私は修道女なので結婚できません。私の事は忘れて下さい、お願いします。〜冷酷非情王子は修道女を好きらしいので、どこまでも追いかけて来ます〜

舞花

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修道女、姫の護衛をする

割れた耳飾り

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 リシャールは撃ち落とされ無惨に割れた耳飾りを一瞥し、銃弾が飛んできた入り口を見た。

「魔法除けの特注品を買った甲斐がありましたよ、殿下」


 ニコル・モローは、彼に似合わない不気味な影のある笑みを顔に貼り付けていた。手には銀の銃を持っている。
 リシャールの魔法石を連ねた耳飾りを壊す事ができる特別な品物らしい。
 魔法石は通常の刃物や武器では壊せないほど頑丈なのに、ぐしゃぐしゃに割れて砕けていた。

「聖器か。どこで手に入れたのやら」

 リシャールの抑揚のない声が響く。
 入り口には、黒いローブを羽織った年齢不詳の司書が立っていた。
 マリーは信じられなかった。

(ニコルさん、どうして……?)

 ニコルは顔を隠すことなく、いつになく堂々と立っていた。
 ニコルは図書棟の司書で、いつもマリーとサラに落ち着ける場所を提供してくれた人物だ。 
 どうしてこんなことをするのだろう。

「なぜ貴方が……」

 サラも呆気に取られて言葉を失っていた。
 ニコルの格好は中庭にいた不審人物と一致している。
 いくら護衛を払っても、外にいる見張りはいるはずなのに、それを潜り抜けてきたのだろう。
 ニコルは傷ひとつ負っておらず、悠然としていた。

(ニコルさんがサラを拐おうとしていたの……?)

 先程からマリーの古代魔法を探知できる指輪が点滅している。そして先程からマリーの体が石のように一歩も動かなかった。

(なんで私動けないの? もしかして、古代魔法にかかってるの?)

 古代魔法は精神に作用して、体の自由を奪う事も容易いらしい。
 指輪も点滅している状況から古代魔法にかかっているのだろう。
 いつの間にかマリーは魔法の餌食になっていた。サラは魔法にかかっていないのか、後ずさっている。
 ニコルは得意げに言った。

「ちょっとしたツテがありましてね。いけませんね、殿下。こんなに魔法石をジャラジャラつけて。戦争でもするんですか、まったく貴方って人は物騒な、困った王子様ですね」
「……」
「魔法石、全部外してくれませんか? でないと、そこのお嬢さんを殺しますよ。彼女は今一歩も動けません。そして、ここに普通の銃も用意してあります」

 司書は、もう片方の手でマリーの方に銃を構えた。

「頭が狂うほど好きなんでしょう? 冷血な人殺しのくせに彼女の命は大切みたいですね。一回、失ってみたら、人の気持ちがわかる様になるんじゃないですか、氷華殿下」
「私はそんな事をさせる前に確実にお前を殺すぞ?」
「あはは、しかし、残念です。……いくら貴方の氷魔法が早くても、間に合わないですよ」

 ニコルが合図をするとマリーの体が勝手に動き、ニコルの目の前まで来てしまった。ニコルは躊躇いなくマリーの頭にぴったり寄り添うように銃口を向けた。
 リシャールは眉根を寄せて、ニコルを睨んだ。 

「早く魔法石を外しなさい」

 そして、リシャールは潔く、手につけていた腕輪や指輪を全て外した。がしゃん、がしゃん、と床に落としていく。

「まだ、体に隠し持っているでしょう。探知機があるんですよ。すべて出しなさい」

 リシャールは何も言わず裾をまくり、隠し持っていた魔石を床に落とす。ぼとん、ぼとん、ぼとん。ぼとぼと。装飾品に加工されてない魔法石が転がり落ちる。

「……呆れた量ですね」
「……殿下」
「まぁ……宝の山ですわ」

 出るわ、出るわ魔法石。
 思わず、味方であるマリーとサラも呆れてしまう。

(殿下、袖の中にも魔石仕込んでいたんだ……どこに隠し持っていたんだろう。……手品みたい)

 上衣や靴を脱いでひっくり返すとまた魔法石が出る。まるで宝箱だ。
 マリーは驚いて口が塞がらない。やはりリシャールと言うべきか。抜かりない。
 ニコルは苛立ったように怒鳴る。

「まだ持っているでしょう、出しなさい。誤魔化せませんよ」
「……はぁ」

 リシャールはため息をつきながらシャツの裾を上げた。鍛え抜かれた腹筋が見える。体つきは軍人のようにしっかりとした腰回りだった。

「外しなさい」
「あんまりじろじろ見るな。照れるだろう」
「「「……」」」

 3人は言葉が出ない。
 臍のピアスも外していく。

(……4つも臍ピアスしているんだ。そんなところにも魔法石。さすが殿下だわ)

 マリーは妙に感心してしまった。
 臍に穴を開けてまで魔法石をぶら下げる根性がすごい。臍に付けた魔法石もリシャールは外して投げ捨てた。

「やっと魔法石がなくなりました。ふぅ。長かったですね。まぁ、これでお得意の氷魔法も使えないでしょう?」
「……」

 リシャールは剣すらない。魔法石は全て無いので、氷魔法が使えない。
 容赦なくニコルは持っていた銃弾をリシャールを目掛けて飛ばした。
 間一髪で避けたリシャールの腕の辺りから血が吹き飛ぶ。

「殿下……!」

 ぽたぽたと溢れる血が床を赤に染める。

「貴方の血も、赤いのですか。……ふむ、意外です」
「当たり前だ。青いとおかしいだろう?」
「ははは、殿下なら、おかしくありません」
「……傷つくな」
「だって貴方は、化け物ですから」
「なるほどな、一理ある話だ」
「まぁ、その化け物も丸腰だとただ顔の綺麗な男ですね」

 リシャールは顔色ひとつ変えないが、止めどなく血が流れている。

「この銃は、魔器が効かない特注、つまり聖器です。魔法石に頼らず作り上げた品。魔除けといいますか。魔法石は精霊の産物ですから、精霊を封じ込めれば怖くもなんともありません。聖女の祈りを捧げて出来た、特殊な加工品です。魔器にしか効きませんが、もはや人とは言えないあなたを清めることはできるかもしれません」

 ニコルはリシャールに銃口を向けた。
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