死神の鎮魂歌

田華一真

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第二話 ③

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ステージに上がり金子は店内をゆっくりと見渡した。
会場内の視線が一挙に集中する。ステージ上から漂う独特のライブ感に思わず生唾を飲んだ。

男から曲目を説明される。
"sing sing sing"
JAZZ好きなら知らない訳がない名曲である。金子は武者震いした。

視線を集めたままドラムセットへと向かう。年期の入ったスローン※に腰掛ける。今までどれだけのプレーヤーがここに座ってきたんだろうか、そんな思いを馳せる。



和樹はカウンターから見守っていた。
同時に不安を抱いていた。金子のドラムは以前と変わらないのかと。
和樹がバンドを辞めていた事が気懸りでならなかった。

ドラムを続けているとは言え、ライブは経験と場数が物をいう世界である。
一度身を引いた者が簡単にはJAZZ好きの玄人達の耳を唸らせる事は出来ないと思っていたからだ。

オーディエンスの中には和樹のように不安な眼差しを送るもの。素人は下がれ!などと野次るもの。頑張れと応援エールを送るものと様々。

金子の登場により騒然なっていた会場は、より一層その賑やかさを増していった。



「軽く叩いてもいいすか?」

男は少し不安な顔を浮かべてコクっと小さく頷ずく。

スティックを持つ金子の両手が震えた。それは緊張感によるも震えではなかった。むしろ心の底から歓喜していた。

スタン!

一音が店内に響き渡る。

同時に騒わがしかった店内は水を打ったように静まり返る。

そのたった一音で全員の目と耳を奪った。



まるで踊るかの様にドラムを鳴らしていく。アドリブの効いた金子の演奏が始まった。

会場全体が金子の演奏に釘付けになった。もはや野次など出る訳もない。

細かく叩きながらバンドメンバーに目線を送る。男達は合図に答えるように各々楽器を構えた。

タン!タン!スタタン!タン!タン!タタン!…

最初の曲目『sing sing sing』の冒頭ドラムが始まる。ステージ上に一体感が生まれていった。そして会場全体がその空気に飲まれていく。



不安を他所にフロアから歓声が広がる。

和樹はそのドラムに体を震わせるほどの喜びを感じた。胸が高鳴り体中が高揚感に満ち溢れていく。

金子のドラム技術は以前よりも遥かに上達していたのだ。
今すぐにでも合わせたい!ベーシストとしての血がウズウズと騒ぎ出した。
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