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幼馴染
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大学に進学する直前、突然告白された。
「ずっとお前が好きだった」
帰り道、ふたりで歩いて帰る道すがら、ユウイチが僕に言った。
「な、なに突然。こどもの頃から仲いいじゃん」
言われた瞬間は気がつかなかったが、彼の短い前髪から見える瞳が揺れているのを見て本気だと思ったが、イラつきも感じた。
「僕がこれから遠くに引っ越すタイミングで言うのは卑怯だね」
「俺の気持ちを言っただけで、どうしてほしいとかはないんだ。ただ俺は…、俺は勝手に想ってる。それだけ」
ユウイチはうつむきながら歩いている。僕の気持ちは関係ない。突き放された気がして腹が立った。
確かに僕は中性的な顔をしている。そのせいかはわからないが、こいつにとって性的な存在と思われていた事にも腹が立つ。いろんな思いが渦巻いて言葉が出なかった。
その時巻いていたマフラーの色が妙に印象に残っている。
あれから4年たつ。
気まずくて一度も実家に帰れなかった。彼は親の農業を継ぐと言っていたから地元から離れていない。帰るということは自然とあいつと会ってしまうということ。それが気まずい。
頭からユウイチが出ていってくれないまま4年。ずっと考えていた。難しい理論ではなくふたりの問題として。
嫌いじゃない。ただ恋愛感情は、正直ない。
でも「好きだ」と告白されてから意識してしまって、女の子とつきあっても「私のこと見てる?」と言われてはフラれた。
このモヤモヤした気持ちを解決しないと先に進めない。
4年生の夏休み、意を決して実家に帰った。
「おかえり!あらあ垢抜けっちゃって。自分の息子とは思えない」
母は玄関に突っ立っている僕を見てそんなことを言った。
田舎の一軒家は玄関が広くて家全体が風通しもいい。
「ユウイチ君なら田んぼのほうにいるわよ。今日帰ってくるの知らないと思うから会ってくれば?」
突然母からユウイチの名前が出て僕は焦る。田舎はすぐ噂が広まる。もしかしてと勘ぐったが、幼馴染で地元に残っているのは彼くらいで、それで母が言っただけだろう。
荷物を置いてブラブラと歩いていくと、手前に畑があって、その向こうに水田が広がっている。
ユウイチは畑のほうにいてしゃがんで何か作業をしていた。
しばらくその様子を眺めていると、彼が振り向いた。
「帰ってきてたのか」
「うん」
ユウイチは想像していた程動揺した様子もなく、首にかけた黒いタオルで顔の汗を拭いながら立ち上がった。
「これ」
母に渡されたスポーツドリンクを彼に渡すと「サンキュ」と言って一気に飲み干した。
「暑いね。忙しい?」
「水田のほうがちょっとな。外来種の虫を駆除するのが大変だ」
「へえ」
「ま、都会の人には興味ない話だろ」
「何だよその言い方。逆に興味湧くよ」
ユウイチの横を通り過ぎて水田のほうへ向かう。すれ違うときユウイチの汗の匂いがして心臓が跳ねた。
あいつはもう俺の事は思い出のひとつなんだろうか。僕を見て顔色ひとつ変えなかった。
「…うわ…」
「だいぶ駆除できたんだけど毎年イタチごっこだ」
ピンク色した卵の塊があちこちにある。
気持ち悪いと思ってなんとなく後ろにさがろうとしたとき、ユウイチがゆっくり抱きしめてきた。
「暑いんだけど」
「……会いたかった」
この男は不器用だ。
僕は彼のたくましい腕に手を添える。
厳しい日差しの下、なんとなくあの時ユウイチが巻いていたマフラーを思い出していた。
「ずっとお前が好きだった」
帰り道、ふたりで歩いて帰る道すがら、ユウイチが僕に言った。
「な、なに突然。こどもの頃から仲いいじゃん」
言われた瞬間は気がつかなかったが、彼の短い前髪から見える瞳が揺れているのを見て本気だと思ったが、イラつきも感じた。
「僕がこれから遠くに引っ越すタイミングで言うのは卑怯だね」
「俺の気持ちを言っただけで、どうしてほしいとかはないんだ。ただ俺は…、俺は勝手に想ってる。それだけ」
ユウイチはうつむきながら歩いている。僕の気持ちは関係ない。突き放された気がして腹が立った。
確かに僕は中性的な顔をしている。そのせいかはわからないが、こいつにとって性的な存在と思われていた事にも腹が立つ。いろんな思いが渦巻いて言葉が出なかった。
その時巻いていたマフラーの色が妙に印象に残っている。
あれから4年たつ。
気まずくて一度も実家に帰れなかった。彼は親の農業を継ぐと言っていたから地元から離れていない。帰るということは自然とあいつと会ってしまうということ。それが気まずい。
頭からユウイチが出ていってくれないまま4年。ずっと考えていた。難しい理論ではなくふたりの問題として。
嫌いじゃない。ただ恋愛感情は、正直ない。
でも「好きだ」と告白されてから意識してしまって、女の子とつきあっても「私のこと見てる?」と言われてはフラれた。
このモヤモヤした気持ちを解決しないと先に進めない。
4年生の夏休み、意を決して実家に帰った。
「おかえり!あらあ垢抜けっちゃって。自分の息子とは思えない」
母は玄関に突っ立っている僕を見てそんなことを言った。
田舎の一軒家は玄関が広くて家全体が風通しもいい。
「ユウイチ君なら田んぼのほうにいるわよ。今日帰ってくるの知らないと思うから会ってくれば?」
突然母からユウイチの名前が出て僕は焦る。田舎はすぐ噂が広まる。もしかしてと勘ぐったが、幼馴染で地元に残っているのは彼くらいで、それで母が言っただけだろう。
荷物を置いてブラブラと歩いていくと、手前に畑があって、その向こうに水田が広がっている。
ユウイチは畑のほうにいてしゃがんで何か作業をしていた。
しばらくその様子を眺めていると、彼が振り向いた。
「帰ってきてたのか」
「うん」
ユウイチは想像していた程動揺した様子もなく、首にかけた黒いタオルで顔の汗を拭いながら立ち上がった。
「これ」
母に渡されたスポーツドリンクを彼に渡すと「サンキュ」と言って一気に飲み干した。
「暑いね。忙しい?」
「水田のほうがちょっとな。外来種の虫を駆除するのが大変だ」
「へえ」
「ま、都会の人には興味ない話だろ」
「何だよその言い方。逆に興味湧くよ」
ユウイチの横を通り過ぎて水田のほうへ向かう。すれ違うときユウイチの汗の匂いがして心臓が跳ねた。
あいつはもう俺の事は思い出のひとつなんだろうか。僕を見て顔色ひとつ変えなかった。
「…うわ…」
「だいぶ駆除できたんだけど毎年イタチごっこだ」
ピンク色した卵の塊があちこちにある。
気持ち悪いと思ってなんとなく後ろにさがろうとしたとき、ユウイチがゆっくり抱きしめてきた。
「暑いんだけど」
「……会いたかった」
この男は不器用だ。
僕は彼のたくましい腕に手を添える。
厳しい日差しの下、なんとなくあの時ユウイチが巻いていたマフラーを思い出していた。
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