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口の悪い魔人達と俺様ノルト
016.魔物の多い森
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一行はロスの町を後にした。
西へ向かうとすぐに木々が生い茂り始め、その伸びた枝葉であっという間に空も見えない暗い森となった。
僅かに行商や旅人が通るのであろう、足で踏み固められただけの道とも言えないような場所を彼らは歩いていた。
サラによってもたらされた今の情報、魔法による物体転送が可能な転移装置と呼ばれるものがあるミニスローム領の領都、ウィンディアへと彼らは向かっていた。
「今の時代、転移装置は大体、どこの国でも各領にひとつかふたつありますね。同時に2、3人程度までしか転移出来ず、国外へ転移する事も出来ません。勿論、技術的に出来ないのではなく……」
「悪用対策だな。サラが物知りで助かったぜ」
ロゼルタが笑顔で言う。
「俺達が30年ほど引き篭もっている間にそんなもんが出来てるとはねえ。便利な世の中になったもんだ」
話している間もテスラは周囲に目を配る。その目が一際細く、厳しくなった。
「また来たぜ」
テスラの視線の先には大きな人型の、遠目にもはっきりと魔物とわかる姿があった。ロゼルタがやれやれとばかりに鼻息をひとつ吐く。
「多いな。これで何度目だ? 7、いや8度目か」
「今度はミノタウロスじゃな」
まだ始まったばかりのこの旅だが、ロゼルタが言う通り、既に何度も彼らは魔物の襲撃を受けている。
「ねえ、ノルト」
「はいお嬢……とと。ア、アンナ。どうしま……どうした、の?」
この妙な口振りは、アンナに『もう雇用関係は無いんだからお嬢様と呼ばないで。あと敬語もやめて』ときつく言われていたからだ。
とはいえ最近まで主従の間柄だった上に、友達というものが居ないノルトにとって人と敬語で話すのは全く普通の事だった。
従ってロスを出て1日経った今もなかなかそれはスッと出てこない。
「あのさ。あの魔物、私の方を見てない?」
「え? あ、いやどうでしょう……どうかな。こっちを見てはいるみたいですけど」
「敬語」
「あ、すみま……ごめん」
一応ノルトに突っ込みを入れたものの、
(気のせいかしら)
心は上の空だった。
ミノタウロスといえば人間界に滅多に現れる事はない、そこそこ強力な部類の魔物だ。森の中とはいえ、ここは町と町の間である。それが群れで襲ってくるなど異常な事と言えた。
サラが頰に指をついて、何か考える様に顔を少し傾けた。
「妙ですねえ。先日私がロスに来た時もこの辺りを通りましたが魔物など1匹もいませんでしたのに」
「僕も1年前に来た時は1度も襲われませんでした」
2人の言葉にロゼルタがフームと考え込む。
「突然町が合成魔物に襲われたのも不思議っちゃー不思議だが、まあ今はそんな事を気にしてても仕方ねー」
「そりゃそうですね。『魔法の矢』!」
サラの魔法とテスラの剣で今まで同様、魔物は瞬く間に退治された。
アンナは最後まで(むー、気になるわ)とひとり、考え込んでいた。
その夜 ―――
彼らは焚き火を囲み、思い思いに木の幹にもたれて休んでいた。
「へー。なら転移装置ってのはエキドナ様の魔法が元祖ってことか」
ロゼルタは少し嬉しそうだ。
リドのメルタノ侵略時、アークウィザードのハルヴァラを始めとするエキドナの弟子達が次元魔法『転移』を応用して国民達を逃していたのだという。
その技術が更に応用され、今、人間界に広まっているなどとは想像もしていなかった。
「そうか……我が国民達はちゃんと逃げ延びてくれたかな」
少し目を細くし、遠くを見た。
ジッと黙って話を聞いていたノルトが申し訳なさげに口を挟んだ。
「魔界って人間の国とはなにか違うんですか? その、なんていうか、イメージが」
ノルトの想像では魔界とは異世界、異次元のものだった。特に笑うでもなくテスラが答える。
「そんなに変わらんだろ。陸続きだしな。違う所といえば魔素が濃い、国民の殆どが魔族、それくらいだ」
ノルトの隣で彼に寄り添う様に座るアンナもここぞと会話に加わる。
「そうなんだ。人間の敵みたいに教えられたんだけど」
「敵でなくては都合が悪いからじゃろ。一方的に攻めたんじゃからな」
そこで思い出した様にサラに言う。
「リドについて、儂らの知らん30年間の情報があれば人里離れておるうちに聞いておきたいが」
「そうですね、と言っても私もそれほど詳しくは知らないのですが」
そう前置きし、英雄王国リルディアが建国され、今はその王となっていることを告げる。
またかつては英雄パーティだった各メンバーの現状についても語った。
一説では不死身とも言われるハーフオークのマッカは、リルディアに隣接するロトス王国の軍事司令官となっており、軍権を握っている。
クリニカとドラックの2人は現在、どこにいるか知らない、と語った。
リドは基本的に常時、スルークの魔王城改め覇王城にいる。
「そもそも人間だから老いる筈なんですが、一度ラクニールに出た時に見かけたあのウンコ野郎の霊気は30年前より強まっている気がしました」
最後にケッと忌々しそうに吐き捨てるように言う。
とにかくリドの事となると途轍もなく酷い言葉遣いになるサラだった。容姿が整ったハーフエルフなのでなおさらギャップが激しい。
彼女の話を4人の魔人達は存外、静かに聞いていたが、やがてロゼルタが口を開く。
「あのヤローも強くなったかもしれんが、今回はこっちに有利な事もある」
「有利?」とテスラ。
「ノルトだ。ロスの時での様に魔王の力を自由に振るえるようになれば……それは魔王4人とあたし達で奴をボコれる、という事でもある」
「確かに。あん時ゃ魔界側がバラバラだったせいでやられたが、今回は逆だ」
ニヤリとしながら舌舐めずりをするテスラは何故か突然尻をはたきながら軽くひと仕事、とでも言いたげな感じで立ち上がり、剣を抜いた。
「さて。寝る前にもう一戦やるか」
また魔物の襲撃だった。
視線の先には中型のボブゴブリンも含まれたゴブリン集団の姿があった。
「しかしマジで魔物の多い森だな。退屈はしねーで済むが」
剣を振り回し、嬉々として魔物の群れへと突っ込んでゆく。
アンナはそのテスラの後ろ姿を目で追いながら、また先程と同じ懸念を抱いていた。
(やっぱ魔物とちらちら目が合ってる気がするんだけど)
少しノルトの方に体を寄せながらギュッとその左腕を握り締めた。
西へ向かうとすぐに木々が生い茂り始め、その伸びた枝葉であっという間に空も見えない暗い森となった。
僅かに行商や旅人が通るのであろう、足で踏み固められただけの道とも言えないような場所を彼らは歩いていた。
サラによってもたらされた今の情報、魔法による物体転送が可能な転移装置と呼ばれるものがあるミニスローム領の領都、ウィンディアへと彼らは向かっていた。
「今の時代、転移装置は大体、どこの国でも各領にひとつかふたつありますね。同時に2、3人程度までしか転移出来ず、国外へ転移する事も出来ません。勿論、技術的に出来ないのではなく……」
「悪用対策だな。サラが物知りで助かったぜ」
ロゼルタが笑顔で言う。
「俺達が30年ほど引き篭もっている間にそんなもんが出来てるとはねえ。便利な世の中になったもんだ」
話している間もテスラは周囲に目を配る。その目が一際細く、厳しくなった。
「また来たぜ」
テスラの視線の先には大きな人型の、遠目にもはっきりと魔物とわかる姿があった。ロゼルタがやれやれとばかりに鼻息をひとつ吐く。
「多いな。これで何度目だ? 7、いや8度目か」
「今度はミノタウロスじゃな」
まだ始まったばかりのこの旅だが、ロゼルタが言う通り、既に何度も彼らは魔物の襲撃を受けている。
「ねえ、ノルト」
「はいお嬢……とと。ア、アンナ。どうしま……どうした、の?」
この妙な口振りは、アンナに『もう雇用関係は無いんだからお嬢様と呼ばないで。あと敬語もやめて』ときつく言われていたからだ。
とはいえ最近まで主従の間柄だった上に、友達というものが居ないノルトにとって人と敬語で話すのは全く普通の事だった。
従ってロスを出て1日経った今もなかなかそれはスッと出てこない。
「あのさ。あの魔物、私の方を見てない?」
「え? あ、いやどうでしょう……どうかな。こっちを見てはいるみたいですけど」
「敬語」
「あ、すみま……ごめん」
一応ノルトに突っ込みを入れたものの、
(気のせいかしら)
心は上の空だった。
ミノタウロスといえば人間界に滅多に現れる事はない、そこそこ強力な部類の魔物だ。森の中とはいえ、ここは町と町の間である。それが群れで襲ってくるなど異常な事と言えた。
サラが頰に指をついて、何か考える様に顔を少し傾けた。
「妙ですねえ。先日私がロスに来た時もこの辺りを通りましたが魔物など1匹もいませんでしたのに」
「僕も1年前に来た時は1度も襲われませんでした」
2人の言葉にロゼルタがフームと考え込む。
「突然町が合成魔物に襲われたのも不思議っちゃー不思議だが、まあ今はそんな事を気にしてても仕方ねー」
「そりゃそうですね。『魔法の矢』!」
サラの魔法とテスラの剣で今まで同様、魔物は瞬く間に退治された。
アンナは最後まで(むー、気になるわ)とひとり、考え込んでいた。
その夜 ―――
彼らは焚き火を囲み、思い思いに木の幹にもたれて休んでいた。
「へー。なら転移装置ってのはエキドナ様の魔法が元祖ってことか」
ロゼルタは少し嬉しそうだ。
リドのメルタノ侵略時、アークウィザードのハルヴァラを始めとするエキドナの弟子達が次元魔法『転移』を応用して国民達を逃していたのだという。
その技術が更に応用され、今、人間界に広まっているなどとは想像もしていなかった。
「そうか……我が国民達はちゃんと逃げ延びてくれたかな」
少し目を細くし、遠くを見た。
ジッと黙って話を聞いていたノルトが申し訳なさげに口を挟んだ。
「魔界って人間の国とはなにか違うんですか? その、なんていうか、イメージが」
ノルトの想像では魔界とは異世界、異次元のものだった。特に笑うでもなくテスラが答える。
「そんなに変わらんだろ。陸続きだしな。違う所といえば魔素が濃い、国民の殆どが魔族、それくらいだ」
ノルトの隣で彼に寄り添う様に座るアンナもここぞと会話に加わる。
「そうなんだ。人間の敵みたいに教えられたんだけど」
「敵でなくては都合が悪いからじゃろ。一方的に攻めたんじゃからな」
そこで思い出した様にサラに言う。
「リドについて、儂らの知らん30年間の情報があれば人里離れておるうちに聞いておきたいが」
「そうですね、と言っても私もそれほど詳しくは知らないのですが」
そう前置きし、英雄王国リルディアが建国され、今はその王となっていることを告げる。
またかつては英雄パーティだった各メンバーの現状についても語った。
一説では不死身とも言われるハーフオークのマッカは、リルディアに隣接するロトス王国の軍事司令官となっており、軍権を握っている。
クリニカとドラックの2人は現在、どこにいるか知らない、と語った。
リドは基本的に常時、スルークの魔王城改め覇王城にいる。
「そもそも人間だから老いる筈なんですが、一度ラクニールに出た時に見かけたあのウンコ野郎の霊気は30年前より強まっている気がしました」
最後にケッと忌々しそうに吐き捨てるように言う。
とにかくリドの事となると途轍もなく酷い言葉遣いになるサラだった。容姿が整ったハーフエルフなのでなおさらギャップが激しい。
彼女の話を4人の魔人達は存外、静かに聞いていたが、やがてロゼルタが口を開く。
「あのヤローも強くなったかもしれんが、今回はこっちに有利な事もある」
「有利?」とテスラ。
「ノルトだ。ロスの時での様に魔王の力を自由に振るえるようになれば……それは魔王4人とあたし達で奴をボコれる、という事でもある」
「確かに。あん時ゃ魔界側がバラバラだったせいでやられたが、今回は逆だ」
ニヤリとしながら舌舐めずりをするテスラは何故か突然尻をはたきながら軽くひと仕事、とでも言いたげな感じで立ち上がり、剣を抜いた。
「さて。寝る前にもう一戦やるか」
また魔物の襲撃だった。
視線の先には中型のボブゴブリンも含まれたゴブリン集団の姿があった。
「しかしマジで魔物の多い森だな。退屈はしねーで済むが」
剣を振り回し、嬉々として魔物の群れへと突っ込んでゆく。
アンナはそのテスラの後ろ姿を目で追いながら、また先程と同じ懸念を抱いていた。
(やっぱ魔物とちらちら目が合ってる気がするんだけど)
少しノルトの方に体を寄せながらギュッとその左腕を握り締めた。
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