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第一話 ⑤
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鳥栖はスタジオに入ると慣れた手つきで準備を進めた。
ギターを持つ姿からは独特のオーラが漂っていた。
格好だけ見るとそれなりの風格はありますね、と拓也は小声で呟き川田と小さく談笑した。
鳥栖は準備を整えると、始めますと一言。一礼してギターを構える。
やっぱり女の子には厳しいよ、と端から決め付けていた拓也は適当な会釈で応えた。
鳥栖のギター演奏が始まった。
スピーカーフォンから放たれた一音目は衝撃波となる。二人の身体にぶつかる。同時に二人の全身の毛が逆立つ。
さっきまでぶつぶつと談笑していた二人の表情は、一瞬にして真剣な眼差しへと変わる。
そのまま黙り込み音色に耳を寄せた。
演奏が終わる最後まで、その沈黙が破られる事はなかった。
ギターの腕前は想定外にもプロレベル。というよりプロをも凌ぐ音を奏でた。
その辺にいる素人が出せるようなものではない。
始まって僅か数秒で拓也の心は鷲掴みにされた。川田も同じようにその音色に酔いしれる。
開いた口が塞がらないとは正しくこの事。
直前まで抱いていた違和感や不安などは何処か遠くへ飛んでいってしまった。
「いやぁ…まさかこんな演奏聞けるとは思ってなかったよ。なぁ拓也、こんなギタリストを逃す手はないぞ?」
拓也は川田の言葉に呼応するように何度も激しく頷く。
演奏を終え、どうでした?と鳥栖は二人へ感想を仰いだ。
いや、素晴らしかった!と川田は大きな拍手を送る。
拓也は一人出遅れた拍手を送りつつ、さっきと同じように激しく何度も頷いた。
その姿を見て、フフフっと笑った鳥栖は思っていた事を話始めた。
「ありがとうございます。でも、正直、断られるんだろ~なぁって思ってました。だって顔に書いてありましたよ?女はお断りだって」
不安は背中からだけでは無く顔面からも漏れ出していたらしい。
心を読まれていた事が知ると思わず赤面した。
最後まで聞いてくださってありがとうございますと、改めて礼を言うと鳥栖はまた慣れた手つきでギターを片付けを始めた。
積み上がる想定外の出来事に戸惑う拓也。
彼が出せる言葉は、よろしくお願いしますの一言のみ。
今出来る彼なりの精一杯の礼と謝罪を込めた言葉だった。
演奏終了後、三人はエントランスに戻った。
椅子に座り詳しく話を聞いてみれば、どうやら鳥栖は父親の影響で幼少期からロックを聞き始めていたらしい。
小学生の頃には既にギターを握っていたそうだ。だから、演奏のレベルが高い事も頷ける。
この人しかいない。むしろこの人じゃなきゃダメだ!と、拓也の心の中にあった迷いは微塵も無く消え去った。
そして、歌声を聞くという肝心な事までも同時に忘れ去っていた。
ギターを持つ姿からは独特のオーラが漂っていた。
格好だけ見るとそれなりの風格はありますね、と拓也は小声で呟き川田と小さく談笑した。
鳥栖は準備を整えると、始めますと一言。一礼してギターを構える。
やっぱり女の子には厳しいよ、と端から決め付けていた拓也は適当な会釈で応えた。
鳥栖のギター演奏が始まった。
スピーカーフォンから放たれた一音目は衝撃波となる。二人の身体にぶつかる。同時に二人の全身の毛が逆立つ。
さっきまでぶつぶつと談笑していた二人の表情は、一瞬にして真剣な眼差しへと変わる。
そのまま黙り込み音色に耳を寄せた。
演奏が終わる最後まで、その沈黙が破られる事はなかった。
ギターの腕前は想定外にもプロレベル。というよりプロをも凌ぐ音を奏でた。
その辺にいる素人が出せるようなものではない。
始まって僅か数秒で拓也の心は鷲掴みにされた。川田も同じようにその音色に酔いしれる。
開いた口が塞がらないとは正しくこの事。
直前まで抱いていた違和感や不安などは何処か遠くへ飛んでいってしまった。
「いやぁ…まさかこんな演奏聞けるとは思ってなかったよ。なぁ拓也、こんなギタリストを逃す手はないぞ?」
拓也は川田の言葉に呼応するように何度も激しく頷く。
演奏を終え、どうでした?と鳥栖は二人へ感想を仰いだ。
いや、素晴らしかった!と川田は大きな拍手を送る。
拓也は一人出遅れた拍手を送りつつ、さっきと同じように激しく何度も頷いた。
その姿を見て、フフフっと笑った鳥栖は思っていた事を話始めた。
「ありがとうございます。でも、正直、断られるんだろ~なぁって思ってました。だって顔に書いてありましたよ?女はお断りだって」
不安は背中からだけでは無く顔面からも漏れ出していたらしい。
心を読まれていた事が知ると思わず赤面した。
最後まで聞いてくださってありがとうございますと、改めて礼を言うと鳥栖はまた慣れた手つきでギターを片付けを始めた。
積み上がる想定外の出来事に戸惑う拓也。
彼が出せる言葉は、よろしくお願いしますの一言のみ。
今出来る彼なりの精一杯の礼と謝罪を込めた言葉だった。
演奏終了後、三人はエントランスに戻った。
椅子に座り詳しく話を聞いてみれば、どうやら鳥栖は父親の影響で幼少期からロックを聞き始めていたらしい。
小学生の頃には既にギターを握っていたそうだ。だから、演奏のレベルが高い事も頷ける。
この人しかいない。むしろこの人じゃなきゃダメだ!と、拓也の心の中にあった迷いは微塵も無く消え去った。
そして、歌声を聞くという肝心な事までも同時に忘れ去っていた。
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