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口の悪い魔人達と俺様ノルト
031.色仕掛け
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その夜。
部屋は2階の大部屋ひとつを借り、彼らは思い思いに過ごしていた。
テスラは1階のトイレにいた。
「フゥ。しっかし、あいつがあの館に現れてから目紛しいねぇ……それまで時が止まっていた様だったから余計だな」
そんな事をブツブツと言いながら用を足していた。
丁度目の高さほどの位置にある小窓から外の様子がよく見える。
裏手は林であり、風にそよぐ草や木々をなんとなく見ていると、突然「ウッ」という声と共に肩がはだけた女性が木の影から蹌踉めきながら現れた。
首を傾げながら暫くその様子を見ていたテスラだったが、やがて自分のものをしまうと、草むらにうつ伏せになり動かなくなったその女へ窓越しに声を掛けた。
「おい、おい、そこの女」
その声にピクリと体を震わせ、キョロキョロと辺りを見回し、暫くして小窓から覗くテスラと視線が合う。
「ヒッ」
「何してんだそんなとこで」
「は、いえ……」
「……チッ」
気は進まなかったが目と鼻の先で倒れている女を放っておくのも目覚めが悪い。
トイレを出た彼は仕方無く出入り口からぐるりとその女がいた裏手へ回った。
とても美しく、妙に色っぽい女だった。
見たところ外傷は無い。
テスラはすぐには近付こうとはせず、少し離れた所から声を掛けた。
「どうした?」
するとノロノロと上半身だけを上げる。スリットが腰の辺りまで入っており、そこから覗く白い太腿が艶めかしい。
「いえ……はい。実はこの先で魔物に襲われ、這々の体で逃げてきました」
「魔物に?」
ギロリと女を睨む。少し怯えた様にビクッと女の体が震えた。
「テメー、名は?」
「エイミィといいます」
「なんでそんな嘘を吐く?」
「え!?」
「この近くにある魔物の気配はここだけだぜ」
驚きから、やがてテスラの言葉の意味がわかり、「しまった」という表情をして固まった。
だがすぐに、あーあ、と残念そうに言い、膝の土をはらって立ち上がると妖しく笑う。
「鋭いなぁ。魔の気配を感じ取れる人か」
「ナニモンだ?」
「貴方こそ何者なのよ……」
女は少し乱れた髪を耳にかける仕草をしながらテスラに近付く。
やがて無言のままテスラの首に手を回し、ひとつ舌舐めずりをすると背伸びをしながらゆっくりとくちづけをした。
ポケットに手を突っ込んで女を見下ろし、テスラはそれを無表情のまま受けていた。
かなりの間、女はテスラの口を食み続けた。彼の目を見つめながら名残惜しそうに唇を離すと細い糸が2人の唇を繋ぐ。
「フゥ、いい男。ねえ、私を抱いて下さらない?」
「……」
エイミィと名乗ったその女は、テスラの目を見つめながらスルスルッと腰を下ろし、彼のズボンの上からその一物に舌を這わせ出した。
◆◇
宿の扉が開く。
入ってきたのは少し疲れた顔をしたロゼルタだ。
前よりは地味な姿になったものの、そのあまりの美女ぶりと、筋肉でしっかりと引き締まっている長身の体付きは好むと好まざるにかかわるず、どこにいても目立つ。
ここがカーリアの、しかも町外れでなければ彼女の周りは人だかりが出来ているだろう。
彼女は情報収集がてら、近くの冒険者ギルドへ1人で行っていたが、あまり冒険者達はいなかった。にも関わらず、5人の男に声を掛けられ辟易していた。
彼らを素っ気なくフりながら、掲示されている仕事を片っ端から見て行った。
『ドラック……やつが捜索対象に? 依頼者は、リルディアのソーレン。誰だ?』
ドラック=フォニアはかつて自分達の国に攻め入った敵のひとり、つまりリルディア側の者である筈だ。
(奴が失踪したってことか)
それはリドに命ぜられたクマツキが自分の名を隠してギルドに依頼を掛けていたものだが、当然ロゼルタはそんな事を知る由もない。
他に大した収穫もなく、ロゼルタに色目を使う男達をあしらい、疲れて帰って来たところだった。
階段を上がろうと下から見上げた時、ノルトとアンナが楽しそうに3階へと上がっていくのが見えた。一瞬声をかけようとして、
(いやいやほっとけ。あの子達も2人でイチャイチャしたい年頃だろう)
そう思い直し、少し1階でブラブラと時間を過ごす事にした。
(ん? あたし、今、全然嫉妬してなかったよな? ……やっぱあいつに惚れた訳じゃねーか)
鼻からフッとため息を吐くと、
(良かった。だがそうなるとあの感情は一体……)
更に考えが纏まらなくなってきた。
「おっさん、酒くれ。強ええやつ」
この宿の亭主にそう言った。
◆◇
ノルトとアンナの2人は屋上に出ていた。
この宿は、屋根の一部が平坦になっていて柵があり、そこから美しい星空と南側に大きく広がる夜の海が一望出来た。
2人はそこに並んでペタリと座り込み、肩を並べた。
「うわぁ綺麗だね、ノルト」
「うん。とっても綺麗」
ごく自然にアンナの左腕がノルトの右腕にスッと絡まった。
(えっ)
と思ったがアンナは見惚れたようにその景色を眺めていた。それを見てノルトも気にせず、前を向いた。
ギュッ。
アンナの左腕に力が込められた。勿論痛くはない。だが、
(う。当たってる……何か柔らかいものが……)
アンナは大き過ぎず小さ過ぎない自分の胸をノルトの二の腕の裏に押し付ける様に体を預ける。
そのままノルトが耐える事暫し。
不意にノルトが気付く。
(あれ? いつの間にか、僕を見てる?)
肩の上に乗っている軽い頭からは何とも言えぬ、ノルトを性的に興奮させる良い匂いがプンプンと匂い立ち、少し顎を上げた彼女の目はどう考えても彼の顔をウットリと見上げている筈だった。
顔は前を向けたまま、ノルトの視界の端に入ってくるそのあまりに可愛い姿に固まってしまった。
ようやく声を絞り出す。
「あ……あの、アンナ?」
「なぁに?」
「その……ど、どうしたの?」
「どうって?」
頭を離してアンナが聞き返す。
そこにあった温もりがなくなり、つい名残惜しくなる。と思った瞬間、アンナは四つん這いになり、ノルトの前から近付いた。
遠くから見ればくちづけながら抱き合っている様にしか見えないが、唇はほんの数ミリの距離を保って触れなかった。
「な、な、ななな……」
「ウフ。ノルト、やっとふたりっきりね」
妖しく笑ったアンナはキスをしそうでせず、誘う目付きでノルトの目を見つめる。
彼女の唇の間から溢れる吐息が甘い匂いを放つ。
「ア、アンナ……」
「ノルト、大好きよ。抱いて?」
「だ、だだだだぁ?」
「ムチャクチャに、していいよ」
「はわ、はぅわわわ、むちゃっ、むちゃくちゃに……」
膨らみ始めたノルトの股間を上下に手で優しく摩りながら、アンナはウンと妖艶に頷いた。
◆◇
(あ、結構時間経っちまったな)
結局3杯も過ごしてしまい、ようやくロゼルタは腰を上げて2階の部屋へ向かう。
勿論まだまだ2人は帰ってこないだろう。
(ギルドでの話はあいつらが帰ってきてからにするか。しかし、アンナが艶々した顔で帰ってきたら噴き出しちまいそうだな。クク……)
そんな事を考えながら部屋の扉を開けた。
「お帰りなさい」
「お帰りー」
「ああ、ただい……」
ギョッとした。
そこにいたのはサラとアンナだった。
「あ、ああ、も、もう帰ってたのか、アンナ」
思いもしない先制攻撃を食らい、珍しく吃る。
色々と妄想していた自分が妙に恥ずかしくなり、それを隠す様にわざとドンッと音を出して座る。
「は? 私?」
「ノルトはどこなんだ?」
「そうなのよ。あの子、どこに行ったのかしら。ずっといないのよね。お腹でも壊したのかしら」
その言葉にギクリとした。
「なに? おいアンナ。お前、さっきノルトと一緒に上に上がって行ったよな?」
「え、私? ずっとここに居るけど?」
刹那、ロゼルタは立ち上がり、扉に向かって飛ぶ様に走った。
だがそれよりも早く扉が開く。
「ノルト!」
「あ? 誰がノルトだ」
そこに立っていたのはテスラだった。
「ええい、邪魔だどけ!」
「いきなりご挨拶だな。サキュバスが絡んできたから捕まえてきたぞ」
「な、なに!?」
テスラの後ろを見ると恐らくは彼によってボコボコに殴られたと思われる女性、エイミィが襟首を捕まえられ、テスラに引き摺られていた。
「まあ、これはさすがにやり過ぎでは……」
サラが口に手を当て、小さく治癒と唱えた。するとみるみる顔の腫れが引き、元の美しい姿に戻っていく。
「あ!」
その顔を見てロゼルタが大声を上げ、その顔を両手で挟んだ。
「エイミィ!」
「はい?」
エイミィの方はそれが誰だかわからない様だった。が、数秒して、
「ハッ! ひょ、ひょっとしてロゼ……ふごふご……」
咄嗟にロゼルタの手が彼女の口を塞ぐ。
「大声であたしの名を呼ぶな」
エイミィはウンウンと頷き、そしてボロボロと涙を流し出した。
そこでようやくテスラが襟首を離す。
エイミィはロゼルタに抱き着き、
「生きて……生きておられたぁ! ロゼ……様ぁぁぁぁ!」
ロゼルタの方も力一杯彼女を抱き締めた。が、すぐに我に帰ると、
「おい、お前1人か? ひょっとしてもう1人いないか?」
「うう、グスッ……はい。マァムが可愛い男の子を」
「ぬぁんですってぇぇぇぇ!」
大声を上げたのはアンナだった。
(これはまずい。ノルトみてーな純な子がマァムの魅了に抗えるわけがねー)
ロゼルタがそう思った時にはもう、アンナは猛スピードで上への階段を駆け上っていた。
「チッ。おいエイミィ、お前も来い!」
「はははいっ!」
急いで後に続く。
うお――っと雄叫びを上げながら先頭を走るアンナに、ロゼルタが叫ぶ。
「おいアンナ! 落ち着け! 何があってもノルトは悪くねー。マァムはお前に化けてたんだ」
「私かどうかもわからないんなら2度と忘れない様に力ずくで教えてやるわ!」
もはや手のつけられないキレッぷりだった。
3階から屋上へと続く階段を登り切り、ついに扉の前へと辿り着いた。
フゥフゥと肩で息をする事、数秒。
アンナは足で思い切りその扉を蹴飛ばし、同時に半泣きになりながら大声で叫んだ。
「こらぁぁぁッ! この浮気者――ッ!」
そこで起こっていたのはノルトと偽アンナの痴態……ではなく、髪を逆立てたノルトがアンナとは似ても似つかぬサキュバス、マァムの顔を踏み付けている所だった。
ノルトはアンナと目が合うと、
「あ?」
と、がなった。
部屋は2階の大部屋ひとつを借り、彼らは思い思いに過ごしていた。
テスラは1階のトイレにいた。
「フゥ。しっかし、あいつがあの館に現れてから目紛しいねぇ……それまで時が止まっていた様だったから余計だな」
そんな事をブツブツと言いながら用を足していた。
丁度目の高さほどの位置にある小窓から外の様子がよく見える。
裏手は林であり、風にそよぐ草や木々をなんとなく見ていると、突然「ウッ」という声と共に肩がはだけた女性が木の影から蹌踉めきながら現れた。
首を傾げながら暫くその様子を見ていたテスラだったが、やがて自分のものをしまうと、草むらにうつ伏せになり動かなくなったその女へ窓越しに声を掛けた。
「おい、おい、そこの女」
その声にピクリと体を震わせ、キョロキョロと辺りを見回し、暫くして小窓から覗くテスラと視線が合う。
「ヒッ」
「何してんだそんなとこで」
「は、いえ……」
「……チッ」
気は進まなかったが目と鼻の先で倒れている女を放っておくのも目覚めが悪い。
トイレを出た彼は仕方無く出入り口からぐるりとその女がいた裏手へ回った。
とても美しく、妙に色っぽい女だった。
見たところ外傷は無い。
テスラはすぐには近付こうとはせず、少し離れた所から声を掛けた。
「どうした?」
するとノロノロと上半身だけを上げる。スリットが腰の辺りまで入っており、そこから覗く白い太腿が艶めかしい。
「いえ……はい。実はこの先で魔物に襲われ、這々の体で逃げてきました」
「魔物に?」
ギロリと女を睨む。少し怯えた様にビクッと女の体が震えた。
「テメー、名は?」
「エイミィといいます」
「なんでそんな嘘を吐く?」
「え!?」
「この近くにある魔物の気配はここだけだぜ」
驚きから、やがてテスラの言葉の意味がわかり、「しまった」という表情をして固まった。
だがすぐに、あーあ、と残念そうに言い、膝の土をはらって立ち上がると妖しく笑う。
「鋭いなぁ。魔の気配を感じ取れる人か」
「ナニモンだ?」
「貴方こそ何者なのよ……」
女は少し乱れた髪を耳にかける仕草をしながらテスラに近付く。
やがて無言のままテスラの首に手を回し、ひとつ舌舐めずりをすると背伸びをしながらゆっくりとくちづけをした。
ポケットに手を突っ込んで女を見下ろし、テスラはそれを無表情のまま受けていた。
かなりの間、女はテスラの口を食み続けた。彼の目を見つめながら名残惜しそうに唇を離すと細い糸が2人の唇を繋ぐ。
「フゥ、いい男。ねえ、私を抱いて下さらない?」
「……」
エイミィと名乗ったその女は、テスラの目を見つめながらスルスルッと腰を下ろし、彼のズボンの上からその一物に舌を這わせ出した。
◆◇
宿の扉が開く。
入ってきたのは少し疲れた顔をしたロゼルタだ。
前よりは地味な姿になったものの、そのあまりの美女ぶりと、筋肉でしっかりと引き締まっている長身の体付きは好むと好まざるにかかわるず、どこにいても目立つ。
ここがカーリアの、しかも町外れでなければ彼女の周りは人だかりが出来ているだろう。
彼女は情報収集がてら、近くの冒険者ギルドへ1人で行っていたが、あまり冒険者達はいなかった。にも関わらず、5人の男に声を掛けられ辟易していた。
彼らを素っ気なくフりながら、掲示されている仕事を片っ端から見て行った。
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ドラック=フォニアはかつて自分達の国に攻め入った敵のひとり、つまりリルディア側の者である筈だ。
(奴が失踪したってことか)
それはリドに命ぜられたクマツキが自分の名を隠してギルドに依頼を掛けていたものだが、当然ロゼルタはそんな事を知る由もない。
他に大した収穫もなく、ロゼルタに色目を使う男達をあしらい、疲れて帰って来たところだった。
階段を上がろうと下から見上げた時、ノルトとアンナが楽しそうに3階へと上がっていくのが見えた。一瞬声をかけようとして、
(いやいやほっとけ。あの子達も2人でイチャイチャしたい年頃だろう)
そう思い直し、少し1階でブラブラと時間を過ごす事にした。
(ん? あたし、今、全然嫉妬してなかったよな? ……やっぱあいつに惚れた訳じゃねーか)
鼻からフッとため息を吐くと、
(良かった。だがそうなるとあの感情は一体……)
更に考えが纏まらなくなってきた。
「おっさん、酒くれ。強ええやつ」
この宿の亭主にそう言った。
◆◇
ノルトとアンナの2人は屋上に出ていた。
この宿は、屋根の一部が平坦になっていて柵があり、そこから美しい星空と南側に大きく広がる夜の海が一望出来た。
2人はそこに並んでペタリと座り込み、肩を並べた。
「うわぁ綺麗だね、ノルト」
「うん。とっても綺麗」
ごく自然にアンナの左腕がノルトの右腕にスッと絡まった。
(えっ)
と思ったがアンナは見惚れたようにその景色を眺めていた。それを見てノルトも気にせず、前を向いた。
ギュッ。
アンナの左腕に力が込められた。勿論痛くはない。だが、
(う。当たってる……何か柔らかいものが……)
アンナは大き過ぎず小さ過ぎない自分の胸をノルトの二の腕の裏に押し付ける様に体を預ける。
そのままノルトが耐える事暫し。
不意にノルトが気付く。
(あれ? いつの間にか、僕を見てる?)
肩の上に乗っている軽い頭からは何とも言えぬ、ノルトを性的に興奮させる良い匂いがプンプンと匂い立ち、少し顎を上げた彼女の目はどう考えても彼の顔をウットリと見上げている筈だった。
顔は前を向けたまま、ノルトの視界の端に入ってくるそのあまりに可愛い姿に固まってしまった。
ようやく声を絞り出す。
「あ……あの、アンナ?」
「なぁに?」
「その……ど、どうしたの?」
「どうって?」
頭を離してアンナが聞き返す。
そこにあった温もりがなくなり、つい名残惜しくなる。と思った瞬間、アンナは四つん這いになり、ノルトの前から近付いた。
遠くから見ればくちづけながら抱き合っている様にしか見えないが、唇はほんの数ミリの距離を保って触れなかった。
「な、な、ななな……」
「ウフ。ノルト、やっとふたりっきりね」
妖しく笑ったアンナはキスをしそうでせず、誘う目付きでノルトの目を見つめる。
彼女の唇の間から溢れる吐息が甘い匂いを放つ。
「ア、アンナ……」
「ノルト、大好きよ。抱いて?」
「だ、だだだだぁ?」
「ムチャクチャに、していいよ」
「はわ、はぅわわわ、むちゃっ、むちゃくちゃに……」
膨らみ始めたノルトの股間を上下に手で優しく摩りながら、アンナはウンと妖艶に頷いた。
◆◇
(あ、結構時間経っちまったな)
結局3杯も過ごしてしまい、ようやくロゼルタは腰を上げて2階の部屋へ向かう。
勿論まだまだ2人は帰ってこないだろう。
(ギルドでの話はあいつらが帰ってきてからにするか。しかし、アンナが艶々した顔で帰ってきたら噴き出しちまいそうだな。クク……)
そんな事を考えながら部屋の扉を開けた。
「お帰りなさい」
「お帰りー」
「ああ、ただい……」
ギョッとした。
そこにいたのはサラとアンナだった。
「あ、ああ、も、もう帰ってたのか、アンナ」
思いもしない先制攻撃を食らい、珍しく吃る。
色々と妄想していた自分が妙に恥ずかしくなり、それを隠す様にわざとドンッと音を出して座る。
「は? 私?」
「ノルトはどこなんだ?」
「そうなのよ。あの子、どこに行ったのかしら。ずっといないのよね。お腹でも壊したのかしら」
その言葉にギクリとした。
「なに? おいアンナ。お前、さっきノルトと一緒に上に上がって行ったよな?」
「え、私? ずっとここに居るけど?」
刹那、ロゼルタは立ち上がり、扉に向かって飛ぶ様に走った。
だがそれよりも早く扉が開く。
「ノルト!」
「あ? 誰がノルトだ」
そこに立っていたのはテスラだった。
「ええい、邪魔だどけ!」
「いきなりご挨拶だな。サキュバスが絡んできたから捕まえてきたぞ」
「な、なに!?」
テスラの後ろを見ると恐らくは彼によってボコボコに殴られたと思われる女性、エイミィが襟首を捕まえられ、テスラに引き摺られていた。
「まあ、これはさすがにやり過ぎでは……」
サラが口に手を当て、小さく治癒と唱えた。するとみるみる顔の腫れが引き、元の美しい姿に戻っていく。
「あ!」
その顔を見てロゼルタが大声を上げ、その顔を両手で挟んだ。
「エイミィ!」
「はい?」
エイミィの方はそれが誰だかわからない様だった。が、数秒して、
「ハッ! ひょ、ひょっとしてロゼ……ふごふご……」
咄嗟にロゼルタの手が彼女の口を塞ぐ。
「大声であたしの名を呼ぶな」
エイミィはウンウンと頷き、そしてボロボロと涙を流し出した。
そこでようやくテスラが襟首を離す。
エイミィはロゼルタに抱き着き、
「生きて……生きておられたぁ! ロゼ……様ぁぁぁぁ!」
ロゼルタの方も力一杯彼女を抱き締めた。が、すぐに我に帰ると、
「おい、お前1人か? ひょっとしてもう1人いないか?」
「うう、グスッ……はい。マァムが可愛い男の子を」
「ぬぁんですってぇぇぇぇ!」
大声を上げたのはアンナだった。
(これはまずい。ノルトみてーな純な子がマァムの魅了に抗えるわけがねー)
ロゼルタがそう思った時にはもう、アンナは猛スピードで上への階段を駆け上っていた。
「チッ。おいエイミィ、お前も来い!」
「はははいっ!」
急いで後に続く。
うお――っと雄叫びを上げながら先頭を走るアンナに、ロゼルタが叫ぶ。
「おいアンナ! 落ち着け! 何があってもノルトは悪くねー。マァムはお前に化けてたんだ」
「私かどうかもわからないんなら2度と忘れない様に力ずくで教えてやるわ!」
もはや手のつけられないキレッぷりだった。
3階から屋上へと続く階段を登り切り、ついに扉の前へと辿り着いた。
フゥフゥと肩で息をする事、数秒。
アンナは足で思い切りその扉を蹴飛ばし、同時に半泣きになりながら大声で叫んだ。
「こらぁぁぁッ! この浮気者――ッ!」
そこで起こっていたのはノルトと偽アンナの痴態……ではなく、髪を逆立てたノルトがアンナとは似ても似つかぬサキュバス、マァムの顔を踏み付けている所だった。
ノルトはアンナと目が合うと、
「あ?」
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