!!」

キッと私を睨みつける殿下。
それでも、私も負けずに殿下を睨む。

「本当の事なら大人しく罪を認めますが、有りもしない罪を認めてしまい、大切な両親を悲しませる事はしたくありません」
「相変わらず、生意気な奴だな!!」
「生意気で結構。か弱く殿方に付き従っているだけでは貴族の『淑女』が務まるわけありません」
「なっ!?」
「に、逃げるんですか!?ジュディアンナ様!?」

おっと、モニカ嬢が参戦か?
だけど、貴族の令嬢としてはマイナスだ。

「グーデル嬢、今は殿下と私の会話中です。話に割り込むのは礼儀違反です」
「ッ、そうやって、私を除け者にする気ですか!?」
「男爵の階級の者が王族との会話に不躾に割り込む事が礼儀違反だと言ったのです。貴族の礼儀作法の一環で教育を受けていると思ったのですが」

私は貴族としての正論を言っているつもりですが、

「私を馬鹿にして楽しいんですか!?」
「いい加減にしろジュディアンナ!!モニカへの暴言これ以上許さないぞ!!」

キャンキャンと仔犬のように甲高い声を上げるグーデル嬢とグーデル嬢を守る大型犬のような殿下。
思わず、溜息をつくジュディアンナ。
少し、目力を強め殿下を見つめる。

「ッ、な、なんだ!!その目は!?私を睨みつけるなど不躾にだぞ!?」
「エリック様は王族なのにそんな風に睨みつけていいと思っているんですか!?」

本人はそのつもりではなかったがジュディアンナの瑠璃色の瞳に睨まれ、思わずたじろぎながら怒鳴る殿下とキャンキャン吠えるグーデル嬢。

「睨んではいません。貴族としての常識を申し上げたまでです。それと、この様な公の場で王族にして、第2王子である殿下の名を気安く口にするの事は恐れ多い事。それこそ、無意識に目力を強めて、無意識に殿下を見つめるよりも・・・・・・不躾な事」
「ッ、エリック様が良いって言ってくれたんです!!」
「他の貴族の皆様に示しが付かないと、そう言っているのです。あまり、ことが過ぎると、それこそ取り返しのつかない事になりますよ。グーデル嬢」
「わ、私が、エリック様の寵愛を受けているからって、僻まないで下さい!!」

グーデル嬢の言葉に、周りのざわつきが広がる。

「・・・・・僻み、ですか?何のことか理解できません。何故私が貴女を僻まなければならないのでしょうか?」
「はぁ!?貴女がエリック様の婚約者だからでしょうが!?」
「違いますけど」

噛み付くようなグーデル嬢の言葉に即答するジュディアンナ。

「え?」
「はぁ?」

間抜けな殿下とグーデル嬢の声が重なる。

・・・・本当に、どう言うつもりなんだか。

ジュディアンナは小さく溜息を吐きながら、間抜け面をしている二人に向き合い姿勢を正す。

「エリック殿下、もう一度だけ申し上げます。今日は祝福の場。このような話は後日、状況を確認して、日を改め、再度両家両親、そして当事者を集めた上で話し合いをすべきです」

周りの貴族達がウンウンと頷いてくれる。

「ッ!!!うるさい!!か、勝手に話を進めるな!!」

殿下は顔を赤くして怒鳴っているが、周りの反応は薄い。

この国での婚約破棄とは本来、当事者達とその関係者達とで内々に済ませる事が多い。
問題が多いからだ。
先ずは、貴族同士の政略的問題。互いの両家、そして、ほかの貴族達への信頼の問題。
こんなに大勢の目の前で大々的に婚約を破棄を公表すると言う事は、名誉毀損、信頼剥奪で貴族にとって公開処刑に近い。
この国では、家と家の繋がりを大切にしており、信頼第一。出来るだけ穏便に済ませるのが両家の為である。

「話し合いなんて必要ない!!お前は罪を認め、モニカに謝罪すればいい!!自分のした事を悔い罪を改めろ!!」

もっとも、この第2王子にとってはどうでもいいようだが。
さて、どうしたものか。

「何事だ」

騒然とした空気に低く重い声が響く。
その場にいる者の顔に緊張が走り、条件反射的にダンスホールの高台を振り向くと、そこには眉間に深いシワを寄せた国王陛下とその隣に真紅のドレスに身を包んだ今回の主役王妃様が立っていた。

反射的にその場にいた貴族達が頭を下げて、敬意を表す。
・・・・・・・・一部を除いて。

「父上!!母上!!」
「お義父様、お義母様」

いや、お義父様、お義母様って!!
グーデル嬢の言葉に頭を下げている状態で、周りの空気が一瞬で凍りつく。
 
殿下が私に婚約破棄を言い渡したと言う事は、少なくともグーデル嬢はまだ殿下との婚約を交わしていないはず。よってまだ婚姻関係ではない。
と言うか、例え殿下と婚約していてもこんな公の場で国王陛下と王妃様を義父義母と呼ぶのは非常識すぎる。

「グーデル嬢、国王陛下の御前です。頭をお下げ下さい」

思わず、グーデル嬢を正そうとするが、

「あ、貴女に指図される筋合いはありません!!」
「モニカに命令するな!ジュディアンナ!!」

ダメだ。まったく聞く耳を持たない。

「エリック」
「ッ!!」

国王陛下の低い声で呼ばれた殿下がビクリ、と肩を震わす。

「この騒動の原因はお前か?」
「ち、父上。コレは・・・」
「お前は自分の母親の誕生さえも祝ってやれないのか」
「あの、お義父さ、」
「誰が勝手な発言を許した。控えよ」

流石国王陛下。威厳王と呼ばれ齢50歳なのにそれを思わせぬ鋭い眼光。思わず鳥肌が立ちそうになる。
国王陛下の静かな言葉と鋭い眼光に思わず身をビクつかせる殿下とグーデル嬢。

ああ、場の空気が気まずい。




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