うっかり拾った人ならぬ少年は私をつがいにするらしい。

妓夫 件

文字の大きさ
8 / 25
この後掃除が大変でした

1話

しおりを挟む
マンションに着いて鍵を開けて部屋に入ってからやっと、彼が私に向き直った。

「い、一体……」

息が上がってぜいぜいいってる私を琥牙が静かに見詰めてくる。

「悩ませたの、おれも悪いと思う。 あとこの際言うと。 前から真弥の態度に違和感あったけどさ、おれは真弥とそう変わんない。今年25歳だよこれでも」

「へ!?」

「だからそんな子供じゃない。 死んだ姉さんがどうとかアイツ……高遠やらが言ってたみたいな弟ってのは違うから」

『人の姿で言う10歳ぐらいに』


人の姿で言う────……


そういやそんな事を伯斗さんが言ってた。

目を丸くしてる私に琥牙が淡々と続ける。

「あと5年、6年もすれば見た目成人になるのかな。 人よりも少し成長が遅いだけだと思う」

……言われてみれば。
彼の考え方や振る舞いは最初から子供のそれでは無かった様な気がする。
進んで家事諸々手伝おうとか荷物も持ってくれて色々気遣ってきたり。

子供って、本当の意味では優しくなんかないもの。

「や、やっぱり無理。 そんなの待ってたら私、お婆ちゃんになっちゃうし」

頭で解っても、たるんだ体なんか琥牙に見られたくない。
両手のひらを広げた私が後ずさる。

「大体子供産むんなら3……うぷ」

琥牙が私の口に手のひらを当てて静かに、と自分の鼻先に人差し指を持っていった。
何事かと思うとそのままこちらに顔を寄せてくる。

「好きだよ。 真弥」

「…………!?」

耳元でいきなり甘く囁かれ、心臓がどくんと跳ねた。

「んむ、……こ……」

「黙って」

背中を支えられたまま柔らかくベッドに音もなく押し倒されて面食らう。
なんたっていきなり同い歳近くに格上げされた男が熱っぽい瞳で私を見下ろしてる。

「真弥の雨で濡れた髪……いい匂いする」

彼の目の色が少し薄く、鋭くなった気がする。

私、このまま食べられちゃうのかな?

そう思うと身が竦む。
けれどそれでもいい様な気がして、私は目を閉じた。

乱暴にされたって、きっと私は感じてしまう。
強くって綺麗な琥牙。

私にとって彼はうんと魅力的な捕食者なんだから────

「…………」


「………ん?」

自分の身に何も起こらない。  それどころか私に覆い被さっていた彼の気配も無くなり、そっと目を開くとベランダの窓の前に立ってる琥牙がいた。

「言えなかったのはあんまり情けなくって身内ごと嫌われそうで」

そんなことを呟いた琥牙が思い切りカーテンを引く。と、そこにはべったりと窓いっぱいに張り付いてる、二匹のデカい狼が居た。

「はっ、伯斗さん!?」

しかも増えてるし。 もう一匹。

口を開けたままはくはくと言葉が出ない私。
ため息をつく琥牙。
目を逸らすニューフェイスの狼。
慌てふためき言い訳を探してる伯斗さん。

「あっ…あの、これは」

……どおりで最近やたら窓ガラスが汚れてたワケだ。 そんな事をぼんやり思った。


「……おれが説明するよ。 純血の狼って馬鹿でもプライドだけは無駄に高いから」

『馬鹿』を強調して琥牙が話し始める。

今室内の真ん中には、二匹に増えた狼が鎮座している。
スペースが無いので仕方なくベッドに座ってる私たち。

部屋の動線なんてもうどっかにいってる状況である。

「伯斗はどっちかというと、最初からおれの伴侶探しが目的なんだよね。 あんまりおれが不甲斐ないから、おれの子供に期待かけてるんでしょ」

そればかりとは思えないけど、伯斗さんのあの敏腕営業マン振りを思い出すと少し位は当たってるのかもしれない。
に、しても。 今日の琥牙はいつもにも増して伯斗さんに冷たい。

「……そんな事はありませんぞ!! 私はあくまで琥牙様の御身第一として」

誠に遺憾である、そんな表現でも当てはまりそうに鼻に皺を寄せながら伯斗さんが抗議する。

「おれが寝入ってたり風呂入ってる時に真弥に焚き付けてたでしょ? ちゃんと聞こえてたし、今更こんなナリに油断してたの?」

「う………」

伯斗さんが口ごもる。
それなら琥牙の方も止めてくれればよかったのに。
私的には結構どっちもどっちだと思ったけど、それは黙っておく。

「おれが生まれた時からいる爺さんみたいなものだから、おれの事を心配してるのは分かってるよ。 確かにせめて子供でもできたら、里でもあんな肩身狭い思いしないで済むって思ってたんだろうし」

「こ、琥牙様……申し訳ございません」

「だからってああして毎晩覗かれてたら、出来るものも出来ないんだけどね……」

ああ、琥牙の『出来ない』理由がようやく分かった。
こんな私にとってはどうでもいい事情に自分は振り回されてたのかと思うと。

特に腹は立たないが何だか生暖かい気持ちになった。

「それから、もう一匹。 おい、雪牙せつが

雪牙と呼ばれた狼。
伯斗さんより少し小さくて、毛全体が少しカールがかって雪みたいに白い。
つんとした印象ではあるが、狼をすでに見慣れてる私に怖さはない。

「おれと違って優秀な腹違い、純血の人狼の弟だよ」

琥牙がそう紹介すると、昔ばなしの狸や狐が化ける時みたいにぼふんとその姿が変わり、まるで人形みたいな北欧風の少年が現れた。

琥牙より少し歳下、白銀の巻き髪。
で、真っ白い肌にくりんくりんの蒼い瞳。

なんですかこの生き物。

「……かっ……」

可愛いい!!!!
そう抱きつこうとした私を、琥牙が後ろから私の襟元を引っ張って制した。

「ストップ。 真弥のそのリアクションも何となく予想してた」

何とも嫌そうな琥牙の顔。
今まで彼を紹介してくれなかった理由。
これも察した。 琥牙ってヤキモチやきっぽいもんね。

「あれ? でもそしたらすでに狼にもなれる雪牙くんがいるから、後継者とやらになれるんじゃ?  琥牙の成長うんたらも問題無いんじゃないのかな」

何も琥牙が無理して一族の重責を背負わなくっても。
そしたら琥牙は自由になって私たちは二人っきりで楽しい生活……と想像しかけ、琥牙がぽりぽりと頭をかいた。

「個人的にはそうしたいんだよ」

次に静かな伯斗さんの声。

「私たちの世界は厳格な長兄制度なのです」

「………んな」

雪牙くんがそっぽを向いたまま、ぼそりと何かを呟いた。 

「え? なあに?」

そういえば、まだ一度も彼は私と目を合わせてくれてなかったことに気付く。

「んな事も知らないで兄ちゃんのつがいとかバカじゃねえの、お前」

「はっ?」

一瞬空耳かと思った。

「雪牙様」

「伯斗が義姉さんと似てるっつうから見に来てたんだけど。 なんでこんな無知でそそっかしくてガサツな女がそうなのか訳分かんね」

「おいこらおま……」

「大体、オレは相手が低レベルの人間だってのも嫌だったんだよ。 けど義姉さんは人の血が入っててももっとしとやかでとびきりの美人だったし、あんたとは全然違う。 大体何オレの兄ちゃんに風呂掃除とか飯とか作らせてんの? 何様?」

「………」

怒涛の如くの悪意の洪水に私は言葉を失った。

……こんな天使みたいな見た目なのに。

「雪牙様、いけません」

「……ってさあ、兄ちゃんに似合うのはオレ、もっと女らしくってどっかのお姫様みたいなの想像してたんだよ」

「だよね」

そこは私も深く頷いて同意する。

「雪牙様、琥牙様がお選びになった女性を貶める事は、兄上様をも侮辱するという事ですぞ」

「………そん…」

伯斗さんにたしなめられた雪牙くんが不満げに再び何かを言いかけて、ハッとその口をつぐんだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

処理中です...