神の種《レイズアレイク》 〜 剣聖と5人の超人 〜

南祥太郎

文字の大きさ
32 / 204
第2章 超人ヒムニヤ

王女誘拐(2)

しおりを挟む

 数秒の沈黙の後、俺達は顔を見合わせる。


(…………)

(会っちゃったな)

(会っちゃいましたね)

(用件だけ伝えて通らせてもらおうって言ってなかったっけ?)

(用件を伝える相手に会う前に、会ってしまったんだ。どうしようもないだろ)

(ついてないわね……)

(ついてないな……)

(ついてないですね……)

 バルバラ王女……。

 正直、いい噂は皆無だ。

 ワガママ、口の悪さ、冷徹、笑えないイタズラ……等々、王都で色々聞いた。

 見た目は悪くない。

 まだ子供なせいか、背丈はアデリナと同じか、もう少し小さい位だが、二重で大きな、少し吊り上がった猫のようなおメメと小ぶりな鼻、紅潮している頰、八重歯が覗く可愛い口元、腰まであるストレートの濃い茶色の長い髪、と、可愛らしい容姿をお持ちだ。

 もっとも、俺の主観ではウチの2人の姫には遠く及ばない(リタは歳が違うから、一旦比較対象から除外だ)。ま、いずれにしろ持って生まれた容姿は、本人の手柄じゃないからな。

 外で一悶着あったのか、ドレス風の部屋着が雨に濡れている。

 目配せでの会話が終わり、何となく俺が話し掛けないといけない、嫌な空気になった。

「……あ、ああ……。バルバラ王女でしたか。お会いできて光栄です」
「フンッ」

 ピキッ

「あのぅ……。私はマッツ・オーウェンと申します。我ら、ランディア王国守備隊の者です。まずはご安心下さい」
「そなたの名や身分なぞ、どうでもよい。さっきから妾をずっと立たせてしまって気がひけんのか」

 ピキピキッ


「……ヘンリック、椅子を引いて差し上げろ」
「ああ」

 ヘンリックが無造作に椅子をひき、手を振って座るように促す。あーあ。そんな態度取っちゃったら……。

「おお。そなたは先程、妾を助けてくれた……」

 ほらな……。

 ……は!?

「そなたがいなければ、今頃、妾はどうなっていた事か……」
「仕事だ。気にするな」
「んまあ……。何と仕事熱心な……」

 ……なんだと……。

「座れ」
「すまぬのう……」

 素直に座るバルバラ。

 なんか最近、俺の地位? がすごい低い気がするんだが……。

「そこの赤眼の男。茶を所望じゃ」

 ピキピキピキッ


 と、それまで黙って見ていた爺さんが、ようやく我を取り戻し、立ち上がる。

「お姫様。ここは、わしらの宿じゃ。この兄さん方もわしらの客人。茶ならこの爺が出しましょう」

 そして、通り過ぎる瞬間、俺にパチっとウインクして、キッチンに向かう爺さんと、その後ろに付き添う婆さん。

 カッコいいじゃないか!

 お姫さんは、ムッとした顔をしているが、年長者に言われ、しぶしぶ、といった感じで黙っている。ここが城でないこともわかっているのだろう。

「ヘンリック…… ちょっとここでお姫様の相手をしていてくれ。俺達は2階でこいつらを尋問してくる」

 のびている3人を指差して、コソコソと耳打ちする。

「わかった」

 そして、俺達は賊を抱えて、逃げるように2階に上がっていった。



「……えらい目にあったぜ……」

 ドッと疲れが出て、賊3人を放り出し、座り込んでしまう。

「お疲れ様、マッツ。よく耐えたわね!」

 リディアがポンっと肩を叩いて、労ってくれる。

「う……ありがとう……」
「頑張ったね! マッツにーさん! カッコ良かったよ!」
「あそこで爆発してたら、ビルマーク王国を通る事が難しくなるところだったわ。よく我慢したわね」
「茶を所望、で、どうなることかとハラハラしましたよ。少なくとも私は隊長を尊敬してますから!」
「う……ありがとう、みんな…… 最近、扱いが酷くて落ち込んでたんだ……」

 一斉に慰めてくれる仲間に、思わず涙が出そうになる。リタはそんな俺の丸まった背中をさすりながら、皆が疑問に思っていた事を口に出した。

「こいつら、何なのかしらね?」

 そうだ。元はと言えば、こいつらが悪い。何でビルマークの王女なんか連れて来やがったんだ。

「リディア、えーっと…… こいつにしよう。こいつに『追跡トラサーラ』をかけてくれ」
「わかったわ」

 ヘンリックにボコられ、首根っこを掴まれていた奴を選び、『追跡』をかけてもらう。これでこいつは逃げられない。

「おい、起きろ。いつまで寝てんだこの野郎」

 細身だが、筋肉質でガッシリしている。かなりの長身、肌は真っ白だ。金髪に青い目なので、アデリナ同様、諸島系の生まれなのだろう。全身を黒装束ですっぽり覆っている。

 目が細くて眉毛が無いため、暗殺者の顔付きをしている。
 暗殺者だろうが、何だろうが知るか。ストレス解消を兼ねて、思いっきり往復ビンタをかます。

 ベシベシベシベシッ!

「うわッ! いってえな……。誰だ、チクショウ!」
「目が覚めたか?」

 顔を覗き込んでやる。

「あ? ………… ひぃっっっ!!!」

 飛び起きて、部屋の隅でこちらを見ながら固まる。
 体全体を屈め、用心深く俺達を観察する。どうにかして逃げようと考えているのだろう。

「最初に言っておくぞ。既にお前には『追跡トラサーラ』がかかっている。お前、どうせ、どっかの賊なんだろ? 逃げてアジトに行けば、お前の仲間ごと捕まえてやるし、どこに逃げてもウチの自慢の高位魔術師は捕捉できる」
「……」
「言った意味はわかるな?」
「つまり、逃げられない、と?」
「そういうことだな」
「俺をどうする気だ?」
「ビルマーク城に連れて行く」
「……」

 何やら考えている。が、選択肢が無いことには気付いているだろう。

「で、だ。ビルマーク城に行く前に、いくつか俺の質問に答えろ」
「……断る」
「拒否権は無い」

 俺は握り拳をチラつかせ、極悪な笑みを讃えながら、いつぞや、ハンスに言われた言葉をそのまま、投げつけてやる。

「……うぅ」
「まず、貴様らは何者だ?」
「……」
「どっちにしても、もうてめえはアジトには戻れないんだぜ? 裏稼業なら、仕事に失敗したら終わりだろ? 心を入れ替えて真っ当に生きるか、どこか別の国に行くかしかない。今、ここで素直に答えれば、ビルマーク城で『追跡トラサーラ』は解除してやるし、万が一の場合は、命乞いしてやる」
「…………」

 ムチとアメだ。考えても無駄だぜ。

「わかった。知る限りの事は、答えよう」

 男は観念したようだ。

「俺はガルマニアで裏仕事を請け負っている組織『フリューゲル』の下っ端だ」
「ガルマニアね……。沿海の商業都市だな。裏稼業のヤツが何で自国の王女なんかと一緒にいるんだ?」
「商業ギルドからの命令だ。ビルマークの王女を誘拐しろ、と」
「何のために?」
「それは知らねえ」

 ふぅんと無表情でひと呼吸置き、少し凄みを効かせて、もう一度確認する。

「何のために?」
「い、いや、本当に知らねえんだ。というより、仕事の理由なんぞ、今まで1度だって説明を貰ったことはない」

 まあ、いいだろう。

「どこに連れて行く気だったんだ?」
「最終的にはガルマニアだ。但し、王都から北東にまっすぐ行くのではなく、一旦、南に進んで、ランディアから海路で運ぶ予定だった」
「運んで、その先は?」
「知らねえ。聞いてねえ」

 まあ、そんなところか。

「お前、名前は?」
「カイ・ブリングマン」
「どうやって城に忍び込んだんだ? 警備がハンパなかった筈だが?」

 少し、口元がニヤッとした。腕には自信があるのだろう。

「気配を殺すことなど造作無い。戦闘技術はお前らには敵わねえが……、基本的に戦闘を避け、仕事をするのが俺達だ。魔法のシールドもあったが、術者に気付かせず、通り抜けるアイテムを持っている」
「何が戦闘を避け、だよ。少なくとも、こいつは暗殺者だろう」

 俺は足下で気絶している賊Aを指差して、ギロリとカイを睨む。

「そいつらは俺達の仲間じゃねえ。ギルドから雇われた、別の組織のやつだ。どこの組織のやつかは知らねえ」
「ほう? なら、お前の組織、なんつったっけ……『フリューゲル』だったか? その仲間は?」
「1人、表で馬車と王女を守っていた。あの浅黒いガキ……少年にやられたんだろう。今、どうなってんのか、心配なんだが……」

 なるほど。雇い主は仕事を複数の組織に依頼し、お互いを見張らせ、裏切らないようにリスクヘッジをしていたってことだ。
 そして、『フリューゲル』の連中は誘拐、もう1つの組織のやつは乱暴事、と作業分担していたというところか。

「最後の質問だ。他に王女を狙っている奴は?」
「わからねえ。いるかもしれないし、いないかもしれねえ」

 誘拐のターゲットになっている女の子を1人、放ったらかす訳にはいかない。ビルマーク城まで彼女を護衛しなければならんだろう。

 ヘンリックが妙に好かれているのは、幸運だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

処理中です...