【R18/完結】4人の魔王をその身に宿す少年は魔神達と共に人間の英雄を倒し、魔界の復興を目指す

南祥太郎

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砂漠の王太子

066.黒の覇王(2)

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 皆、一斉に城の方を見た。

 4、5階辺りであろうか。白煙が立ち昇り、外壁にも穴が開いている様に見えた。

「何やら派手にやっているようだ。面倒が起きる前に」

 リドはメイへと目を移し、細い目を更に細くして「貴様がメイか」と言った。

「これが『エ=ファの現し身』か……なるほど噂に違わず美しい。こちらへ来い」
「嫌です!」

 侍女のジュリアと震える手を取り合い、メイはその吸い込まれる様な青の瞳でキッとリドを睨む。

「ほう。王女は人間よりもハーフオークがお好みかな」
「まさか。私の夫となる御方はハミッド様……」
「メイ様!」

 ジュリアに遮られ、しまった、と思ったがもう遅い。表向きロトスはネイザールと国交を閉ざしており、リルディアと友好的に接していた。

「これはおかしい。我がリルディア王国と貴国は併合の話が進んでいる筈だが? 何故我が国の敵であり、国交の無いネイザールの王子とイチャついている」
「あ、今のは……」
「お前が俺のものになるのであれば聞かなかった事にしておいてやるが」
「……! お、お断り、します」

 あまりの失言で先ほどより少し声のトーンが柔らかくなる。それをさも楽しそうに口の端を上げてリドが言う。

「力ずくでもよいぞ? 今までもそうしてきたしな。……そうだな。そこの侍女の命と引き換えでどうだ?」
「あ、あなたという人は!」
「足らぬか? ロトス国民全員でもよいぞ? 我らを欺き、裏でネイザールと繋がっていた罪で一月もかからず根絶やしにしてみせようか」
「そんな……あなたは人の血が通っているのですか!」

 顔を真っ赤にしてメイが叫ぶ。
 だがその言葉はリドにはどう聞こえているのか。

「どうかな。そんなものはとうの昔になくなった気もするが」

 再び無造作にメイとの距離を詰め始めるリドの前にテスラが立ちはだかった。

「このクズヤローに人間の言葉で話したところで無駄だぜ」

 殆ど同じ身長の2人だがテスラはわざと少し顎を上へと傾け、リドを見下ろすようにして睨む。

 その言動に場が凍りついた。

「死にたいのか?」
「いーや、死ぬのはテメーだ、リド」
「今度?」

 リドが聞き返す間も無く、テスラを中心に漆黒の霊気が爆発的に舞う。

 人化状態では到底歯が立つものではないと最初からそれを解き、遂にリドにその正体を明かす。

 ユークリアとマリッゾ、ロンギスの3人が目を疑う。彼らは30年前、スルークにおいて一丸となって彼、魔神テスラと戦い、その首を刎ねたのだから。

 その場から一歩も下がらず、ジッとテスラの魔族への変身を見ていたリドは、黒い戦士衣装のテスラが現れると初めて少し驚いた顔をした。

「貴様、見たことがあるぞ。確か……ネルソの手下ではなかったか」
「テスラ様だ。覚えとけッ!」

 笑いもせずにそう言い様抜剣し、左から右へと薙ぎ払う。

 リドはそれに右手のひらを向けた。無論、テスラの剣はその手のひらごと真っ二つにする筈だった。それほどの速度と力。

 だが何故か彼の剣は手のひらの手前数センチ程でピタリと止まる。以前のリドにはなかった力だった。

「チッ。怪しげな力、身につけやがって」
「クックック。これは驚いた。死んだ者が生き返るなど」
「テメーは生き返らせねーがな!」

 今度は上下左右からの乱撃だった。
 さすがにそれを手のひらで躱せそうにないとリドも剣を抜く。剣身も黒く光り、心なしかそれ自体が霊気を湛えているようにも見えた。

 全ての攻撃を最小の動きで防ぐリドだが、テスラの嵐の様な攻撃は萎えるどころか更に勢いを増す。

 暫く呆然としていたユークリアだったが、やがて唇を噛み、テスラを睨みつけた。

「道理で私が名乗った途端襲い掛かってきた上、途轍もなく強かった訳だ。何故生き返ったのかはわからないが人化していたとはな」

 白い霊気を一気に放出し、体中にタトゥーのような紋様を浮かび上がらせた。魔人化によるユークリアの本来の姿だ。

「そうと知っていれば砂漠で殺していたものを。だがここで会えたのは僥倖。テスラ、もう一度その首、刎ねてやる!」

 ハミッドやノルトにリドを貶められても一切表情を変えなかったユークリアが、テスラには燃える様な憎悪の目を向けた。

 彼も剣を抜き、リドとテスラの戦いに割って入ろうとした。

 だが。

 それは黒い騎士に防がれた。
 ロンギスだ。

「どういうつもりだ貴様」

 彼は身分としてはロトス王国に属してはいるものの、マッカの配下である。

 そのマッカがリドと共闘関係にあるのだから、いくらメイを守るためといってもこの行為はやり過ぎだった。リドとマッカへの反逆と取られてもおかしくない。

 甲冑の中から赤い瞳がギロリとユークリアを睨む。言葉を発さず、空中に手を翳すとその手の中に突如槍が現れた。

悪魔の槍デーモンスピアか。マジで俺らとろうってんだな。面白え!」

 マリッゾが嬉しそうに右手首から上を顔の前で何度か捻る。


 何故ロンギスはそのような行動をとったのだろうか。

 その少し前のこと。

 メイとリドが言い合っていた時、アンナの耳元で透明になって隠れていたサラの声がした。

「アンナさん。今が私の頑張りどころです」
「え?」

 リドの視界に入っているため、視線を変えず、小声でアンナも返していた。

「協力してロンギスをテイムしましょう」
「!」

 そこで叫ばなかったのはアンナのファインプレーだったと言ってよい。
 ロンギスはマッカ配下で随一の戦闘力を持つ魔族であり、高度な知性を持っている。砂漠の魔物をテイムするのとは訳が違う。

「多分次々と起こる不測の事態に、ロンギスは今どうしてよいか判断に迷っているはず。そこをついてまず私が精神支配マインドドミネーションを仕掛けてみます」

 それはウィンディアのゲートにおいて、番兵を操った魔法、精神制御マインドコントロールの上級魔法だ。
 それでも普段ならロンギスやユークリアといったクラスが相手ではそういった魔法はまず効かない。しかしサラは今ならロンギスに効く可能性があると言っているのだ。

「それが成功したらアンナさん、あなたの素晴らしい力で彼を味方にしてしまいましょう」

 その言葉にはロンギスを相手にするにはサラの精神支配だけでは足りないという意味も含まれている。

 とはいえ目の前にいる桁違いの力を持つ魔人達を相手に自分がどれほどの事が出来るのか、アンナにも分からず不安は募る。

 一方、テスラが魔人化し、リドと争いだした所で死んだと思っていたテスラが生き返っているのを見たロンギスの混乱は、サラが見立てた通りピークに達していた。

 その完璧なタイミングでサラが仕掛けた。

精神支配マインドドミネーション

 小さく呟くと一瞬、ロンギスがふらついた様に見えた。

 眉を寄せていたサラがようやく安堵の吐息をひとつ吐き、再びアンナの耳元で囁く。

「さ、アンナさん。貴女の力なら出来ます。絶対に」

 ポンと肩を叩かれたアンナはロンギスに両手を向け、

「ユークリアを倒しなさい」

 と小さく言い、頭の中で強く念じたのだった。


 そんな事があったとは知る由もないマリッゾが嬉しそうにユークリアとロンギスの方へ飛び出した次の瞬間、彼は近くの廃屋に突っ込んでいた。

 後ろから頭部を蹴られていた。やったのはノルトだ。

 サラとアンナの会話を聞いていたノルトは先ほどのネルソの言葉を思い出し、全てが腑に落ちた。

 ネルソは気配を消していたリドの存在にいち早く気付いていた。ノルトが興奮状態になるきっかけだけを与えてネルソは引っ込んだ。
 彼の言葉に従い、となったノルトはマリッゾがリドとユークリア、はたまたメイのどこに向かうかを見極めていた。

 ユークリアへと向かったその一瞬の隙を付き、背後へ転移、蹴りを放ったのだ。


 テスラの猛攻を防ぎながら周りの状況を見ていたリドが鼻で笑うかのように言った。

「あんな人間の子供まで戦わせているのか。88の魔神がいた30年前と違って人材不足だな」
「その臭え口、すぐに塞いでやる」

 リドの余裕が腹ただしくあったものの、強気なセリフとは裏腹に徐々にテスラの攻撃速度が落ちていく。一気にトップスピードで戦った反動の様なものだった。だがそれだけではなく、テスラの剣を防ぐリドの力が重く、刃が合わさる度に力を消耗するのだ。

「どうした。遅くなってきたぞ?」

 こちらは全然力を出していないぞとでも言いたげなリドの言い方だった。

(このクソヤロー、ジジイのくせに30年前より力が強くなってやがる)

 今のままでは勝ち目は無い。

 そう悟ったテスラがちらりとアンナを見る。その視線に鋭く気付いたアンナがこくりと頷いた。

(俺がやらなきゃ全員あの世行きだ。頼んだぜ、

 一旦リドと距離を置くとテスラはブルブルと体を震わせ始めた。

 周囲の黒い霊気は更に濃いものとなり、彼が魔族であることを示す美しいまでの赤い瞳がなくなり、白目を剥いた。口元にはロゼルタの様な牙が覗き、グルグルと狂犬の様に喉を鳴らし始めた。

「俺にやられる前に自爆でもする気か」

 そんなリドの挑発にも似た言葉を無視し、まるで力を溜めるかの様に白目で地面を睨みながら吠えた。

 やがて。

 口から黒い霊気を息のように吐いたテスラは、その場にいた誰もが見えないスピードでリドの間合いへと一気に踏み込み、左から右へと剣を薙ぎ払った。

 リドの胸から鮮血が迸り、その形相が驚きのそれに変わった。





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