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喧嘩と告白
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「うっ…」
中に埋め込まれた卓也のモノがゆっくり抜かれて、春兎は床に座り込む。
ひくつく穴からは卓也が放った白い液が垂れてきて床を汚した。
スーツは脱がされて、白いシャツだけ着せられている。そこからのぞく白い足に欲望が引きずり込みこまれそうになって卓也は目を反らす。
「ひどい…卓也」
「お前に言われたかねえよ」
うつむいて力なく座っている春兎が泣いている。顔にかかる髪で顔は見えない。
「卓也の鈍感!好きになっちゃったから逃げて欲しいのに…」
「え?」
突然の告白に卓也は戸惑う。
「それも俺をはめる嘘か?」
「ここまできてそんなこと言うもんかっ!僕だって人間だ。悪い人を好きになっちゃうこともある!それなのに…っ。卓也の鈍感!馬鹿!!」
会話の雲行きが怪しくなってきた。
「俺を逮捕しといてなに言ってんだお前!」
「うるさい!!」
ソファに置いてあるクッションを投げてきた。それをよけながら突然始まった春兎の暴走にいい解決法が浮かばない。
投げるものがなくなった春兎はタンスの上に飾ってある重そうな置物に手を伸ばした。
「マジかよ…ふざけんな!」
春兎の手から取り上げようと組み合うが、怒りのリミッターがふり切れた人間の力は強い。
「死んじゃえ!僕の前から消えて!!」
なんとか置物を奪ってタンスの上に戻して、殴りかかってきた腕を素早く掴んだ。
「情でも移ったか?」
泣きじゃくる春兎からははっきりした返事がない。
『これってどういう状況?』
自分にハニートラップを仕掛けてきた人間なんか信じられるか。
「俺を逮捕しておいてよく言えるな。今の話が本当なら逃してくれるのが正解だろう。眠たいこと言ってんなよ」
罪をおかした自分が悪いのはわかっているが、人間は心と頭で違う答えをはじき出す。
春兎は頭では犯人を確保するのが仕事と理解して行動していたが、心の中は複雑だったようだ。
『だがそんなこと知ったこっちゃねえ』
どうせ何を言っても信じてもらえないと思ったのか、今度は春兎は黙り込む。
言いたかったことは言ったので少し落ち着いたのかもしれないが、つきあってられない。
「もう行くよ。朝まで置いてもらうつもりだったが春兎を苦しめるだけだもんな。厄介者は消えることにする」
驚いた顔をして春兎が顔を上げた。泣きはらした目が赤く腫れている。
「どこに行くの?」
「さあ…。あてはない」
本当は仲間の家に身を寄せるつもりだった。同じ穴の狢、売人ルートの連中なら通報すれば自分も逮捕される。そこまでして自分を売る人間はいない。
卓也が信用できるのは悪い秘密を共有して運命共同体になっている人間だけだった。そんな人間しか、まわりにいない。
「僕も行く。ついていっちゃダメ?」
冷静に判断が出来なくなっているのか春兎は破滅の道を選ぼうとしていた。
ついてくるのを許してエリートから引きずり落としてやろうか。だが今から逃亡するのに連れていくのは邪魔だ。
利用するかギリギリまで考えたが、癇癪を起こす人間は面倒くさい。
「足手まといだ。どうせ俺を追跡して上に報告するんだろう?迷惑だ」
色のない瞳で見下して、冷酷に切り捨てて腕を離した。
「手柄立ててお前の出世の道具に利用されたくないからな」
「……」
信じられないという表情を浮かべながら、春兎はよろよろとソファに座り、両手で顔を覆った。
「落ち着いたら連絡してやる」
「逃げ切れると思ってるの?」
「お前に報復するまでは捕まらない。せいぜい楽しみにしてな」
根拠もない自信で春兎に向かって言ってくる。
「俺がどんな目に遭ったか。春兎を何回殺しても足りねえ。あの動画を拡散しておけばよかったよ。お前が社会的に抹殺されて今の職も失ってボロボロになって、俺たちの居場所まで堕とせばよかった。そうすれば俺も少し気が晴れるのにな」
過去の記憶が蘇ったのか、血走った目で春兎を睨む。
これだけ言っても春兎から反応がない。
さっきまでの大立ち回りは何だったのか。必死に止めようとしたのに肩透かしを食らわされて余計腹が立つ。
「じゃあな」
ひとこと挨拶だけ残して卓也が出ていった。
ひとり部屋に残された春兎はごろりとソファに寝転ぶ。
大きな憎悪を感じた。それはそうだ。卓也は自分が被害者だと思いこんで、犯罪者という自覚がない。
やっぱり言わなければよかった。亜美先輩あたりにバレれば「あんた馬鹿じゃないの?」とさんざん嫌味を言われるに決まっている。
「…疲れた……」
誰もいない部屋で小さく呟く。
死が脳裏をよぎる。
だがここで死んでも卓也が戻ってきてくれるわけでもない。
ただ消えたい。この世界から。ひっそり。
こんな時は嫌なことばかりで思考が埋め尽くされる。
必死に勉強して官僚になったとき親は大喜びだった。それが嫌だった。
「これで将来安泰ね、春兎」
両親はそう言った。
どこがだよ。過労死寸前だ。将来なんて見えるけど届かない蜃気楼みたいなものだ。
出会うのは大麻常習者ばかり。その中で心動かされる人間も少なからず存在したが、誰にも言わずに諦めるようにしていた。
「好き」と告白したのはさっき喧嘩した卓也にだけだった。
自分も余裕がなくて思わず溜め込んだ感情を爆発させてしまった。
僕が男にハニトラかけて情報集める仕事しているなんて知ったら、死んじゃうかもな、親。
酒でも飲んで寝てしまおうと思うが、億劫で体が動かない。
卓也が出ていった時玄関の鍵を閉めてないことに気がついて、なんとか立ち上がり鍵をかけた。
だいぶ醜態をさらしてしまったが、もう会うことはないから忘れよう。
もし彼を見るとしたら、テレビ画面越しにうつる逮捕されて連行される姿だろう。
更生なんか期待しない。
人は変わらない。
自分は無力だ。
中に埋め込まれた卓也のモノがゆっくり抜かれて、春兎は床に座り込む。
ひくつく穴からは卓也が放った白い液が垂れてきて床を汚した。
スーツは脱がされて、白いシャツだけ着せられている。そこからのぞく白い足に欲望が引きずり込みこまれそうになって卓也は目を反らす。
「ひどい…卓也」
「お前に言われたかねえよ」
うつむいて力なく座っている春兎が泣いている。顔にかかる髪で顔は見えない。
「卓也の鈍感!好きになっちゃったから逃げて欲しいのに…」
「え?」
突然の告白に卓也は戸惑う。
「それも俺をはめる嘘か?」
「ここまできてそんなこと言うもんかっ!僕だって人間だ。悪い人を好きになっちゃうこともある!それなのに…っ。卓也の鈍感!馬鹿!!」
会話の雲行きが怪しくなってきた。
「俺を逮捕しといてなに言ってんだお前!」
「うるさい!!」
ソファに置いてあるクッションを投げてきた。それをよけながら突然始まった春兎の暴走にいい解決法が浮かばない。
投げるものがなくなった春兎はタンスの上に飾ってある重そうな置物に手を伸ばした。
「マジかよ…ふざけんな!」
春兎の手から取り上げようと組み合うが、怒りのリミッターがふり切れた人間の力は強い。
「死んじゃえ!僕の前から消えて!!」
なんとか置物を奪ってタンスの上に戻して、殴りかかってきた腕を素早く掴んだ。
「情でも移ったか?」
泣きじゃくる春兎からははっきりした返事がない。
『これってどういう状況?』
自分にハニートラップを仕掛けてきた人間なんか信じられるか。
「俺を逮捕しておいてよく言えるな。今の話が本当なら逃してくれるのが正解だろう。眠たいこと言ってんなよ」
罪をおかした自分が悪いのはわかっているが、人間は心と頭で違う答えをはじき出す。
春兎は頭では犯人を確保するのが仕事と理解して行動していたが、心の中は複雑だったようだ。
『だがそんなこと知ったこっちゃねえ』
どうせ何を言っても信じてもらえないと思ったのか、今度は春兎は黙り込む。
言いたかったことは言ったので少し落ち着いたのかもしれないが、つきあってられない。
「もう行くよ。朝まで置いてもらうつもりだったが春兎を苦しめるだけだもんな。厄介者は消えることにする」
驚いた顔をして春兎が顔を上げた。泣きはらした目が赤く腫れている。
「どこに行くの?」
「さあ…。あてはない」
本当は仲間の家に身を寄せるつもりだった。同じ穴の狢、売人ルートの連中なら通報すれば自分も逮捕される。そこまでして自分を売る人間はいない。
卓也が信用できるのは悪い秘密を共有して運命共同体になっている人間だけだった。そんな人間しか、まわりにいない。
「僕も行く。ついていっちゃダメ?」
冷静に判断が出来なくなっているのか春兎は破滅の道を選ぼうとしていた。
ついてくるのを許してエリートから引きずり落としてやろうか。だが今から逃亡するのに連れていくのは邪魔だ。
利用するかギリギリまで考えたが、癇癪を起こす人間は面倒くさい。
「足手まといだ。どうせ俺を追跡して上に報告するんだろう?迷惑だ」
色のない瞳で見下して、冷酷に切り捨てて腕を離した。
「手柄立ててお前の出世の道具に利用されたくないからな」
「……」
信じられないという表情を浮かべながら、春兎はよろよろとソファに座り、両手で顔を覆った。
「落ち着いたら連絡してやる」
「逃げ切れると思ってるの?」
「お前に報復するまでは捕まらない。せいぜい楽しみにしてな」
根拠もない自信で春兎に向かって言ってくる。
「俺がどんな目に遭ったか。春兎を何回殺しても足りねえ。あの動画を拡散しておけばよかったよ。お前が社会的に抹殺されて今の職も失ってボロボロになって、俺たちの居場所まで堕とせばよかった。そうすれば俺も少し気が晴れるのにな」
過去の記憶が蘇ったのか、血走った目で春兎を睨む。
これだけ言っても春兎から反応がない。
さっきまでの大立ち回りは何だったのか。必死に止めようとしたのに肩透かしを食らわされて余計腹が立つ。
「じゃあな」
ひとこと挨拶だけ残して卓也が出ていった。
ひとり部屋に残された春兎はごろりとソファに寝転ぶ。
大きな憎悪を感じた。それはそうだ。卓也は自分が被害者だと思いこんで、犯罪者という自覚がない。
やっぱり言わなければよかった。亜美先輩あたりにバレれば「あんた馬鹿じゃないの?」とさんざん嫌味を言われるに決まっている。
「…疲れた……」
誰もいない部屋で小さく呟く。
死が脳裏をよぎる。
だがここで死んでも卓也が戻ってきてくれるわけでもない。
ただ消えたい。この世界から。ひっそり。
こんな時は嫌なことばかりで思考が埋め尽くされる。
必死に勉強して官僚になったとき親は大喜びだった。それが嫌だった。
「これで将来安泰ね、春兎」
両親はそう言った。
どこがだよ。過労死寸前だ。将来なんて見えるけど届かない蜃気楼みたいなものだ。
出会うのは大麻常習者ばかり。その中で心動かされる人間も少なからず存在したが、誰にも言わずに諦めるようにしていた。
「好き」と告白したのはさっき喧嘩した卓也にだけだった。
自分も余裕がなくて思わず溜め込んだ感情を爆発させてしまった。
僕が男にハニトラかけて情報集める仕事しているなんて知ったら、死んじゃうかもな、親。
酒でも飲んで寝てしまおうと思うが、億劫で体が動かない。
卓也が出ていった時玄関の鍵を閉めてないことに気がついて、なんとか立ち上がり鍵をかけた。
だいぶ醜態をさらしてしまったが、もう会うことはないから忘れよう。
もし彼を見るとしたら、テレビ画面越しにうつる逮捕されて連行される姿だろう。
更生なんか期待しない。
人は変わらない。
自分は無力だ。
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