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22優良物件が来た
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オリヴァン君が使用人になってくれてから、3週間が過ぎた。実はその間にオリヴァン君がヴァルハーゼン伯爵家の使用人になったという噂が広がり、人間の他にも他種族の血が混じった人達も何人か使用人として雇用された。
あと一番重宝したのは、やっぱり料理人。ウルベル君の料理も美味しいけどロギアが口にした料理しか作れないから、家庭的でレパートリーもなかった。
まぁ、そんなわけでやって来た料理人はなんと竜神族の女性ファランレイさん。角と竜の尾が特徴の中性的な超絶美女。何でも食文化を極めたいと旅をしているらしい。そのおかげで貴族にも通用する料理も出せるから、もしパーティーとか開いても安心だ。
最初はなんか他人行儀なとこあったけど、荷物を持ってあげたらいきなり仲良くなった。オレより身長高くて普通の女性より逞しくても、女性は女性だ。紳士的にしないとな。
けっこう屋敷に人が増えて、さらに賑やかになった。
「ところでユトさんはロギア様と付き合ってるのですか?」
「ブッ!?・・・ゴホッゴホッ」
「ユトさん、汚いです」
可愛い獣人メイドさん達と午後の休憩中に、唐突な事を聞かれて美味しいお茶でむせる。可愛い顔でなんて事をストレートに聞いてくるんだ。
「どうやって見たらそんな風に見えるんだよ。付き合ってません」
「だってお風呂も部屋も一緒だし」
「風呂は魔獣化ロギアを洗うのが趣味だし、部屋は・・・あいつが勝手に入って来るからだ」
「あと決め手は、ご主人様に砕けた口調でフレンドリー。そもそも基本的べったりだし、キスしてるのも見たわ」
「それだわ」
違うよ、やめてメイドの果てしない妄想力。可愛い顔を突き合わせてお互い納得してるのもやめような。
「あのな・・・オレは別に例えばだけどロギアとそういう仲になるつもりないから」
「ではなぜ必要以上の接触をしているのですか?不自然です、絶対ユトさんもロギア様のこと好きに決まってます」
「なぜ決めつけ・・・。百歩譲ってロギアは好きだけど、そういうのは本当にないから」
「ではユトさんは誰ならお付き合いしてもいいんですか?」
「え・・・・?」
「私は最近、アラデア様が怪しいと思います。ユトさんの事たまに物陰から見てますし」
「ストーカーか・・・」
「あら、わたしはオリヴァンさんがお似合いだと思うわ。ユトさんとも騎士仲間で、普段からも仲がいいし」
「まぁ、オリヴァンは良い奴だけどな。でもあいつ婚約者がちゃんと居るよ?」
「では大穴でウルベル様はどうでしょう!」
「可愛いけどね、ウルベル君。可愛いけどちょっとそういう対象には見れないかな」
「わかりました・・・・・」
メイドちゃん達が人の恋愛成就を勝手に進めようとしているんだけど。
「残り物には福があるという異国の言事があります。ルシエス様でどうでしょう!」
「・・・・・・」
まさかのとんでもない最終兵器出して来たな。
「ルシエスは幼馴染だからあんまり言いたくないけど、身の危険を感じるから辞退するよ」
「えー!」
「ええー!」
優良物件!優良物件!と騒ぐメイドちゃん達には申し訳ないんだけど、ルシエスは物じゃないからな?ちゃんと人間扱いしてあげてな?
あとさ、なんで男限定なの?この屋敷には可愛いメイドちゃん達も、美人なファランレイさんも居るよね?
いつまでもしつこいメイドちゃん達と強制的に離れて、仕事へ戻ろうとした時だ。アラデア君が来客だからと呼ばれた。
そしてその来客がある意味大問題だった。
両手に花を抱え、ビシッと決めた仕立てのいいスーツ。扉の向こうには何台か馬車が見える。そいつはオレの前に止まって現役王子様顔負けのキラキラ笑顔で話しかけて来た。
「ユト、昇進祝いに来たぞ」
「なにやってんのルシエス。仮装時期にはまだ早いよ?」
やって来たのは、魔導騎士団長ルシエスだった。オレの幼馴染のな。いやそれよりも招待した記憶はない。アラデア君だって突然来たって驚いた顔してるかは、まさか本当に勝手に来たのか?
「いや、ちゃんと招かれて来たから安心してくれ。ヴァルハーゼン伯にな」
「そんな・・・ロギア様がいつの間に・・」
まぁ、ショックだろうね。補佐のアラデア君に何の相談もなく事を進められてたら。そしてルシエスはオレを花束で埋め尽くし、馬車の中にも祝い物があるからと押しつけて来た。
玄関での長い再会の後ルシエスを客室に通し、蒼白な顔したアラデア君と一緒にロギアの執務室を訪ねる。
「なんだ本当に来たのか」
「何勝手に招待してるんだよ。アラデア君を見ろよ、半分魂抜けた状態だから」
「抜けてない、僕は完璧だ」
「まぁ、そう怒るな。確かに口約束だが招待したのは私だ。だがその原因を作ったのは皇帝だぞ?一応この国の貴族だからな、皇帝の命令なら仕方あるまい」
「そのような事が・・・ロギア様に罪を擦り付けるような発言をお許し下さい」
「いい、気にするな。それより面白い事になって来たな。丁度いい、クォデネンツに会おう」
「いいのか?」
「あぁ、一度ハッキリ決着をつけねばと思っていたからな。ユトはウルベルを呼んで、服を見立ててもらえ」
「なんでオレ?」
「余興だ」
「やな予感しかしないんだけど」
「主人命令だ、早く行け」
「うーん」
ロギアが変に楽しそうにしてる時は、あんまりいい事じゃなさそうだ。その後はウルベル君とメイドちゃん達にやたらと着せ替えさせられ、最終的には貴族もどきなオレが出来上がった。
髪は付け毛で腰まで長くて髪留めで飾られ、白いスーツはなんかヒラヒラな部分が多いな。結婚式か?
ウルベル君達は手放しで褒めてくれるけど、オレはいつもと違う髪型とスーツは似合わないなと鏡を見て思う。
そしてアラデア君に至っては全く目を合わせてくれずに、ロギアに言われたのかエスコートとか言いながら何回も「手に触れていいのか!いいのか!いいんだよな!?」って興奮していた。
ごめんな、もっと美人か美少女とかエスコートしたかったんだよな?
さてすでに日も暮れ始め客室から食堂へ移動されていたルシエスに会いに行くべく、アラデア君のエスコートのもと扉を開ける。
───お、ルシエスだ
「ルシエス、待たせたな」
ルシエスの席の近くで声をかけると、オレを見上げたルシエスの顔が固まった。え、ヤバ・・・やっぱり似合わなかった?うーん、ごめん。
直後に固まったルシエスがガタッとマナー悪く立ち上がると、オレを見つめた。
「ユ─────」
「ユト、似合っているぞ。お前のためにある服だな」
ルシエスの言葉を遮るようにロギアが後ろから近付いて、アラデア君からオレの手を取った。
「オレ、これでもロギアの護衛騎士だからな。この格好だと仕事にならないだろ?」
「では今日は私がユトの騎士として振る舞おう」
「それはダメ。ちゃんと当主として客人をもてなすこと」
「フフフ、手厳しい私の騎士だ。おいで」
そう言うとロギアはオレの腰まで支えるようにエスコートして、自分が座っていた席の隣に座らせた。ちなみにルシエスはめちゃくちゃ不機嫌顔だ。王子様顔が台無しになって、女の子達が失望するからやめてやれ。
─────ちょっと待て
「ロギア、これは貴族のマナーとしていかがなもんかな」
「何がだ?」
「主人のすぐ真横に座るのはダメだろう。いつもみたく斜め隣ならともかく」
「ユトは私の騎士だから、私のすぐ側で護衛しなくてはな」
「ここだけ主人の特権乱用するな」
「ユト、ほらファランレイの食事が冷めてしまうぞ。これは美味しそうだ、食べろ」
「人の話を・・・むぐっ・・・・・・ぅまい」
話を聞く耳持たないロギアは、またしてもテーブルマナー違反でオレの口にスプーンで料理を突っ込んだ。確かにな、料理はすごく美味しい。ファランレイさんが実は扉の隙間からこっそり覗いてるのが見えて、仕方なく食べ続けた。
ロギアが口に何回も運びながらな。
そうかと思ってたらすごい軋み音がして、オレの横に椅子ごと移動して来たルシエスが座った。
───お前もか!!!
「ルシエス、マナー違反過ぎるぞ。魔導騎士団長としての自覚をだな・・・ふぐッ」
「ユト、このパン美味しいぞ」
モッシャモッシャ・・・・うまっ!何この味のパン!いや、パンなのか!?ヤバい・・・ファランレイさん、ヤバい。
というか、指先ごとオレの口にパンを突っ込むのはやめてくれ。皆見てるからな・・・。ちなみにロギアの方は見る勇気がない。だってルシエスが目線でロギアのことわざと牽制してるからな。
振り向けないけどロギアは怒らないな、当主としての立場をまっとうしようとしてるのかな。最後まで我慢できたら後で褒めてあげるか。
「ユトは、長い髪も似合うな」
「そうか?重いし邪魔だよ」
そう言って髪に指を絡めてたところで、とうとうロギアが爆発した。
「勝手に触るなこれは私のものだ」
人を物扱いするのやめてくれ。ロギアはオレを後ろから抱き寄せた。お前の方が何百年も大人なんだから我慢しろよ!
「さっきから全然相手にされてないのに自分のもの扱いとはとんだ勘違い野郎だな。500年も眠ってて脳が腐ったか」
ルシエスも我慢しろよ!
「フンッ、貴様こそ私よりユトと暮らす時間が長い割りには全然何も進展していないようだな。男としても見られてはいないのではないか」
「やはり貴様とはここで決着をつけるべきだな。皇帝陛下はここには居ない、邪魔されずに私闘が出来るようだ」
「いいだろう、消し炭にしてくれる」
ここに邪魔するオレが居るし、屋敷が燃えそうだから魔力を使うなよ。そう言おうとしたけど二人が動く方が早かった。
窓から外へ飛び降りる。
「わー!お前らー!?」
「キャー!ユトさんを巡って愛の死闘よ♡」
「メイドちゃん達、そこ違うからね」
さすがに窓から飛び降りれないオレは全力ダッシュで庭へと急ぐ。
すでに始まっていた戦いはもう目には追えないスピードで激突していて、近付くと余計に危ない。しばらく馬鹿二人の戦いが続く中、ロギアの放つ炎がルシエスの精霊剣で弾かれる。
だが運悪く炎は、ウルベル君の方へと飛んで行ってしまう。近くに居たオリヴァン君が咄嗟に庇う。オレは二人の方へ走るが間に合わない!
その時物凄い風圧で何かが横切り、炎を消し去った。
馬くらいの大きな黒い生き物・・・オオカミの身体に竜の手足。そして背中の翼・・・。
「・・・・ロギア」
───グルルルルルルル
魔獣化のロギアだけど、明らかに大きくなってる。どういう事だ?
「ロギア?」
近付いて触ろうとしたら身体を引かれた。ロギアに拒絶されている。なんで・・・。
「ロギア」
「私に触るな」
「そうだユト、魔獣に寄るな」
「・・・ルシエス」
ルシエスが背中にオレを隠すように前に出た。剣をロギアに向けて牽制する。
「やはり正体を現したか、魔獣王。人間の領土でその姿を晒すとはとんだ醜態だな。皇帝陛下に報告すればどのような罰が下るかわかっているだろうな」
「・・・・」
「ちょっと待ってよ、ルシエス!元はと言えばお前ら二人が始めた事だろ、ルシエスにも責任がある」
「ユトは俺と魔獣とどちらの味方なのだ」
「どちらの味方って・・・・」
この場を収める嘘は付きたくはないし、どちらと言われても選ぶなんで出来ない。どちらも大切だ。大切な二人・・・大切な種族・・・大切な・・・・
───オレが居るから戦いが終わらないなら、オレを捨ててくれ。お前の剣にはならない
「・・・誰」
「ユト?」
───彼を愛してるんだ、だから・・・
「ッ!!!」
「ユト!」
「ユト!」
二人の声が遠い・・・・それに空からたくさん赤い羽が降ってきたな。
誰の羽?
─────────オレの羽か
あと一番重宝したのは、やっぱり料理人。ウルベル君の料理も美味しいけどロギアが口にした料理しか作れないから、家庭的でレパートリーもなかった。
まぁ、そんなわけでやって来た料理人はなんと竜神族の女性ファランレイさん。角と竜の尾が特徴の中性的な超絶美女。何でも食文化を極めたいと旅をしているらしい。そのおかげで貴族にも通用する料理も出せるから、もしパーティーとか開いても安心だ。
最初はなんか他人行儀なとこあったけど、荷物を持ってあげたらいきなり仲良くなった。オレより身長高くて普通の女性より逞しくても、女性は女性だ。紳士的にしないとな。
けっこう屋敷に人が増えて、さらに賑やかになった。
「ところでユトさんはロギア様と付き合ってるのですか?」
「ブッ!?・・・ゴホッゴホッ」
「ユトさん、汚いです」
可愛い獣人メイドさん達と午後の休憩中に、唐突な事を聞かれて美味しいお茶でむせる。可愛い顔でなんて事をストレートに聞いてくるんだ。
「どうやって見たらそんな風に見えるんだよ。付き合ってません」
「だってお風呂も部屋も一緒だし」
「風呂は魔獣化ロギアを洗うのが趣味だし、部屋は・・・あいつが勝手に入って来るからだ」
「あと決め手は、ご主人様に砕けた口調でフレンドリー。そもそも基本的べったりだし、キスしてるのも見たわ」
「それだわ」
違うよ、やめてメイドの果てしない妄想力。可愛い顔を突き合わせてお互い納得してるのもやめような。
「あのな・・・オレは別に例えばだけどロギアとそういう仲になるつもりないから」
「ではなぜ必要以上の接触をしているのですか?不自然です、絶対ユトさんもロギア様のこと好きに決まってます」
「なぜ決めつけ・・・。百歩譲ってロギアは好きだけど、そういうのは本当にないから」
「ではユトさんは誰ならお付き合いしてもいいんですか?」
「え・・・・?」
「私は最近、アラデア様が怪しいと思います。ユトさんの事たまに物陰から見てますし」
「ストーカーか・・・」
「あら、わたしはオリヴァンさんがお似合いだと思うわ。ユトさんとも騎士仲間で、普段からも仲がいいし」
「まぁ、オリヴァンは良い奴だけどな。でもあいつ婚約者がちゃんと居るよ?」
「では大穴でウルベル様はどうでしょう!」
「可愛いけどね、ウルベル君。可愛いけどちょっとそういう対象には見れないかな」
「わかりました・・・・・」
メイドちゃん達が人の恋愛成就を勝手に進めようとしているんだけど。
「残り物には福があるという異国の言事があります。ルシエス様でどうでしょう!」
「・・・・・・」
まさかのとんでもない最終兵器出して来たな。
「ルシエスは幼馴染だからあんまり言いたくないけど、身の危険を感じるから辞退するよ」
「えー!」
「ええー!」
優良物件!優良物件!と騒ぐメイドちゃん達には申し訳ないんだけど、ルシエスは物じゃないからな?ちゃんと人間扱いしてあげてな?
あとさ、なんで男限定なの?この屋敷には可愛いメイドちゃん達も、美人なファランレイさんも居るよね?
いつまでもしつこいメイドちゃん達と強制的に離れて、仕事へ戻ろうとした時だ。アラデア君が来客だからと呼ばれた。
そしてその来客がある意味大問題だった。
両手に花を抱え、ビシッと決めた仕立てのいいスーツ。扉の向こうには何台か馬車が見える。そいつはオレの前に止まって現役王子様顔負けのキラキラ笑顔で話しかけて来た。
「ユト、昇進祝いに来たぞ」
「なにやってんのルシエス。仮装時期にはまだ早いよ?」
やって来たのは、魔導騎士団長ルシエスだった。オレの幼馴染のな。いやそれよりも招待した記憶はない。アラデア君だって突然来たって驚いた顔してるかは、まさか本当に勝手に来たのか?
「いや、ちゃんと招かれて来たから安心してくれ。ヴァルハーゼン伯にな」
「そんな・・・ロギア様がいつの間に・・」
まぁ、ショックだろうね。補佐のアラデア君に何の相談もなく事を進められてたら。そしてルシエスはオレを花束で埋め尽くし、馬車の中にも祝い物があるからと押しつけて来た。
玄関での長い再会の後ルシエスを客室に通し、蒼白な顔したアラデア君と一緒にロギアの執務室を訪ねる。
「なんだ本当に来たのか」
「何勝手に招待してるんだよ。アラデア君を見ろよ、半分魂抜けた状態だから」
「抜けてない、僕は完璧だ」
「まぁ、そう怒るな。確かに口約束だが招待したのは私だ。だがその原因を作ったのは皇帝だぞ?一応この国の貴族だからな、皇帝の命令なら仕方あるまい」
「そのような事が・・・ロギア様に罪を擦り付けるような発言をお許し下さい」
「いい、気にするな。それより面白い事になって来たな。丁度いい、クォデネンツに会おう」
「いいのか?」
「あぁ、一度ハッキリ決着をつけねばと思っていたからな。ユトはウルベルを呼んで、服を見立ててもらえ」
「なんでオレ?」
「余興だ」
「やな予感しかしないんだけど」
「主人命令だ、早く行け」
「うーん」
ロギアが変に楽しそうにしてる時は、あんまりいい事じゃなさそうだ。その後はウルベル君とメイドちゃん達にやたらと着せ替えさせられ、最終的には貴族もどきなオレが出来上がった。
髪は付け毛で腰まで長くて髪留めで飾られ、白いスーツはなんかヒラヒラな部分が多いな。結婚式か?
ウルベル君達は手放しで褒めてくれるけど、オレはいつもと違う髪型とスーツは似合わないなと鏡を見て思う。
そしてアラデア君に至っては全く目を合わせてくれずに、ロギアに言われたのかエスコートとか言いながら何回も「手に触れていいのか!いいのか!いいんだよな!?」って興奮していた。
ごめんな、もっと美人か美少女とかエスコートしたかったんだよな?
さてすでに日も暮れ始め客室から食堂へ移動されていたルシエスに会いに行くべく、アラデア君のエスコートのもと扉を開ける。
───お、ルシエスだ
「ルシエス、待たせたな」
ルシエスの席の近くで声をかけると、オレを見上げたルシエスの顔が固まった。え、ヤバ・・・やっぱり似合わなかった?うーん、ごめん。
直後に固まったルシエスがガタッとマナー悪く立ち上がると、オレを見つめた。
「ユ─────」
「ユト、似合っているぞ。お前のためにある服だな」
ルシエスの言葉を遮るようにロギアが後ろから近付いて、アラデア君からオレの手を取った。
「オレ、これでもロギアの護衛騎士だからな。この格好だと仕事にならないだろ?」
「では今日は私がユトの騎士として振る舞おう」
「それはダメ。ちゃんと当主として客人をもてなすこと」
「フフフ、手厳しい私の騎士だ。おいで」
そう言うとロギアはオレの腰まで支えるようにエスコートして、自分が座っていた席の隣に座らせた。ちなみにルシエスはめちゃくちゃ不機嫌顔だ。王子様顔が台無しになって、女の子達が失望するからやめてやれ。
─────ちょっと待て
「ロギア、これは貴族のマナーとしていかがなもんかな」
「何がだ?」
「主人のすぐ真横に座るのはダメだろう。いつもみたく斜め隣ならともかく」
「ユトは私の騎士だから、私のすぐ側で護衛しなくてはな」
「ここだけ主人の特権乱用するな」
「ユト、ほらファランレイの食事が冷めてしまうぞ。これは美味しそうだ、食べろ」
「人の話を・・・むぐっ・・・・・・ぅまい」
話を聞く耳持たないロギアは、またしてもテーブルマナー違反でオレの口にスプーンで料理を突っ込んだ。確かにな、料理はすごく美味しい。ファランレイさんが実は扉の隙間からこっそり覗いてるのが見えて、仕方なく食べ続けた。
ロギアが口に何回も運びながらな。
そうかと思ってたらすごい軋み音がして、オレの横に椅子ごと移動して来たルシエスが座った。
───お前もか!!!
「ルシエス、マナー違反過ぎるぞ。魔導騎士団長としての自覚をだな・・・ふぐッ」
「ユト、このパン美味しいぞ」
モッシャモッシャ・・・・うまっ!何この味のパン!いや、パンなのか!?ヤバい・・・ファランレイさん、ヤバい。
というか、指先ごとオレの口にパンを突っ込むのはやめてくれ。皆見てるからな・・・。ちなみにロギアの方は見る勇気がない。だってルシエスが目線でロギアのことわざと牽制してるからな。
振り向けないけどロギアは怒らないな、当主としての立場をまっとうしようとしてるのかな。最後まで我慢できたら後で褒めてあげるか。
「ユトは、長い髪も似合うな」
「そうか?重いし邪魔だよ」
そう言って髪に指を絡めてたところで、とうとうロギアが爆発した。
「勝手に触るなこれは私のものだ」
人を物扱いするのやめてくれ。ロギアはオレを後ろから抱き寄せた。お前の方が何百年も大人なんだから我慢しろよ!
「さっきから全然相手にされてないのに自分のもの扱いとはとんだ勘違い野郎だな。500年も眠ってて脳が腐ったか」
ルシエスも我慢しろよ!
「フンッ、貴様こそ私よりユトと暮らす時間が長い割りには全然何も進展していないようだな。男としても見られてはいないのではないか」
「やはり貴様とはここで決着をつけるべきだな。皇帝陛下はここには居ない、邪魔されずに私闘が出来るようだ」
「いいだろう、消し炭にしてくれる」
ここに邪魔するオレが居るし、屋敷が燃えそうだから魔力を使うなよ。そう言おうとしたけど二人が動く方が早かった。
窓から外へ飛び降りる。
「わー!お前らー!?」
「キャー!ユトさんを巡って愛の死闘よ♡」
「メイドちゃん達、そこ違うからね」
さすがに窓から飛び降りれないオレは全力ダッシュで庭へと急ぐ。
すでに始まっていた戦いはもう目には追えないスピードで激突していて、近付くと余計に危ない。しばらく馬鹿二人の戦いが続く中、ロギアの放つ炎がルシエスの精霊剣で弾かれる。
だが運悪く炎は、ウルベル君の方へと飛んで行ってしまう。近くに居たオリヴァン君が咄嗟に庇う。オレは二人の方へ走るが間に合わない!
その時物凄い風圧で何かが横切り、炎を消し去った。
馬くらいの大きな黒い生き物・・・オオカミの身体に竜の手足。そして背中の翼・・・。
「・・・・ロギア」
───グルルルルルルル
魔獣化のロギアだけど、明らかに大きくなってる。どういう事だ?
「ロギア?」
近付いて触ろうとしたら身体を引かれた。ロギアに拒絶されている。なんで・・・。
「ロギア」
「私に触るな」
「そうだユト、魔獣に寄るな」
「・・・ルシエス」
ルシエスが背中にオレを隠すように前に出た。剣をロギアに向けて牽制する。
「やはり正体を現したか、魔獣王。人間の領土でその姿を晒すとはとんだ醜態だな。皇帝陛下に報告すればどのような罰が下るかわかっているだろうな」
「・・・・」
「ちょっと待ってよ、ルシエス!元はと言えばお前ら二人が始めた事だろ、ルシエスにも責任がある」
「ユトは俺と魔獣とどちらの味方なのだ」
「どちらの味方って・・・・」
この場を収める嘘は付きたくはないし、どちらと言われても選ぶなんで出来ない。どちらも大切だ。大切な二人・・・大切な種族・・・大切な・・・・
───オレが居るから戦いが終わらないなら、オレを捨ててくれ。お前の剣にはならない
「・・・誰」
「ユト?」
───彼を愛してるんだ、だから・・・
「ッ!!!」
「ユト!」
「ユト!」
二人の声が遠い・・・・それに空からたくさん赤い羽が降ってきたな。
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