黒衣の将軍と竜神の花嫁

ほづみ

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37.将軍は花嫁に囚われる 1

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 アイリーンをソファに寝かせてジェラルドが部屋の外に出ると、廊下にマリエが立っていた。北の氷狼族に侵入されやすい北部国境のとある町で、氷狼族によって家族を失い途方に暮れていたところをジェラルドが引き取ったのだから覚えている。

 男のかっこうをしたガリガリの子どもだった。女の子だと知り驚いたと同時に、そんなかっこうをしなければどんな目に遭うかわからない場所で生きてきたことに心が痛んだ。
 男の子に見えるという点ではアイリーンと似ているが、アイリーンとは境遇が決定的に違う。
 アイリーンは守ってくれる人たちがいたが、マリエにはいなかった。

 この世の中は不公平だ。

 帝都のど真ん中では命を脅かされることもなく贅沢に暮らす人もいるかと思えば、罪もないのに生まれた場所が国土の外れだというだけで、命を脅かされる人もいる。
 自分の任務は、こうしたともすれば零れ落ちてしまう人の命を救うことにあるのだと思っている。

「どうした?」

 マリエは誰も行方を知らないというアイリーンの居場所をすぐに言い当てた。そのことからも、アイリーンと親しくしていたことが見て取れる。

「アイリーン様のことについて、お話があります」

 本来なら使用人が直接、主人に声をかけることは許されていない。執事あるいはメイド頭を通すのがマナーだからだ。それをすっ飛ばしてきていること、マリエがどこか思いつめた顔をしていることから、立ち話で聞く内容ではないのかもしれないと書斎へ連れていく。
 そこで聞いた話は、ジェラルドが想像していたよりもずいぶんひどいものだった。そして音を上げず明るく振る舞うアイリーンに協力的な使用人もちらほらいる、と聞いてなぜだか嬉しくなった。
 それにしても、だ……。

 母のアイリーンの仕打ちには思わず頭を抱えそうになった。
 どうしてそこまでいじめることができるのか。

 おそらくはアイリーンが山奥に住む、謎に満ちた竜族だからだろう。実在していることは知られているが、その姿を見た者はほとんどいないということもあるし、暁の帝国との交流もないことから、帝国での竜族のイメージは未開、蛮族、それから不思議な力を持つ血の持ち主。
 少数民族というよりは、珍獣扱いである。

 それを裏付けるようなアイリーンの見た目と傍若無人な態度。あれを帝国の物差しで「姫」というのはかなり厳しい。
 だが、ジェラルドはアイリーンを気に入っているのだ。

 明るくて、前向きで、表情豊か。そして彼女の中には、守るべき大切なもの――家族や、故郷――がはっきりとある。その大切なものは、ジェラルドにとっても価値があるもの。
 加えて、マリエから聞いたアイリーンの打たれ強さ。これはもう称賛に価する。
 アイリーンはこの国に来て間もない。なぜもう少し大目に見てやれないのか。
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