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最終章 剣聖と5人の超人
エピローグ
しおりを挟む神の世界。
暖色系で彩られた世界。所々、人間界を思わせる風景があるが、根本的に違う。
どこかふわふわして掴み所がなく、実在感がない。
元々、人間界は暇を持て余した神々によって、こんな場所や生き物がいたら楽しいんじゃないか、という思いで作られた。そのため、神たちは頻繁に人間界に降り、思い思いに楽しんで過ごすのだ。
それは単に釣りをする為の池であったり、ビルマークにある百竜の滝でったり、アスガルドにあるヨトゥム山であったりする。
そして彼らは人間界に何が起ころうが、基本的には関知しない。
マッツ達がいる世界とは時間の流れが違うため、比較する事にあまり意味はないのだが、強いて合わせるとすれば、今はマッツ対ヘルドゥーソの戦いが終わった後、テンがリンリンに呼び出される前、という時点になろう。
何百年、いや、何千年ぶりだろうか?
ミラー、ツィ、テンの三神が顔を合わせて談笑していた。
人間からは魔神だ、魔王だ、といわれて畏怖されているミラーだが、ここでは楽しそうに酒を飲んでいる。
「ヘルドゥーソがマッツに敗れるとはの。予想だにせんかったわ」
「ある程度以上の未来視を封印してるからねぇ」
テンが相槌をうつのに、ツィが続ける。
「先がわかったらつまらないもの。何やらマッツが勝つか、ヘルドゥーソが勝つか、そこかしこで神同士で賭け合ってたらしいわね」
「そうだ。だから儂は不死者の姿で地上に降り立ち、この身でマッツ・オーウェンの力を計った。計った上で、我が子ヘルドゥーソが勝つ、と思ったのだがなあ。少しヒントをやり過ぎたかな?」
テンはツィの空のグラスに果実酒を注いでやり、ミラーに顔を向ける。
「ヘルドゥーソ君は少々人間離れしすぎていたようだね。君を召喚しようとしていたようだが、マッツ君に退治されて、君にとってはちょうどよかったんじゃないのかい?」
「まあ、実の所、あの世界を壊したくもない……とはいえ、無敵の付け髭をやったのに、うまく使いこなせんとは情けない」
「あら。あれはむしろマッツがすごかったのよ? さすが私が目にかけただけはあるわ」
ツィはマッツが気に入っているのか、少し興奮気味だ。
「リンリン君やヒムニヤ君がいたとはいえ、人間の力であれをどうにかできるとは僕も思っていなかったよ。力で言えば僕達に近しいものを持っていたのにね。大したもんだ」
そこまで言うとテンは、ハッと何かを思い出す。
「ツィ。そういえば、マッツ君が子供だった頃に肩入れしたのは何故だったのか教えてくれないかい? 聞こう聞こうと思いながらすっかり忘れてたよ」
テンを見たツィの両目が少し大きくなったが、すぐに細くなり、
「あの坊やはね、私の子なのよ……?」
ふふっと笑いながらあっという間にグラスを空にする。
パンッと手を打つテン。
「なるほど! ミラーの子のヘルドゥーソ君を破るべくして破ったという訳か」
無論、彼らが言う『子』というのは、マッツ達の世界で考えるような過程で作られる子ではない。
彼らは稀に自分の贔屓にする人間を選び、『自分の子』と呼ぶ。
生まれる前に特性を授け、その生涯を見守るのだ。
マッツの場合は、それが『神視』であり、『超治癒』であり、ヘルドゥーソの場合は、魔力の暴風域における『魔力無限』だった。
「でもマッツ君の夢に出て、僕が彼を待っているとか適当な事を言ったのは?」
「あの日、人間界を飛んでたらあの子が私を見つけたのよ」
「うむ。『神視』を授けていたな」
ミラーが頷くように呟き、酒を注いでやる。
「そうよ。だからあの子の夢に入って御対面したんだけど……面白かったわ!!」
ツィが言うにはこういうことだったそうだ。
―――
『あら。私を見つけたのは、こんな小さな子供だったのね』
『おねーさんは?』
『私? ……まあいいじゃない。あなたが私を見てたからどんな人間かしらと思って見に来たのよ?』
『僕はマッツ』
『うふ。礼儀正しい子ね? ご褒美あげちゃおうかしら……?』
『願いを叶えてくれる的な……?』
『そうね。私で出来ることであればいいわよ』
『ちゅーして!いや、させて頂きたい!』
―――
「ぶっ」
「ぶっ」
テンとミラーが酒を噴き出す。
「……神に欲情するとは侮れんな……」
「そういえば僕と会った時にそんな事言ってたような気がするな」
「面白いでしょ? 食い気味に来たわよ。食い気味に」
―――
『え!?』
『お願い。3回だけでいいから!』
『1回じゃないの?』
『1回ならいいの? 長めのコースになりますが』
『よくないわよ』
『ダメか……』
『可愛いからしてあげたいけど、コースとか言ってる時点でダメね』
『実はちゅーの後で言おうと思っていた本当のお願いがあるんだ』
『ちゅーは冗談じゃなかったのね』
『おねーさん、僕と一緒のお墓に入って下さい!』
『何よそれ!』
―――
「……うむ。順番としては合っているな」
「その場に僕もいたかった……」
―――
『これもダメか……』
『……』
『実は夫婦になってから言おうと思ってたお願いがあるんだ』
『帰っていいかしら』
『ここまで僕を誘惑しといて帰らないでよ!』
『いつ誘惑したのよ!』
『登場した時からだよ!こんな美人で、そんなうっすい衣で出てきたら、願いは1つだよ!』
『……さようなら』
『待って!』
『神にちゅーしろだの、結婚しろだの言う人間は初めてだわ』
『えっ。神さまなの?』
『ああ。言っちゃった。まあそうね』
『裸で光ってるお爺さんじゃないんだね?』
『……キモいわね。違うわよ』
『神さま。僕、欲しいものが2つ、あるんだ』
『あら。急に畏まったわね。何かしら?』
『僕に(敵意を関知する能力)と(操られない能力)を下さい』
『……? これはまた、歳不相応なお願いね』
『僕のお父さんとお母さん、2人とも死んでしまったんだ。お父さんはモンスターとの戦闘中に部下に裏切られ、お母さんは精神操作魔法で壊された挙句に、自殺した。この能力があれば、2人共、死ななかったんだ!』
―――
「……という感じね。まぁ、理由という理由があるわけじゃないけれど、神の気まぐれってやつかしら?」
そこまで言って、人間界で採ってきた果物を頬張る。
「ふむ。ツィにもその願いを言ったんだね」
「そういうこと。能力的にはあなたの専門分野だと思ったし、テンが聞いてどう判断するかにお任せしようと思ったわけ」
「僕の時も光るお爺さんの下りから全く同じだったよ」
「そう。で、結局、あなたはあの子の願いを叶えてあげたのね」
「ああ。一応、神からもらった能力とかあちこちで吹かれても面倒だったから、記憶は操作させてもらったけどねぇ」
「元々、私の子だし、彼の事が気になって、それからもずっと視てたのよ。そしたら復讐に囚われるでもなく、ドンドンといい男になって……私のヒムニヤちゃんまで落とすなんて!」
両手を合わせ、興奮しながら声を上げるツィ。
「君、まさか、人間に惚れたのかい?」
少し呆れ顔のテン。
「惚れちゃった。子供の頃のトボけた感じがなくなって、あんないい男になるなんて! 彼が死んだら神界に呼ぶわ!」
「はぁ。まあ、勝手にすりゃいいさ」
……と、それまで黙って聞いていたミラーから思わぬ一言が出た。
「しかしお前ら、揃いも揃って、キモい、キモいと言うてくれるのぅ」
(ぎくっ)
(ぎくっ)
ミラーの光る半裸の体から闇のオーラが発現する。
「ん? ぎくっとしたな? やはりワシに対して言った言葉じゃな? 身に覚えがあるな?」
ゴゴゴゴゴゴ……
「い、い、いや、まずは落ち着け、ミラー」
「そそ、そうよ、落ち着きなさい。みっともないわよ、ジジイのくせに」
ブチッ
……かくして、神界に魔神ミラーが発現した、かどうかは定かではない。
神の種 ~ 剣聖と5人の超人 ~ 完
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