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薫る姫は黒き羽の下で宵を待つ
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〈Hariette〉
「……ああ、かように甘い」
長い長い睫毛を落として忽然と呟いている。
ハリエットはこんなに綺麗な生き物を今まで見たことがなかった。
彼女の鼓動はちっとも止まないどころか大きく鳴るばかりだ。
「起きたか。 痛みはないか? 私はルリアゲハのフェズというが……お前は?」
フェズが髪と同じ銀色の瞳を上にあげてハリエットを見つめた。
「……っ!……!!」
ハリエットは口をパクパク開けて話そうとする。
しかし緊張のせいか。 彼女の声はぷしゅっ、と喉を抜けて空気に混ざり、音にならなかった。
そもそもなんで、自分は今こんな状況なのか。
なんで見知らぬ人の肩に跨り脚を舐め回されているのか。
ぐるぐる考えているとフェズが桜色の唇を開く。
「幼子よ。 そんなに震えるな。 何も取って食う訳じゃない」
(子供じゃない!)
ハリエットは心の中で叫ぶ。
「見たところミツバチの稚児……ん、蜂の幼体はお前みたいな成虫ではないな。 確かに羽は小さいが……蜂とはこんな少年も蜜集めに使うのか?」
(少年じゃない!!)
顔全部を真っ赤に染めて、ぶんぶん頭を横に振るハリエットに対し、フェズは物思わしげに眉を寄せる。
「もしかすると私は蜜集め中の蜂の餌を横取りしてしまったのか? つい最近越冬から明けたばかりだったから。 どうにも腹が減って……相済まない」
そう言うとフェズはハリエットの腰を両手で持って地面に下ろしてくれた。
ハリエットは彼の申し訳なさそうな表情に気付き、慌ててポケットをゴソゴソ探った。
(お腹が空いてるのね。 ほら、見て! これをあげるわ!)
ハリエットは手のひらいっぱいの高級蜜蝋をフェズの目の前に差し出した。
お母様が道中のお弁当にと持たせてくれたものだ。
「私に? 香り高いレンゲの花だな」
ハリエットは頷いてニッコリ笑い、フェズもそれにつられるように薄らと目を細めた。
「心優しき少年よ。 ありが」
「────だから雄じゃないってば! 私はミツバチの姫、ハリエットって名前なの!!」
ハリエットのかん高い声がキンと辺りに響く。
フェズは見事な烏の濡れ羽色の羽を一度はためかせぽかんとした。
それから感じ入ったようにハリエットに見入る。
「お前の姿がそんななのは、だからか」
やっと話せたというのに大声で叫んでしまったのが恥ずかしくなり、下を向いたハリエットが頷いた。
ここは人間が所有する森。
女王となるミツバチの羽は遠くに逃げ出せないよう、人間によって切られることが多い。
ハリエットも成虫になって間もなく羽を失った。
「そ、そうなの。 だから早く戻らなきゃダメなんですけど」
ハリエットはそわそわした様子で頭上の草葉の間から覗く空を見上げた。
彼女を見ていたフェズが口を開く。
「それなら私が手を貸そう。 お前を抱えて跳ぶことなど容易い」
ぱあっ、とハリエットの顔が嬉しそうに輝く。
表情がコロコロ変わる娘だ、と思ったのかは分からないがフェズは苦笑した。
それから彼は顎に指をあて軽く首を傾げる。
「……と、いう事はお前は巣立ちの旅の最中……更にいえば、結婚の最中だったのか」
「い、いいえ。 結婚はまだ」
「なぜか? ミツバチというものは姫を伴い新たな巣に向かう途中で、雄蜂と交尾すると聞いた」
「そうなのですが。 巣立ちと共に分泌される私の体の成分のせいか。 雄たちがいつになく激しく争ってしまって」
ハリエットはほんの数刻前の出来事を思い出し、深いため息をついた。
◆
過ぎ去っていく冬の冷たさの代わりに、近付いてくる陽差しは日々暖かみを増していく。
「姫様。 あの丘を一つ越えた所が私たちの新しい住まいですわ」
待ち望んでいた春に花々の蕾は空を目指して伸びあがる。
沸き立つ周囲に引き摺られて、ハリエットも幸福な期待に胸を膨らませてしまう。
従者の働き蜂たちが支える大きな木の葉の上で、ハリエットは身を乗り出し忙しなく辺りを見回していた。
「わあ! この空の広いこと! 風の匂いに乗って、緑と花の香りがするわ!!」
はしゃぐハリエットに跳んでいる蜂たちが顔を見合わせ、クスリと笑みを零す。
「姫様ったら。 けれど無理もありませんわね。 姫様は生まれてからこのかた、こうやって巣の外に出たことがありませんから……に、しても。 巣立ちにはもう一つ、重要な役割があるというのに」
何百匹もの蜂の群れの最後尾で、一つの塊がハリエットたちを追っていた。
ブブブブと騒がしい音を立てながら。
「ふう、体たらくの雄共はまだ後ろで騒いでいるの? ほんの十匹の精でいいってのに」
「でも仕方ないわね。 姫様の結婚フェロモンは働き蜂の私たちでさえクラクラしますもの。 その御身は王族しか口に出来ないローヤルゼリーで出来ていますし」
ミツバチ社会での雄とは交配のためだけに存在する。
したがって蜜集めをしたり、外敵から巣を守り子育てなどをする働き蜂は全員雌となる。
そんな働き蜂の愚痴に混ざり、後ろの集団の中から躍り出たのは、一匹の大雄蜂。
「ひ、姫様あっ!!」
物凄い勢いでハリエットの居る場所に突っ込んでこようとするが、よくよく見るとそれは知った顔だった。
「きゃっ!! お、叔父様!?」
「姫様っ! こんなにお美しくなって……おう、堪らんわ、この香り」
涎を垂らして葉の上に乗り込もうとする雄蜂にハリエットは後ずさった。
「な、なぜ……叔父様が?」
この瞬間のためだけに生きる、雄蜂である彼の下半身は既にやる気に漲りギンギンである。
しかしながら人間しかり、蜂も血縁の近しい者との交配を避ける習性がある。
彼はハリエットの醸し出す結婚フェロモンに惹き付けられたのだろう。
が、そんなのは周りの逞しい従者が許さない。 瞬時に彼女たちの顔色が変わる。
「お前、私たちの元巣の者ね!?」
「近親婚などもってのほか!! おのれ、皆の者、この狼藉者を姫様から離せ!」
ハリエットの周囲はあっという間に働き蜂で黒く染まった。
「待って、皆」
「!!!」
「!!!」
血気盛んな怒号や羽音が辺り一面に響き渡る。
細々としたハリエットの声など掻き消さんばかりだ。
「皆、あ……あの。 そんなに乗られると」
「!!!」
「落ち……っ!?」
体ごとぐらっと傾いたハリエットが葉っぱから滑り落ちる。
ハリエットの視界から遠ざかっていく騒ぎは彼女に気付けない。
軽い体は音もなく風に乗った────……
……ぼふんっ!
ハリエットが落ちた場所は、今は満開と咲き誇るミモザの花の上だった。
黄色い小花が密集する低木がいいクッションになってくれたようだ。
アカシア科のミモザはミツバチの大好物である。
だが王族であるハリエットは、花粉そのままというものを今まで口にしたことが無い。
そして、そこら中に舞い散る花の粒子に……
「へく、ぐしゅうっ!」
大いにむせた。
おまけに目や鼻にも花粉が入り込み、溜まったものではない。
「ぐしゅ! うえっくしゅ、くしゅん!!」
鼻水や涙でズビズビになったハリエットは助けを呼ぶことも儘ならず、花の上をのたうち回る。
(苦しい。 死ぬ、死んじゃうわ!!)
あわや花粉症に悶え苦しむミツバチの姫。
体を襲う花粉に身の危険を感じたハリエットが、手近なミモザの葉を掴み夢中で身を踊らせた。
花や葉の上を数回バウンドし、気付くと彼女の手は、茶色い地面を踏みしめていた。
「ふえ、ぶしゅっ!!」
くしゃみの最後っ屁をかますと鼻をすする。
おかしいわね。 私、姫設定では……? と思ったのかは不明だがハリエットは頭をポリポリ掻いた。
周りを見渡すも、背の高い草や茎、木の根っこしか見当たらない。
どうしようかと考え始めた頃、聞き覚えのある音が耳を掠めた。
ポタッ、ポタタッ……
それはどうやら離れた所で水のしずくが滴る音らしかった。
「………?」
子供の時に、自分たちの巣を濡らしていた、雨だれの音が聴こえるのを不思議に思った。
ハリエットは立ち上がりその方向へと歩き始める。
そこで彼女が目にしたもの。
草葉の間からゆるりと動く闇の色。
なおもそこから顔を覗かせたハリエットは息を呑んだ。
それはそれは美しく大きな一対の羽だった。
漆黒といっても、まるで光を濡らしたかのような艶をまぶした黒。
黒の中に、深い緑や紫の差し色が入っている。
それらが、頭上から漏れる明かりの筋に照らされるたび、反射してキラキラ光る。
けれどもハリエットの目を奪ったのはそれだけではなく。
羽の元は見上げるような身丈をもつ肢体の生き物だった。
長い脚はすんなりしているが、所々硬そうな筋肉に覆われ、腿や尻、何より大きな背中の両側から肩や腕にかけるまで、その盛り上がりはシンプルではあるが複雑な陰影を形作っている。
ゴツゴツした木肌に頭を寄せ、生き物は隙間から垂れてくる水を飲んでいる様子だった。
背中に降り掛かっている銀色の糸の束は髪だろうか。
ハリエットはくしゃくしゃに絡んでいる、自分の巻き毛に手をやった。
背中の小さな羽の切れっ端にも。
……私とは全然違う。
その神々しい生き物を見るのもおこがましいように感じたハリエットはその場を離れようとした。
その時、肩に触れた葉擦れの音に、ハリエットとそれからその生き物は素早く反応した。
「何者だ!?」
けれどまさか、振り向きざまに石を投げられるとは。
カーン! と頭からいい音がして薄れて狭まっていくハリエットの視界に、驚いたように目を見開く美麗な顔が映り遠のいていく。
◆
それで、ハリエットが次に目を開けると空腹の蝶(という生き物らしい)のフェズに立ったまま持ち上げられ、ペロペロ舐め回られていたという訳だった。
地べたに座るのも何なので、ハリエットとフェズは草の影にある枯れ枝の上に、並んで腰を下ろした。
一通りの出来事をフェズに話すと彼は時々含み笑いを漏らしながらも、ハリエットに耳を傾けてくれた。
「うーん……なるほど。 姫か、どおりでな。 お前の甘い香りは体中についている花粉のせいかと思って色々観察していたのだが。 だから舐めても舐めても甘いのか」
「い、色々……?」
焦りを滲ませたハリエットが両腕で自分の体を庇う。
どこをどういう風に観察されたのだろう。
面長の整った顔を崩さずフェズが頷く。
「うむ。 そもそもそのように服を着ている虫など滅多にいない」
ハリエットは薄い葉脈で編んだ服を着ていた。
「これ……っは、そこらじゅうの雄蜂が発情して襲ってこないように!」
「……お前にか?」
フェズの視線はハリエットの胸に注がれている。
そこから顔面を通り、全身へと。
「私は何度かミツバチに出会ったことがあるが……もっと、何だ。 こう」
こうってどう……?
彼の両方の手付きが、空に女性体を表す流線を描いているのを見て、ハリエットは察した。
「っそりゃ、まだ……他の従者と較べれば、私の身体は少しだけ子供っぽいですが」
「少し?」
「……か…なり」
突っ込んでくるフェズにハリエットの声が先細りになる。
成虫となり間もないハリエットは、背も小さく貧相な身体付きであった。
……とはいえ、こんな立派な蝶と比べられても困る。
一応自分はミツバチ代表だ。
ハリエットはフェズをキッと睨んだ。
「それでも……わ、私は唯一、雄にとっては発情の対象となるんです! 貴方みたいな外見を持った人には分からないでしょうけど!!」
「外見? 私の」
不思議そうに自分の姿を見下ろす彼には自覚が無いようだ。
銀糸の髪がハラリと頬にかかる彼の横顔は、女性よりも艶かしい。
ハリエットはますます惨めな気持ちになった。
「う……そんな、のは置いといて…フェズさん」
「ん」
「私を送り届けて……くれるのでは?」
フェズは少し黙った後にパタパタと羽を数度動かした。
それから首を横に振り小さく息を吐く。
「まだ力がない。 おそらく長く跳べるだけのエネルギーが足りないのだと思う」
「さっ…きの蜜蝋は?」
遠慮がちにハリエットが訊くとフェズが急に身体を寄せてくる。
「もう食い終わった……ああ、そうだ」
いえ、あの。
衣服越しにフェズの体温を感じる。
「それよりハリエット」
ち、近いです。
すっきりした目鼻立ちの顔が迫ってくる。
「少しばかりお前を味わわせて欲しい」
意味がわからない。
フェズさんはまさかの肉食?
ハリエットがアワアワしながら仰け反って、フェズを避けようとする。
「えいやあああのっ……そ、そう。 さっきから気になっていたのですが、フェズさんの足の間の、それは……っ」
そして彼の下半身もギンギンである。
自分の知っている雄蜂はもれなくこうなのだが、蝶もだとはハリエットは思っていなかったし、身体に見合ってフェズのそれはあまりに立派過ぎた。
「普通に生殖器だが。 目覚めたばかりだからと思っていたら、どうにも治まらぬ。 せっかくだ、これがお前の発情とやらのせいか試してみようか。 飯のついでに」
もはや何がどうついでか分からない。
取って食わないと言ったのに、嘘つき!!
ハリエットの頭はパンク寸前だった。
「む、無理ですっ!!! 刺しますよっ!」
「そういえば、ミツバチは針を刺すと死んでしまうというな」
「は、はい。 それでも私は、他種族に食べられたり穢されるぐらいなら!!」
「まあ、その前に私が刺してやるからちょっと待て」
「!?!!??」
蝶にも針が!?
どこに、と咄嗟にフェズの横をすり抜けようとしたハリエットの肩に、フェズの長い腕が回る。
身体を小さくして縮こまるミツバチに、蝶がその蜜を上回る糖度で甘く囁いた。
「それから考えてみても良いだろう……返事は不要だ。 今しがた鼻につくほどの濃い香り。 ふ。 なあに、ほんの少しの寄り道────……」
〈Fezz〉
偶然出会ったミツバチだ。
幼女のような見た目だが、蜂的には大人らしい。
姫というからにはさぞかし美味いに違いない。
フェズの脳内を占めていたのはその時、食欲が殆どだった。
なにせハリエットの衣服の隙間からは、まだ花粉が零れ出ているし、真っ白な柔肌の良い香りといったら……!
肌の上に花粉を乗せて食すればさぞかし美味だろう。
フェズは躊躇いもなく彼女の衣服を剥き、そこから覗いたハリエットの小さな肩に舌を這わせた。
ジタバタ抵抗しているが知らぬ。
フェズは片手でハリエットの両手首を束ねた。
「………!!」
何か叫んでいるが知らぬ。
続いてハリエットの仲間や天敵に気付かれないよう、自分たちの姿をすっぽり羽で覆う。
「やはり小さな乳房だ」
ハリエットの肢体を見た時のフェズは、ふっと、笑いが漏れそうな気分だった。
あまり凹凸の無いつるりとした身体は、フェズの空腹中枢を大いに刺激した。
人間がたまに寄越してくれる角砂糖を思わせる。
試しに乳房を花粉と一緒に舐めてみると、ハリエット自身の香りと相まって、やはり美味だった。
柔らかな乳頭を舌で押し潰しながらフェズは考える。
味といい感触といい────いっそどうにかここから乳が出ないものか。 そしたらもっと美味くなるに違いない。
ローヤルゼリーの魔力に取り憑かれたフェズは夢中で乳首を吸う。
舌を滑らせていると生意気にも堅くなる。
フェズはささやかな突起を舌でコロコロ転がし、時おり皮膚の表面をくすぐるように撫でた。
そうしているうちに、フェズの鼻がひくひく動く。
「ああ、やはり。 ここに隠していたんだな」
蝶の越冬とは長く厳しいものである。
サナギで過ごす者もいれば、ルリアゲハであるフェズのように、成体で枯葉などの下に潜り、雨雪や木枯らしを耐え忍ぶ者もいる。
他方でミツバチは集団で暖を取り、ましてや王族ともなれば皆から守られ、特別な餌を与えられてぬくぬく過ごす。
それは生まれついた個体の運命だとフェズは思っている。
だが、それならば目の前に落ちてきた、この娘をどうしようとそれもまた私の勝手では?
自分に納得がいく理屈を並べて安堵したフェズは、ハリエットの腿を押さえつけ、秘部に湛えられた蜜を吸った。
「これは……何とも」
言葉に表せない味だった。
まさに凝縮された花そのもの。
「こいつを味わえばいつもの花の蜜など水だ」
フェズは表面に滲んでいる液体を、我を忘れて舌で掬っては舐めた。
そのうちにどうにも我慢がならなくなり、気管に折り畳んでいた口吻を伸ばし、ずぷぷと中に入れる。
ハリエットの悲鳴が耳を掠めたがフェズは無視した。
口吻とは蝶独特の、蜜や水分を摂るための器官であるが、フェズの先はブラシのようになっている。
そこで花の底を掻きながらストロー状の管で吸い取る仕組みだ。
内部に溢れている蜜を吸い、その出どころを探す。
こんな美味いものを傷付けては元も子もないので、フェズはハリエットを優しく扱うことにした。
収縮性のあるハリエットの腟内は幾分窮屈ではある。
それでも管を回して広げブラシの先で、やわやわと内部の襞の間をこそげ取ると、柔らかく解けてくる。
その内にどこからともなく再び蜜でいっぱいになる。まるでいくら飲んでも絶えない泉のようだ。
ジュルジュルジュルジュルと音を立て、フェズは思うままにハリエットを貪った。
「ふう……ハリエット。 美味かった」
ひと冬分の飢餓を満たしたフェズは、ようやくハリエットの足の間から顔を離す。
ここから乳は出ないらしい、そう解するまでは冷静になり、お礼に可愛らしい乳首を指先で撫であげた。
「っく!」
妙な声をあげたハリエットの顔は真っ赤で、おまけに涙や鼻水でぐちゃぐちゃである。
彼女の顔を改めて観察する。
低めの小さな鼻に大きな瞳。
庇護欲が唆られる顔の造作は、この種の王族の特徴なのか。
裸に剥かれて身体中を舐め回されたのだから、ミツバチの姫は傷付いているに違いない。 フェズはハリエットの頬を濡らす涙を指で拭う。
「……可哀想に」
他人事のようにひと言呟くも、フェズは不思議な気分だった。
彼女は今、可哀想だが可愛くもある。
これをもっと泣かせたら、どうなるだろう? そんな気持ちも湧いてくる。
そしてそう考えると、次はどうしようも無く自分の生殖器が滾るのだ。
ハリエットの腿にそれを擦り付けると彼女の身体がビクッと揺れた。
いい反応を返してくれる。
さらにハリエットの恐怖心を煽るために体重をかけ、フェズはハリエットの耳に口を寄せる。
低い声音を作るとゆっくりと宣言した。
「お前をちゃんと穢してあげなくてはな」
「ふ、フェ…ズさ……?」
いくら考えても詮無いことだ。 自分はどうやらミツバチに欲情しているらしい。
怯えて揺らめく黒い瞳にゾクゾクする。
だがこれは果たして挿入るのか? ふと思ったフェズが身を起こしかけた時。
「────様」
「……姫様あっ!」
遥か頭上で飛び交う声が二人に降ってきた。
「……っ!?」
ハッとした二人は上を見上げ、空を跳ぶ豆粒のような影を認めた。
「ハリエット姫のお迎えかな……どうする?」
「か、かえ……る」
「帰る?」
ハリエットは助かったとばかりに感激に身を震わせていた。
馬鹿な。
帰るなど冗談じゃない。 フェズはそんな彼女を鼻で笑った。
万が一ここで蜂の大群に襲われたら、体の大きなフェズでもひとたまりも無い。
しかし彼が考えていたのは別のことだった。
不快感は否めないが、特に悪意やましてや殺意などない。
「ハリエット様! どこにいらっしゃいますかあっ!?」
「姫様ーーー!」
単にハリエットを動けなくするためだ。
フェズの手はハリエットの細首に回っていた。
「大声を出すな」
「か……かえ……して……」
だからそんな風にプルプル震えられると困る。
フェズはうっかり力を入れそうになる自分の指を意志の力で抑えていた。
「ああ……構わない。 だが本当に?」
「………?」
「こんなに乳首を腫らして淫らに生殖器を濡らして。 これはお前が堪らなく気持ち良くなってるしるしだと知っていたかな?」
「え………? それは……結婚フェロモン…で発情してる、から」
「違う。 発情期は勝手に来るが、ハリエットの身体は私で感じてるんだ。 それなのに、ここに他の雄を受け入れるのか」
フェズはハリエットの首を押さえ付けたまま、膣口に指先をしのばせる。
「………えっ…あうっ!」
ドロドロに濡れたそこに二本の指を押し込んだ。
無遠慮に掻き回すとハリエットの顔が苦痛に歪む。
「確か十匹ぐらいとするんだろう? 射精の瞬間に雄蜂は死ぬんだっけな。 私の舌や指で散々辱められたここで、雄蜂は最期の思いを遂げるのか? 可哀想だと思わないか」
「……そ、そん…な」
ハリエットは再びポロポロ涙を零した。
初対面で自分の食事を差し出した親切なお姫様。
そしてなんと御しやすいお姫様。
ああ、私はこの顔をずっと見ていたい。
「雄蜂の馬鹿でかい生殖器から比べたら、私のは物足りないかな」
フェズは思い出したが、雄蜂のあれは体の比率からすると、大概な大きさだ。
精子の入った袋を雌に打ち込むのだから。
そしてその間は数秒ときく。
「その代わり蝶の交尾はその気になれば数時間だ。 きっとお前が知らない場所に連れて行ってあげる」
フェズはうっとりとした表情でハリエットを見つめ、怒張し切った自らのペニスを手で握る。
ハリエットは目を剥いたままそこから動かなかった。
「姫様」「姫様」ハリエットを呼ぶ声が遠くなっていく。
その声が完全に聞こえなくなる直前に、フェズの一部が侵入を試みた。
「!んうっ」
ぬるんだハリエットの秘部は確かに小さい。
それでも充分過ぎるほど解した入り口は、粘膜を引きつらせながらも、フェズの太い先を迎えた。
「や……やあっ、こ……壊れちゃ……っ」
「はあ、大丈夫だ……壊れても私が食べてあげるから。 それが嫌なら力を抜くんだ、ハリエット?」
締め付ける膣肉の、余りの気持ちよさに片目を眇めたフェズが、本気とも冗談とも取れる言葉をハリエットに掛ける。
ハリエットは痛みか怖さからか話せない様子だった。
それでもおそるおそると強ばりが抜けていく。
「……っ……」
「そうそう……良い子だね」
フェズは素直なハリエットを優しく褒めた。
浅い所で二、三度動かしてから、フェズが残りを徐々に沈めていく。
一気に突きたいがそうしないのはハリエットの深さが分からないからだ。
ビクビクと震えっぱなしの彼女の身体が、いっぱいになっていくのが分かる。
「ん……挿入ったか、感じる? ハリエット」
ペニスをぎちぎちに締め付けるハリエットの中は、明らかにフェズを異物として、拒絶しているようだった。
「……っ……っ」
きつく唇を噛み締め顔を背けているのも。
フェズは自らの快感と相まり、興奮に震えそうになる自分の声を押し殺した。
それを誤魔化すために腰を揺する。
眉間にぎゅっと眉を寄せたハリエットが苦悶の呻きを漏らす。
「ああぐううっ!!」
「挿入ってるかと訊いてるんだが?」
「ひい……は、はいっ……て、る……っから……う、動かな」
すすり泣きに似た情けない声である。
ハリエットの腕よりも、太く長いモノを受け入れているのだから辛いのだろう。
そんなハリエットに見入り、フェズはやはり思ってしまう。
可哀想だ。 だが可愛い。
「ひ……っぅ……ッ! く、ぅう!」
ちゅぶちゅぶ音を立て、蜜を押し込むように、ハリエットの奥に振動を送り込む。
「私はまだ足りない。 ここも柔らかくしないと……っ」
入り切らない残りも全て収めてもらおう。 そうでもないと割に合わない。 フェズはハリエットの行き止まりを丹念に捏ねた。
そうしながらもぐっ、ぐっ、と押し進んでいく。
「やあっ、も、理ぃ……っ! 無理…なのぉ!」
フェズは座った体勢でハリエットを犯していた。
ふと、膝裏をすくっている彼女の脚先が伸びているのに気付く。
乳首も触れてないのにかかわらず、ずっと膨らみっ放しだ。
結合部に視線を落とすと、真っ赤に色を変えた膣が懸命に異種のペニスを咥えこんでいる。
腰を引くたびに入口の粘膜が伸ばされ、それは名残惜しそうにフェズの怒張を引き留めているかのようだ。
それを証拠に、ハリエットの中の様子が明らかに変わりつつあった。
挿入の際にペニスを引き絞っていた膣道。 それが今や柔らかくフェズを受け入れ、出ようとすると絡み付いてくる。
「ハリエット、私のモノでも感じているね?」
「ひぐぅ、いやっ……いやぁ……っ!」
身体はこんなにも分かりやすいというのに。 泣きながら首を激しく横に振るハリエットが愛らしくも憎くなる。
まるでいくつもの感情が生まれては、ハリエットの中に吸い込まれていくようだった。
腟壁の粘膜にやわやわ扱かれる快感に酔いしれながら、フェズは一定のリズムを保っていた。
ハリエットの表情を見つめる余裕だけは残しておきたかったからだ。
この娘が快楽に堕ちるさまを逃してはならない────だが、何のために?
振り幅は変わらないものの、フェズは内部のあらゆる場所に触れた。
壁に当たってはぬるんで軌道を外れ、結局は奥を小突いて離れる。
突くたびに甘い香りが周囲に広がる。
「う、あっ! ん、んくっ! ぅあ」
突くたびに途切れた喘ぎが空気を揺らす。
フェズの視覚や触感だけではなく、鼻腔と耳腔をも、ハリエットに持っていかれそうになる。
ハリエットの蜜はたらたらと尻を滴り、水溜まりを作っていた。
「ハリエット、王女になり損ねたお姫様」
「……っぅ……ッ」
ハリエットは正気を取り戻したかのように目を大きく見開いた。
「この孕の中に私の精液を注げばもう戻れない。 他種族と契った王族など皆は受け入れないだろう」
「……っ……っあ」
彼女の伸ばされた両腕が虚しく空をつかむ。
フェズは同情のこもった目でハリエットを見下ろした。
「だが心配することはない。 私が傍にいよう」
無言で首を横に振るハリエットの腰を、フェズが引き寄せる。
フェズのペニスが何度かごちゅごちゅと中を探り、やがてピッタリくる箇所を見つけ出す。
「あっ! ん、んあ!」
軽々とハリエットの下半身を浮かせたフェズが、吐精へ向かい始める。
根元まで収まるようになった怒張が立て続けにハリエットを責める。
子宮口を押し潰す勢いで、深く、貫いていく。
「ぅあ! はあ、ぁあっ! やンん! ひぐ!」
ぶつ切りのよがり声をあげ続ける、ハリエットの身体がカクカク揺れる。
衝撃から逃げようと上半身を捻るが無駄だ。
執拗に追っては恥骨に下腹をぶつけ、休みを与えず膣穴を穿つ。
狭いながらもしっかりと雄を受け入れる。
爆ぜては止まない愉悦の波に、とうとうフェズは制御を忘れた。
「はあっ、はあ!」
「んあっ! ああっ、あッ! あ────!!」
攪拌され、白く泡立つ中へ中へと、本能が引き込まれる。
快楽の塊がせり上ってくるのを感じ、フェズは夢中で腰を打った。
「助け、て!」叫ぶハリエットの声が耳を掠めた。
「こんなにも私の形を覚えてしまった、お前を手離したくない……っ!」
ズンッとひと際強く打ち付け、張り詰めた怒張が全てを解放する。
フェズの精は瞬く間にハリエットを満たした。
ごぽっ!! 彼女の孕の奥に噴射される体液が、結合部から迸る。
それを阻止するかのようにフェズの上体がハリエットに被さった。
「……は、ああっ、あ…あ……」
ハリエットの瞳は絶望の涙で濡れ滲んでいた。
一方でふっくらと艶やかな唇の端は僅かにあがり、快感の余韻に浸っていると見えなくもない。
ふう、と大きく息を吐いたフェズが軽く抽挿を続け、存分に吐いた精を膣内に行き渡らせる。
「いや? 嫌じゃないな。 君は私を刺さなかった。 神の摂理に背いているのに」
そうだ、この娘の全てを差し出されなければ割に合わない。 そんな風に自分が感じたのは、種を残す希望を捨てることと同義だからだ。 フェズは気付いた。
それでも自分に後悔はない。
こんな可愛い生き物を毎日眺められるのなら、それが明日への希望の糧となろう。
「うっ……ううっ、ひど……」
「すぐに死んでしまう雄よりも、私の方がいいはずだ。 何年も一緒に生きれる。 毎晩番ってあげられる……どうだい?」
泣きじゃくるハリエットを抱きしめるフェズが、優しい囁きを彼女の耳へと、次々に置いていく。
「巣箱の中で卵を産み続けて一生を終えるなんて、馬鹿げてる」
「フェズさ…ひど……いわ。 私がいないと……皆が困るわ」
「何らかの理由で女王を失った蜂は新しい代役を作る」
「そう、なの? だけど…私、跳べないもの」
「どこへでも連れて行ってあげる。 蜜の取り方を教えてあげる。 青空の広さも……月の輝きも降る星も、君のものだ」
「……つ……つき? ほし?」
唐突にハリエットが泣き止んだ。
フェズが笑いかけると恥じらうように下を向く。
「箱入りのお姫様。 君に伝えたいものはまだまだたくさんある」
ハリエットは何か言いかけては口を閉じ、もじもじしている。
抑えきれない好奇心。 そんなものを必死に押し隠そうとしているようだ。
「あの、私……き、綺麗なものが好きよ。 空を初めて見たの」
「そうか」
「フェズ……さんも……綺麗だわ」
最後は消え入るようにポツリと言うと、ミツバチの姫はフェズの胸の下に潜り込む。
そんなハリエットの身体を羽の毛布で覆った蝶は、まずは口付けを教えてみたいな、などと真面目に考え始めるのだった。
◆
「────なんて想像しやしないかい、ハリエット? こんなに仲睦まじいミツバチと蝶々を見ていたら」
「確かに何も知らなかった私を手篭めにしたのはフェズ、貴方ですけども。 そのミツバチさんは案外、貴方の姿を見かけて、わざと落ちたのかも知れなくってよ?」
いつも彼の姿を遠目で見掛けては、ほんの少しだけ窓を細く開けていた、私のように……とは、ハリエットは口には出さなかった。
「ま、人間も虫も恋は命懸けってとこか。 私も小国とはいえ、君の父王に殺されそうになったしね」
恋人同士にしては若干年の離れた、少女と美しい青年が手を繋ぎ、その場所を後にする。
────四月某日、屋外に作られた王立植物園にて。
「……ああ、かように甘い」
長い長い睫毛を落として忽然と呟いている。
ハリエットはこんなに綺麗な生き物を今まで見たことがなかった。
彼女の鼓動はちっとも止まないどころか大きく鳴るばかりだ。
「起きたか。 痛みはないか? 私はルリアゲハのフェズというが……お前は?」
フェズが髪と同じ銀色の瞳を上にあげてハリエットを見つめた。
「……っ!……!!」
ハリエットは口をパクパク開けて話そうとする。
しかし緊張のせいか。 彼女の声はぷしゅっ、と喉を抜けて空気に混ざり、音にならなかった。
そもそもなんで、自分は今こんな状況なのか。
なんで見知らぬ人の肩に跨り脚を舐め回されているのか。
ぐるぐる考えているとフェズが桜色の唇を開く。
「幼子よ。 そんなに震えるな。 何も取って食う訳じゃない」
(子供じゃない!)
ハリエットは心の中で叫ぶ。
「見たところミツバチの稚児……ん、蜂の幼体はお前みたいな成虫ではないな。 確かに羽は小さいが……蜂とはこんな少年も蜜集めに使うのか?」
(少年じゃない!!)
顔全部を真っ赤に染めて、ぶんぶん頭を横に振るハリエットに対し、フェズは物思わしげに眉を寄せる。
「もしかすると私は蜜集め中の蜂の餌を横取りしてしまったのか? つい最近越冬から明けたばかりだったから。 どうにも腹が減って……相済まない」
そう言うとフェズはハリエットの腰を両手で持って地面に下ろしてくれた。
ハリエットは彼の申し訳なさそうな表情に気付き、慌ててポケットをゴソゴソ探った。
(お腹が空いてるのね。 ほら、見て! これをあげるわ!)
ハリエットは手のひらいっぱいの高級蜜蝋をフェズの目の前に差し出した。
お母様が道中のお弁当にと持たせてくれたものだ。
「私に? 香り高いレンゲの花だな」
ハリエットは頷いてニッコリ笑い、フェズもそれにつられるように薄らと目を細めた。
「心優しき少年よ。 ありが」
「────だから雄じゃないってば! 私はミツバチの姫、ハリエットって名前なの!!」
ハリエットのかん高い声がキンと辺りに響く。
フェズは見事な烏の濡れ羽色の羽を一度はためかせぽかんとした。
それから感じ入ったようにハリエットに見入る。
「お前の姿がそんななのは、だからか」
やっと話せたというのに大声で叫んでしまったのが恥ずかしくなり、下を向いたハリエットが頷いた。
ここは人間が所有する森。
女王となるミツバチの羽は遠くに逃げ出せないよう、人間によって切られることが多い。
ハリエットも成虫になって間もなく羽を失った。
「そ、そうなの。 だから早く戻らなきゃダメなんですけど」
ハリエットはそわそわした様子で頭上の草葉の間から覗く空を見上げた。
彼女を見ていたフェズが口を開く。
「それなら私が手を貸そう。 お前を抱えて跳ぶことなど容易い」
ぱあっ、とハリエットの顔が嬉しそうに輝く。
表情がコロコロ変わる娘だ、と思ったのかは分からないがフェズは苦笑した。
それから彼は顎に指をあて軽く首を傾げる。
「……と、いう事はお前は巣立ちの旅の最中……更にいえば、結婚の最中だったのか」
「い、いいえ。 結婚はまだ」
「なぜか? ミツバチというものは姫を伴い新たな巣に向かう途中で、雄蜂と交尾すると聞いた」
「そうなのですが。 巣立ちと共に分泌される私の体の成分のせいか。 雄たちがいつになく激しく争ってしまって」
ハリエットはほんの数刻前の出来事を思い出し、深いため息をついた。
◆
過ぎ去っていく冬の冷たさの代わりに、近付いてくる陽差しは日々暖かみを増していく。
「姫様。 あの丘を一つ越えた所が私たちの新しい住まいですわ」
待ち望んでいた春に花々の蕾は空を目指して伸びあがる。
沸き立つ周囲に引き摺られて、ハリエットも幸福な期待に胸を膨らませてしまう。
従者の働き蜂たちが支える大きな木の葉の上で、ハリエットは身を乗り出し忙しなく辺りを見回していた。
「わあ! この空の広いこと! 風の匂いに乗って、緑と花の香りがするわ!!」
はしゃぐハリエットに跳んでいる蜂たちが顔を見合わせ、クスリと笑みを零す。
「姫様ったら。 けれど無理もありませんわね。 姫様は生まれてからこのかた、こうやって巣の外に出たことがありませんから……に、しても。 巣立ちにはもう一つ、重要な役割があるというのに」
何百匹もの蜂の群れの最後尾で、一つの塊がハリエットたちを追っていた。
ブブブブと騒がしい音を立てながら。
「ふう、体たらくの雄共はまだ後ろで騒いでいるの? ほんの十匹の精でいいってのに」
「でも仕方ないわね。 姫様の結婚フェロモンは働き蜂の私たちでさえクラクラしますもの。 その御身は王族しか口に出来ないローヤルゼリーで出来ていますし」
ミツバチ社会での雄とは交配のためだけに存在する。
したがって蜜集めをしたり、外敵から巣を守り子育てなどをする働き蜂は全員雌となる。
そんな働き蜂の愚痴に混ざり、後ろの集団の中から躍り出たのは、一匹の大雄蜂。
「ひ、姫様あっ!!」
物凄い勢いでハリエットの居る場所に突っ込んでこようとするが、よくよく見るとそれは知った顔だった。
「きゃっ!! お、叔父様!?」
「姫様っ! こんなにお美しくなって……おう、堪らんわ、この香り」
涎を垂らして葉の上に乗り込もうとする雄蜂にハリエットは後ずさった。
「な、なぜ……叔父様が?」
この瞬間のためだけに生きる、雄蜂である彼の下半身は既にやる気に漲りギンギンである。
しかしながら人間しかり、蜂も血縁の近しい者との交配を避ける習性がある。
彼はハリエットの醸し出す結婚フェロモンに惹き付けられたのだろう。
が、そんなのは周りの逞しい従者が許さない。 瞬時に彼女たちの顔色が変わる。
「お前、私たちの元巣の者ね!?」
「近親婚などもってのほか!! おのれ、皆の者、この狼藉者を姫様から離せ!」
ハリエットの周囲はあっという間に働き蜂で黒く染まった。
「待って、皆」
「!!!」
「!!!」
血気盛んな怒号や羽音が辺り一面に響き渡る。
細々としたハリエットの声など掻き消さんばかりだ。
「皆、あ……あの。 そんなに乗られると」
「!!!」
「落ち……っ!?」
体ごとぐらっと傾いたハリエットが葉っぱから滑り落ちる。
ハリエットの視界から遠ざかっていく騒ぎは彼女に気付けない。
軽い体は音もなく風に乗った────……
……ぼふんっ!
ハリエットが落ちた場所は、今は満開と咲き誇るミモザの花の上だった。
黄色い小花が密集する低木がいいクッションになってくれたようだ。
アカシア科のミモザはミツバチの大好物である。
だが王族であるハリエットは、花粉そのままというものを今まで口にしたことが無い。
そして、そこら中に舞い散る花の粒子に……
「へく、ぐしゅうっ!」
大いにむせた。
おまけに目や鼻にも花粉が入り込み、溜まったものではない。
「ぐしゅ! うえっくしゅ、くしゅん!!」
鼻水や涙でズビズビになったハリエットは助けを呼ぶことも儘ならず、花の上をのたうち回る。
(苦しい。 死ぬ、死んじゃうわ!!)
あわや花粉症に悶え苦しむミツバチの姫。
体を襲う花粉に身の危険を感じたハリエットが、手近なミモザの葉を掴み夢中で身を踊らせた。
花や葉の上を数回バウンドし、気付くと彼女の手は、茶色い地面を踏みしめていた。
「ふえ、ぶしゅっ!!」
くしゃみの最後っ屁をかますと鼻をすする。
おかしいわね。 私、姫設定では……? と思ったのかは不明だがハリエットは頭をポリポリ掻いた。
周りを見渡すも、背の高い草や茎、木の根っこしか見当たらない。
どうしようかと考え始めた頃、聞き覚えのある音が耳を掠めた。
ポタッ、ポタタッ……
それはどうやら離れた所で水のしずくが滴る音らしかった。
「………?」
子供の時に、自分たちの巣を濡らしていた、雨だれの音が聴こえるのを不思議に思った。
ハリエットは立ち上がりその方向へと歩き始める。
そこで彼女が目にしたもの。
草葉の間からゆるりと動く闇の色。
なおもそこから顔を覗かせたハリエットは息を呑んだ。
それはそれは美しく大きな一対の羽だった。
漆黒といっても、まるで光を濡らしたかのような艶をまぶした黒。
黒の中に、深い緑や紫の差し色が入っている。
それらが、頭上から漏れる明かりの筋に照らされるたび、反射してキラキラ光る。
けれどもハリエットの目を奪ったのはそれだけではなく。
羽の元は見上げるような身丈をもつ肢体の生き物だった。
長い脚はすんなりしているが、所々硬そうな筋肉に覆われ、腿や尻、何より大きな背中の両側から肩や腕にかけるまで、その盛り上がりはシンプルではあるが複雑な陰影を形作っている。
ゴツゴツした木肌に頭を寄せ、生き物は隙間から垂れてくる水を飲んでいる様子だった。
背中に降り掛かっている銀色の糸の束は髪だろうか。
ハリエットはくしゃくしゃに絡んでいる、自分の巻き毛に手をやった。
背中の小さな羽の切れっ端にも。
……私とは全然違う。
その神々しい生き物を見るのもおこがましいように感じたハリエットはその場を離れようとした。
その時、肩に触れた葉擦れの音に、ハリエットとそれからその生き物は素早く反応した。
「何者だ!?」
けれどまさか、振り向きざまに石を投げられるとは。
カーン! と頭からいい音がして薄れて狭まっていくハリエットの視界に、驚いたように目を見開く美麗な顔が映り遠のいていく。
◆
それで、ハリエットが次に目を開けると空腹の蝶(という生き物らしい)のフェズに立ったまま持ち上げられ、ペロペロ舐め回られていたという訳だった。
地べたに座るのも何なので、ハリエットとフェズは草の影にある枯れ枝の上に、並んで腰を下ろした。
一通りの出来事をフェズに話すと彼は時々含み笑いを漏らしながらも、ハリエットに耳を傾けてくれた。
「うーん……なるほど。 姫か、どおりでな。 お前の甘い香りは体中についている花粉のせいかと思って色々観察していたのだが。 だから舐めても舐めても甘いのか」
「い、色々……?」
焦りを滲ませたハリエットが両腕で自分の体を庇う。
どこをどういう風に観察されたのだろう。
面長の整った顔を崩さずフェズが頷く。
「うむ。 そもそもそのように服を着ている虫など滅多にいない」
ハリエットは薄い葉脈で編んだ服を着ていた。
「これ……っは、そこらじゅうの雄蜂が発情して襲ってこないように!」
「……お前にか?」
フェズの視線はハリエットの胸に注がれている。
そこから顔面を通り、全身へと。
「私は何度かミツバチに出会ったことがあるが……もっと、何だ。 こう」
こうってどう……?
彼の両方の手付きが、空に女性体を表す流線を描いているのを見て、ハリエットは察した。
「っそりゃ、まだ……他の従者と較べれば、私の身体は少しだけ子供っぽいですが」
「少し?」
「……か…なり」
突っ込んでくるフェズにハリエットの声が先細りになる。
成虫となり間もないハリエットは、背も小さく貧相な身体付きであった。
……とはいえ、こんな立派な蝶と比べられても困る。
一応自分はミツバチ代表だ。
ハリエットはフェズをキッと睨んだ。
「それでも……わ、私は唯一、雄にとっては発情の対象となるんです! 貴方みたいな外見を持った人には分からないでしょうけど!!」
「外見? 私の」
不思議そうに自分の姿を見下ろす彼には自覚が無いようだ。
銀糸の髪がハラリと頬にかかる彼の横顔は、女性よりも艶かしい。
ハリエットはますます惨めな気持ちになった。
「う……そんな、のは置いといて…フェズさん」
「ん」
「私を送り届けて……くれるのでは?」
フェズは少し黙った後にパタパタと羽を数度動かした。
それから首を横に振り小さく息を吐く。
「まだ力がない。 おそらく長く跳べるだけのエネルギーが足りないのだと思う」
「さっ…きの蜜蝋は?」
遠慮がちにハリエットが訊くとフェズが急に身体を寄せてくる。
「もう食い終わった……ああ、そうだ」
いえ、あの。
衣服越しにフェズの体温を感じる。
「それよりハリエット」
ち、近いです。
すっきりした目鼻立ちの顔が迫ってくる。
「少しばかりお前を味わわせて欲しい」
意味がわからない。
フェズさんはまさかの肉食?
ハリエットがアワアワしながら仰け反って、フェズを避けようとする。
「えいやあああのっ……そ、そう。 さっきから気になっていたのですが、フェズさんの足の間の、それは……っ」
そして彼の下半身もギンギンである。
自分の知っている雄蜂はもれなくこうなのだが、蝶もだとはハリエットは思っていなかったし、身体に見合ってフェズのそれはあまりに立派過ぎた。
「普通に生殖器だが。 目覚めたばかりだからと思っていたら、どうにも治まらぬ。 せっかくだ、これがお前の発情とやらのせいか試してみようか。 飯のついでに」
もはや何がどうついでか分からない。
取って食わないと言ったのに、嘘つき!!
ハリエットの頭はパンク寸前だった。
「む、無理ですっ!!! 刺しますよっ!」
「そういえば、ミツバチは針を刺すと死んでしまうというな」
「は、はい。 それでも私は、他種族に食べられたり穢されるぐらいなら!!」
「まあ、その前に私が刺してやるからちょっと待て」
「!?!!??」
蝶にも針が!?
どこに、と咄嗟にフェズの横をすり抜けようとしたハリエットの肩に、フェズの長い腕が回る。
身体を小さくして縮こまるミツバチに、蝶がその蜜を上回る糖度で甘く囁いた。
「それから考えてみても良いだろう……返事は不要だ。 今しがた鼻につくほどの濃い香り。 ふ。 なあに、ほんの少しの寄り道────……」
〈Fezz〉
偶然出会ったミツバチだ。
幼女のような見た目だが、蜂的には大人らしい。
姫というからにはさぞかし美味いに違いない。
フェズの脳内を占めていたのはその時、食欲が殆どだった。
なにせハリエットの衣服の隙間からは、まだ花粉が零れ出ているし、真っ白な柔肌の良い香りといったら……!
肌の上に花粉を乗せて食すればさぞかし美味だろう。
フェズは躊躇いもなく彼女の衣服を剥き、そこから覗いたハリエットの小さな肩に舌を這わせた。
ジタバタ抵抗しているが知らぬ。
フェズは片手でハリエットの両手首を束ねた。
「………!!」
何か叫んでいるが知らぬ。
続いてハリエットの仲間や天敵に気付かれないよう、自分たちの姿をすっぽり羽で覆う。
「やはり小さな乳房だ」
ハリエットの肢体を見た時のフェズは、ふっと、笑いが漏れそうな気分だった。
あまり凹凸の無いつるりとした身体は、フェズの空腹中枢を大いに刺激した。
人間がたまに寄越してくれる角砂糖を思わせる。
試しに乳房を花粉と一緒に舐めてみると、ハリエット自身の香りと相まって、やはり美味だった。
柔らかな乳頭を舌で押し潰しながらフェズは考える。
味といい感触といい────いっそどうにかここから乳が出ないものか。 そしたらもっと美味くなるに違いない。
ローヤルゼリーの魔力に取り憑かれたフェズは夢中で乳首を吸う。
舌を滑らせていると生意気にも堅くなる。
フェズはささやかな突起を舌でコロコロ転がし、時おり皮膚の表面をくすぐるように撫でた。
そうしているうちに、フェズの鼻がひくひく動く。
「ああ、やはり。 ここに隠していたんだな」
蝶の越冬とは長く厳しいものである。
サナギで過ごす者もいれば、ルリアゲハであるフェズのように、成体で枯葉などの下に潜り、雨雪や木枯らしを耐え忍ぶ者もいる。
他方でミツバチは集団で暖を取り、ましてや王族ともなれば皆から守られ、特別な餌を与えられてぬくぬく過ごす。
それは生まれついた個体の運命だとフェズは思っている。
だが、それならば目の前に落ちてきた、この娘をどうしようとそれもまた私の勝手では?
自分に納得がいく理屈を並べて安堵したフェズは、ハリエットの腿を押さえつけ、秘部に湛えられた蜜を吸った。
「これは……何とも」
言葉に表せない味だった。
まさに凝縮された花そのもの。
「こいつを味わえばいつもの花の蜜など水だ」
フェズは表面に滲んでいる液体を、我を忘れて舌で掬っては舐めた。
そのうちにどうにも我慢がならなくなり、気管に折り畳んでいた口吻を伸ばし、ずぷぷと中に入れる。
ハリエットの悲鳴が耳を掠めたがフェズは無視した。
口吻とは蝶独特の、蜜や水分を摂るための器官であるが、フェズの先はブラシのようになっている。
そこで花の底を掻きながらストロー状の管で吸い取る仕組みだ。
内部に溢れている蜜を吸い、その出どころを探す。
こんな美味いものを傷付けては元も子もないので、フェズはハリエットを優しく扱うことにした。
収縮性のあるハリエットの腟内は幾分窮屈ではある。
それでも管を回して広げブラシの先で、やわやわと内部の襞の間をこそげ取ると、柔らかく解けてくる。
その内にどこからともなく再び蜜でいっぱいになる。まるでいくら飲んでも絶えない泉のようだ。
ジュルジュルジュルジュルと音を立て、フェズは思うままにハリエットを貪った。
「ふう……ハリエット。 美味かった」
ひと冬分の飢餓を満たしたフェズは、ようやくハリエットの足の間から顔を離す。
ここから乳は出ないらしい、そう解するまでは冷静になり、お礼に可愛らしい乳首を指先で撫であげた。
「っく!」
妙な声をあげたハリエットの顔は真っ赤で、おまけに涙や鼻水でぐちゃぐちゃである。
彼女の顔を改めて観察する。
低めの小さな鼻に大きな瞳。
庇護欲が唆られる顔の造作は、この種の王族の特徴なのか。
裸に剥かれて身体中を舐め回されたのだから、ミツバチの姫は傷付いているに違いない。 フェズはハリエットの頬を濡らす涙を指で拭う。
「……可哀想に」
他人事のようにひと言呟くも、フェズは不思議な気分だった。
彼女は今、可哀想だが可愛くもある。
これをもっと泣かせたら、どうなるだろう? そんな気持ちも湧いてくる。
そしてそう考えると、次はどうしようも無く自分の生殖器が滾るのだ。
ハリエットの腿にそれを擦り付けると彼女の身体がビクッと揺れた。
いい反応を返してくれる。
さらにハリエットの恐怖心を煽るために体重をかけ、フェズはハリエットの耳に口を寄せる。
低い声音を作るとゆっくりと宣言した。
「お前をちゃんと穢してあげなくてはな」
「ふ、フェ…ズさ……?」
いくら考えても詮無いことだ。 自分はどうやらミツバチに欲情しているらしい。
怯えて揺らめく黒い瞳にゾクゾクする。
だがこれは果たして挿入るのか? ふと思ったフェズが身を起こしかけた時。
「────様」
「……姫様あっ!」
遥か頭上で飛び交う声が二人に降ってきた。
「……っ!?」
ハッとした二人は上を見上げ、空を跳ぶ豆粒のような影を認めた。
「ハリエット姫のお迎えかな……どうする?」
「か、かえ……る」
「帰る?」
ハリエットは助かったとばかりに感激に身を震わせていた。
馬鹿な。
帰るなど冗談じゃない。 フェズはそんな彼女を鼻で笑った。
万が一ここで蜂の大群に襲われたら、体の大きなフェズでもひとたまりも無い。
しかし彼が考えていたのは別のことだった。
不快感は否めないが、特に悪意やましてや殺意などない。
「ハリエット様! どこにいらっしゃいますかあっ!?」
「姫様ーーー!」
単にハリエットを動けなくするためだ。
フェズの手はハリエットの細首に回っていた。
「大声を出すな」
「か……かえ……して……」
だからそんな風にプルプル震えられると困る。
フェズはうっかり力を入れそうになる自分の指を意志の力で抑えていた。
「ああ……構わない。 だが本当に?」
「………?」
「こんなに乳首を腫らして淫らに生殖器を濡らして。 これはお前が堪らなく気持ち良くなってるしるしだと知っていたかな?」
「え………? それは……結婚フェロモン…で発情してる、から」
「違う。 発情期は勝手に来るが、ハリエットの身体は私で感じてるんだ。 それなのに、ここに他の雄を受け入れるのか」
フェズはハリエットの首を押さえ付けたまま、膣口に指先をしのばせる。
「………えっ…あうっ!」
ドロドロに濡れたそこに二本の指を押し込んだ。
無遠慮に掻き回すとハリエットの顔が苦痛に歪む。
「確か十匹ぐらいとするんだろう? 射精の瞬間に雄蜂は死ぬんだっけな。 私の舌や指で散々辱められたここで、雄蜂は最期の思いを遂げるのか? 可哀想だと思わないか」
「……そ、そん…な」
ハリエットは再びポロポロ涙を零した。
初対面で自分の食事を差し出した親切なお姫様。
そしてなんと御しやすいお姫様。
ああ、私はこの顔をずっと見ていたい。
「雄蜂の馬鹿でかい生殖器から比べたら、私のは物足りないかな」
フェズは思い出したが、雄蜂のあれは体の比率からすると、大概な大きさだ。
精子の入った袋を雌に打ち込むのだから。
そしてその間は数秒ときく。
「その代わり蝶の交尾はその気になれば数時間だ。 きっとお前が知らない場所に連れて行ってあげる」
フェズはうっとりとした表情でハリエットを見つめ、怒張し切った自らのペニスを手で握る。
ハリエットは目を剥いたままそこから動かなかった。
「姫様」「姫様」ハリエットを呼ぶ声が遠くなっていく。
その声が完全に聞こえなくなる直前に、フェズの一部が侵入を試みた。
「!んうっ」
ぬるんだハリエットの秘部は確かに小さい。
それでも充分過ぎるほど解した入り口は、粘膜を引きつらせながらも、フェズの太い先を迎えた。
「や……やあっ、こ……壊れちゃ……っ」
「はあ、大丈夫だ……壊れても私が食べてあげるから。 それが嫌なら力を抜くんだ、ハリエット?」
締め付ける膣肉の、余りの気持ちよさに片目を眇めたフェズが、本気とも冗談とも取れる言葉をハリエットに掛ける。
ハリエットは痛みか怖さからか話せない様子だった。
それでもおそるおそると強ばりが抜けていく。
「……っ……」
「そうそう……良い子だね」
フェズは素直なハリエットを優しく褒めた。
浅い所で二、三度動かしてから、フェズが残りを徐々に沈めていく。
一気に突きたいがそうしないのはハリエットの深さが分からないからだ。
ビクビクと震えっぱなしの彼女の身体が、いっぱいになっていくのが分かる。
「ん……挿入ったか、感じる? ハリエット」
ペニスをぎちぎちに締め付けるハリエットの中は、明らかにフェズを異物として、拒絶しているようだった。
「……っ……っ」
きつく唇を噛み締め顔を背けているのも。
フェズは自らの快感と相まり、興奮に震えそうになる自分の声を押し殺した。
それを誤魔化すために腰を揺する。
眉間にぎゅっと眉を寄せたハリエットが苦悶の呻きを漏らす。
「ああぐううっ!!」
「挿入ってるかと訊いてるんだが?」
「ひい……は、はいっ……て、る……っから……う、動かな」
すすり泣きに似た情けない声である。
ハリエットの腕よりも、太く長いモノを受け入れているのだから辛いのだろう。
そんなハリエットに見入り、フェズはやはり思ってしまう。
可哀想だ。 だが可愛い。
「ひ……っぅ……ッ! く、ぅう!」
ちゅぶちゅぶ音を立て、蜜を押し込むように、ハリエットの奥に振動を送り込む。
「私はまだ足りない。 ここも柔らかくしないと……っ」
入り切らない残りも全て収めてもらおう。 そうでもないと割に合わない。 フェズはハリエットの行き止まりを丹念に捏ねた。
そうしながらもぐっ、ぐっ、と押し進んでいく。
「やあっ、も、理ぃ……っ! 無理…なのぉ!」
フェズは座った体勢でハリエットを犯していた。
ふと、膝裏をすくっている彼女の脚先が伸びているのに気付く。
乳首も触れてないのにかかわらず、ずっと膨らみっ放しだ。
結合部に視線を落とすと、真っ赤に色を変えた膣が懸命に異種のペニスを咥えこんでいる。
腰を引くたびに入口の粘膜が伸ばされ、それは名残惜しそうにフェズの怒張を引き留めているかのようだ。
それを証拠に、ハリエットの中の様子が明らかに変わりつつあった。
挿入の際にペニスを引き絞っていた膣道。 それが今や柔らかくフェズを受け入れ、出ようとすると絡み付いてくる。
「ハリエット、私のモノでも感じているね?」
「ひぐぅ、いやっ……いやぁ……っ!」
身体はこんなにも分かりやすいというのに。 泣きながら首を激しく横に振るハリエットが愛らしくも憎くなる。
まるでいくつもの感情が生まれては、ハリエットの中に吸い込まれていくようだった。
腟壁の粘膜にやわやわ扱かれる快感に酔いしれながら、フェズは一定のリズムを保っていた。
ハリエットの表情を見つめる余裕だけは残しておきたかったからだ。
この娘が快楽に堕ちるさまを逃してはならない────だが、何のために?
振り幅は変わらないものの、フェズは内部のあらゆる場所に触れた。
壁に当たってはぬるんで軌道を外れ、結局は奥を小突いて離れる。
突くたびに甘い香りが周囲に広がる。
「う、あっ! ん、んくっ! ぅあ」
突くたびに途切れた喘ぎが空気を揺らす。
フェズの視覚や触感だけではなく、鼻腔と耳腔をも、ハリエットに持っていかれそうになる。
ハリエットの蜜はたらたらと尻を滴り、水溜まりを作っていた。
「ハリエット、王女になり損ねたお姫様」
「……っぅ……ッ」
ハリエットは正気を取り戻したかのように目を大きく見開いた。
「この孕の中に私の精液を注げばもう戻れない。 他種族と契った王族など皆は受け入れないだろう」
「……っ……っあ」
彼女の伸ばされた両腕が虚しく空をつかむ。
フェズは同情のこもった目でハリエットを見下ろした。
「だが心配することはない。 私が傍にいよう」
無言で首を横に振るハリエットの腰を、フェズが引き寄せる。
フェズのペニスが何度かごちゅごちゅと中を探り、やがてピッタリくる箇所を見つけ出す。
「あっ! ん、んあ!」
軽々とハリエットの下半身を浮かせたフェズが、吐精へ向かい始める。
根元まで収まるようになった怒張が立て続けにハリエットを責める。
子宮口を押し潰す勢いで、深く、貫いていく。
「ぅあ! はあ、ぁあっ! やンん! ひぐ!」
ぶつ切りのよがり声をあげ続ける、ハリエットの身体がカクカク揺れる。
衝撃から逃げようと上半身を捻るが無駄だ。
執拗に追っては恥骨に下腹をぶつけ、休みを与えず膣穴を穿つ。
狭いながらもしっかりと雄を受け入れる。
爆ぜては止まない愉悦の波に、とうとうフェズは制御を忘れた。
「はあっ、はあ!」
「んあっ! ああっ、あッ! あ────!!」
攪拌され、白く泡立つ中へ中へと、本能が引き込まれる。
快楽の塊がせり上ってくるのを感じ、フェズは夢中で腰を打った。
「助け、て!」叫ぶハリエットの声が耳を掠めた。
「こんなにも私の形を覚えてしまった、お前を手離したくない……っ!」
ズンッとひと際強く打ち付け、張り詰めた怒張が全てを解放する。
フェズの精は瞬く間にハリエットを満たした。
ごぽっ!! 彼女の孕の奥に噴射される体液が、結合部から迸る。
それを阻止するかのようにフェズの上体がハリエットに被さった。
「……は、ああっ、あ…あ……」
ハリエットの瞳は絶望の涙で濡れ滲んでいた。
一方でふっくらと艶やかな唇の端は僅かにあがり、快感の余韻に浸っていると見えなくもない。
ふう、と大きく息を吐いたフェズが軽く抽挿を続け、存分に吐いた精を膣内に行き渡らせる。
「いや? 嫌じゃないな。 君は私を刺さなかった。 神の摂理に背いているのに」
そうだ、この娘の全てを差し出されなければ割に合わない。 そんな風に自分が感じたのは、種を残す希望を捨てることと同義だからだ。 フェズは気付いた。
それでも自分に後悔はない。
こんな可愛い生き物を毎日眺められるのなら、それが明日への希望の糧となろう。
「うっ……ううっ、ひど……」
「すぐに死んでしまう雄よりも、私の方がいいはずだ。 何年も一緒に生きれる。 毎晩番ってあげられる……どうだい?」
泣きじゃくるハリエットを抱きしめるフェズが、優しい囁きを彼女の耳へと、次々に置いていく。
「巣箱の中で卵を産み続けて一生を終えるなんて、馬鹿げてる」
「フェズさ…ひど……いわ。 私がいないと……皆が困るわ」
「何らかの理由で女王を失った蜂は新しい代役を作る」
「そう、なの? だけど…私、跳べないもの」
「どこへでも連れて行ってあげる。 蜜の取り方を教えてあげる。 青空の広さも……月の輝きも降る星も、君のものだ」
「……つ……つき? ほし?」
唐突にハリエットが泣き止んだ。
フェズが笑いかけると恥じらうように下を向く。
「箱入りのお姫様。 君に伝えたいものはまだまだたくさんある」
ハリエットは何か言いかけては口を閉じ、もじもじしている。
抑えきれない好奇心。 そんなものを必死に押し隠そうとしているようだ。
「あの、私……き、綺麗なものが好きよ。 空を初めて見たの」
「そうか」
「フェズ……さんも……綺麗だわ」
最後は消え入るようにポツリと言うと、ミツバチの姫はフェズの胸の下に潜り込む。
そんなハリエットの身体を羽の毛布で覆った蝶は、まずは口付けを教えてみたいな、などと真面目に考え始めるのだった。
◆
「────なんて想像しやしないかい、ハリエット? こんなに仲睦まじいミツバチと蝶々を見ていたら」
「確かに何も知らなかった私を手篭めにしたのはフェズ、貴方ですけども。 そのミツバチさんは案外、貴方の姿を見かけて、わざと落ちたのかも知れなくってよ?」
いつも彼の姿を遠目で見掛けては、ほんの少しだけ窓を細く開けていた、私のように……とは、ハリエットは口には出さなかった。
「ま、人間も虫も恋は命懸けってとこか。 私も小国とはいえ、君の父王に殺されそうになったしね」
恋人同士にしては若干年の離れた、少女と美しい青年が手を繋ぎ、その場所を後にする。
────四月某日、屋外に作られた王立植物園にて。
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