福引きで当てた魔獣王の愛し子

れく高速横歩き犬

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29精霊の泉へ

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 いよいよ精霊の泉に出発の朝、目が覚めると隣にはロギアは居なかった。いつもは当たり前みたいに抱き着いてたり、キスしておはようって言ってたのが全部夢だったみたいだ。


「・・・ロギア、オレもやるべき事をちゃんとして来るからな。そしたらまたたくさん抱きしめさせてくれ」


 起き上がり身支度を整えると、すでに玄関先にルシエスと屋敷の皆が待っていてくれた。


「おはよう、ユト」
「おはようございましゅ、ユトさん」
「おはよう。二人ともいいか」
「問題ない。むしろサクッと終わらせて俺とユトの未来について語る方が重要だ」
「またそれ・・・」
「ユトさん、わたくしもしっかり努めを果たしましゅ」
「ウルベル君も危険だとわかったら、オレを置いてでも逃げるんだ」
「ユト、絶対戻って来るよね・・・」
「オリヴァン、屋敷を頼んだ。オレ達が失敗したらここまで神族が侵攻して来るかもしれない。そしたらメイドちゃん達と逃げてくれ」
「いいえ!私達も戦います!主様の帰りを待つのもメイドの努めですから」
「みんな・・・わかった。屋敷を頼む」
「ユト」
「アラデア君」


 ロギアが不在の今、屋敷を守れるのはアラデア君だけが頼りだ。オレはアラデア君の手を取った。


「ウルベル君はちゃんと守るからな」
「そういう事を言って欲しいんじゃない!すぐ帰って来るとか、ロギア様のように余裕で言った方が僕達も安心して送り出せるだろうが」
「ロギアがそんな事を?」
「今朝方出立する前にな」
「どこに行ったかわかるか?」
「いや、さすがに僕達にも告げずに行かれたがロギア様は笑ってたからきっと大丈夫だ」
「・・・そうか。わかった、オレたちもすぐ帰るから!お土産に月の実ももらって来よう!」
「・・フハッ!さすがにそれは多く貰い過ぎだろう!でも、楽しみにしているからな」
「ああ、行ってくる!」


 庭に出ると馬がない。ウルベル君に聞いてみる。


「ウルベル君、馬は?」
「あ、はい、ご用意はしてませんでしゅ。お二人はわたくしに乗って行くので」
「え?」
「お二人はわたくしに乗って行くので」
「そんな可愛く2回も言わなくても聞こえたけど、ウルベル君に乗って行く?」
「はい、少々お待ちを・・・」


 ウルベル君はちょっと離れた所に短い足でトコトコと走り出すと眩い光を放つ。眩しくて一瞬目を瞑るけど、開けると目の前にはとんでもないデカいキツネ・・・というか神獣ウルベル君がちょこんと座っていた。


「お二人共、お乗り下さいでしゅ」
「・・・・・・か」
「ユトさん?」
「可愛いーーーーーー!!!!!」
「うきゃーーーーーー!!!!!」


 もうダッシュでウルベル君めがけて飛び付いた。そして柔らかな胸の毛並みに埋もれる・・・最高だ。ここが伝説の楽園だったのか。
 でも後ろから伸びてきた手に掴まれて、オレは楽園から引き離された。


「ああッ!オレの楽園が!」
「ユト、獣と遊んでる場合じゃないだろう」
「・・・・そうだった。ウルベル君には全部終わったらまた抱きつかせてもらおう」
「どうぞでしゅ。早く帰って来ましょうね」
「なら俺はユトとデートだな。3ヶ月くらい有給を皇帝陛下からもぎ取り、旅行もいいな」
「また皇帝陛下もぎ取って・・・ふぅ、わかった。いいよ」
「フフン」
「ズルいぞ!なら僕は1ヶ月・・・いや1週間ユトの膝を独占だ!月の実付きでな!」
「あ、私達はこの話をネタに本を作らせて欲しいです」
「ユトを私の婿に貰うのもありだな」
「え、ならユトをトゥーリ家の養子に迎えて俺と兄弟もありかなぁ」
「・・・・・・・・・・・・・・・おい」


 屋敷の皆がさり気なく願望を曝け出して来た。控え目なオリヴァン君まで・・・。まぁ、平和的でいいか。オレとルシエスはウルベル君に乗ると手を振った。皆も手を振り返してくれる。
 そして真っ直ぐに精霊の泉へと走り出した。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 東の村まではあっと言う間に着いた。途中でウルベル君はタヌキの姿に戻ると、後は徒歩だけどタヌキなウルベル君は何て説明しよう。ペットはかわいそうだし・・・・ぬいぐるみ?ぬいぐるみで通そう。
 幸い村の人は特に気にしてなかったけど、ぬいぐるみ持ってるオレを痛そうな目で見てきたのは言うまでもない。でもルシエスに持たせても、なんか今後の騎士団長としての名誉に関わる気がしてやめといた。ちなみにマントをかぶせて騎士団長ってバレないようにしている。


 この村で出会ったおじいさんの家を訪ねると、とてもビックリしたけど嬉しそうに出迎えてくれた。マントを外したルシエスに腰を抜かしてたけど。
 相変わらず村人からは精霊の泉を見た嘘付き呼ばわりされてるみたいだけど、本人はもう気にしてなかった。それよりウルベル君に興味津々だった。


「ほおほお、このめんこいタヌキが聖霊様とは長生きしてみるもんじゃ」
「ウルベル君は可愛いだけじゃなく、家事もこなす有能な可愛い精霊です」
「ほほお!そうじゃ、アレが育ったぞ」
「アレ?」


 おじいさんは棚の奥から鉢植えを持ってくると、テーブルに置く。


「妖精樹だ!」
「あれから丹念に世話して芽が出たんじゃ。ミスラは精霊の気が多いからな」
「スゴい」


 鉢植えの中には緑の葉っぱがちょこんと顔を出していた。おじいさん、ちゃんと育ててくれてよかった。


「ところでお前さん、また精霊の泉へ行くのか?」
「うん。ちょっと用があって」
「今夜は満月じゃからな。多分また会えると思うが」
「そうだ、おじいさんも一緒に来てよ。多分ツンデレ妹の方が説得しづらそうだし」
「わしもか?構わないが、ツンデレとは・・?」
「何でもない」


 日が暮れる頃までおじいさんの家で待たせてもらって、夜に森へ入った。森に入るとウルベル君は元の巨大キツネになってまた腰の抜けたおじいさんを背中に乗せた。
 ルシエスが先頭に立ちしばらく森の中へ進むと、雰囲気が変わる。木々が大きく左右に動き出し道を作り出した。そのまま歩くといつの間にか泉に辿り着いていた。

 あの時と違うのは、あちこちに妖精樹が生えていて光る何かがフヨフヨ浮いている。幻想的だ。光る何かが一つオレにくっつくと、声が聴こえてきた。



───やあ!ユト、また会えて嬉しいよ!


「月のお兄さんの方、久しぶり!オレも嬉しい」


───また来たの!今度は月の実なんてあげないから


「妹ちゃんも相変わらず手厳しいなぁ。今日は手土産持って来たよ」


───手土産・・・フンッ!物で精霊を釣ろうなんて人間のなんて愚かなこ・・・・



「いやぁ~聖霊様の背中は快適だったわい」
「喜んで貰えてよかったでしゅ」
「手土産のおじいさんです」
「ん?」


───いやぁああああああああああああ!!!!!


「うおっ!?ビックリした」


───あ、ゴメンね。妹はちょっと錯乱して引っ込んだけどまた出てくるから。でも喜んでるみたいだから。


「そうか?よかった」


───それで、僕達にまた用があるんでしょ?


「うん、実は聖剣の欠片を破壊するのに精霊の力を貸してほしくてさ。月の双子はできないかな?」


───これはまた大きく出たね。聖剣と君は何か関係があるのかな?


「実は、オレは神王ユストゥエルの生まれ変わりらしくて隣のルシエスは勇者クォデネンツの末裔なんだ。今神族が帝国に侵攻して来て、多分クォデネンツが500年前に聖剣ユストゥエルを折った欠片を狙ってるのかなって。・・・ロギアが」


───情報量が多いなぁ。妖精樹が活発したと思ったら、神族が来てたのかぁ。聖剣を折っていいのかい?人間は喉から手が出るほど欲しいんだろ?


「こんな争いの種にしかならない物なんてなくていいんだよ。どうなんだ?出来ないかな」


───できるわよ


 あ、妹ちゃんが戻って来たみたいだ。ちょっと声がまだ震えてるけど。


───でも私は力を貸さないわよ。他種族の争いになんて関わる気もないもの。


「そうかぁ・・・せっかくおじいさんが妖精樹を育てて芽が出たのに。君はそれを目にする事もなくおじいさんと妖精樹を失うんだね」


───え・・・ま、待って!


「おじいさん、ルシエス・・・ウルベル君、ゴメンな。オレの力が足りなかったみたいだ」
「何の事かはわからんが、お前さんはわしを嘘付きから開放してくれた恩人じゃ。なに、妖精樹がなくなっても聖霊様が生きていればまた生えてくるさ」
「ユトはよくやった。聖霊は俺達を見放したが、お前は最後まで他種族の事も考えていたんだからな。神族が攻めて来てもお前は必ず守る」
「ユトさん、わたくしも神獣なのにお役に立てずに申し訳ないでしゅ。わたくしの魔力が足りないばかりにここまで来てロギア様にも合わせる顔がないでしゅ・・・」


───ちょっと待ちさないよ!!!


「なんだい、妹ちゃん?騒がしくしてゴメンな、オレ達もう帰るから」


───私を悪者にして帰らないでよ!しかもそこの神獣様は私達より格上じゃないの!断れないじゃないの!おじいさんまで盾にして・・・


「なんと・・・月の聖霊様はもう一人おられたのか?」
「そうだよ。双子の妹ちゃんの方がおじいさんを助けたんだよ」
「そうだっんじゃな・・・月の片割れの聖霊様、あの時は貴方様達のおかけで助かりました。こうやって御礼を言える日が来るとは・・・」


───お、おじいさん・・・私も、おじいさんと会えてよかった。私達をずっと見守って森まで来てくれてたんだもの・・・私は・・


 お・・・?おじいさんと妹ちゃんのラブロマンスが展開されている。


───僕達は剣になろう


───いいわ、なってあげる。その代わり私達に何かメリットがあるのかしら?



「あると言えばあるかな?剣になったら物理的に移動出来るから、会いたい時におじいさんに会えるよ。持ち主は皇帝陛下か、ルシエスになるけど。皇帝陛下は聖剣を使うのを反対みたいだし、少なくとも戦いでは使われないと思う」


───わかった、ユトを信じるよ。本当はユトに持っていてもらいたいけど


「では、俺が所有権を認められたら後にユトへ託す事にしよう」
「いいのか?」
「俺は剣よりユトが欲しいけど無理そうだからな」
「・・・・ゴメン」


───話は決まったね。じゃあさっそくやろうか


「うん、お願い」



 精霊の泉が淡く光りだすと、フヨフヨ浮いている光の玉が真ん中に集まりだす。中心に全て集まると渦を巻くように回転しだして、泉の水まで巻き上げると光の玉は見えなくなった。だんだん眩く光ると水ごと弾ける。
 泉が雨のように降り注ぐ中、先程の場所には水もなくなりひと振りの剣が浮かんでいた。


ガラスのように透き通った白い剣、精霊の剣だ。

 
 ルシエスが歩き出して柄を掴むと、剣は一瞬光ると重みのある普通の剣となったみたいでルシエスが数回空を斬っていた。
 振り返って頷く。


「成功したんだな」
「精霊の剣だ。これなら聖剣の欠片を斬れるだろう」
「うん。ルシエス、剣を持ってウルベル君と南へ急いでくれ」
「わかった。ユトは?」
「オレは行かないといけない所があるんだ」
「・・・そうか。気を付けてな」
「ルシエスも。ウルベル君、頼む」
「お任せ下さいでしゅ」


 ルシエスを乗せたウルベル君は、あっという間に走り去った。オレはおじいさんを家に戻すと馬を借りて先を急ぐ。



ロギアが向かった先へ・・・・。
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