うっかり拾った人ならぬ少年は私をつがいにするらしい。

妓夫 件

文字の大きさ
2 / 25
琥牙という少年

1話

しおりを挟む
当方桜井真弥さくらいまや26歳、出版社勤務の会社員。
現在彼氏ナシ。

私の性格はざっくばらんにいえばざっくばらんだ。
他人に言わせると、抜けてもいるらしい。

背が高い人って格好良いけどのんびりしてる子が多いよね。 褒め言葉なのかよく分からない評価を、小さな頃から受けてきた。



そんな私と琥牙との出会いは、二ヶ月ほど前の春。

通勤帰りの地下鉄構内に遡る。

ラッシュの波に呑まれて、階段から足を滑らせた私を、咄嗟にすくい上げてくれたのが琥牙だった。
階段の一段上にいた彼には何の支えもなかったにも関わらず、伸ばした腕が私の胸の下に回って、こちらの足先は浮いていた。

後ろを見上げ、それが年端も行かない少年だという事実に、私は思わずまじまじと彼を見詰めてしまった。

「……後ろから見てたらお姉さんってシャボン玉みたいだったよ。 もう少し、人とか段差とか壁に抗うとかしようよ」

そこまでふわふわしてんのかな。

「これでもそのせいで今まで色々痛い目に遭ってきてんのよ」

まるで頼りないみたいに言われたので、一応自身の逞しさを主張してみる。
捻挫位は日常茶飯事だ。

琥牙は困惑した表情をしていた。

そっと降ろされ、床を踏み締め改めて自重を実感する。
彼の腕。私とそれ程太さも変わらず何の変哲もない。

「変わった子ね? でも、ありがとう。 ジュースでも飲む?」

「お腹が空いたかな。 四日ほど食べてないし」

普通になんかの冗談かと思った。



そしてお礼のつもりで駅近のファミリーレストランで食事をご馳走し、話しているうちに私は妙に彼に懐かれた。
餌付けてしまったのだろうか。

「へ、琥牙くん? あなた家がないの?」

苗字を名乗らず琥牙とだけ自己紹介した彼はフリードリンクのコーラを口にしながらこくん、と小さく頷いた。

大方親と喧嘩でもして帰りたくないんだろうと私は想像した。
この位の歳の子によくある反抗期ってやつ。

秀でた額や形の良い唇。
よく見ると発展途上ではある。

だが彼は育ちの良い顔つきをしていた。
放置子にも、彼の受け応えからも小狡い嘘をついたり悪さをするようには見えない。


「お姉さんといると気持ちいい。 真弥って呼んでいい?」

彼の言葉のチョイスを可笑しく感じた。
話しやすい、気が合う、安心する。
数ある語彙の中で彼が選んだ『気持ちいい』。

そのセンスを可愛いと思ったのだ。

ちなみに私にショタ云々の趣味はなく、恋愛相手としては大人の色気があり、頼れる歳上が好きだ。
するとこれはいわゆる母性本能というやつだろうか。



琥牙が三人前程の量の食事を口に運んでる間に飲んでいたビールの勢いもあり、私は結局彼を自宅のマンションに連れて帰る事にした。

野宿させる訳にもいかなかったし一晩位なら犯罪にはならないだろう。

子供と間違いなんて起こりっこない。

そんな軽い考えだった。



そして夜も更けた頃。

突然部屋のベランダの外から恭しく現れた巨大な犬。
それを見た琥牙が目を丸くして『伯斗』、と呟いた。

「琥牙様。 匂いを辿って探しましたぞ。 里を抜けてよもやこんな所に」

噛み付かんばかりに興奮してる喋る犬。
その大きな口と牙は人の首なんて簡単に噛みちぎれそうに太く鋭い。

「おれ、帰りたくない。 やっと見付けたし」

琥牙はてこでもここから動かない、と私の後ろに隠れようとしている。

「…えっ……え?」

待ってよ。
こんな化け物前に隠れたいのはむしろこっちの方だって。

「見付けた、と。 ではこの方が? 」

「真弥っていうんだよ」

その犬が私と琥牙を交互に見る。

犬が喋るとか話の内容は100万歩譲って。
どうやら琥牙とこの犬は親しい間柄とみた。

「……しかし琥牙様のお相手にはいささかお歳を召しすぎているのでは」

「悪かったわね。 歳食ってて」

「ああ、失礼致しました。 いえ、でも。 ふむ。 真弥どのと仰いましたか。 どことなく、琥牙様の亡き姉上様に似ていらっしゃる」

細められた金色の瞳で見詰められるとさすがに居竦んでしまう。

「大丈夫だよ、真弥。 こいつはおれの昔からの世話係の狼、伯斗って名前」

後ずさる私に気付き、伯斗さんは丁寧にこちらに向かって頭を下げた。

「初めまして真弥どの。 私は……そうですね。 人間の伝承にならった言い方をすれば私たちは────『人狼』の一族です」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...