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【ママ友、三人】
ユリ、秘密主義①
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ユリは「ママ友」という言葉が嫌いだ。
「友」という字が入っていても、決して「友人」なんかではない。子どもを間に挟んだ関係だからワンクッション、いや、子どもとその友達の二人分だからツークッションも離れた関係。
ただ子どもが同じ幼稚園に通っているのと、転勤族であること、同い年の息子が一人いること、などと共通点が多いこともあり、なんとなく一緒にいるだけだ。
マミコは気が強いし、ミズホは変わっているしで、決して気が合うとは言えない。
二人と嫌々でも付き合うのは、全て息子のため。息子が卒園するまで、三年間限定の関係だとユリは割り切っている。
「普通さ、挨拶したら会釈くらい返すじゃない? でもあの人、こっちが見えてないみたいに通り過ぎるのよ」
マミコの話題は幼稚園の担任教諭から、いつの間にか年少組の保護者の一人へと移っている。
「それはマミコさんが綺麗だから、きっと嫉妬してるのよ」
ユリは昔から聞き上手の自覚がある。
「あら、ユリさんお上手ね」
マミコは満更でもないように顔をほころばせた。
「これにて一件落着ですね」とよくわからない発言をするミズホは、一番年上のくせに未だに敬語が抜けないでいる。
話が一段落したのを見計らったかのように、ユリのスマホが鳴った。
「ちょっとごめん」と断って、ユリは二人のママ友から離れた。
スマホの画面には、懇意にしている編集者のフルネームが表示されている。
受注の電話だ、とユリの背筋は自然と伸びた。
「はい、お世話になっております。……」
案の定、仕事の電話だった。内容は若手の女性推理作家による文庫本の装丁の依頼。編集者はスケジュールなどの大まかな内容をユリに伝えた後、詳しくはメールの確認をお願いします、と電話を切った。
「もしかして仕事始めたの?」
二人の元に戻ると、マミコが怪訝そうな表情で聞いてきた。濃いアイシャドウに縁取られた目が真っ直ぐにユリを見つめてくる。
ユリは慌てて「え、いや、ちょっと姑から。……来月の法事の件で」と誤魔化す。フリーのブックデザイナーであることは、誰にも内緒にしているのだ。
「お姑さんに『お世話になっております』なんて言う?」
気を付けていたのにマミコに聞こえていたことが不快に感じられ、同時に彼女の勘の良さに辟易しながらも、ユリは笑顔で「そう? 変かな?」と答えた。
答えた後で、どこまで聞かれたのだろうと心配になったが、幸いマミコはそこまで気にしてはいないらしく、スマホで時間を確認して「そろそろ帰ろうかしら」と言った。
ユリは内心ホッとする。
「そうね、そろそろ買い物行かないと」
「熱中症の危険性もありますしね」とミズホ。
「まだあそぶ!」と口々に言う子どもらをなんとか説得し、三人のママ友とその息子たちは公園出口へと向かった。
──帰ってすぐ牛肉を解凍して、その間に洗濯物を取り込んで……。あ、その前に、しばらくはパソコンと睨めっこになるから、早めに目薬の予備を買っておこう。
ユリは公園の二組の親子に手を振りながら、頭の中で目まぐるしくスケジュールを組み始めた。
明後日の打ち合わせが終わったら、できるだけ早く三百ページを超える小説を読み込まなくてはならない。そして二週間以内にラフの提出。
日々の悩みを解消するには、忙しくするのが一番だ。
「友」という字が入っていても、決して「友人」なんかではない。子どもを間に挟んだ関係だからワンクッション、いや、子どもとその友達の二人分だからツークッションも離れた関係。
ただ子どもが同じ幼稚園に通っているのと、転勤族であること、同い年の息子が一人いること、などと共通点が多いこともあり、なんとなく一緒にいるだけだ。
マミコは気が強いし、ミズホは変わっているしで、決して気が合うとは言えない。
二人と嫌々でも付き合うのは、全て息子のため。息子が卒園するまで、三年間限定の関係だとユリは割り切っている。
「普通さ、挨拶したら会釈くらい返すじゃない? でもあの人、こっちが見えてないみたいに通り過ぎるのよ」
マミコの話題は幼稚園の担任教諭から、いつの間にか年少組の保護者の一人へと移っている。
「それはマミコさんが綺麗だから、きっと嫉妬してるのよ」
ユリは昔から聞き上手の自覚がある。
「あら、ユリさんお上手ね」
マミコは満更でもないように顔をほころばせた。
「これにて一件落着ですね」とよくわからない発言をするミズホは、一番年上のくせに未だに敬語が抜けないでいる。
話が一段落したのを見計らったかのように、ユリのスマホが鳴った。
「ちょっとごめん」と断って、ユリは二人のママ友から離れた。
スマホの画面には、懇意にしている編集者のフルネームが表示されている。
受注の電話だ、とユリの背筋は自然と伸びた。
「はい、お世話になっております。……」
案の定、仕事の電話だった。内容は若手の女性推理作家による文庫本の装丁の依頼。編集者はスケジュールなどの大まかな内容をユリに伝えた後、詳しくはメールの確認をお願いします、と電話を切った。
「もしかして仕事始めたの?」
二人の元に戻ると、マミコが怪訝そうな表情で聞いてきた。濃いアイシャドウに縁取られた目が真っ直ぐにユリを見つめてくる。
ユリは慌てて「え、いや、ちょっと姑から。……来月の法事の件で」と誤魔化す。フリーのブックデザイナーであることは、誰にも内緒にしているのだ。
「お姑さんに『お世話になっております』なんて言う?」
気を付けていたのにマミコに聞こえていたことが不快に感じられ、同時に彼女の勘の良さに辟易しながらも、ユリは笑顔で「そう? 変かな?」と答えた。
答えた後で、どこまで聞かれたのだろうと心配になったが、幸いマミコはそこまで気にしてはいないらしく、スマホで時間を確認して「そろそろ帰ろうかしら」と言った。
ユリは内心ホッとする。
「そうね、そろそろ買い物行かないと」
「熱中症の危険性もありますしね」とミズホ。
「まだあそぶ!」と口々に言う子どもらをなんとか説得し、三人のママ友とその息子たちは公園出口へと向かった。
──帰ってすぐ牛肉を解凍して、その間に洗濯物を取り込んで……。あ、その前に、しばらくはパソコンと睨めっこになるから、早めに目薬の予備を買っておこう。
ユリは公園の二組の親子に手を振りながら、頭の中で目まぐるしくスケジュールを組み始めた。
明後日の打ち合わせが終わったら、できるだけ早く三百ページを超える小説を読み込まなくてはならない。そして二週間以内にラフの提出。
日々の悩みを解消するには、忙しくするのが一番だ。
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