旦那様、本当によろしいのですか?【完結】

翔千

文字の大きさ
26 / 26

よろしいですね。旦那様

しおりを挟む
よく晴れた陽気の良い午後。
とある屋敷の季節の花々が彩る東屋にテーブルを囲みお茶を飲みながら談笑をする女性と男性。そして女の子と男の子がいた。

「で、その時の渾身の土下座で、お父様はお母様に愛の告白をしたのよ」

そう言いながら朗らかに笑うロザリア。

「うわー、父様流石にそれは引きます」
「せめて、段取りを踏んで花束を持っていくべきだったのでは?男として」
「うぅぅぅ・・・・・。勘弁して下さい。ロゼさん・・・・」
「だって、子供達が、私達の馴れ初めを聞きたいって言うものですから」

先日12歳の誕生日を迎えた娘のクリスティーナ。11歳になる息子のカールベルト。
そして、今やロザリアの夫となったフィリップが顔を真っ赤にして誤魔化す様に紅茶を飲んでいる。

「でも、よくお祖父様とお祖母様、それに、伯父上がお許しになりましたね」
「それに、その場に、テオ先生達も居たんでしょう?」
「もちろん、みんな反対したわね。特にランなんて止めに入るどころかトドメを刺しに行く勢いで、テオとキノが二人がかりで抑えていたわね」

十数年前のあの事件を思い出し、笑いが溢れる。


あの日パーティ会場からロザリアが拐われた事件でフィリップはロザリアに告白をした。
もちろん、直後に駆けつけたロザリアの家族は猛反対をした。

利用されたとは言え、娘を拐った男に娘をやれるものかと、当時のアークライド公爵が大激怒。

今回の事件の首謀者であるマルシュス公爵はマルシュス公爵家の満場一致で表向きには隠居となり、何人かの使用人と共にとある小島に送られた。
新たなマルシュス公爵家当主はフィリップの長兄が就任することで落ち着いた。
前マルシュス公爵当主は横暴な態度で有名だったが、三人の子息達は優秀に育ち、マルシュス公爵家を支えて来ていた。

だが、公爵家の娘であるロザリアを拐った事は大きな問題となり、マルシュス公爵家はアークライド公爵家に多額の慰謝料を支払うこととなった。
本来ならば、フィリップは接近禁止を告げられ、廃嫡もされて、家を追い出されていても可笑しくはなかった。
だが、フィリップは告白後も、家も兄弟も地位も財産も全て捨ててロザリアの元へ嫁ぐとその身一つでロザリアの父に嘆願した。

そんなフィリップに手を差し伸べたのが、ロザリア本人だった。

半ば暴走していたと思うが、フィリップの熱意と愛娘のとある提案にアークライド公爵が手元に置き監視する事にした。
その提案とは
『3年間、実家からの援助禁止。無償でライド商会に貢献し、優秀な成績を残す事。もし期待以上の功績を残せなかった場合、マルシュス公爵家に請求した慰謝料と同額をフィリップに請求しアークライド公爵家に支払う』
と言うものだった。
それからフィリップは父の監視下の元ライド商会の一社員として酷使される日々が始まった。
だが、何故かフィリップは生き生きと職務を全うし、時にロザリアが褒めると異様なほどに成果が伸び、叱りつけると恍惚の表現で喜んでた。

薄々と感じてはいたが、彼はそう言うタイプの人間なんだろう。
だが、人当たりも良く、仕事が出来、仕事への意欲もある。そして、なによりもロザリアへの愛情が側から見ても分かり易かった。
仕舞いには『ロザリア・アークライドの犬』とまで噂されるようになったが、何故かフィリップ本人は嬉しそうに笑っていた。

それから3年の月日が流れ、ライド商会へ大きな貢献を果たしたフィリップ。その頃には訝しみ警戒していたランをはじめとする使用人達やロザリアの母親と兄の信頼を得る事が出来、3年越しに漸くロザリアと婚約が許され、更に1年後フィリップはロザリア・ミラ・アークライドの娘婿となった。

それから一年後に娘であるクリスティーナが誕生し、その翌年には息子のカールベルトが誕生した。

ロザリアとフィリップとの結婚の話を聞いた者の中には、前夫であるファーガスの、にの前になるのでは無いかと噂する者いたが、二人の夫婦仲は極めて良好。
子供達も祖父母となったロザリアの両親に溺愛され、使用人達から愛されて成長していった。
現在、ライド商会会長の兄を支える専務として仕事に勤しむロザリアをフィリップは夫としてサポートをしてくれている。

「でも、お母様はお父様と結婚して良かったって思っているのよ」
「本当に?」
「ええ。だって、お父様は優しくて、可愛いい。気配りも出来て、いつもお母様の事を想ってくれているの。そしてなによりも私達の可愛い可愛いクリスとカールを私に授けてくれた大切な人なんですもの」
「母様。父様頭から湯気が出そう」
「あら?」

息子のカールベルトの言葉で夫の方を見ると、テーブルに突っ伏した状態になっている。髪の隙間から見える耳が真っ赤になっていた。

「ね?可愛いでしょ?」
「うーん?よく分からないです」
「僕も」
「うふふ、貴方達もいつかわかる日が来るわ。思わずイジメてしまいたくなる位に愛おしい人が出来たらね」

年齢を重ねても、まだまだ若々しく笑うロザリア。

「奥様」

不意に声をかけられ、振り向くとそこには顔に貫禄が出てきたヨハネスとメイド長のアンナが控えていた。

「そろそろお嬢様とおぼっちゃまのお稽古のお時間です」
「あ、いけない」
「今日、テオ先生の体術の日だった」

ヨハネスの言葉に、子供達が慌て席を立つ。

子供達はテオに体術。キノに語学。ルイスに剣術。そしてアンナに礼儀作法を習っている。ランは2人の影をして護衛をしている。

子供達は一通り身嗜みを整え、一呼吸おいて、

「それでは、母様、父様。行って参ります」
「行って参ります」

クリスティーナはドレスの裾を少し持ち上げ、カールベルトは右手を左胸にあてる。二人は紳士淑女らしく私達にお辞儀をする。

「はい、いってらっしゃい。アンナ2人の事お願いね」
「承知致しました」
「怪我に気をつけて、ちゃんと学ぶのだぞ」
「はい!!」
「はい」

元気に返事をして、我が子達は稽古に向かう為東屋を出た。

「奥様、今夜開催される夜会の準備を」

ヨハネスの言葉に、フィリップの肩が微かに動いた。

「あら、もうそんな時間?」
「いえ、夜会は午後7時からです。ですが、今晩の夜会にお召しなられる筈のはライド商会の新作ドレスが少々手直しが必要なそうなので、修正の確認をお願いします」
「そう、それなら早めに終わらせてしまいましょう」

そう言いながら、ロザリアが席を立ち離れようとするロザリアの手をフィリップがそっと握った。

「・・・・・・。どうかしました?」

ロザリアが尋ねると、フィリップは迷子になった子供の様な目でロザリアを見上げる。

「・・・・・・、行ってしまうのですか、」
「ええ、お仕事ですので」
「今日は、もう少し側にいられると思っていました」
「最近、一緒にいられる時間が少なかったですもんね」
「・・・・・・・・・・、」
「淋しくなってしまいました?」
「ッ、」

ロザリアの質問にフィリップは気まずそうに視線を逸らす。だけど、彼の頬は紅潮していた。

「今夜の夜会は小さな集会ですし、ドレスの宣伝と先方との商談を目的としたものなので、終わり次第直ぐに帰ってきますよ」

私がそう言うものの、夫は不満げな表情をする。
そんな夫に私は、

「私のお仕事の邪魔をしない。これが私達の決めた契約のはずですよ」

淡々とそう告げる。

「・・・・・・、分かっています。すみません・・・・」

フィリップは名残惜しそうに妻の手から手を引いた。
だが、離した妻の手が、真っ直ぐ自分の方へ差し伸べられ、

「ッえ??」

しなやかな指先でクイッと顎を持ち上げられた。

「今晩、いい子でお留守番が出来れば、ご褒美を差し上げます」
「え、ぁ・・・・」
「旦那様はずっと私のサポートを頑張ってくれているから、ちゃんと労わって差し上げます。だから、」

そう言ってロザリアは妖しく妖艶に微笑んだ。

「んん!?!?」

そんなロザリアの笑みに再び顔を真っ赤にするフィリップ。

「よろしいですね。旦那様?」
「ぁ、は、はぃ・・・・・」

か細い声で答え壊れたブリキのオモチャの様に首を縦に振る。

「うふふ。出来るだけ早く帰ってきますね」

そんな夫の反応がとても可愛く見えたロザリアは真っ赤な顔のフィリップの唇に

チュッ

「ッ!?!?」

小さくキスを落とした。

「いい子で、待っていてくださいね」

そう言い残し、満面の笑みのロザリアは赤面の顔で惚け動けなくなった夫を東屋に放置して東屋を出る。

「さて、可愛い旦那様の為にも、お仕事、頑張りましょう」

不意に吹いた風に舞った花びらが、ロザリアの笑顔を彩った。

しおりを挟む
感想 3

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(3件)

太真
2023.05.13 太真

完結お疲れ様でした🎉😉❤️もはやロザリアちゃんの独断場‼️楽しく拝読しました😃。

解除
太真
2023.04.07 太真

ハイヒールで踏み潰すかナイフで切り取ってやれば良いのに😒💢💢ロザリアちゃんは優しいね😅。

2023.04.07 翔千

感想ありがとうございます

解除
エステル
2023.01.04 エステル

アークライド公爵家は、ロザリアの家なのですよね?次期当主がいるのに、なぜ婿入り?婿の母親がしゃしゃり出てくるのはなぜだ?

2023.01.04 翔千

感想ありがとうございます。

ネタバレになりますが、
兄のアレックスは公爵家の跡継ぎとして領地の視察や地方への仕事へ行く事が度々あった。
だが、ファーガスにはそれが遊んでいるように見え、ファーガスの中ではアレックスは仕事せず妹であるロザリアに家督を譲ったドラ息子と思い込んでおり、更に『家督は男が継ぐモノ。女のロザリアには公爵家を継がせられない。公爵家を継ぐのは婿に入ったファーガス!!』と謎の理論を母親に吹き込まれた。

と言うのが、私の裏話です。
本編に出し切れなくてすみません。

解除

あなたにおすすめの小説

悪夢から目覚めたわたしは、気付かないふりをやめることにしました。

ふまさ
恋愛
 ある日、オリヴィアは夢を見た。婚約者のデイルが、義妹のグレースを好きだと言い、グレースも、デイルが好きだったと打ち明けられる夢。  さらに怪我を負い、命の灯火が消えようとするオリヴィアを、家族も婚約者も、誰も助けようとしない悪夢から目覚めたオリヴィアは、思ってしまった。  ──これはただの悪夢ではなく、正夢ではないか、と。

《完結》初夜をすっぽかされた令嬢は夫を死亡扱いする

さんけい
恋愛
クズ夫の非常識を帳簿で粛々と清算!真実の愛?笑わせるわね! 全14話。

お好きになさって下さい、私は一切気にしませんわ

Kouei
恋愛
婚約者のクレマンド様は、いつも私との約束を破ってばかり。 理由は決まって『従妹ライラ様との用事』 誕生日会にすら来なかった彼に、私はついに告げた。 「どうぞ、私以外のご令嬢をエスコートするなり、お出かけするなり、関係を持つなり、お好きになさって下さい。私は一切気にしませんわ」 二人の想いは、重なり合えるのだろうか …… ※他のサイトにも公開しています。

妹を選んで婚約破棄した婚約者は、平民になる現実を理解していなかったようです

藤原遊
恋愛
跡継ぎとして育てられた私には、将来を約束された婚約者がいた。 ――けれど彼は、私ではなく「妹」を選んだ。 妹は父の愛人の子。 身分も立場も分かったうえでの選択だと思っていたのに、 彼はどうやら、何も理解していなかったらしい。 婚約を破棄し、妹と結ばれた彼は、 当然のように貴族の立場を失い、平民として生きることになる。 一方で、妹は覚悟を決めて現実に向き合っていく。 だが彼だけが、最後まで「元に戻れる」と信じ続けていた。 これは、誰かが罰した物語ではない。 ただ、選んだ道の先にあった現実の話。 覚悟のなかった婚約者が、 自分の選択と向き合うまでを描いた、静かなざまぁ物語。

婚約破棄された公爵令嬢ですが、戻らなかっただけです

鷹 綾
恋愛
王太子カイル殿下から、社交界の場で婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リュシエンヌ。 理由は―― 「王太子妃には華が必要だから」。 新たに選ばれたのは、愛らしく無邪気な義妹セシリア。 誰もが思った。 傷ついた令嬢は泣き、縋り、やがて戻るのだと。 けれどリュシエンヌは、ただ一言だけ告げる。 「戻りません」 彼女は怒らない。 争わない。 復讐もしない。 ただ――王家を支えるのをやめただけ。 流通は滞り、商会は様子を見始め、焦った王太子は失点を重ねる。 さらに義妹の軽率な一言が決定打となり、王太子妃候補の座は静かに消えた。 強いざまあとは、叫ぶことではない。 自らの選択で、自らの立場を削らせること。 そして彼女は最後まで戻らない。 支えない。 奪わない。 ――選ばれなかったのではない。 彼女が、選ばなかったのだ。 これは、沈黙で勝つ公爵令嬢の物語。

「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~

水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」 夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。 王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。 「左様でございますか」 彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。

婚約破棄はあなたの意思でしたわね? ~王太子を廃嫡に追い込み、義妹を平民に落とした公爵令嬢は新時代の王妃になります~

鷹 綾
恋愛
王立学園の卒業舞踏会―― 公爵令嬢ヴェルミリアは、王太子アルヴァリオから突然の婚約破棄を言い渡された。 「俺は、君の義妹セシルを愛している」 涙を浮かべる“可哀想な妹”。 それを守ると宣言する王太子。 社交界はヴェルミリアを冷酷な姉と断じた。 けれど彼女は、ただ微笑んだ。 なぜなら―― 王家が回っていたのは、彼女の裏調整と資金管理のおかげだったから。 婚約破棄の翌日、王家の事業は次々と停止。 王太子の無責任な契約、義妹の盗用、不正資金の流れが暴かれていく。 守ると誓ったはずの義妹を、王太子は切り捨てる。 だがもう遅い。 王太子は廃嫡。 義妹は爵位剥奪のうえ平民落ち。 二人はすべてを失う。 そして―― 「責任を共有できるなら、共に歩みましょう」 冷静沈着な第二王子との正式婚約。 王国再建の中心に立つのは、かつて捨てられたはずの公爵令嬢だった。 婚約破棄はあなたの意思でしたわね? 選んだ未来の責任を―― きちんとお取りいただきます。

愛人の生活費も、お願いします 〜ATM様、本日もよろしくてよ〜【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
政略結婚で結ばれた王子ザコットと、氷のように美しい公爵令嬢ビアンカ。だが、ザコットにはすでに愛する男爵令嬢エイミーがいた。 結婚初夜、彼はビアンカに冷酷な宣言を突きつける。 「お前を愛することはない。俺には愛する人がいる。このエイミーだ」 だが、ビアンカは静かに微笑み、こう返す。 「では、私の愛人の生活費も、お願いします」 ──始まったのは、王子と王子妃の熾烈な政略バトル。 愛人を連れて食卓に現れるビアンカ。次々と辞表を出す重臣たち、そしてエイミーの暴走と破滅……。 果たして、王子ザコットの運命やいかに!? 氷の王子妃と炎の愛人が織りなす、痛快逆転宮廷劇! ⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。 コメディーです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。