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第4章 聖武具
vs ラッドヴィグ軍団(4)
しおりを挟むヘンリックが魔騎士サミュエルを戦闘不能に追い込む10分程前、リタとリディアの2人は新たな敵に遭遇していた。
ここに来るまでの途中、自分達が通った道がトラップにより落石で塞がれ、マッツ、ヘンリックと分断されてしまう。
仕方無く前に進んだ広い部屋で遭遇した2人の敵。
1人は人間の子供程の小柄で、黄土色の分厚いローブを纏い、顔は骸骨さながら、ほとんど骨と皮だけだ。その為、目が爛々と光っている事が不気味さに拍車をかける。
人呼んで『破壊者ボルイェ』。
もう1人は、ボルイェの4、5倍の体躯をしており、獅子の顔をしている。筋骨隆々、鎧などは身につけておらず、僅かにレザーの毛皮を上下に纏い、手にはリタの身長程もある大きな長剣を持っている。
この男が『半獣戦士ゴトフリート』。
―――
「超人への近さで言えば、今の世だと《放浪者》コンスタンティンが突出しているな。あいつは間違いなく近いうちにお声がかかるだろう。続いて《破壊者》ボルイェ、オリオンの子孫の《聖騎士》オレスト、辺りか」
―――
ヒムニヤが言っていた言葉を思い出す。
「リディア、私があのでかい獣人を倒すまで粘れる?」
リタが目の前の不気味な2人から目を離さず、小声でリディアに話しかける。
「リタさん、私の事は気にしないで。あのゴト何とかいう奴もかなり手強い筈だわ」
それを聞いて、ふと、リタに笑みがこぼれる。
(リディアも成長したものだ……)
今、目の前に立っている2人から発せられる気は、簡単に相手できるレベルではない。
以前のリディアなら、ガタガタ震えていた筈だ。それが今では何とも頼もしい。
「……そうね、わかった。これは1対1じゃない。2対2ね」
「ええ!」
リディアが大きく頷くと同時に、ローブの男が小さく口を開く。
「話はついたかね?」
僅かな口の動きの割に、洞窟の全体から聞こえるような声だ。きっとこれも魔術なのだろう。
ゴトフリートが続ける。
「こんな小娘共が俺の相手か……ま、何でもいい、かかって来い」
こちらは獣の顎から発せられる生の声だ。低く、くぐもった声で聞き取りづらい。
「じゃあ、行かせてもらうわ!」
言い様、ゴトフリートに向けて猛ダッシュするリタ。無論、距離を縮めている間、普段通りの戦法を展開する。つまり、弓矢での先制攻撃だ。ゴトフリートだけでなく、ボルイェに対しても放つ。
ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン!!
ゴトフリートは全ての弓矢をその肉体で受ける。
この部屋に入る前に、既にリディアがバフ魔法をかけている。当然、弓矢にも物理攻撃向上がかかっている。
だというのに、貫通どころか刺さりもしない。
そして、ボルイェも避けない。が、目の前にバリアが張られているらしく、矢はあっけなく粉微塵に粉砕された。
だが、リタはお構い無しに距離を詰め、あっという間にゴトフリートの目の前だ。距離を詰めると尚更大きさが際立つ。
ヴォルドヴァルドよりも更に大きく、背丈は3メートル近い。半獣の血が成せる巨体か。
両目の位置に弓矢を放つ!
放っておいて、太ももの辺りを剣で薙ぎ払うように斬る!!
一方、リディア。
ボルイェの手前でリタが放った矢が消え去ったのを見て、瞬時にエッカルトが唱えていた防御呪文「霊幕」を思い出す。
ボルイェはミラー系の最高位魔術師、すぐさま見極めて魔法を発動する。
古竜の大森林で自分がリザードマンの群れを倒した時、エルナがテン系統について、こう言っていた。
―――
「同等レベルのミラー系術師と1対1でやり合ったら勝ち目は薄いでしょう」
―――
(これは1対1じゃない! 2対2なんだ!!)
自分に言い聞かせ、最大限、今、自分が出来る事をしようとする。
「『聖剣』!!」
相手の物理耐性を弱化させる。効果は術者の魔力に依存する。
ゴトフリート、ボルイェの2人を対象とするが、ボルイェにはかからなかった事がリディアにはわかる。
(魔法耐性が強化されている?)
リディアが眉をひそめたと同時に、ゴトフリートの太ももをリタの剣が切り裂く!
バシュッッ!!
ボルイェには効かなかったが、ゴトフリートの物理耐性はかなり弱化されており、リタの腕なら軽く切り裂く筈、とリディアは見ていたが……
ゴトフリートの太ももには、毛ほどの傷も付いていない!!
「無駄無駄。そんな優しい攻撃では無駄だ、女」
言いながら長剣を振り回し、リタを襲う!
ゾクリとしながら、リディアがリタを援護する。
「『豪弓』!!!」
ボルイェ、ゴトフリートにまとめて弓の大砲を放つ!! かつてのリディアの最強攻撃スペル!
今や、詠唱も不要となるまでに成長した。
ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッッ!!
ガキィ――――――ン!!
だが、魔法による攻撃にも全く動じないゴトフリートの長剣が、今しがたまでリタが居たであろう位置を打ち抜く!
無論、いつまでもじっとしているリタではない。
(リディアの魔力で防御耐性弱化をかけても刃が通らない)
これは自分達には、殆ど打つ手がないに等しい事実だが、リタは戦闘中に諦めた事など一度もない。
周囲を回りながら、弱点を探し、突きや斬撃を加えてみる。リタの間合いの方が圧倒的に短いため、時々放つ攻撃も命懸けだ。長剣を振るわれるとバックステップでは避けられない。必ず左右に避けないと頭から真っ二つだ。
「娘さん達。そろそろ儂も行くぞ? 洞窟を壊すと怒られるんでの。軽くな」
ボルイェの体にオーラが浮き出る。
(軽く……なんてオーラじゃ無いわ!!)
リディアが恐怖を飲み込み、シールドを張る。
「『絶対障壁』!!」
「『地神の極撃』!!」
ほぼ同時に、ボルイェの口から極撃シリーズとも言うべき、ミラー系統の恐怖の呪文が詠唱される。
刹那、ボルイェのローブの中から、土色の竜が発現、リタとリディアに向けて金色の光線が放たれた!!
ババババババババババババババババッッ!!
が、それらは全てリディアのスペル「絶対障壁」に阻まれ、彼女達には届かない。
この瞬間を逃しはしない!
リタは「絶対障壁」が今の極撃の一撃で消えていない事を確認し、思い切りジャンプ!
ゴトフリートの胸元辺りから下まで、一瞬の内に何十と斬撃を加える。
だが、長剣の薙ぎ払いが来る!
ジャンプ中に横方向の薙ぎ払いを避ける術はない。
(大丈夫、リディアのシールドがある!)
薙ぎ払いを無視し、執拗に斬撃を加え続けるリタ。
バシュバシュバシュバシュッッ!!!
ドッッゴォォォォォォォォォン!!!!
その一撃で、リタはボルイェの目の前まで吹っ飛ばされた。
ダメージは無いものの、自分の背後にいるボルイェから言い知れぬ殺気を感じ取る。
すぐさま、起き上がり、今度はボルイェに向き直るリタ。
「しかし、これだけ美しい娘達を殺すのも忍びないのう……」
口ではそう言っているものの、その殺気は正反対の意思を示している。
「しかも、このシールドは何だ? 見たことがないが……見事なものだ」
ペロリと舌を出して、唇を舐め回す。
リディアが唱えた「絶対障壁」は、ヒムニヤのオリジナルスペルであり、ボルイェが知らなくて当然のものなのだ。
「どこまでそのシールドが持つか、見極めさせてもらおうか……」
ボルイェの目が怪しく光る!!
「『破壊砲』!!!」
ズッ……ドォォォォォォォォォォォォォ!!!
さきほどと同じようにローブの辺りから白いビームが目の前のリタに向けて発射される!
至近距離で食らったため、多少は浴びたものの、瞬時に左に身を躱し、ボルイェに振り下ろしの一撃を加えるリタ!
だが、それも届かない!!!
「大したものだ……では、これはどうだ? 『破壊の剣』」
ゾクリ ―――
マッツの剣技、円の1つのように、瞬時にリタの周囲に生成される剣の魔法イメージ!
リディア、リタ、ともに背筋が凍りつく!!
特にリディア。
(あれはやばい! 障壁が消える!!)
しかし、魔法も物理も何も効かない二人に打つ手がない。だが、このままでは、リタが死んでしまう!!
ドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!
魔法の剣に対しては、何の意味もないとわかっているが、思わず両腕で顔を防ぐように守るリタ。
(やばい、障壁が消えた!!)
「絶対障壁」は瞬時に何度も唱えられる呪文ではない。
魔力が成長すればヒムニヤがしたように神の一撃をも防ぐシールド魔法。それだけに連唱できず、一定の間隔が必要になる、とヒムニヤに教わった。
「そこまでか? では、トドメ、行くぞ?」
「『偉大なる盾』!!!」
無理だ、この程度では……。ボルイェの魔力は絶大だ。リディアは己の無力さを感じながら、走り出す!!
だが、ふとその横、洞窟の壁がボコボコ、と中から攻撃を与えているような音がし、小石がパラパラと落ちているのに気付く。
瞬間的にマッツとヘンリックが落石を避け、違う道からここに辿り着いたのだ、と都合よく解釈する。
(マッツ!! ヘンリック!!! 早く!!!)
「『死の大氷塊』」
パキパキパキパキパキパキパキパキパキ……
「リタさん!! 避けて!!!!!」
「無駄だ。これは避けられない」
ボルイェがそう呟いた時には、既にリタは目を見開いたまま氷塊に取り込まれていた。全身を凍りつかせる大きさの氷塊を発生させるのに1秒もかかっていない。
「リタさ――――――んッッ!!」
リディアの絶叫が洞窟に響き渡る!
「やれやれ、もう終わりか? 俺、なんもしてないんだがな……」
ゴトフリートが肩口に剣を乗せて呟く。
獅子の表情は変わらず、伺い知ることは出来ない。
だが……
「別のお客さんかい?」
ボルイェも壁の異変に気付いたようだ。
(早く! マッツ!)
そう念じるリディア。
だが、実はこの時、マッツはようやく飛竜の相手をし始めた頃、ヘンリックはまだサミュエルと打ち合いをしている頃だったのだ。
ボコボコ……
ゴトッ……
不意に土の壁が盛り上がり、岩がいくつか崩れ、小さな穴が開く。
「ささっ。先生! 予想通り、広間に出ましたですよ!」
リディアにとっては、壁の中から、何やら聞いたことのある声と、聞いたことのない口調が耳に入って来た。
(え?? この声……でも、まさか! こんな話し方する奴じゃなかったけど……)
「何だ、誰だ?」
ゴトフリートも知らない誰か、らしい。
「あれ? 中に誰かいるようですよ?」
「そうだろうね。さっきから戦っている音がしてただろう」
「そうでしたか!? いや! さすが、先生! 探知力、半端ありませんな!!」
そんな事を話しながらも、穴は少しずつ大きくなり、やがて、人が通れるほどの大きさまで、削られる。
ズドォ―――ン……パラパラ……
中の方は暗くて広間の方からは見えず、誰なのか、サッパリ分からない。
「な、なんだと……何故、こんな所に……」
1人、ボルイェだけは、ギュッと身を強張らせ、そのギラついた目で壁の中を凝視していた。
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