金は天下で回らない

希京

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死者への片思い~粛清

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黒いワゴンが何台も連なって止まる。

ドアが開き、黒服の男数人で裸で後ろに手首と足首を拘束された中川京介が運ばれた。

「いやだ…やめ…っ殺さないでくれ!」
救いを求める声は一切の慈悲がない未知には効果がない。

防潮堤から勢いよく放り投げられて、バシャン!という大きな音の後、静かに沈んでいく姿を未知はじっと見ていたが、暗くて見えなくなった所で興味を失ったように踵を返す。

「ここの流れは独特で、人も監視カメラもない穴場スポットですけど、俺は毎回ヒヤヒヤしてますよ」
角川はネクタイを緩めながら未知の背中に言った。

「ガスがたまって浮かんでくる頃には太平洋の領海ギリギリあたりまで流れてるはず。魚のエサになるか見つかった所で裸の腐乱死体です。身元がばれた所でまともに捜査するかどうか疑問です。どこかの組内のリンチという事で終わらせるんじゃないですか?」

冷静を装っていても緊張しているのか未知の口数がいつもより多い。

父のやっていた仕事を自分が引き継ぐことでかすかに繋がっていられる。動機は好意でもその執念が恐ろしい。

もう父の肉体はこの世に存在しない。もし魂というものがあるのなら会ってみたいが、不思議なことは信じていない。クルマの後部座席に座って、未知は法で自分をさばける理解者はいないだろうと考えていた。

「この作業は、魂が疲れる」
前の席に陣取った角川がこちらに体を向けて未知に言う。
「魂、ですか?」
「そうです。人を殺す…」
そこまで言って、未知が手で話を止める。

「スピリチュアルには興味ありません」

信号のないい海沿いの道を、ものすごいスピードで走り去っていく。
「でもあなた、夜中よく先代の名前を呼んでますよ」
「夢は自分の意思でどうすることもできないです」
「ま、それは確かに」

本当の自分より巨大になってしまった「金子未知」という化け物。
それを死ぬまで演じ続けなければいけない事に少し後悔の念もあったが。
「父と別れたくない」
「仕事を擬人化して愛するのは、かなり歪んでますけどね」
「私が普通に見えるほうがおかしい。違う?」

運転している青年が、未知と角川の喧嘩のようなやり取りを聞かされている。それに気がついた角川はこの件をここで深掘るのをやめた。彼女は過去に縛られているが、やってきた悪事は忘れやすい。もう見加の事など頭の片隅に小さな破片程度に存在するくらいだ。

「私が廃業したらあなた達も食うに困るでしょ?」
車内の空気を変えようと、珍しく未知がにやりと笑って俗っぽいことを言った。

「社長の本当の仕事は従業員を養うことです。これは受け売りですけど」
それでも父の呪縛から解かれて自由になってほしいと角川は思う。
多分この人は生きていたくないんだろう。

唯一残った父親の形見である仕事。これを動かし続けることでなんとか精神の均衡を保っている。
角川と未知を繋ぐものも唯一「仕事」だけだ。
だから辞められない。形は違うがそういうものなのだろう。
思い続けることだ。大切なものを。
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