【R18/完結】4人の魔王をその身に宿す少年は魔神達と共に人間の英雄を倒し、魔界の復興を目指す

南祥太郎

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砂漠の王太子

052.砂漠の王太子(4)

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 ユークリアは怪訝な顔付きをしながら剣を引っ込めるとテスラを警戒してか、少し後退った。

「今の一撃を止めるとは、お前も人間の領域を大きく超えているな」

 それには答えず、 ユークリアの顔を睨みながらノルトの前へと立つと、後ろ手でロゼルタ達の方へ行くようにとサインを送る。

 その間にじりじりと近付いていたサラがノルトとナウラの肩をそっと抱き、後ろへと避難させた。

「やれやれ今日、3度目か。私はユークリア=ディ=ファウマ。覇王リド様に……」
「わかった。殺してやる」

 その言葉を最後まで聞かず、テスラの剣が左下から右上へと振り払われた。
 瞬時にそれを流すように剣の刃を当てて逸らしたユークリアが一瞬焦りの表情を見せた。

 2、3歩後退し、テスラを観察しようとした。が、テスラはそれを許さない。ユークリアが下がったと同じ分だけ同時に前に詰め、右から左から嵐の様に剣を振り回し始めた。

(この殺気と剣力、並の者ではない……過去に私かリドに恨みを持つ者か)

 そんな事を思うもののそれを口に出す余裕はなく、ただその猛攻を凌ぐ。


 一方。

 ノルトとナウラの2人を守るようにしてその場から遠ざけながら、サラがため息混じりに言った。

「あーあ……簡単にキレないでって言ったそばから」
「ん?」

 サラの声を聞いたナウラが怪訝な顔で彼女の顔を見返した。マフラーがあるため目の部分しか見えないがナウラにはその緑色の瞳と声に覚えがあった。

「あなた、どこかで会った事、ある?」
「あら。覚えてくれていましたかナウラ」

 嬉しそうにマフラーを指で下げ、パチリと可愛らしくウィンクを見せた。

「あ! あなた、サ……」

 慌ててサラがナウラの口を手で塞ぐ。口に手を当て、

「シーッ。まだ私の名前をあいつらに知られたくありません」

 ナウラがコクコクと頷く。サラが安心して手を離すとすぐに彼女は抱きついた。サラの耳元で泣きそうになりながら言った。

「もう私が生きてる間に会えないかもと思って寂しかったんだから! サラ!」
「貴女もお元気そうで何より。背が少し伸びましたね」

 感動の再会、のその後ろにようやく追いついたロゼルタとアンナが立つ。

「知り合いか?」
「あ、ロゼルタさん。そうなんです。以前この国に立ち寄った時の……」
「待て。取り敢えずわかった。詳しい話は後にしよう。それよりあいつは? かなり奴のようだが」

 テスラと互角に撃ち合うユークリアを見て眉を顰めた。

「あの男はユークリア。リド配下の筆頭であり、魔神です」
「言われてみれば魔人化の状態と殆ど一緒だな……あーそれでヤローテスラがあんだけブチ切れてるわけか」

 そのテスラは体力の温存など全く考えもせず、全ての撃ち込みに全力を込めているように見えた。さすがのユークリアもそれを防ぐのに手一杯、といった感じだった。

「こいつ、まだ力が増している」

 歯を食い縛ってそれに耐えていたユークリアだったが、やがて全力の一撃を放ち、一瞬テスラとの距離を置くことに成功した。

「お前の力はよくわかった。この姿ではお前の勝ちのようだ」
「ヘッ。なんだ、降参か」
「バカなことを」

 あっという間に白い霊気の渦を巻き起こすと体中に何かの模様がタトゥーのように浮かび上がった。外見上の変化はそれだけだった。

「ふう……魔人化した姿を見せた以上、貴様らに勝ち目はない」
「それはどうかな。俺はテメーを殺したくてウズウズしているからな」

 テスラの二の腕が膨らみ、広背筋が盛り上がる。遂に全力を出した彼は悪鬼と化した表情で更に間断なく撃ち込みだした。
 それを受け止めながらユークリアはその力と速さに驚いた顔を浮かべる。

「これほどの者が、まだ人間界にいたのか」
「上からモノ言ってんじゃねー。ブチ殺してやる」
「それは無理だ」

 突然ユークリアの剣がテスラの視界から消えた、そう思った次の瞬間、テスラが必死の形相でしゃがみ込んだ。

「いい勘だ」

 先ほどまでテスラの首があった辺りの高さでユークリアの剣が薙ぎ払われていた。

 さすがにこれにはゾッとしたテスラだった。

(全然、見えねー)

 その思いとは別に口元はニヤリと笑う。

「ユークリア様!」

 口々に言いながら彼の部下と思しき兵士達が砂に足を取られながらようやく近付いてきた。

 少し離れたところにいたロゼルタが小さく舌打ちをする。サラに目で合図を送り、テスラの近くまで一気にジャンプした。

「らしくねーな。えらく苦戦してんじゃねーか。助けてやろーか?」

 屈んでいるテスラを得意そうに見下ろしながら言う。チッと今度はテスラが舌打ちをした。

「大きなお世話だ」
「フン。周りのザコは任せとけ」

 ロゼルタは手を貸さないのか、ノルトがそう思った時、彼女と目が合った。頭をクイっとユークリアへ傾ける。

 ノルトに『やれ』と言っているのか、『一緒にやるぞ』と言っているのか、正確にはわからない。

(でもロゼルタは俺に戦えと言っている)

 それがわかればやるだけだ。

 再び立ち上がり、拳に力を込めた。

 転移しようとした瞬間、柔らかい手が肩を掴み、少し後ろに引っ張った。その手はアンナの手だった。

「ちょっと待って」

 彼女の体の周囲に薄く白く見える霊気がゆっくりと渦を巻いて纒わり始めていた。

「おいで!」

 その声を皮切りに周囲、それもかなりの広範囲に渡ってボコボコと砂の噴水が巻き起こり始めた。

 それは数日前に戦ったサンドワームの出現前と同じだった。彼が眉を顰めると同時にそれが姿を現した。
 それはサンドワームだけではない。どこに隠れていたのか、それともどこにでもいるが普段は隠れているだけなのか、数十匹はくだらない数の砂漠トカゲも砂の中から現れた。

「あの男と周りの兵士達を倒しなさい!」

 アンナの声に反応するように彼らは砂埃を巻き上げ、一斉にユークリアと彼が引き連れる兵士達に襲い掛かった。

「ひっ」
「な、なんだこれは!」

 ユークリアの兵士達は驚きながらも剣を振るいながらそれに対峙する。当のユークリアも「土属性のモンスターテイマーか?」と驚愕の表情を浮かべた。
 そのユークリア、突然現れたロゼルタの雰囲気から(こいつも只者ではない)と敏感に察知し、テスラと同等程度ではと少し警戒していたところだった。そこに突然の魔物の襲撃で虚を突かれた。

「しかしこんな低級モンスターを仕掛けられたところで痛くも痒くも」
「マルティコラス!」

 その呼び掛けに応えて出てきたのはアンナの初めての実戦訓練の際に手懐けたマルティコラスだ。

「中等の魔物も操るか」

 実際にはサラの助けがなければ操ることはできなかったが、それはユークリアにはわからない。
 サンドワームの体当たりと毒液、砂漠トカゲの噛みつきを躱しながら間合いに入ったものから次から次へと屠る。

 アンナはノルトの肩に置いていた手を離し、ポンと叩いた。

「頑張って! 危なそうなら逃げるのよ?」

 親指を立ててそれに答えると瞬時に姿を消す。と同時にユークリアの足元へ転移、

「氷結!」

 それと気付いた時には既にノルトの魔法が発動、ユークリアの足元から下半身を氷で拘束した。更に、

「炎の踊りと土の走り、哀れな生き物の身を拘束せよ」

 ユークリアの全身に縄の形の砂と炎が巻き付き、縛り上げる。忌々しそうに手足を動かし振り解こうとするがそれはむしろ固く食い込んだ。

「行くぞ!」
「だありゃっ!」

 ユークリアの後ろから、魔法で出した炎の剣でノルトが斬りかかり、前からはテスラが一刀両断にせんと上段から力任せに振り下ろす。

 その衝撃で激しい激突音がしたかと思った次の瞬間。

 耳が破裂しそうなほどの爆発音が轟き、彼らふたりだけでなく、アンナが召喚した砂漠トカゲや魔物達全てがユークリアを中心に弾かれるように吹き飛ばされた。
 それはユークリアから少し距離のあったロゼルタやサラ、ナウラ、アンナ、そしてユークリアの部下と思われる兵士達も同じ様に宙に舞わせるほどの威力のものだった。

 一斉に悲鳴が上がり、数秒後にはユークリアを中心に全員が天を仰ぐ事となった。もっとも間近で爆破の衝撃を受けたノルトとテスラのふたりもピクリとも動かない。

大爆発エクスプロージョン。ふう……世の中、まだまだ凄い奴らがいるものだ」

 ノルトがかけた氷結と束縛の魔法はいずれも解けている。ユークリアは本当に感心したようにそう言うと、辺りを見回してすぐに気を失って仰向けに倒れているナウラを見つけた。
 2、3度、人では有り得ない距離をジャンプして近付くとその細い首を捕まえようと手を伸ばした。

「大地の槍はを討ち滅ぼす」

 サラだった。あまりの一瞬のことでバリアを張る事は出来なかったが、距離があったことも幸いし、失神は免れていた。だがそのダメージは深い。
 詠唱と同時にユークリアの足元から無数の砂の槍が突き出し、襲い掛かった。

「まだ息があったか。だが私には効かない」

 砂の槍は砂と言えど、アイアンゴーレムの体を貫くほど魔法で硬化されたものだ。それがユークリアの皮膚に傷ひとつつけることができず、あえなく砂となって消える。
 サラは肩で息をしながらも魔人ユークリアの肉体の硬さに内心舌を巻いた。

「これ以上邪魔をするなら殺す」

 サラをひと睨みし、ナウラにもう一度手を伸ばした。

 その時!

 風を切る矢羽の音がサラの耳元を掠め、何者かが射たその矢は恐るべき速さと威力でユークリアの胸の中心に突き刺さり、背中へと突き抜けた!



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