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4話 幻じゃない子犬
2.お店
しおりを挟む「ココアさんはこの辺を仕切ってる総長なんですっ」
帰宅して手脚を拭いてから放してやると、人間の姿になったあずきは先ほど出会ったクリーム色のチワワについて教えてくれた。
なんでも彼女は周辺の犬たちを仕切っているボス犬らしい。あずきも野良時代にずいぶん世話になったそうだ。
……あの愛らしい容姿からは全く想像ができない。
しかし確かに子犬を組み敷いてたし、自分の身体より大きな杭を抜いて逃げてきたというし。
「だからあの茶色いやつはココアさんにシメられてたんだと思うんですっ」
そんなに厳格な序列が……というか、この豆柴とあのチワワがそんなにグレてるとは思いもしなかった。
あの茶色い子の存在はあずきも知らなかったそうだ。あずきがうちに来たあとこのあたりに迷い込んだのだろうか。
「あずきもココアちゃんみたいによそ者をシメたりするの?」
「それは場合によりますねっ」
「あっ、それはするという……」
あずき的にはよそ者であれば必ずしも制裁を受ける訳ではないといいたかったのだろう。
それ以前にするかしないかを問いたかった僕の思惑も同時に果たされたが、結果については戸惑いを禁じえない。
あずきはよそ者をシメる犬だ。
□□□
翌週の水曜、午前中は講義がないから木蓮さんのお店に行ってみる事にした。あつしもあずきと遊びたがってたけど、授業があるから諦めてた。
木蓮さんのお店は川沿いの元バーベキューハウスの跡地にあった。
外装はきれいに塗り替えられて、カフェココアと書かれた看板にチワワの似顔絵が添えられてる。……——どちらかといえば女の人向けっぽい。
入っていいものか迷ったけど、あずきもいる事だし意を決して引き戸を開いた。
カランカランとドアのカウベルが鳴る。いらっしゃいませと声がかかった。
「あっ! この間の」
「ほんとに来ちゃったんですけど良かったですか?」
何言ってるのと木蓮さんは笑った。この間と同じ白シャツに黒いエプロン姿だ。ロングヘアをまとめ髪にしてるのがかっこいい。
カウンターの端に繋がれてたココアがピャンピャン吠えた。
「こら! ココア興奮しないでっ……ごめんね、あづきちゃんの事気になるみたい。好きな所に座って」
テーブル席に奥様っぽい小型犬連れのグループと新聞を読んでるおじいさんがいた。
会釈してカウンターの端に座る。あずきは真っ先にココアに飛びついてじゃれていた。
「あずきもココアちゃんの事好きみたいなんですよね」
「ほんと? ならよかった。メニューどうぞ。お腹減ってる?」
おすすめとかあります? と聞くと軽食のページを開いてあれこれ説明してくれた。
料理は色々と開発中で今はパンケーキかおにぎりメインの定食的なものを試験的に出してるらしい。
それから……コーヒーは木蓮さんの趣味で外国の豆を数種類自分で探してきて、お客さんの好みに合わせて出してあげてるそうだ。
確かにドリンクのページはコーヒーの画像と特徴の説明が充実してる。読んでてちょっと面白い。
あずきちゃんはこっちと言ってペット用のメニューも出してくれた。
こっちはペットフードと鶏肉・野菜メインだ。盛り付けが鮮やかで中々ボリュームがありそうだった。
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