【R18/完結】4人の魔王をその身に宿す少年は魔神達と共に人間の英雄を倒し、魔界の復興を目指す

南祥太郎

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砂漠の王太子

061.消えたロゼルタとハミッド(後)

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 すぐさまサラがヒールをかけた。
 飛び起きた女性は縋るようにサラの両手を掴む。

「よかった。サラの方から来てくれるなんて!」
「あのう、ごめんなさい。どちら様でしたっけ……」

 バツ悪そうにサラが言う。

「私はスライブ王子の護衛のリサ。サラ、ハミッド様とロゼルタが危ないの」

 そこに周囲を警戒していたテスラが帰ってきた。

「あいつらが危ないなんていまいち信じられねーが現に返事がねーし、ロゼルタの足跡がここで途絶えている。ここで何があった?」

 リサはテスラの顔を見て、「ひょっとしてこの方が、テスラさん?」と不安そうにサラの顔を見た。

「ロゼルタさんに聞いたのですか? そうです。この方はテスラさん。こちらはノルトさん、で、アンナさん。皆、信頼できる強い仲間です。何があったか教えて下さい」
「わかった。けど、進みながらでいい?」

 そのリサを先頭に小川沿いを走りながらリサが事の経緯を話し始めた。


 ◆◇

 少し前、ゲートを通ってアルルにやってきたロゼルタとハミッドの2人は暫くノルト達を待っていた。

「後の奴ら、んな?」
「何かあったのか? 指輪に話し掛けても出ねーし……」

 ロゼルタはそばにあったベンチに腰掛けながら、指輪に向かって何度もテスラやノルトの名前を呼んでいた。

 辺りには人の往来が少なからずあったが、その中に雑踏に紛れて明らかに彼らに近付く女性がいた。隠れる様に周囲を見回しながらもハミッドとロゼルタのところへと一直線にやって来る。

 ローブに身を包んでいるが帯剣しているのが見え、足元のブーツなどから兵士と思われた。ロゼルタがそれに気付き腰を浮かすとハミッドが大丈夫だと軽く手を上げた。

「知り合いか?」小さく聞く。
「ああ。あれはスライブの護衛のリサだ。何かあったようだな」

 その僅かな会話の間にリサが彼らの元に辿り着く。ハミッドに寄り添うように立つと、小声で話し始めた。

「ハミッド様、お待ちしておりました。こちらの方は?」
「彼女はロゼルタ。メイの救出に協力してくれている」

 リサはロゼルタに向かって会釈し、またハミッドに向き直る。

「スライブ様の命令でメイ様をフュルトの町跡に連れ出しています。案内するので来ていただけますか?」
「ほう?」
「マッカの追手がかかっています。出来れば急いで」
「なるほど、なんとなく事情はわかった。ロゼルタ、どうする?」

 ハミッドが気にしたのはロゼルタの仲間のノルト達と合流出来ていないことだった。
 ロゼルタはすっくと立ち上がると、

「どうもこうもねー。行こう。奴らなら放っといても必ず来る」
「わかった。リサ、案内せよ」
「畏まりました。こちらへ」

 ロゼルタは小声でハミッドに念を押すように聞く。

「一応聞いておくが、信用できる奴なんだな?」
「勿論だ。リサはスライブと共に育ったくらい、ずっとロトス、いやスライブ達に仕えている。腕も確かだ」
「わかった。信頼しよう」

 彼らは小走りで急ぎながら町を出た。

 暫く進むと人の行き来はなくなり、林へと入っていく。そこでようやくロゼルタが口を開いた。

「リサと言ったな。交信の指輪で仲間と連絡が取れねーんだが、何か知ってるか?」
「ああ。今、マッカが通信妨害の術式を王都一帯に張っている。きっとこのあたりもその影響を受けているんだ」
「そんなのがあんのか。面倒だな」
「他にも仲間が?」
「ああ。まだ若いノルト、アンナの2人。逞しい青年って感じのテスラ、それにサラというハーフエルフの4人だ」
「サラが!?」驚いてリサが振り返る。
「知ってんのか」
「以前何度か会っている。これは頼もしい」
「奴らも後から案内してくれるか」
「勿論。あなた達を送り届けたら私が迎えに行こう」

 やがて小川と交差している石畳で造られたアーチに辿り着いた。

「あの下を潜り、小川沿いを行きます」

 ハミッドがリサに頷く。
 そこでは4人のホームレスが火を焚いて昼食の準備をしていた。彼らは走ってくるロゼルタ達をちらりと見たがすぐに興味をなくし、また火の様子を伺っていた。

 その横を走り過ぎる。
 刹那!

 彼らが座っていた椅子の下から短剣を取り出し、ロゼルタ達に襲い掛かる。

 ハミッドとロゼルタは一瞬早くそれに気付き、紙一重でそれを避けた。

「なんだテメーら」
「見事な殺気のなさよ。ロトスの闇ギルドの者か」

 だがリサは背中と脚を刺されてしまう。その上、ホームレスのひとりに後ろ手にされ、身動きが取れなくなってしまった。

「クッ」

 リサ、と呼びかけるところだったが、相手の素性がわからない以上、名前は呼べなかった。

「私の事は構わず、行って下さい!」
「それは出来ない」
「お願いです。あの方を!」

 ハミッドはロゼルタと顔を見合わせ、この手練達を倒すことに決めた。彼らにとっては相手がいかに優れた暗殺者でも負ける相手ではない。ここでリサを放置するなど有り得ない選択肢だった。

 だが、ポンとふたりの肩が叩かれた。

「あ?」

 振り向いた2人は強烈なパンチを腹部に食らい、あっという間に意識が遠のいていくのを感じた。

(しまっ……こいつら……やべー)

 ロゼルタもハミッドもパンチの持ち主の顔を知っている。が、それは口に出ることはなかった。

 振り向いたロゼルタの顔を見て喜びながら何か言っていたようだったが、その声はもうロゼルタには届かない。

「き、貴様ら! どうしてここに!」

 リサが叫ぶ。

「どうしてって、お前だろ? 昨日メイちゃんとジュリアちゃんを逃したの。俺達の、舐めちゃいかんぜ。兄貴が怒ってたぞ」
「お前をアルルで見つけたって報告が入ったんでな。王都に戻るんならこの辺りを通るだろうとヤマを張ってたのさ」

 ふたりは昨日、ジュリアを捕まえた後、リサに邪魔をされたハーフオーク、クヌムとヨアヒムだった。
 魔族やマッカと異なり、彼らは生まれ付き人化出来なかった。つまり、普段からその強力な力を振るう。

 クヌムはリサの腹部にも強烈な一撃を加えた。リサは吐瀉しながら腹部を抑え、よろけながらアーチの外へと逃げようとした。が、ホームレスに化けた暗殺者により、背後から首を絞められ、失神し背中から倒れた。


 ◆◇

 フュルトの町跡。

 かつてマッカに刃向かった兵士達数百人がほぼ一方的に虐殺された場である。

 巻き添えとなった町民達は数千人。
 町の周囲は厳重に包囲され、逃げ出そうとした町民は全て殺され、何があったかは決して外に漏れる事はなかった。

 当時のフュルトは小さな町ながら王都に次ぐ美しい景観を誇っていたが今は見る影もない。戦いの跡は生々しく残り、そこかしこに白骨化した死体があり、焼け崩れた家屋、倒壊した建物もそのままにされていた。

 マッカによって『町ぐるみで刃向かった為、見せしめとす』の張り紙がなされ、再興は禁止された。


 その光景を前にさすがのテスラも「こいつあひでーな」と呟いた。

「なんてことを……」

 ノルトが拳を握る。

「さ、こっちだ」

 荒れた通りを駆け抜けるリサにノルト達もついて行く。やがて、比較的損害の少ない、くすんだ緑色の屋根の一軒家の中へと入った。

「リサ!」

 中から透明感のある声が小さく聞こえてきた。
 その声の持ち主はロトスの王女であり『エ=ファの現し身』とまで言われる美貌の少女メイだ。昨晩、マッカに襲われて危なかったところを侍女のジュリアと共にリサに救われ、待機していた飛竜の背に乗って脱出し、ここに匿われていた。

「メイ様。よかった。ご無事で」

 まずはひと安心したものの、ここにハミッドとロゼルタがいないことにすぐに気付く。

 それは即ち、ふたりはあのままクヌムとヨアヒムに連れ去られたのだという事を示している。

「ハミッド様は?」

 無論そんな事があったとは露ほども思っていない縋る目つきのメイにどう答えたものか、リサは迷ってしまった。

「おい、迷ってる場合じゃねーぜ」

 テスラ達にしても、ロゼルタ達の場所へと案内されていると思っていたのだ。だがそこは魔界スルークの元宰相、すぐに不測の事態が起こっていると考えた。

「マッカの野郎は王都か?」
「……恐らく」
「クヌムとヨアヒムっつったらあの豚の手下だ。ロゼルタが奴らに連れ去られたんなら間違いなくあのクソ豚に差し出されるだろう」

 自分のせいだ、その思いがリサの胸を過ぎる。

「私が行ってこよう」
「俺も行く」
「貴方はここで王女を守っててくれないか」
「相手はマッカだろ。お前ひとりじゃ」
「いや私ひとりの方がいい。どこに捕えられているか大体の見当はつくし、何より目立たない」

 まだ何か言おうとしたテスラだったが、そこで口を噤む。

 この場に這い寄る様な殺気。
 それを感じたからだ。

 ロゼルタが心配であると同時に、彼はネルソから『絶対にノルトを守れ』とも言われている。ロゼルタがここにいない今、彼までがノルトのそばを離れるわけにはいかなかった。

「わかった。信用したぜ? ロゼルタを頼む」

 テスラの言葉に力強く頷くと、リサはその建物の裏にある小さな穴からスッと飛び出し、王都へと駆けて行った。





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