【R18/完結】4人の魔王をその身に宿す少年は魔神達と共に人間の英雄を倒し、魔界の復興を目指す

南祥太郎

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砂漠の王太子

067.黒の覇王(3)

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 それはリドが瞬いたほんの一瞬だった。

「ぐ、むう」

 すぐに胸の筋肉を引き締めてそれ以上出血するのを食い止めた。
 続くテスラの右下からの2撃目。リドの目だけがその動きを追う。

(此奴、もう体勢に入っている!)

 そのかち上げにもぎりぎり反応し、そこに自らの剣を置く。

 これまでの戦いでは、そうするだけで勝手にテスラが消耗していった。

 だが鋼のかち合う音が鳴った次の瞬間、弾かれたのはリドの持つ黒い霊気を放つ剣の方だった。この戦いで初めてリドの肉体に隙が出来た。

「いけ!」

 透明化しているサラが小声でテスラを応援する。

 またもリドの目がテスラの剣を捉える。
 左上へと振り上げられたそれは常軌を逸したテスラの膂力によって強引に軌道を変えられ、ガラ空きになったリドの胸を真横に薙ぎ払った。

「くっ!」

 先程のテスラの一撃で黒い魔剣と共に右腕は上にある。今、リドの体を守るものはない。

 テスラの剣が今まさにリドの体を真っ二つにしようというその時、それよりも先にテスラの左肘から先が上腕部から切り離された。

 ぶった斬ったのはユークリアの剣!

 ロンギスと撃ち合っていたユークリアは、テスラの様子が変わったのを感じ取った。
 テスラがリドの元へとロケットの様に飛び込んだのを見ると目の前のロンギスを無視して同じ様に突進していた。

 剣を両手で掴んでいたテスラの太刀筋がブレる。その僅かな隙にリドは後ろに退がった。だがそれらは全て一瞬のこと、当然避けきれる様なものではなく、リドの胸は一撃目よりももっと深く、傍目には心臓に達していると思えるほど深く真横に切り裂かれた。

 一方のテスラも重傷だった。左の前腕部がなくなり、体のバランスが悪くなる。
 それでも痛がる素振りも見せず、突っ込んできたユークリアに対してひと唸りすると恐るべきスピードの乱撃を加え始めた。

「ぐ……あの口の悪い魔族め……たいした奥の手を持って、いたものだ」

 すんでのところで地に膝をつかず、ユークリアを圧倒するテスラをギロリとリドが睨む。

 かたや、そのテスラと剣を合わせていたユークリア。

「なんだこの力は。30年前は全力ではなかったとでも、言うのか!」

 一瞬で血塗れになったユークリアが驚愕の表情を浮かべる。対して一貫して怒りの表情のテスラが腕一本でユークリアを圧倒した。

 更にユークリアの背筋を凍らせたのは欠損した筈のテスラの腕が治癒した事だった。

 先程ボトリと地面に落ちたそれはテスラの動きに勝る速度で再び彼の左腕にピタリと吸い付く様に合わさった。

「ばっ、化け物めぇ!」

 実はそれはテスラの能力ではない。いつもの如く姿を消したサラの治癒魔法だった。しかしユークリアにはそんなことはわからない。

 だがリドは気付いた。

 ユークリアが相手をしている間に致命傷とも思えた胸の傷はどんどん塞がっていき、やがて完全に回復したリドは目だけを左右に動かしてニヤリと笑う。

「もう1人、コソコソと隠れている奴がおるな」

 ペッとその場に赤いものが混じった唾を吐く。

 何故か剣を鞘へと納めたリドは、ユークリアをあらゆる方向から撃ち続けるテスラの背後へと猛スピードで近付き、首を掴むとメイがいる建物の方へと凄まじい勢いで投げ付けた。

 メイの手前の地面で一度バウンドしたテスラは砂煙を上げ、大きく跳ねてメイやアンナ達の背後へ落ちた。

「クックック。『狂戦士化バーサーク』とはな。だがそれには大きな欠点がある」

 瓦礫の崩れる大きな音と共にテスラが立ち上がった。

 肩で息をし、右手には血塗れの剣を握り、口からは黒い霊気が流れ出すテスラがグルルルと獣の様に唸り、アンナ達の方へと近付く。

「それは、敵味方の見境が無くなることだ」

 リドが愉しそうに笑う。

 殺気を漲らせ、牙を覗かせるテスラとの距離が縮まるにつれ、メイが怯えた目付きでジュリアに縋る。

 だがアンナはリドをキッと睨むとテスラへ向き直り、怯えもせずにその目の前まで歩くと、優しく、そして落ち着いて言った。

「テスラ。敵は……リド=マルスト。あのリド=マルストを倒すの!」
「ウガウッ!」

 一際大きくそう吠えるとテスラの体は飛ぶ様にリドの元へと突き進んだ!


 ◆◇
 アンナがネイザール王国のジャン・ムウ砂漠においてマルティコラスをテイムしてのけた日の夜。

 砂漠トカゲの背に揺られていた彼らはテスラの奥の手について話をしていた。

狂戦士バーサーカー?」

 アンナが怪訝な顔付きでテスラに聞き返す。

「ああ。人間界だとそれが俺の奥の手になる。これを出す相手なんざ人間界にはいねーと思うが」
「えと、それになるとどうなるんです?」とサラが話に割って入る。
「単純に俺の力は倍加する。腕力も魔力もだ」
「それは……最強ですね」
「だがちと困るのは魔素をがっつり消費しちまうのと、俺の自我がってことだ」
「自我が飛ぶ?」
「要するに敵味方の区別がつかねーんだ。事実上、使えねー奥の手ってこった」

 それを聞いたサラは顎に手をやり暫く考えていたが、すぐにアンナを見てニコリと笑う。

「テスラさん、ひょっとするとそれ、制御できるかもですよ」
「あ?」
「アンナさんですよ。魔神の王キングデヴィルであるテスラさんほどの魔族をテイムするなんて普通は無理ですけど自我が無い状態ならうまくいくかも」
「……」
「えええ、いやムリムリムリ」とアンナが大きく首を振る。
「いや」

 暫く考え込んだテスラだったが、その言葉でアンナの声を遮った。

「いけるかもしれねー。俺がそれを使う時はこのパーティが全滅するかどうか位の瀬戸際のはずだ。テメーも死ぬ気でやれ」
「えええ……」

 困惑気味の顔でアンナはため息を吐いた。

 ◆◇


 リドとの直線上に立つユークリアにテスラは邪魔だと言わんばかりに剣を一閃する。不意を突かれたユークリアはその一撃だけで吹き飛んだ。

 驚いたのはリドだった。

 彼の知る限り、狂戦士が敵を選ぶなど聞いたことがない。間合いに入った者は敵味方の区別無く、相手か自分が息絶えるまで剣を振るい続ける。だから狂った戦士なのだ。

 そうであるはずの狂戦士は一直線にリドへと向かい、再び剣を振るい始めた。


 一方のノルトは苦戦していた。

 砂漠でのユークリアとの戦いでもそうであったように、攻撃がヒットするものの相手の体力を削る程のダメージを与える事が出来ない。速さはついていけるのだが決定力不足だった。

 ユークリアはロンギスを無視してリドへと加勢したがマリッゾはそうさせていない。何とかノルトが引き付けている。逆に言うとそれだけだった。

「ちっこいのになかなかやるじゃん。でもそんな優しい拳と蹴りじゃあ、かすり傷すらつかねえぜぇ?」

 目と口の端を吊り上がらせ、不気味に笑いながら拳の雨を降らせる。

 ノルトは転移をうまく使い、マリッゾに的を絞らせない。しかし転移を連続して実行するのに一呼吸必要なのが致命的になるほど、マリッゾの動きも早い。転移後の位置へすぐに追い付いてきた。

「もっと遠くに逃げたらどうだ? ああ?」

 風圧なのかマリッゾの魔力なのか、彼の拳の軌道に沿って衝撃の様なものが生じ、直接打たれてもないのにあっという間にノルトの体には打撃の痕が出来、血に染まる。
 だがノルトは歯を食いしばりマリッゾを睨む。

「誰が、逃げるかよ!」

 攻めるために飛ぶのだが、ほぼマリッゾに先手を取られてしまう。砂漠で覚えた魔法を使おうにもこれ程俊敏に動き回る相手には当たりそうもない。
 やむなく拳と蹴りで対応していたのだが、どうやらそれも難しそうだとわかった。

 間近にリドがいるせいか、ネルソも最初に警告してきて以来、出て来ない。

(何とかしてこの速さを)

 考える間にも飛んでくる拳を避けるので精一杯だった。

 だがネイザール王城の屋上で剣の精霊ブレイダラーを、砂漠ではユークリアを、それぞれ足止めした時のことを思い出した。

(やってみよう)

 転移。

 現れた位置に今度こそとどめを刺さんと直線的にやってくるマリッゾに対して「雷撃ッ!」と初めて魔法を唱えた。

「ぐあっ」

 転移魔法はあくまで補助的なものでこのガキは武闘派、勝手にそう思い込んでいたマリッゾの動きが一瞬鈍る。だが1秒も置かずにノルトを睨み、再び飛び掛かろうとした。
 その一瞬が欲しかった。

「氷結!」

 ユークリアを凍らせた時と同じく、足元を狙い、動きを止めた。

「なんだてめえ、魔法使いかよ。ったく萎えちまうなあ」

 ダメージ自体は全くないマリッゾは拳を振り上げ、即座に氷を割ろうとする。

「炎の踊りと土の走り、哀れな生き物の身を拘束せよ」

 今のノルトが出来る最高の拘束魔法のコンビネーションだった。鍛え上げられたマリッゾの体に砂と炎が強靭なロープとなって纏わりつき、縛り上げた。

「だあああ! うぜえ!」

 すぐさまマリッゾが体中の筋肉を膨張させ、力尽くで脱出を試みる。そのままでは数秒で破られてしまうだろう。だがノルトにとってはようやく稼ぐことが出来た数秒だ。

「来たれ古の七剣神ッ!」

 マリッゾとノルトを囲む様に灼熱の炎を上げる巨大な剣が7本現れる。1本ずつに異なる悪魔の様な姿が浮かぶのを見てマリッゾが首を傾げた。

「こいつはちょっとやべえ……が、どこかで見たことのある、魔法だなあ?」

 その言葉にドキリとした。マリッゾは30年前、ネルソと戦っているのだ。

(しまった。ネルソあいつ、あの戦いでこの魔法も使ったのかよ)
(クソッ。でももうテスラの存在もバレている。どの道……)

 出してしまったものは仕方がない。とどめを刺すのは今を置いてないのだ。

「ええい、紅蓮の刃ッ!」

 どうにでもなれと術の効果の範囲外へと転移し、魔法を発動する。

 今のノルトが出来る最高威力の魔法。

 ノルトが召喚した炎の魔剣達はマリッゾを囲み、焼きながら杭を打つ様にその刃を打ち下ろした。

 その瞬間、金縛りにあったほど悪寒がノルトを襲う。瞬時に体中の毛穴から冷や汗が吹き出た。

 気付けばマリッゾは気を失っているようだが、彼を襲っていた筈の七剣神は術の途中で跡形も無く消え去っていた。

「い、一体な、なにが……ハッ!」

 何かに気付いたノルトがテスラとリドが戦っていた方へと振り向いた。


 そこには手のひらから黒い霊気の様なものを大量に放出し、斜め上を見上げているリド。

 そしてそれに胸を撃ち抜かれ、胸と口から大量に血を流して空中でダラリとなっているテスラがいた。





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