豆柴彼女。

ちゃあき

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2話 友達がくる

2.あずきと友達

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□□□


「……今駅出たから、こっから10分くらいだよな?」
「うん、待ってるわ」

 通話を切って、気に入ったらしいクッションに座ってるあずきに向き直った。
 今日のあずきは人間の姿だ。気がつくとよく姿が変わってる。

 本人の気分や利便性を鑑みて、ヒトだったりイヌだったりするらしい。赤茶色の癖毛と丸い黒い目、今日も短いタレた眉毛の間には皺が寄ってる。

「お友達ですかっ」
「そうだよ。でもマンガ置いたらすぐ出掛けるから、そんなに心配しなくても大丈夫だよ」

 そうですかっと元気よく返事をしたあずきは、やはりやや緊張した面持ちだった。

 そう言えば、あずきが僕の知り合いに会うのははじめてだ。あつしも犬は好きだと言うし、そういう常識はある奴だから特に心配はしてない。

 今から来る人も柴犬飼ってるんだってとあずきに教えると、へえっと言って目が輝いた。

 遊んでもらえると思ったんだろうか……残念ながらあつしはそういうタイプには見えない。けど期待してるみたいだし、実際に対面するまで様子を見てみようと思った。


「京ーー」

 ドンドンとドアが叩かれる。あずきはびくりとして一瞬で犬の姿になった。

 大声出すなよと言いながら、あつしを玄関に入れる。キン○ダムの単行本が入ったショッパーをドサりと床に置いたあつしは、キョロキョロ辺りを見回す。
 すぐにリビングのクッションにちょこんと座るあずきに目をとめた。

「……あ、それ」
「そうそう。あずきっていうの」
「へぇ……♂? ♀?」
「♀」

 表情は変わらないけどあずきに興味を示してるのは分かる。
 一方のあずきも緊張した面持ちながらあつしの顔をじっと見ている。彼女も女の子だから、ひょっとしたらあつしの事は好きかもしれない。

 ちょっと上がって行けよと言うと仏頂面のまま素直に靴を脱いだ。やっぱりあずきが気になるんだろうと思い密かに笑った。

「……小宮さぁん? いる?」
「はぁい?」

 ふと、ドアの向こうから聞き覚えのある声がした。
 ドアを開けると初老の女性が立ってる。彼女はこのアパートの大家さんだ。人が入っていくのが見えたから追いかけて来たらしい。

 この人は無類の動物好きで、自分でもサルと猫を飼ってる(内見の時に見せてくれた)。同時に先祖代々の土地持ちで、自分の持ってる物件をペット可にして賃貸に出してるそうだ。

 あずきが増えたことはすでに届を出してる。何かと思ったら来月の家賃の回収をしてたらしい。

 事務所の近所の物件の住人は、月末手渡しで支払いに行く。それは住人がペットを置いて失踪したり、急病してないか確かめるためだそうだ。

 こういう命かけてる感じに共感して、僕もこの部屋を借りさせてもらった。

「あつし、ちょっとあずきと遊んでやっててくれる?」
「いいけど」

 家賃はすでに引き出してあったけど、大家さんは領収書を忘れたらしい。持ってくると言われたが、なんだか申し訳なくて道向かいの事務所まで一緒に行く事にした。

 あつしとあずきの2人(?)の間でトラブルなんて起きようがないだろ。ほんの10分20分の事だし、2人を残して家を出た。
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