【R18/完結】4人の魔王をその身に宿す少年は魔神達と共に人間の英雄を倒し、魔界の復興を目指す

南祥太郎

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口の悪い魔人達と俺様ノルト

042.セントリアに打つ布石(8) 泣くマリヤ

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 一方のノルトは少し前にマリヤがいる部屋に転移していた。

 ぼんやりと諦めた様に床を見つめていたマリヤの視界に突然男の子の靴が映り、驚いて見上げる。

 そこには髪を逆立てたノルトがマリヤを見下ろしていた。

「え……ノルト、なのかい?」

 何故彼がここにいるのかわからないが、思わずそう漏らすほど朝会った時の気弱そうな感じと様子が違う。

 だがわからないのはノルトも同じだった。

「俺を知ってるのか?」

 怪訝な顔でそう言われて、マリヤがしまったと眉を顰めた。

 数秒逡巡した様子を見せ、やがて観念した様に「知ってるとも」と小さく言った。

「ひょっとして俺が小さい頃、お世話になったのかな。ごめんよ覚えてなくてさ」
「アッハッハ。お前があたいを覚えてる筈ないさ」

 自嘲気味に笑うマリヤだったが、すぐに苦しそうに咳き込み始めた。

 すぐにノルトは彼女の背中をさする。そこにはゴツゴツとした骨の感触しかない。

「ウ……触るなって、言ったじゃないか、ゴホッゴホッ」

 それは今朝の様な強い拒絶ではない。構わずノルトは彼女に手を置いたまま床に片膝を着いた。

「どういう意味か知らないけど、そんな事言ってる場合じゃないだろ?」

 顔を上げ、ノルトを見つめる。マリヤの目にはうっすらと涙が滲んでいた。

「しんどいのか?」
「お前に会っちまったのがね……ゴホッ」
「俺に会ったのが?」
「あたいの体は汚れているからさ……お前なんかに……いやお前だけには触れてほしくないんだよ」

 その言葉でようやくノルトがマリヤの正体に思い当たる。背中をさする手は止めず、

「あんた、もしかして俺の……」
「母親……な訳ないだろ」

 肩透かしを食らった気分だった。

 どんな形であれ、家族に会えるのが嬉しくない訳がない。
 ノルトの残念そうな顔付きを見て、彼女はハァと溜息をひとつ吐き、また顔を伏せる。

「そんな事今更……おこがましいよ。あたいはお前を産んですぐに捨てたんだから」
「え……じゃ、じゃあやっぱり俺の母さんじゃないか!」
「スラムじゃよくある事でもじゃ苦労しただろう。許して貰おうなんてこれっぽっちも思っちゃいないが……」

 いつの間にかマリヤは恐らくは本人も気付かない内にその頭をノルトの胸に預けていた。そのままノルトを見上げてボロボロと涙を溢し始めた。

「すまなかった。本当に、ごめんね、ノルト」
「……」

 ノルトは母親を恨んではいない。

 ある程度物心が付いてから捨てられたのであればまた違ったかもしれないが、彼にとっての親はスラムの爺さん達だったからだ。

 無論、何故自分に母親がいないのだろうかと考えた事が無かった訳ではないが、マリヤの言う通り、そんな事はこのスラムでは当たり前の事だったのだ。

 むしろ思いもしなかった再会に戸惑い、そして込み上げてきたのは家族が生きていたという嬉しさ、幸福感だった。

 時折咳き込みながらも気丈に振る舞い、マリヤは言葉を続けた。

「お前を育ててくれていたヘッグ達が警備兵共に殺されてお前がこの町を出る事になった時、実は止めるか迷ったんだ。きっとスラムの外でも、いや、むしろ外の方が酷い目に遭んじゃないかと思ってさ」
「それは……実際そうだったよ」

 その言葉を聞き、初めてマリヤはノルトの頰を自身の手で触れた。その目には後悔と謝罪の念が溢れ出る。

「この前、この町に来たお前を見て……成長したお前を見て嬉しかったんだ。生きててくれたんだって。でも同時に今更合わせる顔なんて無い事もわかってた」
「……」
「あたいなんて生きてる目的もなけりゃ価値もない。そう思って今日、ふと死のうと思ったんだ。この建物は今までずっと世話になった場所だから、ここで死にたかった」
「じゃあ自分で火をつけたのか」

 チラリと後ろの扉を見ながら言った。遂に煙が扉の隙間から入り始めていた。

「そうだよ。そしたらあの背の高い、綺麗な子が入ってきてさ」


 ◆◇◆◇

『テメー、ノルトを知っているな?』
『し、知らないね』
『3日前、あたし達がこの町に来た時、あいつの顔を見て驚いてたじゃねーか』
『そんな事……』
『あいつの痣を見て、だったらただの知り合いかと思う程度だが、テメーは明らかにノルトの顔を見てすぐにピンときた様子だった。そんな事がわかるのは実の親、位なんじゃねーの?』
『……そんな今更……それにあんたには関係ない』
『いーやあるね。あたしらは仲間だからな。テメー死のうとしてるだろ? その前にあいつと話し合えよ』

 ◆◇◆◇


 ギリギリでマリヤの命を繋ぎ止めたのはロゼルタだった。

 スラムにいて魔物の調査をしていた筈の彼女が何故とは思うものの、心はロゼルタへの感謝で一杯になった。

「……でもそこにもう1人、恐ろしい雰囲気の奴が来てさ。あの子と何か喋っていた様だけど仲間という感じじゃなかった」

 勿論それはさっきノルトが殴り付けた黒装束の男の事だろう。

「そいつなら大丈夫だ。もうロゼルタが仕留めた筈だ」
「わかるのかい?」
「うん。さっき、ロゼルタの凄い霊気オーラを感じたからね。ああなったロゼルタに勝てる奴なんていない」

 それを聞くとマリヤはニコリと笑う。

 その笑みは彼にも仲間が出来たのだという安心だ。

 だが彼らを取り巻く状況はそんな心の機微などとは無関係だった。

 遂に周囲が黄色く、そして赤く照らされ始め、それと同時に強烈な熱が彼らを襲い始めた。

「ノルト。お前に友達が出来てよかったよ。これで心置きなく死ねる」

 ノルトの眉がピクリと跳ねる。少しきつい口調になり、

「あんた、死ぬ気か?」
「アハハ……あたいなんて生きてていい訳ないだろう。それに」

 またも咳き込む。かなり酷い様だ。

 マリヤは真っ赤になった手のひらをノルトに向ける。

「病気か」
「うん。もうどうせ長くはない。最後にお前に会えてよかった。こんな、お、お母さんで……ウ、ほんとにごめ……」
「そこまで」
「え?」

 その時マリヤが見たノルトの顔は、寂しそうに、だが意外にも少し笑っていた。

 そっと優しくマリヤを抱くと、その体の異常なまでの線の細さがはっきりとわかる。

「お母さん、ていうのはこんなに暖かいもんなんだ。大丈夫。お医者さんが必要なら俺も探す」
「スラムの娼婦が医者になんてかかれる訳……」
「お金はあるんだ」
「ええ?」
「出所はよくわからないんだけど……まあ悪い事して稼いだお金じゃないから大丈夫さ」
「でもあたいなんて……」

 ノルトの上着の背中の裾に火が移る。

 煙が辺りに濛々と立ち込め、マリヤが咽せる。
 咽せながらノルトの上着の火に気が付き、大慌てで両手で掴み、火を消した。

「ほら燃えちまうよ! 早くお前だけでも逃げな!」

 だがノルトはマリヤを離さなかった。いや、むしろその両腕に力を込めた。

 思いもしなかった行為にマリヤの口から小さく吐息が漏れる。

「今まで生きてても良い事なんてひとつもない、不幸ばかりの人生だと思ってた。でも今は違うんだ。仲間と出会えて、あんたにも会えた」
「そんな事、今は」
「幸せかどうかはもっと先にならないとわからないけど、生きてればきっと何とかなるよ」
「ノ、ノルト……」

 立ち上がり、マリヤに背を向けると迫り来る炎に向かって手のひらを向ける。

「氷結!」

 刹那、燃え盛る炎は消えた。

 それどころか部屋の半分が一瞬で氷漬けとなった。

「あ……あ……お前、一体……」

 驚愕の表情を浮かべるマリヤに背を向けたまま、

「今、俺達はとても悪い奴と戦っているんだ。そいつ、滅茶苦茶強いらしくてさ、今はまだ一緒に暮らせないけど、この戦いが終わったらきっと迎えに来る。それまで生きててよ、俺の為にさ」

 数秒の後、うわぁと泣き出すマリヤの声をノルトは背中で聞いた。










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