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永遠なる魂
077.エルフの里
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『……というわけじゃ』
ロゼルタの交信の指輪からスピーカーのように聞こえていたドーンの話が終わった。
聞いていたロゼルタだけでなく、ノルト、テスラ、アンナに至るまで、皆、信じられないといった顔付きだった。
「いや……『というわけじゃ』じゃねーぞ。お前それでよく無事で逃げられたな」
『いやさすがの儂も今回はヤバかったわい。結局、魔神化までしてしもうたし』
(魔神化?)
ロゼルタの隣で聞いていたノルトが心で反芻する。
『魔神化とは……』
ノルトが疑問を抱くと同時にネルソの講釈が始まった。
勿論それは魔法の修行の時と同じく、言葉とは言えない、直接的に知識を植え込むようなやり方だった。
魔族は魔人化状態が普通であるが魔神達は魔素の濃い魔界に限り、一時的に魔族の神、すなわち生来の魔神の姿へと変身できる。
途轍もない能力の向上とその状態でのみ使える魔法や特技が解放されるが、対価として尋常ではないスピードで魔素を消費していく。
魔素が枯渇すると魔人化状態へと戻ってしまう。
個人差はあるが、その後暫くは魔神形態にはなれず、魔人状態でも魔素が枯渇しているため、使い所を間違えると一気にピンチに陥ってしまう。
かつてのリドのスルーク攻略戦でテスラがタイミングを計っていた奥の手が魔神化だった。
『なあに、お前達もリドやマッカ、その部下達と遭遇して逃げきったのであろう?』
「いや、そりゃそうだけどよ」
『儂らもヤバかったが奥義でともかくは逃げきった。なんとかアイテムもひとつは取り返したしな。一度セントリアに戻った時にお前達に交信を入れたのじゃが通じず、連絡が今になった』
「あたしら同士でも連絡が出来なかったあの時だな」
それはロトスの王都近辺に張られたマッカによる通信妨害のことだ。
「しかし妙ですねえ」とサラ。
「どうした?」
「うーん。ドラックさんはあのクソチンヤロー共と違って、なんというか、こう……純粋に強さを追い求めていた方で、魔族が攻めてくるなら力試しにとパーティに参加したもののリド、マッカ、クリニカの3人とはあまり打ち解けなかったんですよね。まあ私もそれほど親しくはなかったですが」
「確かに。あたしらもそんな印象は受けた」
「面倒くせー奴だったぜ」
30年前の事を思い出しながら眉を顰めてテスラが言う。
スルーク攻略戦では難攻不落と思われた魔女メイニが受け持つ砦が陥落し、すぐに魔王城に戻ろうとしたテスラを三日三晩足止めしたのがドラック=フォニアだった。
途轍もない戦闘力を持ち、沈着冷静ながら戦闘時には覇気溢れるドラックは厄介なことこの上無かったのだ。
「しかし解せねーな。カーリアの町で情報収集のために冒険者ギルドに行った時、ドラックはリルディア王国から捜索の依頼が出ていたんだが……」
腑に落ちない顔でロゼルタが言う。
『ほう?』
「それがなんで同じ勢力のクリニカのところにいるんだ? 探すまでもねーだろ」
『奴らも一枚岩ではないのかもしれんな』
少しの沈黙の後、ドーンが続ける。
『ふむ。そのドラックじゃが、サラの言う通り、儂から見ても様子がおかしかった。恐らくなんらかの術で操られておると思い、奴の魂に一石を投じておいた。うまくすると状況は変わるかもしれん』
その言葉にロゼルタが呆れた顔をした。
「お前……その状況でよくそんな余裕があったな。で、今は?」
『メルタノにおる。どうやら反乱を企てようとしている、お前の元部下達もいるようじゃ。うまくコンタクトを取っておく』
「本当か! それはよかった」
『マッカの部下のハルサイの軍がウロチョロしておる。見つかると面倒じゃ。今日はこの辺で終わるぞ』
「わかった。もう無理すんなよ」
『互いにな』
そこで交信は終わる。
「ふう」
ロゼルタはひと息つき、あたりを見回した。
彼らの周囲は背の高い針葉樹と大きな広葉樹に囲まれた深い森だ。
時折、木の妖精や風の妖精が木々や風に紛れて微かに姿を見せ、ノルト達を興味深く見つめる。
からくもリドから逃げきった彼らは今、ロトス王国を出て北上していた。
この辺りの広大な森は『人喰いの森』と呼ばれ、すでにどこの国の領土でもない地域に入っている。
初日こそほぼ不眠不休で進んでいた彼らだったが、リドの気配を感じなくなったことでようやく落ち着きを取り戻す。
途中、ハミッドとメイ、ジュリアの3人はかつての魔界、デルピラ経由でネイザールへと戻るために別れていた。
従って一行はサラを道案内にロゼルタ、テスラ、ノルト、アンナの5人にまた戻っていた。
以前のように魔物が滅多矢鱈とアンナを襲うこともなくなり、時折起こる地震に驚く以外は比較的平穏に進んでいた。
「なんか、怖い名前の割に何も起こらないわね?」とアンナ。
先頭を歩くサラがルートを確保しながらにこやかに笑う。
「その名前、デタラメですから」
「え? どういうこと?」
サラが立ち止まって皆の方へと振り返った。その手は前方を指し、どうぞ中へ、とでも言いたげだ。
「うふふ。森は人など食べません。さあ皆さん。ここより先が私の生まれ故郷であるエルフの里、マシャランです」
得意気に言うがノルト達の目には今までと大差のない光景が広がっているのみだった。
だがテスラが言う。
「なるほど。ぱっと見はわからねーが……確かに感じるな」
「ああ。濃い魔素に混じって確かにエルフの気配がする」続けてロゼルタも言う。
「アンナ、何か感じる?」とノルト。
何の気配も感じないノルトにしてみれば共感してくれる仲間が1人でも欲しかったのだが、口元に手をやったアンナからは、
「……なんだろ……何か懐かしい、感じ? 確かにサラから感じるものと似てるなにかを感じるわ」
そう言われ、ノルトはひとりで首を捻るばかり。
気のせいか、ネルソがバカ笑いする声が聞こえた気がした。
サラは笑みを絶やさず、
「大丈夫ですよノルトさん。普通、人間にはこの気配は察知できません。『人喰いの森』という名前はエルフの里に人を近付けないよう、念の為に昔の方が付けた名前です。さ、参りましょう」
にこやかに言うとまた歩を進め始めた。
ロゼルタの交信の指輪からスピーカーのように聞こえていたドーンの話が終わった。
聞いていたロゼルタだけでなく、ノルト、テスラ、アンナに至るまで、皆、信じられないといった顔付きだった。
「いや……『というわけじゃ』じゃねーぞ。お前それでよく無事で逃げられたな」
『いやさすがの儂も今回はヤバかったわい。結局、魔神化までしてしもうたし』
(魔神化?)
ロゼルタの隣で聞いていたノルトが心で反芻する。
『魔神化とは……』
ノルトが疑問を抱くと同時にネルソの講釈が始まった。
勿論それは魔法の修行の時と同じく、言葉とは言えない、直接的に知識を植え込むようなやり方だった。
魔族は魔人化状態が普通であるが魔神達は魔素の濃い魔界に限り、一時的に魔族の神、すなわち生来の魔神の姿へと変身できる。
途轍もない能力の向上とその状態でのみ使える魔法や特技が解放されるが、対価として尋常ではないスピードで魔素を消費していく。
魔素が枯渇すると魔人化状態へと戻ってしまう。
個人差はあるが、その後暫くは魔神形態にはなれず、魔人状態でも魔素が枯渇しているため、使い所を間違えると一気にピンチに陥ってしまう。
かつてのリドのスルーク攻略戦でテスラがタイミングを計っていた奥の手が魔神化だった。
『なあに、お前達もリドやマッカ、その部下達と遭遇して逃げきったのであろう?』
「いや、そりゃそうだけどよ」
『儂らもヤバかったが奥義でともかくは逃げきった。なんとかアイテムもひとつは取り返したしな。一度セントリアに戻った時にお前達に交信を入れたのじゃが通じず、連絡が今になった』
「あたしら同士でも連絡が出来なかったあの時だな」
それはロトスの王都近辺に張られたマッカによる通信妨害のことだ。
「しかし妙ですねえ」とサラ。
「どうした?」
「うーん。ドラックさんはあのクソチンヤロー共と違って、なんというか、こう……純粋に強さを追い求めていた方で、魔族が攻めてくるなら力試しにとパーティに参加したもののリド、マッカ、クリニカの3人とはあまり打ち解けなかったんですよね。まあ私もそれほど親しくはなかったですが」
「確かに。あたしらもそんな印象は受けた」
「面倒くせー奴だったぜ」
30年前の事を思い出しながら眉を顰めてテスラが言う。
スルーク攻略戦では難攻不落と思われた魔女メイニが受け持つ砦が陥落し、すぐに魔王城に戻ろうとしたテスラを三日三晩足止めしたのがドラック=フォニアだった。
途轍もない戦闘力を持ち、沈着冷静ながら戦闘時には覇気溢れるドラックは厄介なことこの上無かったのだ。
「しかし解せねーな。カーリアの町で情報収集のために冒険者ギルドに行った時、ドラックはリルディア王国から捜索の依頼が出ていたんだが……」
腑に落ちない顔でロゼルタが言う。
『ほう?』
「それがなんで同じ勢力のクリニカのところにいるんだ? 探すまでもねーだろ」
『奴らも一枚岩ではないのかもしれんな』
少しの沈黙の後、ドーンが続ける。
『ふむ。そのドラックじゃが、サラの言う通り、儂から見ても様子がおかしかった。恐らくなんらかの術で操られておると思い、奴の魂に一石を投じておいた。うまくすると状況は変わるかもしれん』
その言葉にロゼルタが呆れた顔をした。
「お前……その状況でよくそんな余裕があったな。で、今は?」
『メルタノにおる。どうやら反乱を企てようとしている、お前の元部下達もいるようじゃ。うまくコンタクトを取っておく』
「本当か! それはよかった」
『マッカの部下のハルサイの軍がウロチョロしておる。見つかると面倒じゃ。今日はこの辺で終わるぞ』
「わかった。もう無理すんなよ」
『互いにな』
そこで交信は終わる。
「ふう」
ロゼルタはひと息つき、あたりを見回した。
彼らの周囲は背の高い針葉樹と大きな広葉樹に囲まれた深い森だ。
時折、木の妖精や風の妖精が木々や風に紛れて微かに姿を見せ、ノルト達を興味深く見つめる。
からくもリドから逃げきった彼らは今、ロトス王国を出て北上していた。
この辺りの広大な森は『人喰いの森』と呼ばれ、すでにどこの国の領土でもない地域に入っている。
初日こそほぼ不眠不休で進んでいた彼らだったが、リドの気配を感じなくなったことでようやく落ち着きを取り戻す。
途中、ハミッドとメイ、ジュリアの3人はかつての魔界、デルピラ経由でネイザールへと戻るために別れていた。
従って一行はサラを道案内にロゼルタ、テスラ、ノルト、アンナの5人にまた戻っていた。
以前のように魔物が滅多矢鱈とアンナを襲うこともなくなり、時折起こる地震に驚く以外は比較的平穏に進んでいた。
「なんか、怖い名前の割に何も起こらないわね?」とアンナ。
先頭を歩くサラがルートを確保しながらにこやかに笑う。
「その名前、デタラメですから」
「え? どういうこと?」
サラが立ち止まって皆の方へと振り返った。その手は前方を指し、どうぞ中へ、とでも言いたげだ。
「うふふ。森は人など食べません。さあ皆さん。ここより先が私の生まれ故郷であるエルフの里、マシャランです」
得意気に言うがノルト達の目には今までと大差のない光景が広がっているのみだった。
だがテスラが言う。
「なるほど。ぱっと見はわからねーが……確かに感じるな」
「ああ。濃い魔素に混じって確かにエルフの気配がする」続けてロゼルタも言う。
「アンナ、何か感じる?」とノルト。
何の気配も感じないノルトにしてみれば共感してくれる仲間が1人でも欲しかったのだが、口元に手をやったアンナからは、
「……なんだろ……何か懐かしい、感じ? 確かにサラから感じるものと似てるなにかを感じるわ」
そう言われ、ノルトはひとりで首を捻るばかり。
気のせいか、ネルソがバカ笑いする声が聞こえた気がした。
サラは笑みを絶やさず、
「大丈夫ですよノルトさん。普通、人間にはこの気配は察知できません。『人喰いの森』という名前はエルフの里に人を近付けないよう、念の為に昔の方が付けた名前です。さ、参りましょう」
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