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第三章反逆王子
会議
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「え?!」
ここは謁見の間。エラクレスが飛び出した翌日の早朝、正式にノース辺境伯の爵位の継承を認めてもらうために謁見の間に来ていたルイーズは困惑した。
(なんで協議なのに結果から入っているの?)
「…というわけでしてルイーズ嬢はまだ幼く多くの家臣達も戦死してしまったということで、名門ノース辺境伯家を任せるのに不安が残るので後見人が必要だと協議で決まりました。」
宰相ネルキンが淡々と告げる。
「後見人と申しても内政干渉に値することはいたしません。その土地はその土地の領主が治めるのがこの国の原則ゆえ、ノース辺境伯家の領地はノース辺境伯家で治めることには違いありません。よって王都で勤務しているガスパール・ド・ルーセル男爵が親族筆頭として後見人に就くことになりました、ルイーズ嬢からすると叔父にあたる人です。お会いしたことはありますな?」
「はい…。」
ネルキンの横に居る如何にも文官の風采をしている中年の男がガスパールだ。会ったの1、2回程度だが確かに覚えている。宰相府に務めていると聞いていた。
更にネルキンは続ける。
「ルーセル男爵は長らく王家直轄地の行政に携わっていた方で経験豊富。護衛と数人の騎士、彼の部下が付いていますので、統治のことは彼らに相談すればまず間違えはないでしょう。」
(くっ……完全に乗っ取る気満々じゃないの!私達の土地!)
9歳とは言え貴族としての教育を受けてきたルイーズである。領地を奪われるのは耐え難い屈辱だった。
ちなみに『フェンネ2世はそれで良いのか!?』と言うと…
彼はアントニーナと別れなければならなくなってしまい、消沈していた。元々強権を振るっていた人でもなかったため、ネルキン達の陰謀を止める気もなかった。
そしてまだアントニーナに伝える勇気がなく、伝えていない。それどころか会う気もない。
(で、でも…まだ強制的に婚約されることはなさそうね……それなら……婿入りで強引に辺境伯の爵位を奪われることはない…。)
ルイーズは少しだが安心した
が!
「それから我らが盟友エカルム王国から『貴国の名門ノース辺境伯家の令嬢を妻に迎えたい。』と以前から申し出がありましてな直系の男系が絶えてしまった今、婿入れを行うことになりました。」
「は?!」
ルイーズは驚愕した。これは宰相ネルキンとストラス辺境伯ジョシュアとの間に昨夜遅くに密談が行われ妥協がなされた結果である。
ネルキンは百戦錬磨の老獪…ジョシュアが考えていたことなど手に取るようにわかっていたため、ルイーズの対立候補を担ぐことはせずルイーズの周りを固める策をとった。
ちなみにエカルム王国から婚姻の申し出があったのは事実であり、違うのは『ノース辺境伯家の令嬢』と直球に書かれていなくて単に『名家の令嬢』と書かれているところである。
ジョシュアは長年ネリーキア貴族とエカルム貴族の仲介人を務めていただけあり、子息の結婚などの話はたくさんあった。
「お待ちを!私は何も聞いてはおりませぬわ!」
「親族会議の結果です。」
異議を唱えるルイーズにガスパールが言った。
「エリオット殿とそのご子息がお亡くなりになられた今、建国以来の名門ノース辺境伯家の直系で男系の血筋は絶えてしまい、直系はルイーズ様しかおられません。まずはお家の安泰を成すためしかるべき血筋を持った方を婿にお迎えするべき…というのが親族会議での考えです。」
更にガスパールが畳み掛ける。
「お相手はエカルム王国の名門中の名門ジーゲン侯爵の次男ゼップ殿です。ジーゲン侯爵は…」
ガスパールがいろいろ語っているが、ルイーズは全くそれどころではなくなった。
(か…完全に…他人同士のおもちゃに成り下がってしまった…。ああ…父上…どうしましょう…。)
「……殿……ーズ殿…ルイーズ殿!」
「はい!」
ネルキンがルイーズに声をかけていたようだが、ショックのあまり全く反応できなかった。
「これが陛下がルイーズ殿をノース辺境伯の相続を認める王令書です。」
ネルキンの側近がルイーズに手渡す。
「はっ!ありがたく……」
ルイーズは全くそんな気分ではなかったが、頭を下げた。
「後の日程についてはルーセル男爵から伝えてもらってください。」
「……はい……。」
ネルキンはそれだけ言うと
「陛下、終わりました。」
と言ってフェンネ二世の後を追って退出した。
「行きましょう、辺境伯様。」
ニタニタと笑みを浮かべ、揉み手をしながら近付いて来たガスパールが言った。
「え、ええ…行きましょう。」
ルイーズはふらふらした足取りで屋敷に帰った。
何も考えていなかった。
<エラクレス>
「母上!こちらが私の領地です!」
エラクレスはアントニーナの手を引いて窓を開けた。
「ふえええ。」
場所はエラクレスがネリーキア城をモデルにして作ったエラクレス城(仮名)の最上部。そこでエラクレスはアントニーナを連れて領地を見回していた。
エラクレスは謁見の間を飛び出した後、すぐに騎兵達の下に向かって全員をエラクレス領にテレポートした。
そしてグスタフなどの中枢メンバーを呼び出し、連れて獅子王国の王都ビース都にテレポートしてリチャードも呼び出して今後のことについて相談した。
(お前の魔力どうなっているの?とは尋ねられなかったが、視線がやばかった。)
正直、エラクレスも全員が自分の行動に賛成してくれるとは思っていなかった。
(『君たちを獣呼ばわりする者達を成敗するために立ち上がったんだ!』と主張しても『余計なお世話だ!』とか反発されそう……。)
「陛下!戦争ならお任せください!」
「エカルムのカス共では相手になりません!」
「そういうわけでネリーキアとは前々から戦いたかったんですよ!」
だが、そんなことは杞憂だったリチャードを筆頭とする獅子人が真っ先に言った。
「なんの!狼人も先狼王が誕生されるまでは戦争など日常でした!」
「それはもう、血で血を洗う戦いの日々でした!」
「グスタフ様に何度も殺されかけました!」
…とグスタフら狼人も対抗した。
(……俺は……まだ……獣人を……よく理解して……いなかった……ようだ……。そして最後の奴はよく生きてたな。)
エラクレスは感謝…というより、自分の見積もりの甘さを思い知らされた。
「陛下、皆の意思は戦いです。」
「臣達は陛下をお迎えして以来、何もお役に立てなかったことを歯痒く思っておりました。」
「「どうか我らにお任せください!!」」
エカとメリアが声を揃えてエラクレスに跪いた。
「あ~ん~あ~。」
迷うような声を上げつつカリカリとエラクレスは頭をかいた。
「な、なにかご心配なことでも?」
「いや、その~。」
メンバーが息を飲む。
「戦意が溢れているところに悪いんだけど…」
エラクレスは言い淀んだ。
(((まさか……ここに来て御自分だけで済ますおつもりか?!)))
全員の頭にそういう考えがよぎった。
「戦いは2、3ヶ月後だよ。」
ズコッ!
一同滑った。
「だってさ…そもそも真冬だよ?王都から俺の領地に続く道はただでさえ狭くて悪いし、俺が大岩で塞ごうとしたら既に雪で塞がっているし、暖かくなってそれが溶けたら雪解け水が道を更に柔らかくして沼みたいになるし。」
「でも!陛下が舗装し…」
「それはもう崩した。」
「では、海軍で…」
「港は凍っているぞ。まあ、それだけなら氷の上を通れるが、重装備の騎士で割れるんじゃね?数人じゃなくて百人単位で沢山来るだろうし。それに少し南の海では北から流れた流氷が大量に浮いているから海軍のノウハウがない急造のネリーキア海軍(笑)では座礁するぞ。」
ここで幼き頃、戦神アメーナから教わった兵法の知識が生きた。
「「「………」」」
(やっバイ…微妙な雰囲気になっちゃった。)
「と、とにかく、陸路の道が乾いて固まるまでの時間、海の氷が溶けるまでの時間、それらを合わせて2、3ヶ月は必要だ。しかもこれは最低で、長くなることはあっても短くなることはない。」
そこで区切る。
「というわけで、皆にはゆっくりと焦らず油断せずに準備を進めてもらいたい。何か質問は?」
リチャードが真っ先に手を上げた。
「兵士はいくら出せばよろしいでしょうか。」
「ん~まあ~正直、俺の兵団だけでどうにかなるけど…お前達は手柄を立てて出世したいんだろ?だから手柄を立てたい奴全員で。」
「大丈夫ですか?そんなことになったら最低で5万とかそこら集まりますよ。なにぶん、獅子人の男の殆どは平時は何もしてないですから。」
(何もしてない?)
「基本的に家事も畑仕事も工事もなんでも獅子人は女がやることになってます。唯一男がするのは戦争と訓練だけです。」
メリアが補足してくれる。
「じ、じゃあ。政治は?文官がいるのだろう?」
「それも獅子人の女だったり、別種族だったりします。そしてその獅子人の女は皆、獅子王の愛人だったりもします。」
(ずいぶんといい生活してるんじゃないか、リチャードよ~。)
「…というわけで、男が出世するには戦争しかないので凄い数集まりますよということです。」
リチャードが締めくくる。
「そこは…フィリク!」
「はっ!」
エラクレスはどれくらい食料があるか忘れたためフィリクに相談することにした。
【説明でグダりそうなため省略!】
「じゃあ、狼人と獅子人それぞれ3万ずつで。」
「「承知いたしました。」」
エラクレスは元々居た村人からは税を取らなかったり奴隷からの税も少なかったりするのにここまでの大軍を動員できるのにはいささかフィリクの小細工がある。
簡単に言うと農民から借賃を集めるのである。
『ここの土地は全てエラクレス様の土地!つまりお前らは土地を借りて耕したり住んだりしているわけだ!だから払え!』
というわけだ。これを聞いた民衆は…
「はは~。」(貴族様の言うことには逆らわない。)
…となる。
まあ、エラクレスが貴族の食料庫に忍び込んでパチって来たのもある。
「それじゃあ、今日はここまで!解散!」
エラクレスは退出しようと玉座を立つと…
「獣王陛下万歳!」
(ん?)
突然リチャードが叫んだ。
「獣王陛下万歳!」
続いてグスタフが…
そして…
「「「獣王陛下万歳!!!」」」
「「「獣王陛下万歳!!!」」」
「「「獣王陛下万歳!!!」」」
「「「獣王陛下万歳!!!」」」
「「「獣王陛下……………
集まった獣人全員が叫んだ。
(もしかして…俺が出るまで続く感じ?)
驚いて足を止めたが、すぐに皆の喉が心配になって急ぎ足で退出した。
(ちょっぴり恥ずかしいが、誇らしいな。)
そしてテレポートでエラクレス城(仮名)に帰った。
「そう言えばフィリク、ナトンとマノト達は説得できたか?」
「はい。できました。最初は渋っていましたが『父も長兄もブユーニュ男爵家さえ保てれば良い人だから助けてくれないぞ。』と脅すとわかってくれました。」
「それは……良かった?」
「彼らは行政官として無能ではありません。納得してくれたのはエラクレス様にとって良いことですよ。」
「そうか…。」
(気にしないでおこう。)
「おお!エラクレス!戻ったか!」
「あ、じいちゃん!」
城に戻ったエラクレスを出迎えたのは母方の祖父チャロースだった。
「ついに決心したんじゃな?!」
そう言うチャロースの顔は大して驚いたり慌てていたりしている表情は無かった。
(流石に豪商は違うな。)
「そうだよ。でも心配はないよ。ついさっき狼人と獅子人からは支持を得た。時間も十分にあるし。」
エラクレスは取り敢えず言ってみた。内心は実は心配しているかもしれないと思ったからだ。
「そんなこと最初っから心配などしておらん!それでお前の母、アントニーナはどうするのじゃ?!」
「あ!」
エラクレスは『しまった』という顔をした。
(怒ったり狼人や獅子人のことを考えたりし過ぎですっかり忘れでた…。)
そして…
「行って来ま~す。」
すぐにテレポートを発動させようとする。
「待てい!」
しかしそれを止めたのは他でもないチャロース本人だった。
「えええええーー!なんで?!」
エラクレスは当然かなり驚いた。
だが、チャロースの答えは意外とシンプルだった。
「その……
今は夜……分るな?」
「あ…(察し)」
というわけで救出は翌朝まで待つことになった。
勿論エラクレスはそれまでじっと待った訳なくエカとメリアとの仲を深めた(ナニでとは言わない)。
<翌朝>
「よし…近くに反応なし…。だが念の為…防音を…よし。」
そしてエラクレスはベッドで寝ているアントニーナを見た。
(親父と一緒じゃないのか…。なら待つ必要はなかったな…。)
その時…
「ううん……私の坊や……。行かない……で……。」
アントニーナの苦しげな声がした。
(あうあ!起きてたのか!?)
エラクレスはすぐにまた眠らせられるように備えた。
(再会の喜びだったり、俺のやらかしへの怒りだったりで大声を出されたら困るからな。)
「…………なんだ、寝言かよ。」
再び寝息が聞こえてエラクレスは安心した。
(まさかおふくろ…夢でも俺のことを心配してくれているのか…。)
いつかの様にジーンとさせられるエラクレスであった。
「よっと…。」
そして抱きかかえたら起きそうなのでベッドごと持ち上げてテレポートを使った。
「ここが、おふくろの部屋だな。まさか誘拐で使うことになるとは…。」
エラクレスは城を創った段階でいつかアントニーナを招待したいと思っており、そのための準備も欠かさなかった。
元々はメリアとの結婚式に招待して何かと理由をつけて留まらせる…などと色々考えていたが、今となってはそんなこと言ってられなかった。
「爺ちゃん…に知らせておこうか。いや、まだ早いか…。」
エラクレスはアントニーナが起きるまで部屋で待つことにした。
「エラク………レス」
「お目覚めですか?母上。」
最初は寝ぼけていたのか起きてエラクレスを見ても名前を呟くだけで無反応だった。
「エラクレス!」
ガバッ!
アントニーナは全体重をエラクレスにぶつけているような抱擁をした。
(だいたいこうなるような気がしたよ。)
エラクレスは身体強化でアントニーナを押し留めた。
その後中枢メンバーに無事にアントニーナを助けたことを知らせて引き合わせた。なお、リチャードは反エラクレス派の粛清に忙しくて不参加。
勿論その後コッテリと叱られたのは言うまでもない。
「コラ!エラクレス!私を誘拐したのは良いよ!子供の傍に居るのが母親だからね!でも!危険なことをしちゃ駄目って!いつも言ってるでしょ!せめてフィリクさんでも連れてきなさい!エラクレス!ちゃんと聞いてる!?え?!陛下は良いのかって?それは優しい人だけど、貴方を捨てたも同然じゃない!父として失格よ!だいたい、『余が愛しているのはそなただけじゃ。』とか言っているけど、その割には私の子供を簡単に捨ててくれたわね!あんなのは優しい』じゃなくて腰抜けって言うのよ!それにどうせ私はすぐに『反逆者の母親』っていうレッテルを貼られて追放または粛清される身だし!それぐらいいくら宮中に疎い私でもわかるわ!あんなとここっちから出て行ってやるわ!」
「……というわけでエラクレスは無事に母親と住むことになりましたとさ。」
「ちょっと!エラクレス!ちゃんと聞いてる!?そして誰に喋ってるの!?」
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ここは謁見の間。エラクレスが飛び出した翌日の早朝、正式にノース辺境伯の爵位の継承を認めてもらうために謁見の間に来ていたルイーズは困惑した。
(なんで協議なのに結果から入っているの?)
「…というわけでしてルイーズ嬢はまだ幼く多くの家臣達も戦死してしまったということで、名門ノース辺境伯家を任せるのに不安が残るので後見人が必要だと協議で決まりました。」
宰相ネルキンが淡々と告げる。
「後見人と申しても内政干渉に値することはいたしません。その土地はその土地の領主が治めるのがこの国の原則ゆえ、ノース辺境伯家の領地はノース辺境伯家で治めることには違いありません。よって王都で勤務しているガスパール・ド・ルーセル男爵が親族筆頭として後見人に就くことになりました、ルイーズ嬢からすると叔父にあたる人です。お会いしたことはありますな?」
「はい…。」
ネルキンの横に居る如何にも文官の風采をしている中年の男がガスパールだ。会ったの1、2回程度だが確かに覚えている。宰相府に務めていると聞いていた。
更にネルキンは続ける。
「ルーセル男爵は長らく王家直轄地の行政に携わっていた方で経験豊富。護衛と数人の騎士、彼の部下が付いていますので、統治のことは彼らに相談すればまず間違えはないでしょう。」
(くっ……完全に乗っ取る気満々じゃないの!私達の土地!)
9歳とは言え貴族としての教育を受けてきたルイーズである。領地を奪われるのは耐え難い屈辱だった。
ちなみに『フェンネ2世はそれで良いのか!?』と言うと…
彼はアントニーナと別れなければならなくなってしまい、消沈していた。元々強権を振るっていた人でもなかったため、ネルキン達の陰謀を止める気もなかった。
そしてまだアントニーナに伝える勇気がなく、伝えていない。それどころか会う気もない。
(で、でも…まだ強制的に婚約されることはなさそうね……それなら……婿入りで強引に辺境伯の爵位を奪われることはない…。)
ルイーズは少しだが安心した
が!
「それから我らが盟友エカルム王国から『貴国の名門ノース辺境伯家の令嬢を妻に迎えたい。』と以前から申し出がありましてな直系の男系が絶えてしまった今、婿入れを行うことになりました。」
「は?!」
ルイーズは驚愕した。これは宰相ネルキンとストラス辺境伯ジョシュアとの間に昨夜遅くに密談が行われ妥協がなされた結果である。
ネルキンは百戦錬磨の老獪…ジョシュアが考えていたことなど手に取るようにわかっていたため、ルイーズの対立候補を担ぐことはせずルイーズの周りを固める策をとった。
ちなみにエカルム王国から婚姻の申し出があったのは事実であり、違うのは『ノース辺境伯家の令嬢』と直球に書かれていなくて単に『名家の令嬢』と書かれているところである。
ジョシュアは長年ネリーキア貴族とエカルム貴族の仲介人を務めていただけあり、子息の結婚などの話はたくさんあった。
「お待ちを!私は何も聞いてはおりませぬわ!」
「親族会議の結果です。」
異議を唱えるルイーズにガスパールが言った。
「エリオット殿とそのご子息がお亡くなりになられた今、建国以来の名門ノース辺境伯家の直系で男系の血筋は絶えてしまい、直系はルイーズ様しかおられません。まずはお家の安泰を成すためしかるべき血筋を持った方を婿にお迎えするべき…というのが親族会議での考えです。」
更にガスパールが畳み掛ける。
「お相手はエカルム王国の名門中の名門ジーゲン侯爵の次男ゼップ殿です。ジーゲン侯爵は…」
ガスパールがいろいろ語っているが、ルイーズは全くそれどころではなくなった。
(か…完全に…他人同士のおもちゃに成り下がってしまった…。ああ…父上…どうしましょう…。)
「……殿……ーズ殿…ルイーズ殿!」
「はい!」
ネルキンがルイーズに声をかけていたようだが、ショックのあまり全く反応できなかった。
「これが陛下がルイーズ殿をノース辺境伯の相続を認める王令書です。」
ネルキンの側近がルイーズに手渡す。
「はっ!ありがたく……」
ルイーズは全くそんな気分ではなかったが、頭を下げた。
「後の日程についてはルーセル男爵から伝えてもらってください。」
「……はい……。」
ネルキンはそれだけ言うと
「陛下、終わりました。」
と言ってフェンネ二世の後を追って退出した。
「行きましょう、辺境伯様。」
ニタニタと笑みを浮かべ、揉み手をしながら近付いて来たガスパールが言った。
「え、ええ…行きましょう。」
ルイーズはふらふらした足取りで屋敷に帰った。
何も考えていなかった。
<エラクレス>
「母上!こちらが私の領地です!」
エラクレスはアントニーナの手を引いて窓を開けた。
「ふえええ。」
場所はエラクレスがネリーキア城をモデルにして作ったエラクレス城(仮名)の最上部。そこでエラクレスはアントニーナを連れて領地を見回していた。
エラクレスは謁見の間を飛び出した後、すぐに騎兵達の下に向かって全員をエラクレス領にテレポートした。
そしてグスタフなどの中枢メンバーを呼び出し、連れて獅子王国の王都ビース都にテレポートしてリチャードも呼び出して今後のことについて相談した。
(お前の魔力どうなっているの?とは尋ねられなかったが、視線がやばかった。)
正直、エラクレスも全員が自分の行動に賛成してくれるとは思っていなかった。
(『君たちを獣呼ばわりする者達を成敗するために立ち上がったんだ!』と主張しても『余計なお世話だ!』とか反発されそう……。)
「陛下!戦争ならお任せください!」
「エカルムのカス共では相手になりません!」
「そういうわけでネリーキアとは前々から戦いたかったんですよ!」
だが、そんなことは杞憂だったリチャードを筆頭とする獅子人が真っ先に言った。
「なんの!狼人も先狼王が誕生されるまでは戦争など日常でした!」
「それはもう、血で血を洗う戦いの日々でした!」
「グスタフ様に何度も殺されかけました!」
…とグスタフら狼人も対抗した。
(……俺は……まだ……獣人を……よく理解して……いなかった……ようだ……。そして最後の奴はよく生きてたな。)
エラクレスは感謝…というより、自分の見積もりの甘さを思い知らされた。
「陛下、皆の意思は戦いです。」
「臣達は陛下をお迎えして以来、何もお役に立てなかったことを歯痒く思っておりました。」
「「どうか我らにお任せください!!」」
エカとメリアが声を揃えてエラクレスに跪いた。
「あ~ん~あ~。」
迷うような声を上げつつカリカリとエラクレスは頭をかいた。
「な、なにかご心配なことでも?」
「いや、その~。」
メンバーが息を飲む。
「戦意が溢れているところに悪いんだけど…」
エラクレスは言い淀んだ。
(((まさか……ここに来て御自分だけで済ますおつもりか?!)))
全員の頭にそういう考えがよぎった。
「戦いは2、3ヶ月後だよ。」
ズコッ!
一同滑った。
「だってさ…そもそも真冬だよ?王都から俺の領地に続く道はただでさえ狭くて悪いし、俺が大岩で塞ごうとしたら既に雪で塞がっているし、暖かくなってそれが溶けたら雪解け水が道を更に柔らかくして沼みたいになるし。」
「でも!陛下が舗装し…」
「それはもう崩した。」
「では、海軍で…」
「港は凍っているぞ。まあ、それだけなら氷の上を通れるが、重装備の騎士で割れるんじゃね?数人じゃなくて百人単位で沢山来るだろうし。それに少し南の海では北から流れた流氷が大量に浮いているから海軍のノウハウがない急造のネリーキア海軍(笑)では座礁するぞ。」
ここで幼き頃、戦神アメーナから教わった兵法の知識が生きた。
「「「………」」」
(やっバイ…微妙な雰囲気になっちゃった。)
「と、とにかく、陸路の道が乾いて固まるまでの時間、海の氷が溶けるまでの時間、それらを合わせて2、3ヶ月は必要だ。しかもこれは最低で、長くなることはあっても短くなることはない。」
そこで区切る。
「というわけで、皆にはゆっくりと焦らず油断せずに準備を進めてもらいたい。何か質問は?」
リチャードが真っ先に手を上げた。
「兵士はいくら出せばよろしいでしょうか。」
「ん~まあ~正直、俺の兵団だけでどうにかなるけど…お前達は手柄を立てて出世したいんだろ?だから手柄を立てたい奴全員で。」
「大丈夫ですか?そんなことになったら最低で5万とかそこら集まりますよ。なにぶん、獅子人の男の殆どは平時は何もしてないですから。」
(何もしてない?)
「基本的に家事も畑仕事も工事もなんでも獅子人は女がやることになってます。唯一男がするのは戦争と訓練だけです。」
メリアが補足してくれる。
「じ、じゃあ。政治は?文官がいるのだろう?」
「それも獅子人の女だったり、別種族だったりします。そしてその獅子人の女は皆、獅子王の愛人だったりもします。」
(ずいぶんといい生活してるんじゃないか、リチャードよ~。)
「…というわけで、男が出世するには戦争しかないので凄い数集まりますよということです。」
リチャードが締めくくる。
「そこは…フィリク!」
「はっ!」
エラクレスはどれくらい食料があるか忘れたためフィリクに相談することにした。
【説明でグダりそうなため省略!】
「じゃあ、狼人と獅子人それぞれ3万ずつで。」
「「承知いたしました。」」
エラクレスは元々居た村人からは税を取らなかったり奴隷からの税も少なかったりするのにここまでの大軍を動員できるのにはいささかフィリクの小細工がある。
簡単に言うと農民から借賃を集めるのである。
『ここの土地は全てエラクレス様の土地!つまりお前らは土地を借りて耕したり住んだりしているわけだ!だから払え!』
というわけだ。これを聞いた民衆は…
「はは~。」(貴族様の言うことには逆らわない。)
…となる。
まあ、エラクレスが貴族の食料庫に忍び込んでパチって来たのもある。
「それじゃあ、今日はここまで!解散!」
エラクレスは退出しようと玉座を立つと…
「獣王陛下万歳!」
(ん?)
突然リチャードが叫んだ。
「獣王陛下万歳!」
続いてグスタフが…
そして…
「「「獣王陛下万歳!!!」」」
「「「獣王陛下万歳!!!」」」
「「「獣王陛下万歳!!!」」」
「「「獣王陛下万歳!!!」」」
「「「獣王陛下……………
集まった獣人全員が叫んだ。
(もしかして…俺が出るまで続く感じ?)
驚いて足を止めたが、すぐに皆の喉が心配になって急ぎ足で退出した。
(ちょっぴり恥ずかしいが、誇らしいな。)
そしてテレポートでエラクレス城(仮名)に帰った。
「そう言えばフィリク、ナトンとマノト達は説得できたか?」
「はい。できました。最初は渋っていましたが『父も長兄もブユーニュ男爵家さえ保てれば良い人だから助けてくれないぞ。』と脅すとわかってくれました。」
「それは……良かった?」
「彼らは行政官として無能ではありません。納得してくれたのはエラクレス様にとって良いことですよ。」
「そうか…。」
(気にしないでおこう。)
「おお!エラクレス!戻ったか!」
「あ、じいちゃん!」
城に戻ったエラクレスを出迎えたのは母方の祖父チャロースだった。
「ついに決心したんじゃな?!」
そう言うチャロースの顔は大して驚いたり慌てていたりしている表情は無かった。
(流石に豪商は違うな。)
「そうだよ。でも心配はないよ。ついさっき狼人と獅子人からは支持を得た。時間も十分にあるし。」
エラクレスは取り敢えず言ってみた。内心は実は心配しているかもしれないと思ったからだ。
「そんなこと最初っから心配などしておらん!それでお前の母、アントニーナはどうするのじゃ?!」
「あ!」
エラクレスは『しまった』という顔をした。
(怒ったり狼人や獅子人のことを考えたりし過ぎですっかり忘れでた…。)
そして…
「行って来ま~す。」
すぐにテレポートを発動させようとする。
「待てい!」
しかしそれを止めたのは他でもないチャロース本人だった。
「えええええーー!なんで?!」
エラクレスは当然かなり驚いた。
だが、チャロースの答えは意外とシンプルだった。
「その……
今は夜……分るな?」
「あ…(察し)」
というわけで救出は翌朝まで待つことになった。
勿論エラクレスはそれまでじっと待った訳なくエカとメリアとの仲を深めた(ナニでとは言わない)。
<翌朝>
「よし…近くに反応なし…。だが念の為…防音を…よし。」
そしてエラクレスはベッドで寝ているアントニーナを見た。
(親父と一緒じゃないのか…。なら待つ必要はなかったな…。)
その時…
「ううん……私の坊や……。行かない……で……。」
アントニーナの苦しげな声がした。
(あうあ!起きてたのか!?)
エラクレスはすぐにまた眠らせられるように備えた。
(再会の喜びだったり、俺のやらかしへの怒りだったりで大声を出されたら困るからな。)
「…………なんだ、寝言かよ。」
再び寝息が聞こえてエラクレスは安心した。
(まさかおふくろ…夢でも俺のことを心配してくれているのか…。)
いつかの様にジーンとさせられるエラクレスであった。
「よっと…。」
そして抱きかかえたら起きそうなのでベッドごと持ち上げてテレポートを使った。
「ここが、おふくろの部屋だな。まさか誘拐で使うことになるとは…。」
エラクレスは城を創った段階でいつかアントニーナを招待したいと思っており、そのための準備も欠かさなかった。
元々はメリアとの結婚式に招待して何かと理由をつけて留まらせる…などと色々考えていたが、今となってはそんなこと言ってられなかった。
「爺ちゃん…に知らせておこうか。いや、まだ早いか…。」
エラクレスはアントニーナが起きるまで部屋で待つことにした。
「エラク………レス」
「お目覚めですか?母上。」
最初は寝ぼけていたのか起きてエラクレスを見ても名前を呟くだけで無反応だった。
「エラクレス!」
ガバッ!
アントニーナは全体重をエラクレスにぶつけているような抱擁をした。
(だいたいこうなるような気がしたよ。)
エラクレスは身体強化でアントニーナを押し留めた。
その後中枢メンバーに無事にアントニーナを助けたことを知らせて引き合わせた。なお、リチャードは反エラクレス派の粛清に忙しくて不参加。
勿論その後コッテリと叱られたのは言うまでもない。
「コラ!エラクレス!私を誘拐したのは良いよ!子供の傍に居るのが母親だからね!でも!危険なことをしちゃ駄目って!いつも言ってるでしょ!せめてフィリクさんでも連れてきなさい!エラクレス!ちゃんと聞いてる!?え?!陛下は良いのかって?それは優しい人だけど、貴方を捨てたも同然じゃない!父として失格よ!だいたい、『余が愛しているのはそなただけじゃ。』とか言っているけど、その割には私の子供を簡単に捨ててくれたわね!あんなのは優しい』じゃなくて腰抜けって言うのよ!それにどうせ私はすぐに『反逆者の母親』っていうレッテルを貼られて追放または粛清される身だし!それぐらいいくら宮中に疎い私でもわかるわ!あんなとここっちから出て行ってやるわ!」
「……というわけでエラクレスは無事に母親と住むことになりましたとさ。」
「ちょっと!エラクレス!ちゃんと聞いてる!?そして誰に喋ってるの!?」
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