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2話 友達がくる
3.犬泥棒
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家主が居なくなると、部屋はしばししんとした。
クッションの上に立ち上がったあずきは、あつしをじっと見上げる。彼は背が高い。靴下を履いた足だけで犬の姿のあずきくらいありそうだ。
あつしは何も言わずに、あずきのいるクッションのあるソファとテーブルの間に腰を下ろした。
何だか無表情で冷たそうな人だ……あずきは間近で彼の顔を見てそう思った。
いつも見る京の顔とも前の飼い主のおばあちゃんともあつしは全然似てない。その切長の綺麗な目はどこか威圧的で、何もされてないけど怖いような気さえする。
「あずき?」
「……ヒャン」
急に名前を呼ばれ変な鳴き声が出た。
声も低くて余計に怖くなってきた。はやく京が帰ってこないかな……そう思ってあつしの顔を見上げていた。
「……あずきちゃんっていうの?」
「ヒャ……?」
あつしの両手が両前足に掛かった。危険を感じて後ろ足で踏ん張ったけど、甲斐なくずるずると引きずられクッションごと移動してしまった。
ひょいと持ち上げられ膝の上に乗せられる。怖いと感じた無表情な顔がどんどん近付いてくる……。
「あずきちゃん?」
「ヒャ」
「自分のお名前分かるの?」
「……ヒャン……?」
「えらいねぇ、おぼえたの? お返事できるの? あーもう可愛☆∝*◆∥⌘‰×℃\」
「■∬∝∂◆※☆〻⁂§」
全力で頬擦りされながら、あずきは今までとは違う恐怖感に晒されていた。
……——あつしはたまによくいる動物の前で脳が蕩けるタイプの人だった。
ピーがカゴの中からいつもの冷めた目でこちらを見てる。あのインコは多分全て知ってたのだろう。
しかし彼は憐れな囚われの鳥で、あずきは力ない小さな豆柴に過ぎない。誰も彼を止められなかった。
「あーもう……たまらん、可愛い……ポケットとかに入れて持って帰れねぇかなぁーー」
そんな犬泥棒はご免だとあずきは思った。
火がつきそうなほど頬擦りされてから、頬袋を伸ばされソファの上をコロコロ転がされ、ひっくり返されて腹をくすぐり散らかされる頃にはこれは夢かも知れないと思いはじめていた。
……——「ただいまーっ……あれっ? 何だ、遊んでやんなかったの?」
ハッと気が付くと、あずきは元のクッションの上に四足でちゃんと立っていた。
ソファに座ったあつしはスマホを弄ってる。
今までの出来事は白昼夢だったんだろうか……しかし、よくみるとあつしの顔にさっきまでなかった赤茶色の毛がついてる。やはり夢ではないのだ。
痒そうに頬を掻いて、摘んだ毛をあつしは無言で放り投げた。
「何か……あずきボサボサになってない?」
「は? ちゃんとブラッシングしてやれよ」
「してるよ! おっかしいなぁ」
京が乱れた毛並みをなでて直してくれる。
やっぱり飼い主は京がいいとあずきは思った。
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