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第6章 魔獄
魔神(5)
しおりを挟むヒュゥゥ……
……
「『翔』!」
スタッ。
小さめの竜巻を作り、ゆっくりと、アスラを中心にクレーターとなった周囲に着地。
「なんて奴だ……」
目一杯の魔力を込めたはず。
俺の目算では跡形も無く、消し飛んでいる筈だった。
だが、原型をとどめている。
クレーターの中心で少し膝を曲げ、猫背になり、鎧はズタボロになっているものの……立っている! ピクリとも動きはしないが、形を保っている事自体が恐ろしい。
「魔界の住人てのは……凄いね。今のを耐えるのか……」
俺の横に飛んできたコンスタンティンが呆れ顔だ。
こいつは強いな……俺なんて震えが止まらない。
「ゾフィー、アスラは死んだのかい?」
俺の代わりにコンスタンティンが聞いてくれる。
が、何か言いかけて、ふるふると首を横に振るゾフィー。
「ごめんなさい、ダーリン。それには答えられないみたい」
なるほど。
召喚された者に対するルールみたいなものか。
だが、これではっきりした。
「あいつ、生きてやがるな」
「ああ。ゾフィーの返答からして、そうだろうね」
不意にリタが顔を出す。
「トドメ、刺して来ようか?」
いつの間にか、俺とコンスタンティンの元に駆けつけて来てくれていた。
「いや、あいつの腕をぶった切ったリタの破壊力は認めているんだが……接近戦のリタに頼むわけにはいかない。近づくのは危険過ぎる」
「そぉお?」
いや、待てよ……ここから魔法を飛ばしても、同じことの繰り返しか?
何しろ奴は、戦うほどに強くなる、をキャッチフレーズにしている奴だ。既に何発も俺達の攻撃を受け、きっとそれで魔皇すら耐えきったんだ。
俺達が手も足も出なくなる前に確実に仕留めたい。
その思いはコンスタンティンも同じだったようだ。
「マッツ。いずれにしても次で仕留めよう。これ以上長引かせると本気でヤバい」
「だな。どうするか……」
「接近戦になるが……こういうのはどうだ? リタも来てくれるかい?」
3人、頭を寄せ合ってシミュレーションを行う。
……
「ダーリンッ!」
ゾフィーが声を張り上げる。
見るとクレーターの真ん中で佇んでいたアスラがついに動き出した。
こちらを見て、猫背を更に折り曲げ……
「マズイぞ! 地竜剣技!!」
ブゥン! ブゥン!!
出た! 岩爆弾!!
「そう来たか!」
コンスタンティンが珍しく舌打ちする。
「『岩砕』!!」
岩には岩! 修羅剣技最強のバリアだ。
ドゥゥゥゥゥゥゥン!!
ドォォォォォン!!
ドンッ ドンッ !
ドォォォォォォォォォォォンッ!!
岩砕にはヒビも入らない!
当たり前だ! エルトルドーの攻撃すらはじ……
ドォォォォォォォォォォォォォォォォンッッッ!!
粉々~~~!!!
そして不意に目の前に現れる魔神アスラッ!!
岩砕を逆手に取り、目隠しに使ってここまで一気に飛んできた!!
「『反射』!」
ドォォォォォォォォンッ!!
コンスタンティンの、対物理では最強の防御方法!
全ての力、ダメージを反射する。
当然の如く爆発の力、ダメージも反射し、更に飛んできた力も反射され、凄まじい勢いで再びクレーターに突き返されるアスラ。
そして中心で巻き起こる爆発!!
その間に俺は、またアスラの遥か頭上に飛ぶ!!
「今度こそ! 正真正銘、最大パワーだ、アスラァァァァッッ! 魔竜剣技!!」
片膝をついているが、俺を見上げてくる。
眼光は衰えていない。
そして立ち上がり、足を広げ、膝を曲げて踏ん張るアスラ。
「ギギ……コイ! マッツ・オーウェン!!」
うおおお!!
いけぇぇぇぇッッッ!!
コンスタンティン!!
「ずぅえりゃああああああ!!!」
両腕をアスラに向け、超接近戦!!
声のする、自分の真正面を慌てて見るアスラ!
だが、もう遅い!!
ドッッッッッッッッッッッッシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッ!!!
ドゴォォォォォォォォォォォォォォン!!
伸ばした両腕から巨大なビームが放たれ、アスラの胴体の殆どを根こそぎ消滅させる!!
「ギギ……ギギギギ……」
「すまないね。この距離じゃないと、ダメそうだったのでね」
コンスタンティンがそう言うと、アスラの眼光がついに消え……た!!
さすがだ! コンスタンティン!!
「『翔!』」
スタッ!
囮の俺が着地。
「やったな! コンスタンティン!!」
コンスタンティンが振り向き、笑顔を見せる。
「マッツ ―――」
ギギギギ!!
コンスタンティンの頭上に振り下ろされる、凄まじいスピードの拳槌!!
「ダァァァァリ―――ン!!!」
ゾフィーが顔を覆って悲鳴をあげる!
だが、コンスタンティンは振り返らない!!
「『瞬時物理無効』!!」
コンスタンティンの頭上に振り落とされる巨大な拳槌!
だが、コンスタンティンはノーダメージ。そして!!
「ヤアァァッッッッッッッ!!」
「ギッ………………!!」
リタの気合に、アスラの呻きが続く。
そして、遂に……遂に、アスラは脳天から真っ二つに切り裂かれる。
それと同時に体が薄れていく。
「ギギギギ……ミゴト……ミゴト……」
そう言って、ようやく全て消え失せる。
やっ……た……
いつから呼吸を止めてしまっていたのか、ようやく息を吐き、そして吸い込み、その場にヘタリ込む。
「フゥ……手強い相手だったね……」
額の汗を拭い、コンスタンティンがニコッと笑う。
「手強い、なんてもんじゃねぇよ……」
そういう俺に手を差し伸べるリタ。
「でも、トラウマ、克服したんじゃない? やったわね!」
リ……リタしゃん!!
綺麗な赤い前髪を垂らし、ニコリと微笑んでそんな事を言ってくれた。来いと言われたら嫁に行ってしまいそうなほど、カッコいい。
頼もしい双剣士と魔術師に支えられて立ち上がる。
「皆が心配だが……ヘネの書によると、深い階層に落ちた奴らを俺達が助ける術は無いらしい。だが、大丈夫だ。俺が乗り越えたようにアイツらも……あれだけ頼もしい奴らが揃っていて負けるはずが無い」
自分に言い聞かせるように言う。
落ちた先は魔力無効の地域。
その時点でリンリン、リディア、クラウスという強力な戦力が削がれている筈だ。しかも、脱出は極めて困難、とヘネ様の折り紙もついている。
だが、大丈夫だ。
仲間を信じろ。アイツらならやれる。
先に進むはずだ。
そして、その先で会うためにも……
「フゥ。じゃ、行くか!」
「ええ!」
「ああ!」
俺達は歩き出した。
―――
マッツ達が魔神アスラを倒し、先に進み始めた頃―――
場面は変わって、ここはまさに……地獄!
そこかしこで、常に誰かが血を吐き、切り裂かれ、爆発し、刺され、死んでいく。
「誰かと思えば、お前、あの時の強えチビだな。急にこんなとこに召喚されたと思ったらそういう事かい! 今度は逃げねぇぞ。来いや~~~!!」
そういうは、魔神テンペラ。
金棒を振り回して声高に叫ぶ。
「チッ……全く、癇に障る声だぜ。心配しなくてもすぐに殺してやる」
かたや、オレスト。
テンペラに辿り着くには何百、何千の、オレストの言う雑魚を倒していかなければならない。
既にそれ程の数の敵を倒しているというのに、だ。
背丈が彼の数倍はあるような敵を相手に血路を切り開く。彼の周りにいるモンスター、ネイロ・ヒドラ、ルナ・リッチ、デヴィルロード、アークギガンテス、スキュラ、エンペラーデーモン、etc……
一体でも地上にいれば、大騒ぎになるレベルのモンスター群。これをひと時も剣を止めず、叩き折り、斬り払い、薙ぎ払い、突き刺しながら仕留め続け、テンペラの眼前に迫る!
一方、ヘンリック。
広場に躍り出た彼の周りにも、オレスト方面と同じような大型モンスターが一斉に群がる!!
「フン……」
ここは魔力無効エリア。
彼が体得した六芒槍術の、魔力をふんだんに使う槍技は使えない。魔力が使えれば一網打尽の技もあるのだが、そんな事は考えもしない。考える意味が無いからだ。
彼もオレストと同じように槍を振り回し、突き刺し、叩き、しゃくり上げ、魔神エリゴールを目指す。
対する、黒い巨馬に跨った甲冑の騎士、魔神エリゴール。
カブトムシのような2本の大きなツノを生やし、顔に十字の亀裂が入った仮面をつけ、素顔は見ることが出来ない。
シルバーの甲冑に全身を覆い、テンペラのように喚くこともなく、静かにその時を待つ。
そして、魔術師達とその護衛。
壁際、リンリンを中央に、その両脇をリディア、クラウス。
リンリンの前にアデリナ、その両脇をナディヤとラディカが固める。
近付くモンスターはラディカとナディヤが切り裂く。しかし、対アスラ戦でのディヴィヤがそうであったように、元暗殺者の彼女達は、基本的に相手が人間だ。このような大型の敵を相手にした事が無く、苦戦する。
しかしそれを補って余りあるアデリナの攻撃力!!
今、この場、このメンバーの中で、最大の攻撃力、殺傷力を誇る。
彼女が持つ『魔弓ペルセウス』。
弾道、破壊力を自在に操り、連続の範囲攻撃でみるみる近付くモンスターを薙ぎ倒す。
壁際で魔法を使えない魔術師達。
リンリン、リディア、クラウスの3人。
彼らは予め、魔力無効エリアがある事を前提に、この旅の準備をしてきた。
数に限りがあるため、アデリナのように乱射は出来ないが、状況を見つつ、3人で相談しながら効果的な場所へ効果的な霊符を使っていく。
さすがのリンリンも大型召喚獣を霊符に閉じ込める事はできず、手に持つカードを切るタイミングを考えていた。
そして、彼女の肩に乗る小さな竜、マメ。
変身すればその凄まじい力でどのような敵でも倒す。
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「マメ……頼むぞ。ここにいるのは皆、リンのかけがえの無い、本当に久しぶりの仲間じゃ。死なせたくは無い」
「ミャア~」
リンリンの真面目な顔に、あくびで答えるマメ。
その大きな口を見て、少女らしく微笑むリンリン。
「フフッ……よしよし。準備は万端。さあ、行こうか」
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