刷り込まれた記憶 ~性奴隷だった俺

希京

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矜持

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城のまわりにマスコミと小泉のファンと自称する群衆が群がった。
マスコミには格好のネタだった。小泉静という美貌の武闘派が現れて国民の心を一瞬で掴んだのだからぜひともインタビューしたいと押しかける。空からはその姿をとらえようとヘリが飛ぶ。
騒音と混雑で近隣住民が迷惑しているが流れを止める事はできなかった。芸能人を追うように城に群がる連中は危険性を全く感じていない。機動隊と衝突している一角もあった。
追いつめた国が悪い。ヤクザにも生きる権利がある。様々な意見が飛び交った。
「ちっ、マスコミ操作が上手いな」
捜査本部は苦虫を噛み潰す思いでTVを睨む。そもそもカタギあっての人気商売だ。それを忘れて平和を謳歌してしている間にいつの間にか世間から忘れられていった。だが追いつめられた人間がどう行動するか、少し考えればわかりそうなものだが不幸にも人間は過去から何も学ばない。

「かっこいい男だな」
西田までそんなことを呟いている。残念だが佐伯も同じ意見だった。
TVで小泉を見て一瞬で心を奪われた。もっと早くこの男の存在を知っていたら長谷川なんていうチンケな男にふりまわされる事はなかったかもしれないとまで思った。
「悪いとは頭でわかっているんだけど、画面越しだからかな。映画の主人公に見える」
「劇場型犯罪の典型的なもんだな。この男それがわかっててやってる」
だが小泉はSNS等で自分から何か発信することはなく籠城を続けている。それが神秘性を生み、彼の持つ魅力を増大させて大衆は熱狂していく。国民を人質にしたようなものだ。
「上手いのはわかるんだけど、こんな事して何が目的なんだろう」
佐伯のアパートに勝手に押しかけて西田は興奮してずっと喋っている。
「西田さんはこの人の事後藤さんから聞いたことないの?」
「ないねえ。あの人自分の事は絶対言わないからな。俺たちが知って得することはないし、知らないって事は一番強い」
「強いって?」
「警察に聞かれても知らないことは言えないだろう?そういうこと。しかし格好いいなこの人…」

すっかり小泉に心を奪われて西田は心ここにあらずだった。じゃあなんで来たんだよと思ったが表立って言えない話だから少しでも接点のある佐伯を話し相手にしたかったんだろう。

城の屋上で警察を撃ち殺したシーンは突然だったせいか遠くてよく見えなかったが、ヘリコプターに向かって発砲した所はマスコミの根性かカメラをズームアップして撮影したのでその姿はよく捕えられたいた。生放送の一瞬のことだったが、以後は情報統制なのかニュースでは流れなくなった。だが動画サイトでは繰り返し映像が流れてとてつもない再生回数になっていた。

組長席は空席になっている。
小泉はその前にあるソファに陣取って背もたれに腕をかけて煙草をふかしていた。
テーブルには重厚なガラスの灰皿とノートパソコンが置かれている。

マオカラーの前を開けて黒のインナーにシルバーのオリジナルデザインのネックレスをつけて悠然と座っている。40代には見えない若い風貌にそのファッションは似合っていた。影響された若い子たちが真似ても全然似合わない。そもそも醸し出す圧も雰囲気も違う。だが粋がる気持ちは通ってきた道なのでわかる。
早いうちから頭角をあらわした小泉は、古い体制を改め新しい時代に合う集団にしようと動いたが零れ落ちる人間のほうが多かった。年を取って身動きできなくなっている古参が大多数を占める組織で、金で死ぬ連中が多くなってきた時、生き残ることを諦めた。

「俺についてこなくていいぞ。ただ残る者は覚悟を決めろ」
隊列を乱さず静かに並ぶ黒服の部下を見て小泉は言った。別に軍隊を作ったつもりはなかったがいつのまにか自分に忠実な男ばかりが残った。寂しい人間が多いんだな。そんな感情しか沸かない。
常日頃から籠城に備えて数ヶ月は持つ備蓄はしていた。勝つつもりはない。ここは行き場所を失った男たちの墓場だ。ほかの部屋には娑婆で生きられない年代の連中も集まってきている。最期は派手に散りたい。

「もう肩書とかどうでもいいだろ。酒でも飲んで騒げや。好きにしな」
優しく声をかけても誰も微動だにしない。そこまで心酔してくれるのはありがたいが、無理して黄泉の世界に引きずっていくつもりもない。

『兄貴についていきます』と言っている奴ほどいざとなると逃げる。無能な味方と裏切り者はいらない。それなりに分類して外していったがいざとなるとどう動くか人間はわからない。そう思って武器は持たせていなかった。

「小泉さん、武器持たせてください。ここにいる連中はあなたについていく覚悟で残ったんです」
ひとりが叫んだ。
「金庫開けろ」
そこに装填済みの銃が入っている。小泉の一声で一番近くにいた黒服が開けて各自使いこなせる銃をあるだけ手に取った。
「正面玄関をメインに全部の通路を封鎖しろ。突入があったらその場の判断で攻撃していい」
これしか生き方がなかった連中しか残っていない。その程度の戦闘力に何も期待していない。小泉はただ場所を作っただけで、神輿に担がれながら派手に死ぬつもりだった。

いつのまにか日が暮れてあたりが暗くなったが西田はまだ帰らない。
「ああ、暗くてよく見えないなあ」
いつ何かあるかわからないとか言って人の部屋でずっとTVを眺めている。追い出したいが家賃を払っているのは西田なので強く言えない。
「後藤さんがいればなあ。詳しい事聞けそうなのに」
「それこそ言わないって。今までこの人の話聞いたことあった?」
「あっ!」
西田が身を乗り出して画面に近づいた。






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