神の種《レイズアレイク》 〜 剣聖と5人の超人 〜

南祥太郎

文字の大きさ
1 / 204

プロローグ

しおりを挟む
 3人の神が戯れに作った世界の物語――

 ある日の早朝、ここはテン大陸南方に位置するランディア王国。

 その王都辺境にいくつかそびえる山にある湖のほとり。

 まだ薄暗く、靄がかかっている。

 藁のようなもので雑に編みこまれたシートの上で胡座をかき、誰もいない浜辺で釣りをしている1人の青年がいた。

 見た目は20代前半位、長身である。
 端正な顔立ちにくせ毛の真っ白な髪と眉。
 濃く、深い緑色をしている瞳。
 そして透き通った薄い緑色の衣を纏っている。

 彼こそはこの世界の創世神の1人、信義の神テン。

 彼は自分達で作ったこの世界をいたく気に入っており、時折、遊びに来ては帰って行く。
 無論、それに気付くものはいない。


「ふぅむ。つつきもしないか」

 餌がついたままの針を見つめながら、ふぅとため息をついた。

「暇だねー。そろそろ帰ろうか」

 誰もいないはずの、神の次元。
 そこに別の何者かの気配を感じ取る。

「おにーさん、誰と話してるの?」

 不意に背後から声をかけられ、あわてて振り向いた。

 見ると小さな子供だ。
 4、5歳ほどに見える人間の子供が彼を見上げている。

「えと……僕に言ったのかい?」
「うん」

 テンは頭をポリポリと掻き、体を子供の方に向き直し、改めて様子を伺う。

 焦げ茶色の髪、赤眼、整ってはいるが、まだ幼い顔立ち、背はまだ自分の腰の下辺りくらいだろうか?

(うーん。普通の人間の子供だね)

 テンはこの世の創世神である。

 人間のみならず、森の妖精エルフドラゴン等の高等な種も含め、この世の何者からも見えない、認識できない次元に存在しているのだ。

「普通、僕は見えないんだけどな」
「?」

 何言ってんの? とでも言いたげな表情で、子供は首を傾げる。その仕草が妙に可愛らしい。

「まあそれはいいや。僕は『テン』というんだ。君たちがいつも神さま、神さまと拝んでくれているテンだよ」
「えっ。神さま? テンさまなの?」
「思ったより驚かないね」
「ちょっと驚いてるよ!」
「ちょっとなんだね」
「テンさまの見た目が思ってるのと違ったからさ」
「ほう? どんな想像していたんだい?」
「絵本で見たテンさまはおじいさんなんだ。いつも裸で、光ってるんだよ」
「やめてくれるかな。気持ち悪い」

 絵本の作者がテンと『』を間違えたのか、そもそもが適当なイメージなのかはわからない。

「で、君。こんな時間に、こんな所で何してるんだい?」
「テンさまに会いにきたんだよ!」
「えっ?」

 胸を張って、子供が言う。

「夢で教えてもらったんだ。今、この辺りにテンさまがいるって」
「なんだって?」

 それをこの子に知らせることに、何か意味があるのだろうか?
 いや、そもそもそんな事がわかる者がこの世にいるというのだろうか。

 テンは首を傾げ、少年に聞いてみる。

「どんな人に言われたの?」
「その人も神さまなんだって」
「光る裸のお爺さんだったのかい?」
「それはテンさまでしょ」
「テンさまは君の目の前にいるだろ!」

 この人間の子供は自分を認識している。
 つまり『神視』の特性を持っているということだ。

 その特性を持っているということは、何か重大な運命の持ち主であることは間違いない。

 テンは個々の人間の運命、未来的なものにあまり興味がなく、これからこの子供がどういった道を歩むのか、テンと会う事でこの子に何が起こるのか等はからっきしわからない。

 勿論、知ろうと思えば知る術はいくらでもあるのだが、創世神の3人はこの世界において、なるべく予知の能力を使わないように封印している。

 それを使うと暇つぶしで作ったこの世界がひどく退屈なものになる事を知っているからだ。

「物凄くキレイなおねーさんの神さまだったよ?」

(ああ、ツィか。なるほど。まあ、そうだろうね)

「あとひと押しで夫婦に……いや、キスを……」

 不意に顎に手をやり、少年らしからぬ佇まいでゴニョゴニョと呟く。


「え?」
「今、テンさまがこの湖にいて、僕がくるのを待ってるって」

(いやいや。今の呟きは何だったんだよ)

 そう思うものの、その後に言っている事も非常に気になる。

「僕が君を待ってるって?」
「うん。『いいもの』をくれるって」
「そのお姉さんが、ほんとにそんなこと言ったの?」
「うん」

(はて)

 神である彼が、本気で悩みだす。

(何か人間の子供が喜ぶようなものを持っていたかな?)

「君。名前はなんて言うんだい?」
「マッツ」
「マッツ君だね、覚えておくよ。ただ、そのお姉さんが言った『いいもの』に僕は心当たりがないんだ」

 その子供は少し考える素振りをする。だが予めテンに会ったら、と考えていたのだろう。

 テンの目をその赤い両の瞳でしっかりと見据え、こう言った。

「神さま。僕、欲しいものが2つあるんだ」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました

東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!! スティールスキル。 皆さん、どんなイメージを持ってますか? 使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。 でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。 スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。 楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。 それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。 2025/12/7 一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。

悲報 スライムに転生するつもりがゴブリンに転生しました

ぽこぺん
ファンタジー
転生の間で人間以外の種族も選べることに気付いた主人公 某人気小説のようにスライムに転生して無双しようとするも手違いでゴブリンに転生 さらにスキルボーナスで身に着けた聖魔法は魔物の体には相性が悪くダメージが入ることが判明 これは不遇な生い立ちにめげず強く前向き生きる一匹のゴブリンの物語 (基本的に戦闘はありません、誰かが不幸になることもありません)

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった

黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった! 辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。 一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。 追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

処理中です...