うっかり拾った人ならぬ少年は私をつがいにするらしい。

妓夫 件

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推されても困る

1話

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そして話は現在、冒頭に戻る。

寝入る琥牙と室内で私と話し込んでいる伯斗さん。


「何にしろ、良い兆候です。 琥牙様の選択は間違いでは無かった」

(狼的に)ほくほく顔の伯斗さんである。
あれからちょくちょくこうやって様子を見に来てくれる。

琥牙の事が気になるのが一番なんだろう。
とはいえ私の事も色々と気にかけてくれているらしい。

「けどあの、琥牙がいるからって、大してうちは経済的に変わってませんよ? 家の事もしてくれますし、むしろちゃんと自炊するようになってからこっちも健康的に助かってる位で」

私の怪我の回数も減ったし。

ちなみに初日に貰った石。
ゼロが軽く6つ並ぶ代物だった。
あれはいつか琥牙が居なくなる時に返す予定でデスクの引き出しに閉まっている。

「それに着る服も、元々私が持ってる男性物の服でほぼ間に合ってますし。 そもそも琥牙ってなんで、私みたいな歳上でデカい女の事なんかを気に入ってるのか、サッパリ分かんないんですけど」

特に自嘲するでもなく私は頬に手を当てた。

ベルセルクなどとも形容される、いかつい狼男というより美少年、といった言葉の方がまだしっくり来る琥牙。
彼の隣に並ぶのは儚げな美少女の方が絶対似合うと思うのに。
絵的な意味で。

「以前にも少しお話しましたが。 私たちが人の10歳程で成長する、というのはあくまで第二次性徴的な意味です。 琥牙様はまだ肉体的にも子供の分類。 彼の父親は狼の姿では私よりも優に一回りは大きかったですし、人の時も真弥どのが見上げる程でしたよ」

『見上げる程でした』

そしてまた過去形。

「……あの、琥牙のお父さんって、もう居ないんですか?」

ずっと聞きそびれていた事を訊いてみた。

「はい。 里から離れた森で狼の時に、狩猟をする人間によって殺されました。 それなのに彼がこうやって人に対して無防備であるのは……幸運と言えばいいのか、不幸と言っていいのか」

「そうなんですか……」

「お父上は里でただ一人、人に姿を変えられる人狼でした。 それが人間に殺められ、後継者である琥牙様が皮肉にも人との混血であった。 周囲の目も決して温かいものばかりではなくその心情はいくらばかりかと思うと」

伯斗さんが前脚でそっと自らの目頭を拭う。
それに私も釣られてじわりと目に水の膜が張る。

私は昔から動物モノなんかに弱い。 
ハチ公物語なんか動画の表紙だけで泣ける自信ある。

「そんな事情もあり、幼少より腫れ物のような扱いで周囲から距離を置かれ、窮屈な生活を強いれられて来た琥牙様。 こうやって異性であれ、他人を求めるまで成長したという事実には、私は真弥どのには感謝の言葉しかございません」

「それなら尚更、あんなものいただく訳にはいきませんよ。 琥牙は純粋に優しい子ですし、私が好きでやってる事ですから」

「いえ、今まで確信がありませんでしたが、今日の出来事を聞いて考えが変わりました。 やはり真弥どのはゆくゆくは母上のように、琥牙様の伴侶になられるお方。 そうなればどちらにしろ、あんなものといわず、生涯の富を約束される御身になるでしょう」

どうやら泊斗さんまで琥牙サイドに回ってしまったらしい。
だから伴侶とか言われても。

「何か困る事がおありで? 加えて言うと、私達の種族はただ一人と決めた伴侶には生涯大切に愛し守り抜きます」

うむむ。
営業マンに商品を推されてる気分だわ。

改めて半分枕に埋もれてる琥牙の寝顔を見ると、まだ少年らしさの残る柔らかそうな頬。
一方意志の強そうな眉から伸びる、品の良さげなすっとした目鼻立ち。

今がこれならおそらく何年か後にはかなりの美形。
こう見えても頼れてしかも家が金持ちとくる。

それに性格が合う、とはいってもそれは琥牙がとても良い子だからだ。
意地悪な相手に優しく出来る程私は善人じゃない。

狼だろうと何だろうとこの際。
これは一介の女性会社員にとっては、一生に一度あるかないかの良縁なんじゃなかろうか。


……けれど。
細くふっと息を吐いてから、私は琥牙から視線を外した。

「私が選ぶ事じゃないですから」

「? 真弥どの。 それはどういう……」

それきり口を閉じた私に伯斗さんは怪訝な表情をしていた。
再び帰って行く彼を、ベランダから見送った後の私もまた複雑な気分。



「……ん───」

空いているベッドの脇に体を滑らせると、片方だけ薄目を開けた琥牙がいかにも眠たげに寝返りを打つ。

こうやって添い寝するのにもすっかり慣れた。

「起こしちゃった? ごめんね」

「……伯斗帰った? あいつ、話長いから」

「だからって私に押し付けないでくれる? そもそも話の内容も、ほぼ琥牙の事なんだし。 伯斗さんが嫌いなの?」

「……嫌いじゃない。 ただ心配性過ぎるんだ。 一族や真弥の事が大事なのは分かるけど」

それだけじゃないと思うけどなあ。

伯斗さんって親とは言わないまでも、時々お孫さんでも見るみたいな目つきで琥牙を見てる。


「いっつも大体言う事は分かってるし、おれの様子見に来たいってのは口実だと思う」

「口実って何の? で、なんで私も? 部外者なのに」

彼のアーモンド色の瞳がぱかりと開く。
そして私の首の後ろに手を差し入れた。

何か言おうとか、反応をする代わりに私の足先が数度シーツを滑る。


「琥……」

近付いてきた彼の顔と乱暴に強く押し付けられた唇。

一方、数秒後に離れたときはその手も口も、もの凄く丁寧だった。
離れるのを嫌がるみたいに。

私は何が起こったか分からなくって瞬きさえ忘れてた。

「ああいう時の後って滾るのかな」

軽く体に重みを感じたかと思うと肩に顔を埋めてくる。
首筋に口を付けられて、彼の胸を押したのは反射的な行動だった。

「……な、なんで?」

こんなの今まで無かったのに。
そう訊ねた私を琥牙が真っ直ぐに見返す。

「部外者なんて言わないで。 分かってるくせに」

動けないでいる私から琥牙が視線を外した。
僅かに眉根を寄せた、男の表情だった。

「ダメだよ。 真弥」


──────ダメだよ


主語さえ無いその言葉がぐるぐると頭を回る。

琥牙にはいつもみたいに分かっていたのだろうか。

柄にも無く私が怯えていた事。


彼が寝返りを打つ度に目が覚めて。
お陰でその夜私はなかなか寝付けなかった。

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