最強の魔道師に成り上がって、人気者のアイドルをやってるんですけど、燃え尽きて死んじゃうぐらいやらないとダメな前のめりな性格なんです。

ちちんぷいぷい

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闇(やみ)

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神の怒りを表すように、燃え滾る魔法の太陽を無視し
ためらうことなく、自分達を追いかけて来た
兵士の大勢が瞬きをするような、ほんの一瞬で
余りにも無残に焼き尽くされたのを目にした敵兵は
魔道師達の頭上で、未だに不気味に煌いて輝き
死を宣告する黒い太陽を前に、次に身を焼かれる恐怖を感じて
立っている場所を一歩も動くことさえ出来なくなってしまっている。

「一体なにが、ラッセル、ラスマール!」

馬を降りたベルナルドは無数の敵の兵士が炎に包まれて
焼け焦げながら倒れ込んでいく、容赦の無い太陽神の荒れ狂う
怒りの鉄槌を、その目で全て見届ていた。

「ふむ、先代の火の巫女より表に出す事を固く禁じれらていた魔法ですな
巫女はご存知ないですが、封印されていた古代魔法です」

天空の燃え滾(たぎ)る黒い太陽を魔法の片めがね(モノクル)で
見つめてしてやったりと、いつもどおりの満足した表情を
ラスマールは浮かべて飄々としているが
理由があって禁じられた古代魔法を使用した事などあるわけもなく
皆の命を救うために追い詰められた上での最後の賭けが
見事にうまくいったので、心の内では正直ほっとしていた。

「なんでもよ、ソフィア様の指についているのは
只のお守りじゃなくて、魔石というお宝で
その綺麗な赤い石を使って、超強力な神様の力を借りちまうのさ
奥の手ってやつさ、なっ、ラスマール先生よ」

追い詰められて、諦めるしかなくなってしまったはずが
圧倒的な魔法の力で全てを跳ね返した、あっと言う間の絵に書いたような逆転劇に
決死の作戦を行って、その意味が深くわかっている張本人は
何かを確信したのか、これ以上は戦う必要性はない事を宣言するように
手に持っていた剣を迷いすら無く、そっと鞘に納めた。

「ふむ、全てラッセル殿が提案された作戦ですな」

王子とソフィアをなんとしても、自分が持っている全てをかけて
救出したいと願うラッセルが、どんな魔法でも構わない
必要な時間を自分が犠牲になっても稼ぐ、何か手はないのかと
土壇場で感情的になり、必死で詰め寄ったのだろう。

盗賊の頭領(かしら)として、生きるか死ぬかのを修羅場を
何度も、かいくぐって来た経験と勘が、考える前に自然と作戦を生み出し
ラスマールが見事に期待に応じて見せたのだろう。

「さすが、エリサニア最強と名を轟かすラーラント騎兵隊の元隊長
いやっ、すまねえ、王子は今でも、ずば抜けて強えし、騎士団長のままだった」

エリサニア最強を自負する騎兵隊の隊長になるためには
厳しく決められた騎士の作法にしたがって
前の隊長との決闘を行って、勝利せねば
騎士としての顔も持つ騎兵隊の貴族や勇士達には認めてもらえない。

決闘相手となった叔父でもある王弟ガリバルドは
槍兵として、通常の兵士が持つ騎兵を退けるための
槍の長さを遥かに凌ぐ、エリサニア騎兵が扱う特別な長槍だけでなく
剣の使い手でもあるが、挑戦者のベルナルドは見事に勝利していた。
騎兵隊長となると同時に、火のような力を何よりも重んじている
国柄のラーラント最強の騎士達の頂点に立つ
騎士団長として、王国中から認められる存在となる。

ラッセルも、親衛隊に来た王子と訓練で、何度も剣を交えた事はあるが
素早さを利用した変幻自在の攻撃を、全て剣で受け止められて
気がつくと、劣勢に追い込まれてしまい鋭い一撃で受け止めた自らの剣を
へし折られないように受けながすのが精一杯で、一度も勝った事はないどころか
一騎打ちでは、勝てる気すらした事はない。

自分を引き上げ、後ろ立てになってくれていた
アウグスト王が、わざわざラッセルに直接告げるほどの
恐るべき何か秘めているとしか思えないような
抜きん出た強さを持っている事を、実際に戦って知っているからこそ
王子がある程度の粘り強さを見せる事も頭に入れての撤退を偽装した
味方さえ騙しぬく、結果からすれば見事に考え抜かれたような
敵の意表を突く作戦だったのはたしかだが
予想より王子が粘ったからこそ、逃げたと思わせておいてからの
敵の油断を突いた奇襲が奇跡的に間に合い、見事に成功したのだから
はなから、考えて抜いて可能にした作戦なはずがない。

戦場から撤退した、少数の兵士が
わざわざ死ぬために戻ってくるわけがないと考えてしまうだろうと思いがちな
人間の心理をついた元盗賊らしい、駆け引きだけで戦うような大胆な作戦だった。

奇跡のような、たった一人の騎士の手強い抵抗を受け続けていた
敵は予想以上に混乱していて、注意を怠ってしまい
どこからともなく突然のように襲ってきた、少数の騎兵を隠れていた伏兵か
新たな援軍が来たと勘違いして、決して来るはずもない
見えない大勢の相手の姿を勝手に想像して、慌ててしまったのだろう。

「あいつらに、いざという時の為
騎兵の真似事をさせておいたのが、ほんとついてたね」

その手に戦うための剣はもうないが、いつものように
得意げに、直立し足をそろえて、偉そうにしている
ラッセルに親衛隊長として、新任の頃に無茶を言われてしまい
叔父であるガリバルドに頼み込み
騎兵だけが扱う、高価で特別な長槍を親衛隊に
譲ってもらっていた事を王子は思い出した。

通常よりも遥かに長い槍を、騎乗して不安定な馬上から使うためには
才能だけでなく、厳しい訓練がなければ使いこなせる代物ではない事は
隊長として、騎兵を率いていた自分が最も良く知っている。

騎兵隊から来た王族の新任隊長をうまく利用し
才能がある親衛隊の兵士に騎兵をやらせようなどと考える型破りな発想に
騎兵隊に長らくいて、戦いの手本となった貴族達から習って
常にあるべく作法に拘りすぎてしまうようになっていた自分にはない
奇想天外な事を考えるラッセルに最初は戸惑ってしまったのでよく覚えている。

「ふむ、残られました王子と親衛隊の兵士達が命がけで稼いだ時間があってこそ
なしえた事ですな、我らだけでは到底無理でしたでしょう」

ソフィアだけを見捨てる事をよしとしない理想の王国のあり方を掲げた
悲壮な若者の決意に、元盗賊とはいえ義賊としての心を揺り動かされ
二人を救おうと激しく食い下がるラッセルに
大きな賭けとなるが、必要な時間さえあれば
方法はなくはないと告げれば、断れなくなるのをわかっていて
失敗すればソフィアとともに魔道師隊も全滅するしかない覚悟をラスマールと魔道師達は決めたのだ。

「ふむ、ですが、見れば見るほど
あれを人に向かって使うのは、二度としたくはないものですな」

執行された魔法は、先代の火の巫女がラスマールに預けていた
火の精霊教会に伝わる古代の神々との直接契約魔法(ディレクタナル)だ。

神に逆らう者に怒れる太陽神が相手の悪意が消え去り
その身が燃え尽きるまで、復讐と憎悪の終わることのない雨を天空から降らせ続け
かつて、この地上に人を超えた力で、君臨していた闇の支配者らと眷族達を
葬り去ったという言い伝えが残っている強力な魔法だ。

闇が封印され、地上から姿を消してからは
神の力を行使する、全ての古代魔法は人に向けて使用するには
あまりにも破壊力がありすぎ、破滅的で
全てが滅びるまでに、人同士の争いを激化させかねないものとし
危険視され、その多くが信仰者であり賢人、賢者でもある
深い洞察力と見識を持った魔道師達の良識によって
使用される事はなく、固く封印されたまま、忘れられ消え去って行った。

「ふむ、本来の使い手である巫女ならば
我々などとは威力は比べ物にならないですな。
我らですら、あれですから人に対しては
充分すぎと言えるでしょうな」

精霊教会で形のない遺産の一つとして大切に残されている
古代魔法については、必ず代々の巫女は知っているはずだが
常に心の奥底は冷静であるべき魔道師達の長としては
感情に流されてしまいやすく、結果的にやりすぎてしまう所が
見受けられる火の眷属の性格がはっきり出すぎる
ソフィアを先代の巫女が未熟だと心配して
火の巫女を継ぐ者の証明である指輪だけを託し
古代魔法については秘密にして、受け継ぐべき時期については
ラスマールに全て託したそうだ。

「恐るべきは伝説の魔法ですな、ここまでの威力とはーー」

伝説の魔法を先頭に立って、執行した老魔道師が
冷静に一面に転がっている神の怒りを人の身で受けた
敵の焼け焦げた無数の身体を見ると
人による神の裁きの行使が、余りにも一方的なためか
良識がある賢者だからこそ、人が持て余すような力を使ってしまった
罪の意識が沸きあがりはじめると
正直に心の中に、生じ始めた後悔と畏れを、表に出さずにはいられなかった。
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