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プロローグ
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3人の神が戯れに作った世界の物語――
ある日の早朝、ここはテン大陸南方に位置するランディア王国。
その王都辺境にいくつかそびえる山にある湖のほとり。
まだ薄暗く、靄がかかっている。
藁のようなもので雑に編みこまれたシートの上で胡座をかき、誰もいない浜辺で釣りをしている1人の青年がいた。
見た目は20代前半位、長身である。
端正な顔立ちにくせ毛の真っ白な髪と眉。
濃く、深い緑色をしている瞳。
そして透き通った薄い緑色の衣を纏っている。
彼こそはこの世界の創世神の1人、信義の神テン。
彼は自分達で作ったこの世界をいたく気に入っており、時折、遊びに来ては帰って行く。
無論、それに気付くものはほとんどいない。
「ふぅむ。つつきもしないか」
餌がついたままの針を見つめながら、ふぅとため息をついた。
「暇だねー。そろそろ帰ろうか」
誰もいないはずの、神の次元。
そこに別の何者かの気配を感じ取る。
「おにーさん、誰と話してるの?」
不意に背後から声をかけられ、あわてて振り向いた。
見ると小さな子供だ。
4、5歳ほどに見える人間の子供が彼を見上げている。
「えと……僕に言ったのかい?」
「うん」
テンは頭をポリポリと掻き、体を子供の方に向き直し、改めて様子を伺う。
焦げ茶色の髪、赤眼、整ってはいるが、まだ幼い顔立ち、背はまだ自分の腰の下辺りくらいだろうか?
(うーん。普通の人間の子供だね)
テンはこの世の創世神である。
人間のみならず、森の妖精や竜等の高等な種も含め、この世の何者からも見えない、認識できない次元に存在しているのだ。
「普通、僕は見えないんだけどな」
「?」
何言ってんの? とでも言いたげな表情で、子供は首を傾げる。その仕草が妙に可愛らしい。
「まあそれはいいや。僕は『テン』というんだ。君たちがいつも神さま、神さまと拝んでくれているテンだよ」
「えっ。神さま? テンさまなの?」
「思ったより驚かないね」
「ちょっと驚いてるよ!」
「ちょっとなんだね」
「テンさまの見た目が思ってるのと違ったからさ」
「ほう? どんな想像していたんだい?」
「絵本で見たテンさまはおじいさんなんだ。いつも裸で、光ってるんだよ」
「やめてくれるかな。気持ち悪い」
絵本の作者がテンと『誰か』を間違えたのか、そもそもが適当なイメージなのかはわからない。
「で、君。こんな時間に、こんな所で何してるんだい?」
「テンさまに会いにきたんだよ!」
「えっ?」
胸を張って、子供が言う。
「夢で教えてもらったんだ。今、この辺りにテンさまがいるって」
「なんだって?」
それをこの子に知らせることに、何か意味があるのだろうか?
いや、そもそもそんな事がわかる者がこの世にいるというのだろうか。
テンは首を傾げ、少年に聞いてみる。
「どんな人に言われたの?」
「その人も神さまなんだって」
「光る裸のお爺さんだったのかい?」
「それはテンさまでしょ」
「テンさまは君の目の前にいるだろ!」
この人間の子供は自分を認識している。
つまり『神視』の特性を持っているということだ。
その特性を持っているということは、何か重大な運命の持ち主であることは間違いない。
テンは個々の人間の運命、未来的なものにあまり興味がなく、これからこの子供がどういった道を歩むのか、テンと会う事でこの子に何が起こるのか等はからっきしわからない。
勿論、知ろうと思えば知る術はいくらでもあるのだが、創世神の3人はこの世界において、なるべく予知の能力を使わないように封印している。
それを使うと暇つぶしで作ったこの世界がひどく退屈なものになる事を知っているからだ。
「物凄くキレイなおねーさんの神さまだったよ?」
(ああ、ツィか。なるほど。まあ、そうだろうね)
「あとひと押しで夫婦に……いや、キスを……」
不意に顎に手をやり、少年らしからぬ佇まいでゴニョゴニョと呟く。
「え?」
「今、テンさまがこの湖にいて、僕がくるのを待ってるって」
(いやいや。今の呟きは何だったんだよ)
そう思うものの、その後に言っている事も非常に気になる。
「僕が君を待ってるって?」
「うん。『いいもの』をくれるって」
「そのお姉さんが、ほんとにそんなこと言ったの?」
「うん」
(はて)
神である彼が、本気で悩みだす。
(何か人間の子供が喜ぶようなものを持っていたかな?)
「君。名前はなんて言うんだい?」
「マッツ」
「マッツ君だね、覚えておくよ。ただ、そのお姉さんが言った『いいもの』に僕は心当たりがないんだ」
その子供は少し考える素振りをする。だが予めテンに会ったら、と考えていたのだろう。
テンの目をその赤い両の瞳でしっかりと見据え、こう言った。
「神さま。僕、欲しいものが2つあるんだ」
ある日の早朝、ここはテン大陸南方に位置するランディア王国。
その王都辺境にいくつかそびえる山にある湖のほとり。
まだ薄暗く、靄がかかっている。
藁のようなもので雑に編みこまれたシートの上で胡座をかき、誰もいない浜辺で釣りをしている1人の青年がいた。
見た目は20代前半位、長身である。
端正な顔立ちにくせ毛の真っ白な髪と眉。
濃く、深い緑色をしている瞳。
そして透き通った薄い緑色の衣を纏っている。
彼こそはこの世界の創世神の1人、信義の神テン。
彼は自分達で作ったこの世界をいたく気に入っており、時折、遊びに来ては帰って行く。
無論、それに気付くものはほとんどいない。
「ふぅむ。つつきもしないか」
餌がついたままの針を見つめながら、ふぅとため息をついた。
「暇だねー。そろそろ帰ろうか」
誰もいないはずの、神の次元。
そこに別の何者かの気配を感じ取る。
「おにーさん、誰と話してるの?」
不意に背後から声をかけられ、あわてて振り向いた。
見ると小さな子供だ。
4、5歳ほどに見える人間の子供が彼を見上げている。
「えと……僕に言ったのかい?」
「うん」
テンは頭をポリポリと掻き、体を子供の方に向き直し、改めて様子を伺う。
焦げ茶色の髪、赤眼、整ってはいるが、まだ幼い顔立ち、背はまだ自分の腰の下辺りくらいだろうか?
(うーん。普通の人間の子供だね)
テンはこの世の創世神である。
人間のみならず、森の妖精や竜等の高等な種も含め、この世の何者からも見えない、認識できない次元に存在しているのだ。
「普通、僕は見えないんだけどな」
「?」
何言ってんの? とでも言いたげな表情で、子供は首を傾げる。その仕草が妙に可愛らしい。
「まあそれはいいや。僕は『テン』というんだ。君たちがいつも神さま、神さまと拝んでくれているテンだよ」
「えっ。神さま? テンさまなの?」
「思ったより驚かないね」
「ちょっと驚いてるよ!」
「ちょっとなんだね」
「テンさまの見た目が思ってるのと違ったからさ」
「ほう? どんな想像していたんだい?」
「絵本で見たテンさまはおじいさんなんだ。いつも裸で、光ってるんだよ」
「やめてくれるかな。気持ち悪い」
絵本の作者がテンと『誰か』を間違えたのか、そもそもが適当なイメージなのかはわからない。
「で、君。こんな時間に、こんな所で何してるんだい?」
「テンさまに会いにきたんだよ!」
「えっ?」
胸を張って、子供が言う。
「夢で教えてもらったんだ。今、この辺りにテンさまがいるって」
「なんだって?」
それをこの子に知らせることに、何か意味があるのだろうか?
いや、そもそもそんな事がわかる者がこの世にいるというのだろうか。
テンは首を傾げ、少年に聞いてみる。
「どんな人に言われたの?」
「その人も神さまなんだって」
「光る裸のお爺さんだったのかい?」
「それはテンさまでしょ」
「テンさまは君の目の前にいるだろ!」
この人間の子供は自分を認識している。
つまり『神視』の特性を持っているということだ。
その特性を持っているということは、何か重大な運命の持ち主であることは間違いない。
テンは個々の人間の運命、未来的なものにあまり興味がなく、これからこの子供がどういった道を歩むのか、テンと会う事でこの子に何が起こるのか等はからっきしわからない。
勿論、知ろうと思えば知る術はいくらでもあるのだが、創世神の3人はこの世界において、なるべく予知の能力を使わないように封印している。
それを使うと暇つぶしで作ったこの世界がひどく退屈なものになる事を知っているからだ。
「物凄くキレイなおねーさんの神さまだったよ?」
(ああ、ツィか。なるほど。まあ、そうだろうね)
「あとひと押しで夫婦に……いや、キスを……」
不意に顎に手をやり、少年らしからぬ佇まいでゴニョゴニョと呟く。
「え?」
「今、テンさまがこの湖にいて、僕がくるのを待ってるって」
(いやいや。今の呟きは何だったんだよ)
そう思うものの、その後に言っている事も非常に気になる。
「僕が君を待ってるって?」
「うん。『いいもの』をくれるって」
「そのお姉さんが、ほんとにそんなこと言ったの?」
「うん」
(はて)
神である彼が、本気で悩みだす。
(何か人間の子供が喜ぶようなものを持っていたかな?)
「君。名前はなんて言うんだい?」
「マッツ」
「マッツ君だね、覚えておくよ。ただ、そのお姉さんが言った『いいもの』に僕は心当たりがないんだ」
その子供は少し考える素振りをする。だが予めテンに会ったら、と考えていたのだろう。
テンの目をその赤い両の瞳でしっかりと見据え、こう言った。
「神さま。僕、欲しいものが2つあるんだ」
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