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マリー
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宇宙に浮かぶ鮮やかな白き宝石。
エリュシオン。
地球の主で、太陽系の主星として赤く燃え盛る恒星
太陽から8番目の惑星である海王星の外
準惑星、冥王星とエッジワース・カイパーベルトの遥か彼方にある
太陽系外縁天体、太陽系第9番惑星。
水惑星の全球が凍結したスノーボールプラネットは
太陽を遠く離れる軌道を描き、2万年に渡る悠久の時を廻る、長き旅を終え
再び太陽に近づき舞い戻ってきた。
故郷の母なる星、地球から離れる覚悟を決めた宇宙植民者達が
二度と帰らぬ旅となるかもしれない太陽系との別れの時に
白き姿で自分達を勇気づけ続ける、最後の使者として
いつの時代も静かに見送る、この惑星に想いを馳せ続けて来た。
太陽系という楽園から離れ、苦難の道を切り開く事を選んだ
人々に特別な敬意を表して、発見時に名づけられた
神話の楽園名を持つことから人類にとって、象徴となる特別な惑星の一つだ。
ラハットと言われる楽園の出口の炎を象徴する名がつけられた
エリュシオンの2つあるうちの一つである衛星を周回する軌道上にある
トロヤ点と言われるラグランジュ点の一つには
小惑星群が存在する場所があり、トロヤ衛星と呼ばれている。
エリュシオンを守護する事を主任務として命じられた
宇宙に浮かぶ巨大な剣のような姿をし、両側に大きな翼を広げた漆黒の艦体が
その白き惑星の衛星の一つとして、小惑星群に追随し、航行している。
肩の下まである青く染めた綺麗な髪を持つ勝気な表情をした
操縦士の白い軍服を着た少女が我慢できないと言った不満そうな憮然とした表情を
アクアマリンの様な淡い青の瞳に映して露にし、居住区の基幹通路を
艦内エレベーターに乗ろうとして、急いでムービングウォークの上を歩いている。
紫の軍服を着た工作班の二人の若い男性技術士官が
正面から少女に向かって歩いてきていて
先に青い髪の少女を認識した士官の一人が、少し緊張した声で
もう一人の士官にとっさに警戒と注意を呼びかける。
「おい、あれ、マリー・イーリスだぜ」
照明の灯りをソフトにやさしく反射する、透明感がある滑らかな白色に
囲まれた壁面には通路の番号が大きな数字で描かれている。
普段は常に開かれているが、一定の間隔で安全の為に
通路を遮蔽するための隔壁と、その隔壁を支える為、少し壁が突き出ている
部分では通路が狭くなっていて、そこでムービングウォークは一時的に途切れている。
「いいか、出来る限りでいいから、目を合わせるんじゃないぞ」
二人の士官は並んで通路の端に立ち
わざとらしくレディーファーストな親切さを装いながら
出来る限り目を合わせようとはしないで、あからさまに少女を避けている。
若い男性士官達の振る舞いに、さらに不機嫌さを増したのか
一人は階級証から明らかに少女の上官であるにも関わらず、挨拶代わりに
士官達をにらみつけながら、足早に通路を少しの距離だけ歩いて
また次のムービングウォークに乗って、少女は背中を見せて遠ざかっていく。
「見た目だけはとんでもなく可愛いけど、騙されるなよ
ありゃ軍の問題児だからな。」
もう一人の技術士官は、その一言に完全に同意しきったような
しょうがないと言った表情を浮かべて、ずっとさっきから黙って聞いている。
「軍法会議の末、軍を除隊になる寸前までなって
辺境のアルタイルまで飛ばされ、スクエアのパイロット適正があるって事で
舞い戻ったんだってよ」
少女の事は、軍全体で有名な話らしく、相槌の返事も返す必要はないようだ。
先ほどまで黙って聞いていただけのもう一人の士官が通り過ぎた少女の
白い後姿を見送りながら、少女について具体的に話しはじめる。
「あれでも、精鋭の第7艦隊では次のエース候補の一人で
後継者として、先の大戦の英雄
灰色熊のウォーレン・マードックに可愛がられてたんだろう」
もう一人の士官は、猛獣はやはり猛獣にしか扱えないという事を言いたいのだろう。
「まあなあ、ご令嬢様はご機嫌を損ねてるようだが、あれしか理由はないんじゃないか」
艦内の監視カメラなどを含めたあらゆるメディアを通じた
情報ネットワークから得たビッグデータを艦中枢の頭脳である
異性人文明のものと言われる技術で実現された超AIが分析して
行き先を予測し、あらかじめ待っていたエレベータまで少女があっという間に辿り着く。
ドアが開いて、誰もいないエレベーターに入った少女は慌てたように
いつも艦内を歩く時にしている青い髪を頭の右後ろで
七色をした虹色の髪飾りで、まとめると
頭の上に突き出し、威嚇するようなヘアスタイルに変える。
格納庫へ向かい出撃する時は気を引き締める為もあって
いつもより丁寧にしっかりと髪留めをつけて向かうようにしているが
出撃するわけでもないので、今はそこまでする必要性は特にないはずだ。
エレベーターの中で、何もない空間から透明の
電子的なウィンドウが出現すると、そこに白い整備服を着た
ものわかりのよさそうな、やさしそうな顔をした整備士の少年が映っている。
「今すぐいくから、ユウキ!」
先ほどエレベーターに乗っていた少女が格納庫の端にある
ムービングウォークに乗りながらおやっさんと皆から呼ばれている
中年の整備士を見つけると二人の間に余計な挨拶など必要ないように声をかける。
「スミスさん、ユウキはどこ?あっちよね」
スミスと言われた中年の整備士は今にも噴出しそうになる気持ちを
必死で抑えて、どこか楽しそうな、相槌のような威勢のいい大きな声で返事を返す。
「マリー、おめえ少し遅かったな」
あらかじめトラブルメーカーのマリーにはマリア・ルカ大尉が着任する事を
航空班の中で、彼女だけには話していない事をスミス・ワイズマンは
当然知っているので、こうなるだろうと思ってはいたが
あまりにも予想が見事に的中したので、大笑いしてしまいそうな寸前だ。
「おうっ、少尉がお気に入りのユウキ・スレイン上等兵はあっちだ」
階級で一応は呼んではいるが、少尉殿としたきちんとした敬称ではないので
自分に対する愛称の一つとして、スミスが少尉と呼んでいるのは承知していて
そこには気を悪くするような問題など一切ないのだが
少女は自分に向かって、何かいつもと違って奇妙でどこか
愉快そうな声で返事をしたスミスに対して怪訝そうな
顔をしたあと、全艦に対しての情報ネットワークを通じて
自分にいきなり知らされたある事にとても腹を立てていた。
マリア・ルカが着任する事は機密として、艦の上層部や
各班をしきる班長クラスと直接関係のある航空班と
その一部関係者しか知らされおらず、当然として口外する事も許されてはいない。
秘密を遵守ができそうもないマリー・イーリスという少女には
皆、不安からか黙っていたようで、先任の少尉として航空班の班長である
上官が不在となる留守を全て任されると思い、気が張り詰めていた所に
自分にいきなり上官が一人出来たので、肩透かしをされたようで
その不満を誰かにぶつけずにはいられないようだ。
スミスがマリーには聞こえないような声でそばにある
少年が映っているウインドウに珍しく
小声で語りかけているがマリーには聞こえない。
「ユウキ……、ユウキ……、シルビア様が今から、そっちに行くから
丁寧に、ご令嬢の心の整備をしっかりして差し上げろよ……」
少女に不審な何かを見るような、しらっとした目で見つめられながら
ヒソヒソと小声でウィンドウに映る少年に語りかけている
整備士のスミス・ワイズマン兵曹長は毎度の楽しいイベントが始まる事に
胸を躍らせて、何やら楽しそうに作業を再開する。
ムービングウォークが少女を格納庫のさらに
奥へ運んでいくと整備の手を止めて逃げ場を失ったような顔をして
追い詰められて、立ち尽くしている、少年整備兵の姿を見つける。
不機嫌な雰囲気を漂わせた少女が少年に遠慮のかけらもなく
歩み寄っていくと、いきなり尋問のような言葉が投げかけられる。
「ユウキ、見た?格納庫にずっといたんでしょ
なんで教えてくれなかったの」
ユウキもマリーがマリア・ルカの着任を知らなかった事は知っているので
見たというのは着任したマリア・ルカ大尉の事しか考えられない。
「皆に言うなって言われてたし、それに見てないよ
もう、そこまでは興味ないからさ、シルビアさん」
マリーは少し疑うような淡く青い瞳で、顔を少しだけ近づけて
じっとユウキの顔をしばらく覗きこんだ後
青い髪を揺らして、また顔を遠ざける。
虹色の髪飾りで
まとめているられている髪は、まるで、相手を威嚇する角のようだ。
「ふ~ん、本当に見てないんだ、でも、あのユウキが興味ないわけないよね
航空学校からの同期で訓練で一緒に飛んだ仲なんだよ、嘘ついてもわかるから。」
マリーとユウキは航空学校での同期生だが
マリーの方が少しだけ年上なので、ユウキはさんづけで呼んでいる。
「私のほうが年上だからさんづけはしょうがないけど
もう君の知ってる、お嬢様のシルビアはやめて
私は、マリー・イーリスなの」
シルビアと言うのはマリーの実名であって、マリー・イーリスは
自らつけた、愛称だ。
軍に正式配属後、戦時という事もあり、すぐに実戦での
大活躍をし、その戦績から既にエースとしての存在を認められていて
彼女の乗る機体は青くカラーリングされているのと
いつもしている虹色の髪留めから
虹の女神の名をとって、異名をブルー・イーリスと言われていて
ブルーサインとか虹と呼ぶものもいる。
その異名と自分と同じで、軍事企業の財閥令嬢である
大好きな母、マリーの名を組み合わせた素敵な愛称だと
ユウキに言い聞かせるような、いつもの解説がはじまる。
「シルビア・ブラッドフォードって名前は嫌なの
特にシルビアは、あいつがつけた名前だから」
あいつと、あっさり言う相手は父親のウイリアム・ブラッドフォード少将の事で
精鋭第7艦隊の任務部隊として、その精鋭中の精鋭である
攻撃部隊を仕切る鉄十字と称され、敵であるシリウス同盟にも
恐れられる将官に対してだ。
除隊確実の軍法を犯したマリーが軍にスクエア適正を認められるまで
なんとか残れていたのも、軍と関係の深い財閥企業のご令嬢なだけでなく
勇猛な将官の愛娘だからと言う訳だ。
「私はもう自分の力で飛んでるの、自分以外の誰の言う通りにもならないわ
たとえ、それが軍だとしてもね、ユウキはどうなの?」
航空学校時代からマリーの事は訓練で成績から1、2を争う
上位者同士でペアを組むことが多かったので
よく知ってるが軍に入っても、その自由奔放な性格は全く変っていない。
お嬢様で育ちで子供の頃から、全てを決められ
お人形のように扱われて、自分を押さえつけられた事に
対する怒りと不満が彼女が生きる原動力みたいになっているのは
ユウキもよく解かってはいるが、とても軍人とは思えない
今でも変らない言動にはネフィリムでのマリーとの再会後も
聞いていてヒヤヒヤさせられっぱなしだ。
「ユウキはいつも私の前を飛んでいたじゃない
私は一度も君を追い抜けなかったのに・・・。
それに一緒に飛んでて、凄く楽しかったし。あっ、ちょっと!」
そばにある空間のウィンドウの中にはおやっさんであるスミスをはじめ
整備士達が楽しげな事を見物するように、にこやかな表情で映ってる。
それに気づいたマリーが恥ずかしそうに
さっきまで軍さえ見下ろしていたくせに
その軍上官の命令だとかなんだと言い出して
なんとかするようにユウキに無茶苦茶を言い出す。
「マリー少尉殿の命令でも、作業中は切れないよ
きちんと分析用データとして記録しておかないと、そういう決まりだから」
誰か他の人に、二人の会話を聞かれている場所では
これ以上は恥ずかしくて話せないので、いつものあの言動が始まる。
「ユウキ・スレイン上等兵にマリー・イーリス少尉として特別任務を命じます
スクエア1号機に搭乗し、2号機ヴァージナルの寮機として
臨時の特別哨戒任務に同行しなさいっ!」
そんな命令が成立するわけがないが、艦長や副長は
毎度の自分が正しいと信じているマリーの言動を
現状は黙認しており、その無言の後押しもあってか
誰も彼女を止められるものはいない。
この無茶苦茶な命令も、建前上はあくまで整備士としての
機体調整の延長線上にある特別整備任務として
ユウキが航空学校の生成優秀な学生だった事もあり
操縦の腕は問題ないので、戦闘以外だからとして
航空班の現場判断として黙認されている。
「マリー少尉、また特別哨戒任務とか
いちいちそんな偵察って都合が良すぎだよ」
整備作業を残して、いきなり無茶苦茶な命令を受けて
不満そうにしている少年が決して、少女に言ってはならない言葉で
最後の抵抗を見せた瞬間、マリーがムッとした表情でにらみつけると
上官命令という事もあって、少年もさすがに降伏せざるを得ない。
「ユウキ・スレイン上等兵、特別哨戒任務というか、え~とっ
スクエア1号機の反物質ドライブの特別調整任務も
兼ね、少尉殿に御同行することに致します」
少女はその言葉にまだ不満な表情で、綺麗な青い髪の
虹色の髪飾りで、まとめられ
角が生えているような、へアスタイルで、威嚇する。
「もしかして、嫌なのユウキくん、ふ~~~ん」
もう、全面降伏して、こう答えるしかない。
「あっ、嫌じゃなく、いや、その・・・。
ユウキ・スレイン上等兵、喜んで少尉殿に御同行し、出撃させて頂きます!」
エリュシオン。
地球の主で、太陽系の主星として赤く燃え盛る恒星
太陽から8番目の惑星である海王星の外
準惑星、冥王星とエッジワース・カイパーベルトの遥か彼方にある
太陽系外縁天体、太陽系第9番惑星。
水惑星の全球が凍結したスノーボールプラネットは
太陽を遠く離れる軌道を描き、2万年に渡る悠久の時を廻る、長き旅を終え
再び太陽に近づき舞い戻ってきた。
故郷の母なる星、地球から離れる覚悟を決めた宇宙植民者達が
二度と帰らぬ旅となるかもしれない太陽系との別れの時に
白き姿で自分達を勇気づけ続ける、最後の使者として
いつの時代も静かに見送る、この惑星に想いを馳せ続けて来た。
太陽系という楽園から離れ、苦難の道を切り開く事を選んだ
人々に特別な敬意を表して、発見時に名づけられた
神話の楽園名を持つことから人類にとって、象徴となる特別な惑星の一つだ。
ラハットと言われる楽園の出口の炎を象徴する名がつけられた
エリュシオンの2つあるうちの一つである衛星を周回する軌道上にある
トロヤ点と言われるラグランジュ点の一つには
小惑星群が存在する場所があり、トロヤ衛星と呼ばれている。
エリュシオンを守護する事を主任務として命じられた
宇宙に浮かぶ巨大な剣のような姿をし、両側に大きな翼を広げた漆黒の艦体が
その白き惑星の衛星の一つとして、小惑星群に追随し、航行している。
肩の下まである青く染めた綺麗な髪を持つ勝気な表情をした
操縦士の白い軍服を着た少女が我慢できないと言った不満そうな憮然とした表情を
アクアマリンの様な淡い青の瞳に映して露にし、居住区の基幹通路を
艦内エレベーターに乗ろうとして、急いでムービングウォークの上を歩いている。
紫の軍服を着た工作班の二人の若い男性技術士官が
正面から少女に向かって歩いてきていて
先に青い髪の少女を認識した士官の一人が、少し緊張した声で
もう一人の士官にとっさに警戒と注意を呼びかける。
「おい、あれ、マリー・イーリスだぜ」
照明の灯りをソフトにやさしく反射する、透明感がある滑らかな白色に
囲まれた壁面には通路の番号が大きな数字で描かれている。
普段は常に開かれているが、一定の間隔で安全の為に
通路を遮蔽するための隔壁と、その隔壁を支える為、少し壁が突き出ている
部分では通路が狭くなっていて、そこでムービングウォークは一時的に途切れている。
「いいか、出来る限りでいいから、目を合わせるんじゃないぞ」
二人の士官は並んで通路の端に立ち
わざとらしくレディーファーストな親切さを装いながら
出来る限り目を合わせようとはしないで、あからさまに少女を避けている。
若い男性士官達の振る舞いに、さらに不機嫌さを増したのか
一人は階級証から明らかに少女の上官であるにも関わらず、挨拶代わりに
士官達をにらみつけながら、足早に通路を少しの距離だけ歩いて
また次のムービングウォークに乗って、少女は背中を見せて遠ざかっていく。
「見た目だけはとんでもなく可愛いけど、騙されるなよ
ありゃ軍の問題児だからな。」
もう一人の技術士官は、その一言に完全に同意しきったような
しょうがないと言った表情を浮かべて、ずっとさっきから黙って聞いている。
「軍法会議の末、軍を除隊になる寸前までなって
辺境のアルタイルまで飛ばされ、スクエアのパイロット適正があるって事で
舞い戻ったんだってよ」
少女の事は、軍全体で有名な話らしく、相槌の返事も返す必要はないようだ。
先ほどまで黙って聞いていただけのもう一人の士官が通り過ぎた少女の
白い後姿を見送りながら、少女について具体的に話しはじめる。
「あれでも、精鋭の第7艦隊では次のエース候補の一人で
後継者として、先の大戦の英雄
灰色熊のウォーレン・マードックに可愛がられてたんだろう」
もう一人の士官は、猛獣はやはり猛獣にしか扱えないという事を言いたいのだろう。
「まあなあ、ご令嬢様はご機嫌を損ねてるようだが、あれしか理由はないんじゃないか」
艦内の監視カメラなどを含めたあらゆるメディアを通じた
情報ネットワークから得たビッグデータを艦中枢の頭脳である
異性人文明のものと言われる技術で実現された超AIが分析して
行き先を予測し、あらかじめ待っていたエレベータまで少女があっという間に辿り着く。
ドアが開いて、誰もいないエレベーターに入った少女は慌てたように
いつも艦内を歩く時にしている青い髪を頭の右後ろで
七色をした虹色の髪飾りで、まとめると
頭の上に突き出し、威嚇するようなヘアスタイルに変える。
格納庫へ向かい出撃する時は気を引き締める為もあって
いつもより丁寧にしっかりと髪留めをつけて向かうようにしているが
出撃するわけでもないので、今はそこまでする必要性は特にないはずだ。
エレベーターの中で、何もない空間から透明の
電子的なウィンドウが出現すると、そこに白い整備服を着た
ものわかりのよさそうな、やさしそうな顔をした整備士の少年が映っている。
「今すぐいくから、ユウキ!」
先ほどエレベーターに乗っていた少女が格納庫の端にある
ムービングウォークに乗りながらおやっさんと皆から呼ばれている
中年の整備士を見つけると二人の間に余計な挨拶など必要ないように声をかける。
「スミスさん、ユウキはどこ?あっちよね」
スミスと言われた中年の整備士は今にも噴出しそうになる気持ちを
必死で抑えて、どこか楽しそうな、相槌のような威勢のいい大きな声で返事を返す。
「マリー、おめえ少し遅かったな」
あらかじめトラブルメーカーのマリーにはマリア・ルカ大尉が着任する事を
航空班の中で、彼女だけには話していない事をスミス・ワイズマンは
当然知っているので、こうなるだろうと思ってはいたが
あまりにも予想が見事に的中したので、大笑いしてしまいそうな寸前だ。
「おうっ、少尉がお気に入りのユウキ・スレイン上等兵はあっちだ」
階級で一応は呼んではいるが、少尉殿としたきちんとした敬称ではないので
自分に対する愛称の一つとして、スミスが少尉と呼んでいるのは承知していて
そこには気を悪くするような問題など一切ないのだが
少女は自分に向かって、何かいつもと違って奇妙でどこか
愉快そうな声で返事をしたスミスに対して怪訝そうな
顔をしたあと、全艦に対しての情報ネットワークを通じて
自分にいきなり知らされたある事にとても腹を立てていた。
マリア・ルカが着任する事は機密として、艦の上層部や
各班をしきる班長クラスと直接関係のある航空班と
その一部関係者しか知らされおらず、当然として口外する事も許されてはいない。
秘密を遵守ができそうもないマリー・イーリスという少女には
皆、不安からか黙っていたようで、先任の少尉として航空班の班長である
上官が不在となる留守を全て任されると思い、気が張り詰めていた所に
自分にいきなり上官が一人出来たので、肩透かしをされたようで
その不満を誰かにぶつけずにはいられないようだ。
スミスがマリーには聞こえないような声でそばにある
少年が映っているウインドウに珍しく
小声で語りかけているがマリーには聞こえない。
「ユウキ……、ユウキ……、シルビア様が今から、そっちに行くから
丁寧に、ご令嬢の心の整備をしっかりして差し上げろよ……」
少女に不審な何かを見るような、しらっとした目で見つめられながら
ヒソヒソと小声でウィンドウに映る少年に語りかけている
整備士のスミス・ワイズマン兵曹長は毎度の楽しいイベントが始まる事に
胸を躍らせて、何やら楽しそうに作業を再開する。
ムービングウォークが少女を格納庫のさらに
奥へ運んでいくと整備の手を止めて逃げ場を失ったような顔をして
追い詰められて、立ち尽くしている、少年整備兵の姿を見つける。
不機嫌な雰囲気を漂わせた少女が少年に遠慮のかけらもなく
歩み寄っていくと、いきなり尋問のような言葉が投げかけられる。
「ユウキ、見た?格納庫にずっといたんでしょ
なんで教えてくれなかったの」
ユウキもマリーがマリア・ルカの着任を知らなかった事は知っているので
見たというのは着任したマリア・ルカ大尉の事しか考えられない。
「皆に言うなって言われてたし、それに見てないよ
もう、そこまでは興味ないからさ、シルビアさん」
マリーは少し疑うような淡く青い瞳で、顔を少しだけ近づけて
じっとユウキの顔をしばらく覗きこんだ後
青い髪を揺らして、また顔を遠ざける。
虹色の髪飾りで
まとめているられている髪は、まるで、相手を威嚇する角のようだ。
「ふ~ん、本当に見てないんだ、でも、あのユウキが興味ないわけないよね
航空学校からの同期で訓練で一緒に飛んだ仲なんだよ、嘘ついてもわかるから。」
マリーとユウキは航空学校での同期生だが
マリーの方が少しだけ年上なので、ユウキはさんづけで呼んでいる。
「私のほうが年上だからさんづけはしょうがないけど
もう君の知ってる、お嬢様のシルビアはやめて
私は、マリー・イーリスなの」
シルビアと言うのはマリーの実名であって、マリー・イーリスは
自らつけた、愛称だ。
軍に正式配属後、戦時という事もあり、すぐに実戦での
大活躍をし、その戦績から既にエースとしての存在を認められていて
彼女の乗る機体は青くカラーリングされているのと
いつもしている虹色の髪留めから
虹の女神の名をとって、異名をブルー・イーリスと言われていて
ブルーサインとか虹と呼ぶものもいる。
その異名と自分と同じで、軍事企業の財閥令嬢である
大好きな母、マリーの名を組み合わせた素敵な愛称だと
ユウキに言い聞かせるような、いつもの解説がはじまる。
「シルビア・ブラッドフォードって名前は嫌なの
特にシルビアは、あいつがつけた名前だから」
あいつと、あっさり言う相手は父親のウイリアム・ブラッドフォード少将の事で
精鋭第7艦隊の任務部隊として、その精鋭中の精鋭である
攻撃部隊を仕切る鉄十字と称され、敵であるシリウス同盟にも
恐れられる将官に対してだ。
除隊確実の軍法を犯したマリーが軍にスクエア適正を認められるまで
なんとか残れていたのも、軍と関係の深い財閥企業のご令嬢なだけでなく
勇猛な将官の愛娘だからと言う訳だ。
「私はもう自分の力で飛んでるの、自分以外の誰の言う通りにもならないわ
たとえ、それが軍だとしてもね、ユウキはどうなの?」
航空学校時代からマリーの事は訓練で成績から1、2を争う
上位者同士でペアを組むことが多かったので
よく知ってるが軍に入っても、その自由奔放な性格は全く変っていない。
お嬢様で育ちで子供の頃から、全てを決められ
お人形のように扱われて、自分を押さえつけられた事に
対する怒りと不満が彼女が生きる原動力みたいになっているのは
ユウキもよく解かってはいるが、とても軍人とは思えない
今でも変らない言動にはネフィリムでのマリーとの再会後も
聞いていてヒヤヒヤさせられっぱなしだ。
「ユウキはいつも私の前を飛んでいたじゃない
私は一度も君を追い抜けなかったのに・・・。
それに一緒に飛んでて、凄く楽しかったし。あっ、ちょっと!」
そばにある空間のウィンドウの中にはおやっさんであるスミスをはじめ
整備士達が楽しげな事を見物するように、にこやかな表情で映ってる。
それに気づいたマリーが恥ずかしそうに
さっきまで軍さえ見下ろしていたくせに
その軍上官の命令だとかなんだと言い出して
なんとかするようにユウキに無茶苦茶を言い出す。
「マリー少尉殿の命令でも、作業中は切れないよ
きちんと分析用データとして記録しておかないと、そういう決まりだから」
誰か他の人に、二人の会話を聞かれている場所では
これ以上は恥ずかしくて話せないので、いつものあの言動が始まる。
「ユウキ・スレイン上等兵にマリー・イーリス少尉として特別任務を命じます
スクエア1号機に搭乗し、2号機ヴァージナルの寮機として
臨時の特別哨戒任務に同行しなさいっ!」
そんな命令が成立するわけがないが、艦長や副長は
毎度の自分が正しいと信じているマリーの言動を
現状は黙認しており、その無言の後押しもあってか
誰も彼女を止められるものはいない。
この無茶苦茶な命令も、建前上はあくまで整備士としての
機体調整の延長線上にある特別整備任務として
ユウキが航空学校の生成優秀な学生だった事もあり
操縦の腕は問題ないので、戦闘以外だからとして
航空班の現場判断として黙認されている。
「マリー少尉、また特別哨戒任務とか
いちいちそんな偵察って都合が良すぎだよ」
整備作業を残して、いきなり無茶苦茶な命令を受けて
不満そうにしている少年が決して、少女に言ってはならない言葉で
最後の抵抗を見せた瞬間、マリーがムッとした表情でにらみつけると
上官命令という事もあって、少年もさすがに降伏せざるを得ない。
「ユウキ・スレイン上等兵、特別哨戒任務というか、え~とっ
スクエア1号機の反物質ドライブの特別調整任務も
兼ね、少尉殿に御同行することに致します」
少女はその言葉にまだ不満な表情で、綺麗な青い髪の
虹色の髪飾りで、まとめられ
角が生えているような、へアスタイルで、威嚇する。
「もしかして、嫌なのユウキくん、ふ~~~ん」
もう、全面降伏して、こう答えるしかない。
「あっ、嫌じゃなく、いや、その・・・。
ユウキ・スレイン上等兵、喜んで少尉殿に御同行し、出撃させて頂きます!」
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( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
追放されたので辺境でスローライフしてたら、いつの間にか世界最強の無自覚賢者になっていて元婚約者たちが土下座してきた件
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王都で「無能」と蔑まれ、婚約破棄と追放を言い渡された青年リオン。
唯一の取り柄は、古代語でびっしり書かれたボロ本を黙々と読み続けることだけ。
辺境で静かに暮らすはずが、その本が実は「失われた大魔導書」だったことから、世界の常識がひっくり返る。
本人は「ちょっと魔法が得意なだけ」と思っているのに、
・竜を一撃で黙らせ
・災厄級ダンジョンを散歩感覚で踏破し
・国家レベルの結界を片手間で張り直し
気づけば、訳あり美少女たちに囲まれたハーレム状態に。
やがて、かつて彼を笑い、切り捨てた王都の貴族や元仲間たちが、
国家存亡の危機を前に「助けてくれ」と縋りついてくる。
だがリオンは、領民と仲間の笑顔を守るためだけに、淡々と「本気」を解放していくのだった——。
無自覚最強×追放×ざまぁ×ハーレム。
辺境から始まる、ゆるくて激しいファンタジー無双譚!
この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~
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「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。
全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった!
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俺はある日、何の予兆もなくゲームの悪役貴族──マウント・ボンボンに転生した。
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現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
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