三人のママ友

たんぽぽ。

文字の大きさ
2 / 15
【ママ友、三人】

ユリ、秘密主義①

しおりを挟む
 ユリは「ママ友」という言葉が嫌いだ。

「友」という字が入っていても、決して「友人」なんかではない。子どもを間に挟んだ関係だからワンクッション、いや、子どもとその友達の二人分だからツークッションも離れた関係。

 ただ子どもが同じ幼稚園に通っているのと、転勤族であること、同い年の息子が一人いること、などと共通点が多いこともあり、なんとなく一緒にいるだけだ。

 マミコは気が強いし、ミズホは変わっているしで、決して気が合うとは言えない。

 二人と嫌々でも付き合うのは、全て息子のため。息子が卒園するまで、三年間限定の関係だとユリは割り切っている。

「普通さ、挨拶したら会釈くらい返すじゃない? でもあの人、こっちが見えてないみたいに通り過ぎるのよ」

 マミコの話題は幼稚園の担任教諭から、いつの間にか年少組の保護者の一人へと移っている。

「それはマミコさんが綺麗だから、きっと嫉妬してるのよ」

 ユリは昔から聞き上手の自覚がある。

「あら、ユリさんお上手ね」

 マミコは満更でもないように顔をほころばせた。

「これにて一件落着ですね」とよくわからない発言をするミズホは、一番年上のくせに未だに敬語が抜けないでいる。

 話が一段落したのを見計らったかのように、ユリのスマホが鳴った。

「ちょっとごめん」と断って、ユリは二人のママ友から離れた。

 スマホの画面には、懇意にしている編集者のフルネームが表示されている。

 受注の電話だ、とユリの背筋は自然と伸びた。

「はい、お世話になっております。……」

 案の定、仕事の電話だった。内容は若手の女性推理作家による文庫本の装丁の依頼。編集者はスケジュールなどの大まかな内容をユリに伝えた後、詳しくはメールの確認をお願いします、と電話を切った。

「もしかして仕事始めたの?」

 二人の元に戻ると、マミコが怪訝そうな表情で聞いてきた。濃いアイシャドウに縁取られた目が真っ直ぐにユリを見つめてくる。

 ユリは慌てて「え、いや、ちょっと姑から。……来月の法事の件で」と誤魔化す。フリーのブックデザイナーであることは、誰にも内緒にしているのだ。

「お姑さんに『お世話になっております』なんて言う?」

 気を付けていたのにマミコに聞こえていたことが不快に感じられ、同時に彼女の勘の良さに辟易しながらも、ユリは笑顔で「そう? 変かな?」と答えた。

 答えた後で、どこまで聞かれたのだろうと心配になったが、幸いマミコはそこまで気にしてはいないらしく、スマホで時間を確認して「そろそろ帰ろうかしら」と言った。

 ユリは内心ホッとする。
「そうね、そろそろ買い物行かないと」

「熱中症の危険性もありますしね」とミズホ。

「まだあそぶ!」と口々に言う子どもらをなんとか説得し、三人のママ友とその息子たちは公園出口へと向かった。

 ──帰ってすぐ牛肉を解凍して、その間に洗濯物を取り込んで……。あ、その前に、しばらくはパソコンと睨めっこになるから、早めに目薬の予備を買っておこう。

 ユリは公園の二組の親子に手を振りながら、頭の中で目まぐるしくスケジュールを組み始めた。

 明後日の打ち合わせが終わったら、できるだけ早く三百ページを超える小説を読み込まなくてはならない。そして二週間以内にラフの提出。

 日々の悩みを解消するには、忙しくするのが一番だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

ナースコール

wawabubu
大衆娯楽
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

清掃員と僕の密やかな情状

MisakiNonagase
恋愛
都心のオフィスビルで働く会社員の26歳・高城蓮(たかぎれん)。彼の無機質な日常に唯一の彩りを与えていたのは、夕方から現れる70歳の清掃員・山科和子だった。 青い作業服に身を包み、黙々と床を磨く彼女を、蓮は「気さくなおばあちゃん」だと思っていた。あの日、立ち飲み屋で私服姿の彼女と再会するまでは――。 肉じゃがの甘い湯気、溶けゆく氷の音、そして重ねた肌の温もり。 44歳の年齢差を超え、孤独を分かち合った二人が辿り着いた「愛の形」とは。これは、一人の青年が境界線の向こう側で教わった、残酷なまでに美しい人生の記録。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...