福引きで当てた魔獣王の愛し子

れく高速横歩き犬

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23《ロギア視点》赤い羽

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 大人気もなくクォデネンツの挑発に乗り、配下や使用人達を危険な目に合わせてしまった。咄嗟に魔獣化したが、身体が大きくなっている。そうか・・・クーの封印の一部が破られたな。あの気弱な皇帝と四星花を見くびっていたようだ。

 ウルベルとオリヴァンは大事に至らなかったが、近付いて来たユトを思わず避けてしまった。もう仔犬ほどの大きさの私ではない。触ればケガをするかもしれないと無意識だったが、ユトが悲しそうな顔をする。

そんな顔をさせたかったわけじゃない。


 クォデネンツがまだヤル気のようだが、ユトが止める。だが様子がおかしい。



「・・・誰」
「ユト?」


 独り言なのか?明らかにルシエスも困惑した顔をしている。次の瞬間、屋敷全体を囲むように赤い魔法陣が出現した。


「ッ!!!」
「ユト!」
「ユト!」


 駆け寄ろうとしたが、空から降ってきた見覚えのある赤い羽が見えて留まる。ルシエスもわかっているようだ。やがて口を開く。


「ヴァルハーゼン、この羽に触れると暴発する」
「なに・・・やはりそうか」
「幼少期にユトと初めて会った日もこれが出現した。多分意識がないと出現するようだ」
「羽は大量に降っているが、私達には当たる様子がないな。あからさまな敵意か何か感情を読み取ると、当たるというわけか」


 以前ユトを初めて愛でた際にも羽は出現したが、私があれ以上触れなかったから消えた。今回も何もなければ消えるだろうか。多少ならば動いても大丈夫そうだ。
 私は一歩ユトに歩み寄る。


「ヴァルハーゼン、正気か」
「大丈夫だ。ユトは私達を傷付けはしない」


 また一歩歩いても羽は当たらないので、まだ大丈夫なようだ。鼻が触れる所までゆっくり進むと、ユトが背中を向けている。
 その背中に鼻を擦り付ける。


「ユト、何もしない。もう危険はないぞ」
「・・・・・」
「皆心配している、戻って来い」
「・・・・・」
「ユト・・・私の愛し子」
「・・・なんで」
「?」


私の声に反応し、ユトが振り向いた。


「なんでオレを捨てなかったの?お前の前で折られたくなかった」
「ッ!!!」


 私はその言葉を瞬時に理解した。いや、ユトを一目見た時から理解していたのに向き合おうとしなかっただけだ。


「お前なんだな、ユストゥエル」


 ユトは首を縦に振る。おそらくユト本人の意識はないのだろうが、額を胸元に近付けると私の頭を抱締める。


「でも今は《ユト》だ。ユストゥエルではない、わかるか」


 抱締める腕が強張ると身体を離して私を見た。美しい銀の瞳が揺れている。


「わかる・・・わかるよ、ロギア」
「ユト」


 ユトが戻って来た。もう一度私にしがみつくと、しっかりと抱き締めくれる。私のユト、愛しい私のユト。


「水をさして悪いが、一体何がおきているんだ」
「チッ」
「おい、舌打ちするな」


 すっかり忘れていた、クォデネンツ。だが魔法陣も赤い羽も消えていて、ひとまずは安堵するべきだな。使用人達も遠巻きに見ているが、恐れではなく心配が伝わってくる。
 皆には申し訳ない事をした。後で頭を下げよう。


「ユト、大丈夫か?」
「ルシエス、大丈夫だよ。ごめんな」
「まずは休め。話はそれからだ」
「うん」
「ユト・・・すまない」
「ルシエス」


 クォデネンツが申し訳なさそうな顔をして気落ちしている。さすがに自分のした事を反省しているようだ。
 ユトはクォデネンツに近付くと、抱き着いた。さすがに私もそれは面白くない。だがここは我慢だ。


「ルシエス、ごめんな。オレはお前の気持ちには応えられない。でも大事な家族だ。大好きだ、ルシエス」
「ッ・・・・俺も大好きだ、ユト」


 二人は抱き合う。血の繋がりはなくとも繋がり合う家族という者達。


───だが少し抱擁が長過ぎだぞ


「うわッ」
「あ・・・」
「グルルルルル」


 口でユトの襟首を噛むと、クォデネンツから引っぺがす。片方の前脚でユトを抱き寄せると、ユトが私の前脚を擦っている。さり気なく肉球も押された。


「後でいくらでも触らせてやるから、部屋に戻るぞ」
「えっ!本当だな!あと尻尾もな!」
「・・・・いいだろう」
「やったー!」


 いつものユトに戻ったようだ。それを見届けたクォデネンツは、また改めて訪ねると帰って行った。

 人型に戻ると、ウルベルが駆け寄って来た。


「ロギア様ー!」


 涙がたくさん溢れている。それを袖で拭ってやると、さらに溢れた。


「これではまるで雨のようだな。すまなかった」
「いいんでしゅよ、お辛かったのはロギア様の方でしゅ」
「ウルベルはいつも優しい。それと、オリヴァン・トゥーリ」
「はい、お館様・・・」
「私の大事な配下をよく守った、礼を言う」
「・・・ありがとうございます」


 私が礼を言うとは思わなかったのか、トゥーリは安心したのかいつもの笑顔を向けた。


 頭を撫でてやると涙は止まり、ウルベルにも笑顔が戻った。アラデアも気が抜けたのか珍しく座り込んでいる。


「さて、私はユトを休ませる。しばらく部屋にこもるぞ」
「はい、後はお任せ下さい」


 アラデアは私の言葉にまた気を引き締めて、いつもの仕事顔になった。使用人達へ目配せすると、皆笑顔でお辞儀をしている。彼等はいい使用人だ、この先も良好な関係を築けるだろう。


「さて、行くぞ」
「っ、うん」


 ユトを持ち上げて横に抱くと大人しくしがみついてきた。いつもなら元気よくわめいているのに。気を良くしたので、髪や頬にキスしてやるとさすがに少し怒られた。
 そんなやり取りをしながら私の部屋へと向かう。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 お互い汚れを落とすため風呂で身体を清めた。ユトは相変わらず大人しく洗われていてる。私も洗って欲しいと魔獣化しようとするが、そのままでいいと言われ洗われる。隅々とまではいかないが、ユトに髪や肌を触られるのは心地いい。
 性的な意味で触れる事もなく風呂から上がると、バスローブを着せてやり寝室のベッドに横にするがすぐに起き上がろうとする。

寝ていろと、体重を預けて覆い被さった。


「なぁ、ロギアっていつから魔王なんだ?」
「そうだな、何百年も昔のことで忘れてしまったが魔王になったのは彼と約束したからだ」
「彼・・・・って、ユストゥエル・・だっけ?記憶があいまいなんだけど」
「そうだ。ユストゥエルは神族の王だった。ただ理由は色々あるのだろうが、魔族の血も半分受け継いでいてかなり異質な存在だった。出会った頃はまだ種族間の対立もさほど大きくはなく、私も興味本位で彼と何度か対話していくうちに打ち解けていった」
「ユストゥエルのこと、愛してたのか?」
「愛していた」
「ッ」


 私は確かにユストゥエルに惹かれ、愛していた。彼の口癖はいつも「ィアーリウェアに生まれた命は平等」だった。きっと彼が2つの異なる種族の命を受け継いだ事にあるだろう。
 はっきりと答えた彼への想いに、ユトは一瞬息を呑む。安心させるように抱締める。


「私はユトを愛している」
「オレは・・・」
「以前も言ったが応える必要も答えを探す必要もない。ただ私はユトを愛しているということで、今の生に意味があると思わせておいてくれ」
「・・・・うん」
「先程の続きだが、程なくして種族間の争いが激化した。神王の力でも抑えは難しく、その場を平定させるには停戦が必要だった。ユストゥエルは何となく私が魔王になれば上手くやっていけそうと口にしたので、私も何となく魔獣王として名乗り出た。おかげで当時の魔王と激突し勝利すると、本物の魔王になったがな」
「ロギアってそういうマイペースなとこあるよな」
「私は本能に忠実だからな」
「それでめでたしめでたし?」
「いや、ユストゥエルが死んだ」
「・・・えっ」
「ユストゥエルは当時友好を結んでいた勇者クォデネンツの聖剣に選ばれ、戦いを拒んで彼に折られた。私の目の前で・・・」


今でも覚えている。彼の最期を。


───オレが居るから戦いが終わらないなら、オレを捨ててくれ。お前の剣にはならない。彼を、愛してるんだ


 ユストゥエルは私を愛していたが、私は受け入れを拒んだ。そしてクォデネンツは、ユストゥエルを愛していた。
 拒まれたクォデネンツは聖剣を折った・・・・。


「私はそれがきっかけで魔力の暴走を起こし大地を焼き、瘴気を放った。魔力が尽きた所をクォデネンツに討伐されたというのが、500年だ。その前に聖剣の欠片を配下に託し、ウルベル達を逃した。来たるべき時のために」
「・・・ロギア、今も辛いか?」
「辛くないと言えば彼に申し訳ないが、今はユトの側にいれて幸せだ」
「うん・・・・」
「どうか私と幸せな時間を許される限り過ごして欲しい」


 伝えるべき想いは伝えた。例えユトがそれでも受け入れられずにここを去っても、悔いはない。二度目の生を楽しくとユトに教えられ、大切な物がたくさん増えた。
 ふと、ユトが私の頬に触れる。


 あぁ、銀の瞳が美しいな。彼とはまた違う意志のある強い瞳だ。



「ロギアが好きだ」


ユトは迷いもなくそう言った。
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