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第1章 旅立ち
ツヴァリアの陰謀(1)
しおりを挟むリディア達が到着してから1カ月がたった。
そのリディアだが、前の酒宴での記憶が無いらしい。かなり飲んでいたようだったからな。あの時の出来事は、全てリディアには伏せられている。
リタ曰く、『素面の時に自分のとった言動を知ったら……きっと自殺するわ』とのことらしい。
そしてこの1ヶ月間、俺は明確に日毎に増す敵意を感じていた。
小さい頃、俺はテンさまに会ったことがある。敵意を感じる事が出来るように、と頼んだんだが、
―――
『ダメだね。どんな理由があるにせよ、そんな特殊な能力をこの世の創生神たる僕が、この世の住人に授ける事は出来ないな。不公平だからね。神なんかに頼らず、精進する事だよ』
―――
にべもなく、断られた。
……にしては、俺のこの肌感覚は、今まで外れた事がない。この感覚によって、幼い頃から何度も危ない所を切り抜けている。
もはや、俺にとっては絶対の感覚、いや、能力だ。
しかし、敵意の出元がわからないんだ。
そもそもモンスターなのか? 人間なのか?
きっと相当離れた所にいるんだろう。近くにいたらそれなりに相手が絞れるんだがな……。
そんな事を日々考えていたんだが、どうにも手の施しようがなく、悶々としていた。そんなある日の朝、いつものようにモンスターの発見報告が入ったんだが、内容がいつもとは違っていた。
「そうか。ちょうどいい。皆いる事だし、そのまま報告してくれ」
その時、俺達は今後の話を打ち合わせるのに、朝のミーティングをしており、主立ったメンバーが集まっていた。
「モンスター……3日振りか」
そう言ったのは、この砦の副長でもあるハンス・シュタール。
俺の幼馴染で、歳も同じ24。俺より少し背が高く180センチは超えているイケメンだ。小さい時から頭が良く、文武両道を地で行くやつだが、ここではもっぱら政務を任せている。俺が苦手だからなんだが。
この砦は彼が支えてくれていると言っていい。
「なかなかいなくならないわね」
ハンスや他の皆と同じく『シシ』からの同僚、リタ・ケルル。
酔っぱリディアを作ったA級犯罪者だ。赤髪、浅黒、筋トレ好きのスレンダーマッチョ。基本的に気が効く優しい美人なんだが、よく男をひっかけては酒場で盛り上がっている。弓使いであり、双剣使いでもある。本人は言わないが、歳はもう30前後のはずだ。
そして、ヴィンセンツとクリストフに、『シシ』組としてヘルマン隊長とリディアもいた。
「報告します。3カ所でモンスターの発生を同時に確認致しました」
「3カ所……同時にだって? 一体、どこだ?」
「ロールシャッハ村付近、ニール村付近、メンザス村付近の3カ所です!」
1つ目のロールシャッハ村は、1カ月前にゴブリンロードを倒し、リディア達を助けた場所だ。
「どこもここから1日はかかる位置だな。村同士の距離もかなりある」
ハンスが俺に向けて言う。
こんな時の為に最低限の守備隊を各地に駐屯させている。また、迅速に救援が出せるよう、狼煙により敵が現れたことを素早く伝達し、更に煙の色によって、ある程度の規模を伝える仕組みも整っている。
「駐屯部隊だけで撃退は難しいと思われます」
「全く違う場所……俺達は隊を分けなくちゃならんな」
兵士の報告に頷き、少し笑いながら皆に顔を向ける。
「何がおかしいんだ?」
ヴィンセンツが口を挟む。
「だってさ……同時に人里に出てきたんだぜ? モンスターが徒党でも組んでいるというのか? おかしな事だらけだ」
「といって、ゆっくりはしてられないわ!」
リディアの真剣な眼差しに頷いて応える。
「その通りだ。……ハンス!救援を派遣する。至急、編成を頼む」
「承知した」
「但し」
浅めにお辞儀をし、席を立って出て行こうとするハンスを呼び止める。
「今回、俺とリディアは編成から外してくれ」
―
ハンスの編成により、以下のように分けられた。
ロールシャッハ村方面にはヘルマン。
ニール村方面にはハンスとクリストフ。
メンザス村方面リタとヴィンセンツ。
援軍は急を要するため、20名ほどの小隊とされた。
「おい、マッツ。何をするつもりか知らんが……無茶はするなよ?」
いつも先頭に立っている俺が編成から外れたのが、ハンスには気になるらしい。
「いつもお前に頼りになりっ放しだし、たまには休んでおくといい」
「ああ。そうするよハンス。ありがとう」
「……」
明らかに俺の言葉を信じていない。何やら物言いたげな顔をしているが、1つため息をついただけで踵を返す。
「行こう、クリス」
「はい! ハンスさん。それでは隊長、行ってまいります!」
2人の背中の何と頼もしいことか。
「頑張ってこいよ~~!」
俺の声援に手をあげて応え、行ってしまった。リタやヴィンセンツ、他の救援組も同じようにして部屋から出て行く。
出がけに残っている俺とリディアが目に入り、ヘルマンはまた悪い癖で何か言おうとしたが、1カ月前の恐怖が蘇ったのだろう。結局、何も言わずに出て行った。
そうそう。それでいいんだ、ヘルマン。
1つ、賢くなったな。
「出撃しないなんて…… 珍しいわね?」
ヘルマンの不審な所作には気付かなかった様子のリディアが不思議そうに俺に声をかける。
「リディア、『追跡』って使えたよな?」
「え? う、うん。学校で習ったわ。と言っても生徒同士で掛け合いをした程度だけど……」
俺はうんうんと頷きながら、リディアに今日の真の目的を告げる。
「ひょっとしたら、今日、使うことがあるかもしれない。不安だったら、復習しておいてほしい」
「どういうこと?」
「使わずに済めば俺の思い過ごし、だが、リディアの出番が来た時は…… 『敵』の正体を暴きに行く」
―
それから8時間位たったであろうか。
もう日も沈みかけている。
今までの襲撃パターンからして、今日はもう出てこないだろうと思われた。
「俺の考え過ぎだったか……?」
杞憂であれば良いが、どうにもムズムズする。敵意が消えないからだ。
「マッツ~~~!」
暇だったらしく、リディアはあちこちを掃除していた。
見ると、手にバケツを持っている。
「ねぇ、この砦に、こんな変なバケツ、あったかしら」
「バケツ?」
何を呑気な、と思ったものの、確かに見たことのない、なんとも言えない奇妙なバケツを手にしている。
少なくともこの国で作られているような量産型の、重い銅製バケツではない。極彩色のバケツだ。材料はちょっと見当もつかない。見る限り、とても軽そうだ。
「どこにあったの? 見たことないな」
「厨房の前」
「厨房?」
コックか誰かが作ったのだろうか。
センスのかけらもないが。
「わかんないな。コックや兵士達の誰かが使っているのかもしれない。元あった場所に戻しておいで」
「うーん。何か妙な『気配』があるのよねぇ。これ」
言いながら、素直に厨房へと戻って行く。
確かに妙な『気配』は俺も感じる。だが、悪意や敵意ではない。むしろもっと神聖なものだ。
どう考えてもこんなモノがここにあるのはおかしいが、一旦、今は放っておこう。
だが、これの出番は後日、すぐに来る事になる ―――
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