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口の悪い魔人達と俺様ノルト
028.俺様ノルト(終) 魔人テスラ
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這いつくばった状態で建物の外に瞬間移動した彼らは驚いた顔でノルトを見る。
「なんだお前、それ、ひょっとしてエキドナ様の……」
「話は後だ。まずは逃げるんだろ。どこへ向かう?」
小さいながらも圧倒的迫力を持つノルトを前にロゼルタは言葉を引っ込めた。確かに今は悠長に喋っている場合ではない。
ロゼルタは交信の指輪を発動し、話し掛けた。
「サラ! 聞こえるか!」
数秒後、指輪から陽気な声が聞こえてきた。
『はーい! 比較的良好ですよぉ』
何とも呑気な返事だった。
「急いで転移装置に来い! ネイトナが感付いた様だ。転移するぜ」
『フッフッフ。そんな事もあろうかともう待機してますよ! 来たら最初にドーンさんとマクルルさんが通って下さい。セントリア王都南部へ転移する様になっています』
その言葉にドーンと顔を見合わせた。予想だにしなかったサラのファインプレーだった。
走り出しながらロゼルタが指輪に言う。
「やるじゃねーかテメー! でかしたぞ!」
すぐに転移装置で待つサラの姿が肉眼で見えた。サラの方からもロゼルタ達がわかった様で大きく手を振っている。
『エヘヘ。実は親切な方がいて色々教えてくれまして……あ、あれは……飛竜! ネ、ネイトナが来ましたぁ!』
言われて後ろを振り返る。
上空から恐るべき速さで落ちてくる様に飛んでいるのは確かに飛竜!
その尋常ならざる霊気を皆が感じ取っていた。
「チッ、早えーなクソッタレ」
『私は姿を消して転移装置で待っています。気にせず来て下さい!』
「わかった」
『順番はドーンさんとマクルルさんが最初で王都南部へ転移します。その次はノルトさん、アンナさん、ロゼルタさん。最後に私とテスラさんでヒエラルド東部へ転移します。みみ皆さん、おおお、落ち落ち、落ち着いていきましょう!』
「ヘッ。テメーが落ち着け」
笑いながら言うロゼルタだったが、実の所、彼女にも余裕は全く無かった。転移装置の転送人数制限が歯痒かった。
「ドーン、マクルル。これでここから暫くは別行動だ。無理するなよ」
「お前達もな。ノルトを頼むぞ」
マクルルは口を開かず、代わりに小さく頷いた。
転移装置に辿り着くと2人は紋様がある床の上へと走り込んだ。すぐさまその紋様が光り出す。
行き先を設定するのは転移装置の衛兵達だが、うつろな顔をしているところを見ると前もってサラに何かされている事は明らかだった。
「ノルト、アンナ。またな」
ドーンが2人に手を振り、可愛らしく笑う。走っている最中にノルトはいつも通りの彼に戻っていたようだ。
「はいお元気で……たくさん有難うございました。気をつけて下さい!」
「本当、気をつけてね! 連絡頂戴ね!」
数秒後、輝きがピークに達すると2人の姿はスッと消えた。
そこへドンッ! と大きな何かが地面に激突する音が響く。言うまでもなく、それはネイトナが地上に降り立った音だ。
「急いで帰って来たというのにコソコソと逃げるのか」
「俺らの用事は終わったんでな。何か用でも?」
テスラが腰に手を当て、堂々と返す。
「ロスの街で合成魔物が暴れた事件を調べて来た。鎮圧したのはお前達だな?」
「ああ、そうだぜ」
「そこにネルソが現れたな?」
「何を言ってるのか、わかんねーな」
その時、ノルトとアンナの耳元で小さな声がした。
(おふたりとも、急いで転移装置へ……)
それはネイトナの飛竜を見つけるや、さっさと風の精霊の力で姿を消したサラの声だった。
彼女に言われるがままノルトとアンナは転移装置へと走る。
だが残るロゼルタはネイトナに近く、動けなかった。
「動くな。動けば噛み殺す」
そう言ったネイトナの体が突然ブルブルと震え出す。体を覆う筋肉はひと回り以上も盛り上がっていき、巨大な霊気の嵐が吹き荒れた。
やがて濛々としたそれの中から見えてきた姿は帯剣して剣士然としていた先程までのネイトナからはかけ離れたものだった。
まず頭部が人ではなくなっていた。
それは明らかに狼の顔。
元々屈強と思われた体はその何倍にも膨らみ、全身は豊かな毛並みに覆われていた。
「ウ、ウェアウルフ……!」
あまりの変貌振りと霊気の凄まじさにノルトが後退り、紋様の上で尻餅をついた。
「私はウェアウルフの王、ネイトナ。この姿は久しく人に見せなかったがな」
ネイトナは言葉を話すウェアウルフの一族の王であり、魔族であった。とはいえ魔界で暮らしていた訳ではなく、むしろ彼らは人化して人の世で生きていた。
「ロスの町で、お前達が町長の家に入った後、そこで一際強烈な、途轍もない霊気を感じた住民がいてな。私の勘では恐らくそれがネルソ」
戦士でなくても霊気を鋭く感じる者もいる。
それが魔王ネルソ程の巨大な霊気であれば、野次馬の中でそれと気付く者がいても何ら不思議では無かった。
「さあ、何の事か、わからねーな」
「フン。とぼけていろ。すぐに話したくなる」
その時!
「きぃさぁぁまぁぁらぁぁ……!」
ゴルゴンの様に髪を振り乱し、目を血走らせて後方から向かって来たのはラドニーだった。それを見たテスラが諦めたかの様にロゼルタに言った。
「あー……チッ、仕方ねー。おい、先に行け」
「だ、だが」
ネイトナ、ラドニーとテスラを交互に見てロゼルタが逡巡する。
「任せとけ。こうなりゃ仕方ねーだろ。もうどうなろうと知ったことか」
その言葉でテスラが腹を括った事を悟る。確かにこの状況では仕方の無い事、というより他に手はない。
「わかった。無理するなよ」
「ハッ。加減して勝てる相手か」
ロゼルタはそれには何も言わず、最後に一瞥すると転移装置へと走った。
「動けば殺すと言った筈だ」
もはやネイトナの腰の剣は飾りだった。大きな手の指からは鋭い爪が伸び、目にも止まらぬ速さでロゼルタの背中を切り裂く!
「ガッ!」
彼女の背中まであと数センチ、という所で短く呻いて地面に叩きつけられたのは、ネイトナの方!
「き、貴様……ハッ」
すぐに立ち上がり反撃をしようとして何に気付いたのか、明らかに狼狽した顔付きになる。
先程のネイトナにも劣らない旋風を起こし、黒い霊気が渦巻く!
その中心に立っているのはノルトが奇妙な館で出会った時の禍々しい雰囲気を持った、漆黒の鎧に身を包む、あの黒い剣士だった。
「ぎぃざまぁぁぁ!」
ようやく追いついたラドニーが、研究所で放った強力なデバフ魔法を再び口にする。
「『闇の手の捕縛』!」
テスラの周囲の地面から伸びる黒い手が彼を掴む。
「そらネイトナ! やってしまわんか!」
だがそれを無視してネイトナはテスラに問い掛ける。
「貴様、やはり、会ったことがあるな?」
黒い手に巻き付かれながらテスラは姿勢良く立ち、ネイトナを睨んでニヤリと笑った。
「ヘッヘッへ。正解だ。出会ってるぜ。30年前にな」
「30年前、だと……?」
驚愕の顔付きに変わるネイトナに向け、スラリと腰の大剣を抜き放つ。
「おおお、貴様! あの魔界スルークの宰相かぁっ!」
狼の大きな顎からギリッと歯の鳴る音が聞こえた。
それとほぼ同時に「じゃあな、テスラ。すぐ来いよ」と転移装置から声がした。それには振り向かず、片手を上げる。
(さて、次は俺だがどうしたものか)
2人の強敵がいる上、そもそも拘束のデバフ魔法を食らって身動きが出来ないのだ。
多少の攻撃では死なない自負はあるものの、ネイトナ相手に身動き出来ないのは致命的だった。
(成る程、エキドナ様もリドにやられる訳だぜ。これは厄介だ。動けねー)
「ゆるざないぃぃ! 今度は逃がさないぃぃぃ!『メルマトラの瘴気』!」
「馬鹿者、落ち着けラドニー! 私が手を出せん!」
身動き出来ないテスラの頭上にまたあの恐るべき毒ガスともいえる紫色の霧が舞い降りる。
人間の体と違い、即死する様な事はないもののそれでもその毒は簡単に魔人テスラの体をも蝕む強力なものだ。
徐々に体が霧に包まれていき、焼け付く様な痛みが彼を襲う。
(グッググゥ……話には聞いていたがこいつぁマジでヤベー。死んじまう)
耐え切れず、地面に片膝を突く。
(折角リドに知られるのを覚悟で魔人化までしたってのに)
魔族を示す彼の真紅の瞳の視界がボヤけ出す。脳が瘴気に侵され出したのだ。
(ここで俺が生き残れなけりゃロゼルタ達が危ない。と言って……)
そこまで考えて、あれ? となった。
動くのだ。
足元を見るとつい今の今まで彼を縛っていたあの何本もの黒い手が完全に消えていた。
(ありゃ? ラドニーが狂って暴発したか?)
だが、そのラドニーは怪訝な顔付きをし、
「貴様、何をした? 何故その魔法を解除出来るんだ!?」
そんな事を叫んでいる。と同時にラドニーとネイトナの辺りに炎の渦巻きが発生、それはみるみる大きくなり、炎の旋風となった。
そこでようやくサラの存在を思い出した。
(あいつか! やるねー)
そこに考え至りながら、口では全く違う事を言った。
「ケッ。魔人化した俺様にあんなチンケなデバフと毒霧が効くかい。そこで焼き焦げているがいい」
それにはサラの存在を隠す意図があった。
おぼつかない足取りで転移装置へと向かう。
ようやく手に届く距離、という所で全身から煙を出しながら、しかし殆どダメージを負っていないネイトナが牙を剥いて襲い掛かってきた!
「逃がさん!」
瘴気にやられていたテスラでは到底対応出来ないスピードだった。当然ネイトナはテスラのその状態をも計算に入れ、反撃される可能性を考えずに全力で攻撃した。
だが。
「グォッ!」
またもや吹き飛んだのはネイトナだった。
「ふう」
振り返りざま、大剣を薙ぎ払ったテスラが安堵の溜息をつく。強靭な肉体を持つネイトナを真っ二つにする事は出来なかったが、とにかく距離は離れた。
瘴気に当てられ、動きの鈍かった彼は何故突然息を吹き返したのか?
「お前がいてくれて助かった。行くぜ」
誰もいない空間に小さい声で言う。
そこにいたのはサラ。
ネイトナが飛び掛かってくる直前、解毒魔法をテスラにかけていたのだ。
「どう致しまして! さ、行きましょう。あ、忘れずに後始末を……」
サラは最後まで姿を見せなかったが、転移装置の衛兵に小声で何かを言い付けた。
紋様が鋭く光り出す。
「まぁてぇぇぇ!」
「クッ、待て貴様ら!」
2人の敵は恐ろしい形相で転移装置へ向かい、数秒も経たずにネイトナの爪が「ヘッ」と笑うテスラの顔を斜めに切り裂いた!
「クソッ!」
だが手応えはなく、そこにはただの空間があるのみだった。
「なんだお前、それ、ひょっとしてエキドナ様の……」
「話は後だ。まずは逃げるんだろ。どこへ向かう?」
小さいながらも圧倒的迫力を持つノルトを前にロゼルタは言葉を引っ込めた。確かに今は悠長に喋っている場合ではない。
ロゼルタは交信の指輪を発動し、話し掛けた。
「サラ! 聞こえるか!」
数秒後、指輪から陽気な声が聞こえてきた。
『はーい! 比較的良好ですよぉ』
何とも呑気な返事だった。
「急いで転移装置に来い! ネイトナが感付いた様だ。転移するぜ」
『フッフッフ。そんな事もあろうかともう待機してますよ! 来たら最初にドーンさんとマクルルさんが通って下さい。セントリア王都南部へ転移する様になっています』
その言葉にドーンと顔を見合わせた。予想だにしなかったサラのファインプレーだった。
走り出しながらロゼルタが指輪に言う。
「やるじゃねーかテメー! でかしたぞ!」
すぐに転移装置で待つサラの姿が肉眼で見えた。サラの方からもロゼルタ達がわかった様で大きく手を振っている。
『エヘヘ。実は親切な方がいて色々教えてくれまして……あ、あれは……飛竜! ネ、ネイトナが来ましたぁ!』
言われて後ろを振り返る。
上空から恐るべき速さで落ちてくる様に飛んでいるのは確かに飛竜!
その尋常ならざる霊気を皆が感じ取っていた。
「チッ、早えーなクソッタレ」
『私は姿を消して転移装置で待っています。気にせず来て下さい!』
「わかった」
『順番はドーンさんとマクルルさんが最初で王都南部へ転移します。その次はノルトさん、アンナさん、ロゼルタさん。最後に私とテスラさんでヒエラルド東部へ転移します。みみ皆さん、おおお、落ち落ち、落ち着いていきましょう!』
「ヘッ。テメーが落ち着け」
笑いながら言うロゼルタだったが、実の所、彼女にも余裕は全く無かった。転移装置の転送人数制限が歯痒かった。
「ドーン、マクルル。これでここから暫くは別行動だ。無理するなよ」
「お前達もな。ノルトを頼むぞ」
マクルルは口を開かず、代わりに小さく頷いた。
転移装置に辿り着くと2人は紋様がある床の上へと走り込んだ。すぐさまその紋様が光り出す。
行き先を設定するのは転移装置の衛兵達だが、うつろな顔をしているところを見ると前もってサラに何かされている事は明らかだった。
「ノルト、アンナ。またな」
ドーンが2人に手を振り、可愛らしく笑う。走っている最中にノルトはいつも通りの彼に戻っていたようだ。
「はいお元気で……たくさん有難うございました。気をつけて下さい!」
「本当、気をつけてね! 連絡頂戴ね!」
数秒後、輝きがピークに達すると2人の姿はスッと消えた。
そこへドンッ! と大きな何かが地面に激突する音が響く。言うまでもなく、それはネイトナが地上に降り立った音だ。
「急いで帰って来たというのにコソコソと逃げるのか」
「俺らの用事は終わったんでな。何か用でも?」
テスラが腰に手を当て、堂々と返す。
「ロスの街で合成魔物が暴れた事件を調べて来た。鎮圧したのはお前達だな?」
「ああ、そうだぜ」
「そこにネルソが現れたな?」
「何を言ってるのか、わかんねーな」
その時、ノルトとアンナの耳元で小さな声がした。
(おふたりとも、急いで転移装置へ……)
それはネイトナの飛竜を見つけるや、さっさと風の精霊の力で姿を消したサラの声だった。
彼女に言われるがままノルトとアンナは転移装置へと走る。
だが残るロゼルタはネイトナに近く、動けなかった。
「動くな。動けば噛み殺す」
そう言ったネイトナの体が突然ブルブルと震え出す。体を覆う筋肉はひと回り以上も盛り上がっていき、巨大な霊気の嵐が吹き荒れた。
やがて濛々としたそれの中から見えてきた姿は帯剣して剣士然としていた先程までのネイトナからはかけ離れたものだった。
まず頭部が人ではなくなっていた。
それは明らかに狼の顔。
元々屈強と思われた体はその何倍にも膨らみ、全身は豊かな毛並みに覆われていた。
「ウ、ウェアウルフ……!」
あまりの変貌振りと霊気の凄まじさにノルトが後退り、紋様の上で尻餅をついた。
「私はウェアウルフの王、ネイトナ。この姿は久しく人に見せなかったがな」
ネイトナは言葉を話すウェアウルフの一族の王であり、魔族であった。とはいえ魔界で暮らしていた訳ではなく、むしろ彼らは人化して人の世で生きていた。
「ロスの町で、お前達が町長の家に入った後、そこで一際強烈な、途轍もない霊気を感じた住民がいてな。私の勘では恐らくそれがネルソ」
戦士でなくても霊気を鋭く感じる者もいる。
それが魔王ネルソ程の巨大な霊気であれば、野次馬の中でそれと気付く者がいても何ら不思議では無かった。
「さあ、何の事か、わからねーな」
「フン。とぼけていろ。すぐに話したくなる」
その時!
「きぃさぁぁまぁぁらぁぁ……!」
ゴルゴンの様に髪を振り乱し、目を血走らせて後方から向かって来たのはラドニーだった。それを見たテスラが諦めたかの様にロゼルタに言った。
「あー……チッ、仕方ねー。おい、先に行け」
「だ、だが」
ネイトナ、ラドニーとテスラを交互に見てロゼルタが逡巡する。
「任せとけ。こうなりゃ仕方ねーだろ。もうどうなろうと知ったことか」
その言葉でテスラが腹を括った事を悟る。確かにこの状況では仕方の無い事、というより他に手はない。
「わかった。無理するなよ」
「ハッ。加減して勝てる相手か」
ロゼルタはそれには何も言わず、最後に一瞥すると転移装置へと走った。
「動けば殺すと言った筈だ」
もはやネイトナの腰の剣は飾りだった。大きな手の指からは鋭い爪が伸び、目にも止まらぬ速さでロゼルタの背中を切り裂く!
「ガッ!」
彼女の背中まであと数センチ、という所で短く呻いて地面に叩きつけられたのは、ネイトナの方!
「き、貴様……ハッ」
すぐに立ち上がり反撃をしようとして何に気付いたのか、明らかに狼狽した顔付きになる。
先程のネイトナにも劣らない旋風を起こし、黒い霊気が渦巻く!
その中心に立っているのはノルトが奇妙な館で出会った時の禍々しい雰囲気を持った、漆黒の鎧に身を包む、あの黒い剣士だった。
「ぎぃざまぁぁぁ!」
ようやく追いついたラドニーが、研究所で放った強力なデバフ魔法を再び口にする。
「『闇の手の捕縛』!」
テスラの周囲の地面から伸びる黒い手が彼を掴む。
「そらネイトナ! やってしまわんか!」
だがそれを無視してネイトナはテスラに問い掛ける。
「貴様、やはり、会ったことがあるな?」
黒い手に巻き付かれながらテスラは姿勢良く立ち、ネイトナを睨んでニヤリと笑った。
「ヘッヘッへ。正解だ。出会ってるぜ。30年前にな」
「30年前、だと……?」
驚愕の顔付きに変わるネイトナに向け、スラリと腰の大剣を抜き放つ。
「おおお、貴様! あの魔界スルークの宰相かぁっ!」
狼の大きな顎からギリッと歯の鳴る音が聞こえた。
それとほぼ同時に「じゃあな、テスラ。すぐ来いよ」と転移装置から声がした。それには振り向かず、片手を上げる。
(さて、次は俺だがどうしたものか)
2人の強敵がいる上、そもそも拘束のデバフ魔法を食らって身動きが出来ないのだ。
多少の攻撃では死なない自負はあるものの、ネイトナ相手に身動き出来ないのは致命的だった。
(成る程、エキドナ様もリドにやられる訳だぜ。これは厄介だ。動けねー)
「ゆるざないぃぃ! 今度は逃がさないぃぃぃ!『メルマトラの瘴気』!」
「馬鹿者、落ち着けラドニー! 私が手を出せん!」
身動き出来ないテスラの頭上にまたあの恐るべき毒ガスともいえる紫色の霧が舞い降りる。
人間の体と違い、即死する様な事はないもののそれでもその毒は簡単に魔人テスラの体をも蝕む強力なものだ。
徐々に体が霧に包まれていき、焼け付く様な痛みが彼を襲う。
(グッググゥ……話には聞いていたがこいつぁマジでヤベー。死んじまう)
耐え切れず、地面に片膝を突く。
(折角リドに知られるのを覚悟で魔人化までしたってのに)
魔族を示す彼の真紅の瞳の視界がボヤけ出す。脳が瘴気に侵され出したのだ。
(ここで俺が生き残れなけりゃロゼルタ達が危ない。と言って……)
そこまで考えて、あれ? となった。
動くのだ。
足元を見るとつい今の今まで彼を縛っていたあの何本もの黒い手が完全に消えていた。
(ありゃ? ラドニーが狂って暴発したか?)
だが、そのラドニーは怪訝な顔付きをし、
「貴様、何をした? 何故その魔法を解除出来るんだ!?」
そんな事を叫んでいる。と同時にラドニーとネイトナの辺りに炎の渦巻きが発生、それはみるみる大きくなり、炎の旋風となった。
そこでようやくサラの存在を思い出した。
(あいつか! やるねー)
そこに考え至りながら、口では全く違う事を言った。
「ケッ。魔人化した俺様にあんなチンケなデバフと毒霧が効くかい。そこで焼き焦げているがいい」
それにはサラの存在を隠す意図があった。
おぼつかない足取りで転移装置へと向かう。
ようやく手に届く距離、という所で全身から煙を出しながら、しかし殆どダメージを負っていないネイトナが牙を剥いて襲い掛かってきた!
「逃がさん!」
瘴気にやられていたテスラでは到底対応出来ないスピードだった。当然ネイトナはテスラのその状態をも計算に入れ、反撃される可能性を考えずに全力で攻撃した。
だが。
「グォッ!」
またもや吹き飛んだのはネイトナだった。
「ふう」
振り返りざま、大剣を薙ぎ払ったテスラが安堵の溜息をつく。強靭な肉体を持つネイトナを真っ二つにする事は出来なかったが、とにかく距離は離れた。
瘴気に当てられ、動きの鈍かった彼は何故突然息を吹き返したのか?
「お前がいてくれて助かった。行くぜ」
誰もいない空間に小さい声で言う。
そこにいたのはサラ。
ネイトナが飛び掛かってくる直前、解毒魔法をテスラにかけていたのだ。
「どう致しまして! さ、行きましょう。あ、忘れずに後始末を……」
サラは最後まで姿を見せなかったが、転移装置の衛兵に小声で何かを言い付けた。
紋様が鋭く光り出す。
「まぁてぇぇぇ!」
「クッ、待て貴様ら!」
2人の敵は恐ろしい形相で転移装置へ向かい、数秒も経たずにネイトナの爪が「ヘッ」と笑うテスラの顔を斜めに切り裂いた!
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