最強の魔道師に成り上がって、人気者のアイドルをやってるんですけど、燃え尽きて死んじゃうぐらいやらないとダメな前のめりな性格なんです。

ちちんぷいぷい

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親衛隊長

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剣を構え、親衛隊に指示を出しているベルナルドの足元で
丁重に庇護されている、ソフィアが酷く衰弱しているのを
ラスマールが感じていないわけがない。
手当てを急がねばならない焦りからくる動揺はあるが
飄々(ひょうひょう)とした感じで、表に出さないで答える。

「ふむ、なるほど、ここは王子のおうせのとおり尻尾を巻いて
惨めに、敵に背中と尻を見せて逃げる事にいたしますかな。
ですが、巫女は酷く、お疲れのようです、一人では馬にも乗れませんな」

ソフィアに癒しの魔法をかけている時間さえも惜しまれる
一刻を争う状況だという事はラスマールも解かっているが
あえて、周囲に対して、飄々とした、不敵な態度は崩さない。

「しかし、私は王子である前に親衛隊長だ
命令に従う兵士を見捨てて、自分だけ逃げるわけには、それは卑怯だ……」

ラスマールはソフィアを連れて、一緒に馬で逃げるように
回りくどく説得をしているのだが
王子に親衛隊を置き去りにして逃げる事は拒否されてしまう。

王子の話を周囲を警戒しながら、じれったそうに聞いていた
副隊長ラッセルは近づいてきた敵を見つけるとその前に立ちはだかり
襲ってきた敵の攻撃をかわすと、振り向きざまに鎧の隙間を狙い
剣で突き刺し、傷をかばいながら、目の前で倒れた敵の急所にとどめの一撃を加える。

足下で、最後の声を上げ絶命した敵を確認すると、素早く剣を敵の身体から引き抜いて
また周囲を警戒しながら、元盗賊らしく、素早く傍に駆け寄って来て
王子の横で、足をそろえて直立し、剣を肩において叩きながら
親衛隊の兵士の誰もが賛同する事を平然と頼もしく言う。

「都合のいい事に隊長は、もう一人ここにいますぜ、元でよければよ。
それに王子には、まず、やるべき事があるんじゃ」

衰弱しきり、足元で眠るように目を閉じている
ソフィアを、隻眼で見ながら、冷静に状況を認識している
副隊長のラッセルも王子に早く、この場から逃げるように急かしている。

国王が傍でソフィアを護りたい一心でいる
王子の気持ちを察したのか、特別の取りはからいで
騎兵隊長から親衛隊の隊長として、割り込む事になったのだから
目的を忘れて、只の親衛隊長役だけに徹しては
本末転倒だとはっきり言い切られたのだ。

自分のお陰で、迷惑を被(こうむ)っているはずの
元隊長にこれを言われては、ベルナルドは隊長として、もはや返す言葉もない。
ラッセルからすれば王族である王子も護る対象であるはずなのに
親衛隊の手柄を、護られる側の王子が横取りしているのもおかしな話だ。

「ラッセルーー」

迷いを一刀両断された王子は、ラスマールに一緒に逃げる事を承諾する。
親衛隊長就任時から、この瞬間まで一貫して
ラッセルは王だけでなく、王族を護る親衛隊として
自分の役割を理解しきって、全て言動をしている。

「ふむ、後ろから追って来る敵を我らだけでは撃退できませんからな」

後ろから来る、追っ手と戦う魔法を放つまでの時間を稼げる
腕の立つ騎士が戦力として一人でもいてほしいのはラスマールの逃げる上での本音だ。

「まっ、見てのとおり、こちらも余裕はありませんぜ
ラスマール先生よ。でもついてるね
馬の扱いは間違いない、元騎兵隊長が都合よくいるんで、それで御勘弁ときたもんだ」

上に割り込んできた隊長らしくなく、元隊長である自分を尊重し
自分の意見を理解して受け入れてくれる、王子に
親衛隊の兵士として、忠誠を誓う王に負けないぐらいの何か別の大きな魅力を
直感的に感じとっていたラッセルは元盗賊でありながら
王族相手としてよりも、一人の若者として
おせっかいにも、いろいろと見下ろしたように
世話を焼く様な事をずけずけとたまに言うが
ここまで他者の色恋ごとに、首を突っ込む事は滅多にはない。

「王子がソフィア様に限らず下々にわけ隔てなく、おやさしいのもわかりますがね
たとえ、それが悪くとも、好きなら時には強引に抱きしめて
かっさらうのも必要ですぜ
人なんていつどうなるかわからんもんですかね
ーーおっと、また性懲りも無く、来やがったな」

直立した姿勢のまま肩に剣を置いていたラッセルは
剣を振り降ろすと、炎の城壁の中で、戦っている親衛隊の兵士の間をすりぬけ
迫ってくる複数の敵に向かって、相変わらず
まるで遠慮しない言葉を残して、走り去っていく。

一国の王子である前に自分の間違いのない未来を信じる若者らしく
今後も何もかもが、全てがうまくいくと信じてきっていた王子は
盗賊から親衛隊長にまで、のし上がった強運のラッセルの勘のいい一言を
深く受け止めて考える事はしなかった。

劣勢だろうと何だろうと味方を鼓舞するため強気に振舞う
ラッセルらしく、気を利かせたつもりで、王子に激励の意味も込め
ソフィアとの今後の関係を茶化しているだけの只の冷やかしだと受け止めてしまう。

「ラッセル、互いに必ず生き延び、また会おう」

背中をみせて、複数の敵を相手にしてようとしているラッセルに
ベルナルドはそう叫んで、戦う剣を鞘に治めたが
必ずしも逃げきれる保障など、どこにもない。
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