【R18/完結】4人の魔王をその身に宿す少年は魔神達と共に人間の英雄を倒し、魔界の復興を目指す

南祥太郎

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永遠なる魂

081.ノルトとアンナ、ロン=ドゥの秘密

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 テスラとロゼルタの2人は気配を探る様に集中すると、数秒して顔を見合わせた。

「ほんとだ」
「しつけーヤローだな」舌打ち混じりのテスラだ。
「どうする? もう出発する?」とアンナ。

 それを取りなすようにヒューリアは手のひらを前後すると優しい口調で話す。

「まあまあ少し落ち着いて下さい。ゆっくりは出来ないけれど、先に話をしておきたい。サラ、人間界にいる間にシオンには会った?」

 シオン。

 長老ヒューリアを越す長寿で、既に千年を超えて生きているエルフ。

 そのあまりの生の長さのためか、エルフにしては珍しく老いた外見をしている。

 あらゆる精霊魔法に精通し、魔術の腕だけで言えば現存するエルフの中ではヒューリアやサラと同格といえる魔術士だった。

 彼は百年前にマシャランを出、それ以来里には戻っていない。

「シオン様? ああ、はい。まだリルディアになる前のラクニールで会いました。暇なのであればとあのクソチン共の仲間に誘われました」
「まあ……」
「いまだにシオン様がなんであんなクソゲスの手下になっているのか、私にはちょっとわかりかねますね」実に憎々しげにサラが言う。
「なるほど。だとするともうひとつ、危機が加わった、という事ですね」
「?」

 サラもヒューリアの言わんとする事が見えていないらしい。

 だがそこでヒューリアは突然ノルトとアンナに目を向けた。

「私達、いやこの世に生きる者達全てに危急存亡の時が来たのかもしれません。希望は貴女が言う通り、このふたりであると私も思います」
「え!?」
「は?」

 ノルトとアンナの声が揃う。

「ノルトさんの真の力は私では測りかねますが、アンナさんはエルフの匂いが微かにしますね」
「はえ――!?」

 寝耳に水の話に飛び上がって驚くアンナだが、サラは澄ました顔で「やはり! 実は私もそうではないかと」と言った。

 ヒューリアはサラに頷くと、

「恐らく私やシオンも生まれていない時代、もっともっと昔のハイエルフの血が混ざっている。その方は今の我々とは比べ物にならない程の力を持った方」
「は、はぁぁぁぁ……?」

 そんな事を唐突に言われてもこの旅に出るまで平凡な人生を歩んできたアンナに簡単に咀嚼できる話ではなかった。
 ヒューリアは真剣な眼差しでアンナを見つめ続ける。

「貴女はビースト、いやモンスターテイマー……ひょっとすると世界に数人しかいないと言われるテイムマスター、では?」
「ててて、ていむますたあ?」

 驚いて声が掠れるアンナだったがサラはさも当然と言わんばかりに言った。

「確かにその様な力をお持ちです。知能を持つ魔神レベルの魔族もテイムしましたし。私の補助があったとはいえ、普通のテイマーにあんな真似は出来ません」

 だがヒューリアはまだなにか納得がいかない顔付きだ。

「貴女から感じる気配は……ひょっとするとそれをも超える、それこそ私なんかでは到底見当もつかないものなのかもしれない。機会があればメルマトラの中心に行ってみるといい」
「メルマトラ!?」

 サラもさすがに驚いた様子を見せたが割って入ったのはロゼルタだった。

「あんなところ、行くだけで死んじまうだろ」
「そうですね。彼の地は来る者を拒む、あらゆる毒素が入り乱れる土地。準備なく行けばあなた方の様な高位の魔神でも危ない……ですが」

 ヒューリアはサラに視線を移し、

「サラは知っていますか? メルマトラは元々エルフの国だったという言い伝えを」
「えぇ!? 初めて聞きました」
「らしい、のです。言い伝えではあの地の中心には今でも神殿があり、エルフの神がいると言う。ノルトさんはエルフではありませんがアンナさんと同じく、そこに辿り着ければその途轍もない力が一気に開花する様な、そんな気がします」

 ロゼルタは一度テスラと顔を見合い、困惑した表情で話に割って入った。

「ま、待て待て……色々情報が有り過ぎて話が見えねー。結局なんなんだ」

 これは失礼、これじゃ神託と一緒ですね、と笑いながらヒューリアが口元を押さえた。

「年甲斐も無くちょっと興奮してしまいました」

 そこから順を追って説明をしだす。

 リド=マルストがノルト達を追い、すぐそこまで来ていること。

 そこにもう1人、腕の立つエルフがいるということ。

「恐らくそれはシオン」
「え!?」

 マシャランは外界とは次元が異なるため、リドだけであれば問題はなかった。

 だがシオンが共にいるのなら話は大きく変わる。

「彼ならこの里への入り口をこじ開けるでしょう。そうなると2人はここへ入って来る事になる。まずはこれがひとつ」

 続けてヒューリアはノルトを見る。

「ノルトさんの中には誰か、高貴な方が居られるように思います。が、それと似たような雰囲気をあのリドという者からも感じます」
「なんだと?」ギロリと目を光らせたのはテスラだ。

 それが何かはわからないが、それによってこの世は破滅の方向に向かう気がする、と言った。

「それがこの世に危急存亡の時が来たと思った理由。これがふたつ目」

 次に彼女が話し始めたのはノルトとアンナについてだった。

 ノルト達はドーン達と合流し、力を合わせてスルークの魔王城でリドを倒す。
 魔界であればロゼルタやテスラ達のみならず、今はノルトの内にいるネルソやエキドナ達までも含めて、魔族は最大限の力を振るう事が出来るのだ。

 その為の進路であればここから東に進み、今はリルディアに併合された旧ラクニール王国に行くのが最短となる。

「私が口を挟む事ではないかもしれませんが、ノルトさんとアンナさんの成長に期待するならメルマトラに行ってみる事も選択肢としてアリではないかと。これがみっつ目。最後にお伝えしたかった事です」
「メルマトラか……」浮かない顔のロゼルタ。

 但しそこに本当に神殿があるかはヒューリアにもわからず、保証は出来ないということだった。

「あくまでエルフ族に伝わる伝承のようなものですので、最悪は『何もない』ということも」

 内容が内容だけにロゼルタも即決出来ず、腕組みをして考え込む。

「メルマトラに向かうならこのまま北に真っ直ぐだな。確かそこには」
「はい。世界中にある、メルマトラと外界を分つ山脈のひとつがあります。この付近のそれは『ロン=ドゥの棲家』と呼ばれています」

 ロン=ドゥの棲家、その名前から推測できるように、ロン=ドゥという未知の生き物が生息する地域、とされている。

 その生き物を見た事がある者は殆どいない。稀に見たという話もあるがどれも眉唾もの、与太話の域を出ない。

 化け物なのか、魔物なのか、精霊なのか、神なのか、性別はあるのか、知性はあるのか、いるものなのか、そもそも一体どこにいるのか、全てが謎に包まれている。

 魔族であり、六百歳を超えるロゼルタも当然見たことはない。

「ロン=ドゥねえ。あんたはそれ、見た事あるのかい?」
「はい。何度か」
「ああそうだろうな……えええっ!?」

 珍しくロゼルタが前のめりに驚く。

「マ、マジ?」
「マジです。ロン=ドゥはあそこにいます」
「いいい、一体どんなのなんだ?」

 だが肉眼で見たヒューリアですらそれが何かははっきりとはわからないとの事だった。

「体は恐らくこの大樹よりも大きく、全体を窺い知る事は出来ませんでした。が、尾の様なものが沢山見え、小さく動いていたので間違いなく生きています。寝ているようでしたが最近、人喰いの森で地鳴りが続いているところを見ると目覚めたのかもしれません」
「確かにこの森を進む間、やたらと地震があったが……」呆然とするロゼルタ。
「面倒くせー。そんなもん、出会っちまったら逃げるか戦うかの二択だろ」とテスラ。

 だがヒューリアは眉を上げ、厳しい表情でピシャリと言い切った。

「いえ、逃げて下さい。逃げる一択です」
「なに?」
「私が受けた感覚ではあれはそもそもこの地上にいてはならないもののひとつでした。一体あれ程の怪物がどこから来たのか……」

 だが寝ている間は問題ないと静観していたという事だった。
 彼女によるとロン=ドゥは百年ほど寝た後、数週間から数ヵ月起きるというリズムだそうだ。

 周期的には今がちょうど起きる頃だと言う。

「チッ。やっぱり面倒くせー。だが忠告は聞くとしよう」
「そうして下さい。では貴方達はこの奥にある北への出口から逃げて下さい」
「ヒューリア様は、どうなされるのですか?」

 心配そうな顔のサラが言う。

 自分達が出て行くのはいいが、その後この里がリドによって酷い目に遭わないか気が気でない。

「フフ。心配には及ばないわ。里の入り口が外界と通じる先を変えます。あなた方は『ロン=ドゥの棲家』に行くにしろ、ラクニールに行くにしろ、まずは北へお逃げなさい」

 ヒューリアは笑顔でそう言うが、何故かサラには一抹の不安が残った。

 どこか不安げなサラを察してか、ヒューリアはスッと彼女の背中に腕を回し、抱き締める。

「サラ。貴女はこの里きっての優れたエルフです。貴女の力で大願を成就させることを祈っています」
「ヒューリア様……ありがとうございます。全部終わったら帰ってきます。母とモルソンさんによろしく言っておいていただけますか」
「勿論。体に気をつけて」
「ヒューリア様も。くれぐれも無茶はしないで下さいね」
「ふふ。それは貴女でしょう?」

 名残惜しむようにふたりの体がゆっくりと離れる。

 やがてサラはくるりと振り返った。

「では皆さん、行きましょうか」
「途中まで道案内でシュルスを連れて行きなさい。サラにはよくわからないでしょうが、あの子は貴女の事が大好きです。きっと貴女の役に立つでしょう」
「え」

 里に入るなり抱きつかれた事を思い出し、少し嫌そうな顔をしたサラだったが、わざわざヒューリアが言うことと思い直し、「わかりました」と言った。


 ヒューリアはサラ達を見送ると里の入り口まで風の精霊を使って飛ぶ様に移動する。

 その異界への扉の前で口の中で何やら呪文のようなものを唱え出した。

 突如辺りが輝き、その風景が歪み出す。

「これでよし……でも入り口のが終わるよりリドが来る方が早い、か」

 キュッと唇を噛み締めると彼女はひとり、里の外へと出た。

 その先に待つ、凄惨な未来を感じながら。








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