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第三章反逆王子
拒否する!
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<聖堂>
「むっ!」
(こ、これは…)
修道士は驚いた。
聖堂には今も怪我人が押し寄せている。最初の方に運ばれた怪我人はエラクレスが治療したため大半が怪我などない怪我人だった。
かなり異質な現象だったが、確かに服が血塗れの怪我人も居たため…
『こ、これは…神の御加護だ!神は我らをお見捨てになってはおられぬ!これこそが動かぬ証拠!』
…という鶴の一声ならぬガブリエルの一声で片付いた。
しかし、今運ばれているのはエラクレスが去った後に瓦礫の撤去作業や事故によってうまれた正真正銘の怪我人である。
エラクレスは家までは直してくれなかった。
そうなると薬や回復魔法(傷)が足りなくなってエラクレスが寄進した薬の出番となったのは容易に予想できる。
塗った怪我人の様子を見に来た修道士が見たそれは…
安らかに眠る怪我人達の姿だった。
(死んでない……よな?!)
慌てて一人の鼻に手を当てる。
「一定の間隔で風を感じる……。確かに生きている……。」
それから全員の生存確認をした。
「凄い……。全員生きてる……。」
(大主教聖下にお伝えせねば…。)
修道士は立ち上がった。その時…
ガチャ
「どうじゃ?怪我人はどれくらい助けられそうじゃ?」
ドアが開いて現れた人物こそ大主教ガブリエルである。
「は!聖下。今のところ怪我人は全員無事です。」
「そ、そうか?他の所は手当を終えたが未だに傷が痛む怪我人達のうめき声で大変じゃが…ここは静かなようじゃな。」
暗に修道士の報告を疑っていると告げる。
「その事ですが聖下、ここに居る怪我人達は皆ヴァロワ公爵から頂いた薬で治療した者達です。」
「そ、そうか…まさか安楽…「いえ、よくご覧ください。」…。」
効果と真反対なことを口走りそうになったガブリエルを修道士は制す。
ガブリエルは横たわる怪我人達をよく見た。
「お、おお!動いた!」
怪我人の一人が寝返りをうったのだ。
「ご覧ください、確かに効いております!」
修道士が誇らしげに語る。
「修道士よ!」
そんなこと大興奮しているガブリエルにはどうでも良かった。
「はっ!」
「薬は余っておるかな?!」
ガブリエルは修道士を血走った目で見つめる。
「まだ大量にございます……。」
修道士のその返答にガブリエルの興奮が興奮の限界ゲージを突き破った。
「神よ!!!神よおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
フラッ…。
「聖下!」
ガブリエルは興奮しすぎて気絶した。
(約1年ぶりかな?この人の信仰心…いや、狂気を見る限り過去に絶対神に会って救われてるっていう人だな。)
俺の友達にもいるんだよ…と修道士はガブリエルを支えながら思った。
「聖下、宮廷から使者が参りましたが…。」
その時修道女が知らせを届けに来た。
「こ…これは…。」
修道女は困惑した。
「き、君は初めてかな?ちょっとお疲れのようだ寝台まで手伝ってくれ…。」
「………。」
その後無事に目が覚めた。
「拒否する!」
ガブリエルは宮廷から送られてきた使者に言い放った。
「なんと…?」
いきなりのことに使者は戸惑う。
「要件は聞いた!だから拒否する!」
「し、しかし…」
使者は食い下がる。
ドン!
ガブリエルは手に持つ杖を床に叩きつけた。
「しかしも何もあるか!」
「ヒイイイイイイイイ!」
あまりにもヤバい剣幕に使者は悲鳴を上げた。
修道士が横から使者に紙を渡す。
「私が言いたいことは全てここに書いてある!国王陛下にしっかりとお伝えせよ!」
それだけ言ってガブリエルは足速に去った。
使者もこれ以上は無駄とさとり聖堂を去った。
ここで少し教会について説明すると、聖職者は何かと禁欲なイメージがあるが、出産の女神アリナを信仰しているだけあって聖職者同士の結婚を認められているどころか推奨してるまである。
「おい!お前!」
ガブリエルは他の修道士を呼び止めた。
「教皇聖下の所に行ってこれをお渡ししろ!」
「はっ!」
<場所は変わる>
「なんだと!」
ここはネリーキア城、第二王子ラントの屋敷。その主は激昂していた。
「大主教が結婚の無効を認めんだと!」
そうだ。彼はフェンネ二世にアントニーナとの結婚の無効を教会に要請するように説得したが、それをまさかの大主教が拒否したのだ。
普段は冷静なラントだが、それは物事が思い通りに進む時のみでちょっとでも計画が狂うとキレる。まあ、誇り高い王族や大貴族らしく現実に妥協することを知らないのだ。
「大主教はなんと申しておる!」
ラントは部下を怒鳴りつけた。
「そ、それが…」
バリン!
言い淀んだ部下にグラスを投げつけた。
「さっさと申せ!」
「はっ…『かの夫婦は神の御前で互いに一生の愛を誓ったのをこの目で確かに見た。それを今更無かったことにするなど…神を欺くことにほかならない。』…」
(なに御託を並べてやがる…貴様らだって教義に反することを秘密裏にやっておるだろうが…。)
ラントの言うことも完璧な言いがかりではなく商売をしたり、酒を飲んだり、禁とされていることをする聖職者も一定数居る。しかし彼らの長たる大主教ガブリエルが清廉潔白で敬虔な信者であるためそれはごく少数派で、しかも見つかり次第罰として【自主規制】されてある。
「それで終わりか?」
「いえ……『更にその子のヴァロワ公爵エラクレスは先の大地震の時怖れることなく女神像をお支えし、怪我人のために万を超える薬とそれらが入る魔法の袋を寄進された敬虔な方。それに対し何もしなかった貴殿らがヴァロワ公爵を悪し様に語る権利は…』」
バンッ!
部下の言葉を掻き消すような台パンの音と共にエラクレスへの称賛に耐えきれなくなったラントは立ち上がり…
剣を抜いた
「ひいいいいいい!!お許しを!!」
部下は逃げようとしたが腰を抜かして逃げられなかった。
しかしラントは止まらない。何も言わず剣を構える。
「死…「お止めください!」」
剣が振り下ろされる寸前、部下の必死の助命嘆願さえも届かなかったラントにその言葉が届いた。
「伯父上……。」
その声の主は現在のザラーフ侯爵家当主ライアン。
ネルキンが王都で宰相を務めることになり、その職務(それと陰謀)に専念するために当主の座を譲られた。以前に地震で死にかけていたライアンとは別のライアン。
「殿下、お気持ちはわかりますが彼はあくまでも伝えているに過ぎません。彼の本心ではないのです。」
ライアンはこの手のかかる甥っ子を宥めた。
ラントは幼い頃から彼に可愛がられていて、ライアンを信頼している。
「そ、そうですよね……。すみません…伯父上おかしなところをお見せしました…。下がれ。」
殺されかけた部下は猛スピードで出ていった。
「まあ、殿下。落ち着いてくだされ。」
すぐに目を向けられたライアンは語り始めた。ラントの怒りは当然ながら収まったわけではなかった。
「この世には『実質』という言葉がございましてな。まずアントニーナ妃には別館にうつってもら…」
ゴンゴンゴン
突然ノックされた。
音的に急を要するらしい。
「なんだ!」
「急報です。」
「そこで申せ。」
「アントニーナ妃が…失踪されました。」
「「なあ!!」」
思いもよらぬ知らせに二人はとても驚いた。
「伯父上!」
「殿下、大丈夫です。おそらくは教会です。教会に逃げ込んだのでしょう。」
ライアンは言う。
「それでは教会に問い詰め…」
「いいえ、どういうわけか教会は反逆者と仲がよろしいので知らぬ存ぜぬを突き通されます。それにここで強気になって教会を敵にするのは上策ではありません。」
ライアンは冷静に分析する。
「状況は悪くないと思います。なぜならこれで陛下とは別居していますので『実質』結婚の無効と変わりません。殿下も王宮であの女を見なくて良くなったのです。後は反逆者を捕らえれば教会も我らの要求を呑むでしょう。」
(そうか……あの女の姿を見て不快な思いをさせられることはないのか…。)
それを聞いてラントはようやく少しは怒りが収まった。
「陛下のご様子は?」
「寝込んでおられます。」
(そうか…それなら尚更動きやすくなったな。)
ラントも普段の姿に戻った。
「殿下、今日で今年が終わりです。どうか安らかにお過ごしください。」
「わかった。」
そう言ってグラスに注がれたワインを飲んだ。
(まあ、宴会が終わって準備ができるまで悠長に待つとするか。ハッハッハーー!。エラクレス!貴様をどう料理してやろうか。)
「くしゅん!」
「陛下、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。誰か俺の噂をしてるな?」
「噂されるとくしゃみをされるのですか?不思議な魔法ですね♪」
「いや、これは魔法じゃなくてね…その……まあ…流れだ。」
「「??」」
「ん…いや…そんなことより今日で年が終わるから夜どうしで宴だっけ?」
「そうです!」
「陛下…ちゃんとしてくださいよ♪」
「やるよ、今日のためにしっかり練習したのは身をもって知ってるだろ?」
ボン!!
「えへへへ……♪」
「毎夜毎夜、熱心に王者の威厳を示そうと頑張っておいででしたね。」
(陛下は臣達を大事にしてくださる御方ですが、お優し過ぎて侮られます。現に獅子王国にも反対派が居ますし。)
(だから、こう、なんというか、もっと私達を粗雑に扱うための練習をしていたのですよ♪)
ネリーキア王国と狼人、獅子人も男尊女卑の傾向が強いのは同じだが、ネリーキア王国では…
『女は弱い、だからこそ、女を守るのは男の義務である!』
…という価値観である一方で、狼人と獅子人では…
『男のくせに女に優しく接するのは女を怖がっている証拠だ!この軟弱者め!』
…という価値観がある。
だからこそ本当にエカが狼王になったのはかなり異質(狼人ではグスタフの闇と呼ばれている。)だが、それは別の話。
(優しくされるのも最初は嬉しくて陛下のことは好きだけど…やっぱり男らしくないわ…。)
(強者が強者として振る舞えないのは間違っているのよ♪!)
((今の陛下も良いけど獣人の王と成られるからには獣人の民のためにも出来るだけこちらの価値観に染まって頂かなくては…。))
今やこの『獣王優し過ぎ問題』はグスタフやリチャードを始めとする中枢メンバー達にとって深刻な問題になっている。
この問題のヤバいところは幼少の頃からエラクレスの教育を担当した側近中の側近のフィリクがガチガチのネリーキア王国価値観の持ち主だという点である。
しかも、エラクレスが政争を極度に嫌っているため表立ってフィリクの更迭をエラクレスに求めることができない。
「エラクレス様、お時間です。」
正装をしたフィリクが呼びに来た。彼も重要人物として出席する。
「わかったすぐに行く。って…お前も高い身分になったんだから他の者に任せれば良いのに変わらないな…。」
「私はエラクレス様の守役です。」
フィリクは右目に『忠』左目に『義』と文字が見えそうなくらい正直な目をしている。
(さあて、楽しみだな~。)
【最後まで読んでいただきありがとうございます!もし面白い!続きが読みたい!と思ってくださったのでしたらお気に入り登録をよろしくお願いいたします。】
「むっ!」
(こ、これは…)
修道士は驚いた。
聖堂には今も怪我人が押し寄せている。最初の方に運ばれた怪我人はエラクレスが治療したため大半が怪我などない怪我人だった。
かなり異質な現象だったが、確かに服が血塗れの怪我人も居たため…
『こ、これは…神の御加護だ!神は我らをお見捨てになってはおられぬ!これこそが動かぬ証拠!』
…という鶴の一声ならぬガブリエルの一声で片付いた。
しかし、今運ばれているのはエラクレスが去った後に瓦礫の撤去作業や事故によってうまれた正真正銘の怪我人である。
エラクレスは家までは直してくれなかった。
そうなると薬や回復魔法(傷)が足りなくなってエラクレスが寄進した薬の出番となったのは容易に予想できる。
塗った怪我人の様子を見に来た修道士が見たそれは…
安らかに眠る怪我人達の姿だった。
(死んでない……よな?!)
慌てて一人の鼻に手を当てる。
「一定の間隔で風を感じる……。確かに生きている……。」
それから全員の生存確認をした。
「凄い……。全員生きてる……。」
(大主教聖下にお伝えせねば…。)
修道士は立ち上がった。その時…
ガチャ
「どうじゃ?怪我人はどれくらい助けられそうじゃ?」
ドアが開いて現れた人物こそ大主教ガブリエルである。
「は!聖下。今のところ怪我人は全員無事です。」
「そ、そうか?他の所は手当を終えたが未だに傷が痛む怪我人達のうめき声で大変じゃが…ここは静かなようじゃな。」
暗に修道士の報告を疑っていると告げる。
「その事ですが聖下、ここに居る怪我人達は皆ヴァロワ公爵から頂いた薬で治療した者達です。」
「そ、そうか…まさか安楽…「いえ、よくご覧ください。」…。」
効果と真反対なことを口走りそうになったガブリエルを修道士は制す。
ガブリエルは横たわる怪我人達をよく見た。
「お、おお!動いた!」
怪我人の一人が寝返りをうったのだ。
「ご覧ください、確かに効いております!」
修道士が誇らしげに語る。
「修道士よ!」
そんなこと大興奮しているガブリエルにはどうでも良かった。
「はっ!」
「薬は余っておるかな?!」
ガブリエルは修道士を血走った目で見つめる。
「まだ大量にございます……。」
修道士のその返答にガブリエルの興奮が興奮の限界ゲージを突き破った。
「神よ!!!神よおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
フラッ…。
「聖下!」
ガブリエルは興奮しすぎて気絶した。
(約1年ぶりかな?この人の信仰心…いや、狂気を見る限り過去に絶対神に会って救われてるっていう人だな。)
俺の友達にもいるんだよ…と修道士はガブリエルを支えながら思った。
「聖下、宮廷から使者が参りましたが…。」
その時修道女が知らせを届けに来た。
「こ…これは…。」
修道女は困惑した。
「き、君は初めてかな?ちょっとお疲れのようだ寝台まで手伝ってくれ…。」
「………。」
その後無事に目が覚めた。
「拒否する!」
ガブリエルは宮廷から送られてきた使者に言い放った。
「なんと…?」
いきなりのことに使者は戸惑う。
「要件は聞いた!だから拒否する!」
「し、しかし…」
使者は食い下がる。
ドン!
ガブリエルは手に持つ杖を床に叩きつけた。
「しかしも何もあるか!」
「ヒイイイイイイイイ!」
あまりにもヤバい剣幕に使者は悲鳴を上げた。
修道士が横から使者に紙を渡す。
「私が言いたいことは全てここに書いてある!国王陛下にしっかりとお伝えせよ!」
それだけ言ってガブリエルは足速に去った。
使者もこれ以上は無駄とさとり聖堂を去った。
ここで少し教会について説明すると、聖職者は何かと禁欲なイメージがあるが、出産の女神アリナを信仰しているだけあって聖職者同士の結婚を認められているどころか推奨してるまである。
「おい!お前!」
ガブリエルは他の修道士を呼び止めた。
「教皇聖下の所に行ってこれをお渡ししろ!」
「はっ!」
<場所は変わる>
「なんだと!」
ここはネリーキア城、第二王子ラントの屋敷。その主は激昂していた。
「大主教が結婚の無効を認めんだと!」
そうだ。彼はフェンネ二世にアントニーナとの結婚の無効を教会に要請するように説得したが、それをまさかの大主教が拒否したのだ。
普段は冷静なラントだが、それは物事が思い通りに進む時のみでちょっとでも計画が狂うとキレる。まあ、誇り高い王族や大貴族らしく現実に妥協することを知らないのだ。
「大主教はなんと申しておる!」
ラントは部下を怒鳴りつけた。
「そ、それが…」
バリン!
言い淀んだ部下にグラスを投げつけた。
「さっさと申せ!」
「はっ…『かの夫婦は神の御前で互いに一生の愛を誓ったのをこの目で確かに見た。それを今更無かったことにするなど…神を欺くことにほかならない。』…」
(なに御託を並べてやがる…貴様らだって教義に反することを秘密裏にやっておるだろうが…。)
ラントの言うことも完璧な言いがかりではなく商売をしたり、酒を飲んだり、禁とされていることをする聖職者も一定数居る。しかし彼らの長たる大主教ガブリエルが清廉潔白で敬虔な信者であるためそれはごく少数派で、しかも見つかり次第罰として【自主規制】されてある。
「それで終わりか?」
「いえ……『更にその子のヴァロワ公爵エラクレスは先の大地震の時怖れることなく女神像をお支えし、怪我人のために万を超える薬とそれらが入る魔法の袋を寄進された敬虔な方。それに対し何もしなかった貴殿らがヴァロワ公爵を悪し様に語る権利は…』」
バンッ!
部下の言葉を掻き消すような台パンの音と共にエラクレスへの称賛に耐えきれなくなったラントは立ち上がり…
剣を抜いた
「ひいいいいいい!!お許しを!!」
部下は逃げようとしたが腰を抜かして逃げられなかった。
しかしラントは止まらない。何も言わず剣を構える。
「死…「お止めください!」」
剣が振り下ろされる寸前、部下の必死の助命嘆願さえも届かなかったラントにその言葉が届いた。
「伯父上……。」
その声の主は現在のザラーフ侯爵家当主ライアン。
ネルキンが王都で宰相を務めることになり、その職務(それと陰謀)に専念するために当主の座を譲られた。以前に地震で死にかけていたライアンとは別のライアン。
「殿下、お気持ちはわかりますが彼はあくまでも伝えているに過ぎません。彼の本心ではないのです。」
ライアンはこの手のかかる甥っ子を宥めた。
ラントは幼い頃から彼に可愛がられていて、ライアンを信頼している。
「そ、そうですよね……。すみません…伯父上おかしなところをお見せしました…。下がれ。」
殺されかけた部下は猛スピードで出ていった。
「まあ、殿下。落ち着いてくだされ。」
すぐに目を向けられたライアンは語り始めた。ラントの怒りは当然ながら収まったわけではなかった。
「この世には『実質』という言葉がございましてな。まずアントニーナ妃には別館にうつってもら…」
ゴンゴンゴン
突然ノックされた。
音的に急を要するらしい。
「なんだ!」
「急報です。」
「そこで申せ。」
「アントニーナ妃が…失踪されました。」
「「なあ!!」」
思いもよらぬ知らせに二人はとても驚いた。
「伯父上!」
「殿下、大丈夫です。おそらくは教会です。教会に逃げ込んだのでしょう。」
ライアンは言う。
「それでは教会に問い詰め…」
「いいえ、どういうわけか教会は反逆者と仲がよろしいので知らぬ存ぜぬを突き通されます。それにここで強気になって教会を敵にするのは上策ではありません。」
ライアンは冷静に分析する。
「状況は悪くないと思います。なぜならこれで陛下とは別居していますので『実質』結婚の無効と変わりません。殿下も王宮であの女を見なくて良くなったのです。後は反逆者を捕らえれば教会も我らの要求を呑むでしょう。」
(そうか……あの女の姿を見て不快な思いをさせられることはないのか…。)
それを聞いてラントはようやく少しは怒りが収まった。
「陛下のご様子は?」
「寝込んでおられます。」
(そうか…それなら尚更動きやすくなったな。)
ラントも普段の姿に戻った。
「殿下、今日で今年が終わりです。どうか安らかにお過ごしください。」
「わかった。」
そう言ってグラスに注がれたワインを飲んだ。
(まあ、宴会が終わって準備ができるまで悠長に待つとするか。ハッハッハーー!。エラクレス!貴様をどう料理してやろうか。)
「くしゅん!」
「陛下、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。誰か俺の噂をしてるな?」
「噂されるとくしゃみをされるのですか?不思議な魔法ですね♪」
「いや、これは魔法じゃなくてね…その……まあ…流れだ。」
「「??」」
「ん…いや…そんなことより今日で年が終わるから夜どうしで宴だっけ?」
「そうです!」
「陛下…ちゃんとしてくださいよ♪」
「やるよ、今日のためにしっかり練習したのは身をもって知ってるだろ?」
ボン!!
「えへへへ……♪」
「毎夜毎夜、熱心に王者の威厳を示そうと頑張っておいででしたね。」
(陛下は臣達を大事にしてくださる御方ですが、お優し過ぎて侮られます。現に獅子王国にも反対派が居ますし。)
(だから、こう、なんというか、もっと私達を粗雑に扱うための練習をしていたのですよ♪)
ネリーキア王国と狼人、獅子人も男尊女卑の傾向が強いのは同じだが、ネリーキア王国では…
『女は弱い、だからこそ、女を守るのは男の義務である!』
…という価値観である一方で、狼人と獅子人では…
『男のくせに女に優しく接するのは女を怖がっている証拠だ!この軟弱者め!』
…という価値観がある。
だからこそ本当にエカが狼王になったのはかなり異質(狼人ではグスタフの闇と呼ばれている。)だが、それは別の話。
(優しくされるのも最初は嬉しくて陛下のことは好きだけど…やっぱり男らしくないわ…。)
(強者が強者として振る舞えないのは間違っているのよ♪!)
((今の陛下も良いけど獣人の王と成られるからには獣人の民のためにも出来るだけこちらの価値観に染まって頂かなくては…。))
今やこの『獣王優し過ぎ問題』はグスタフやリチャードを始めとする中枢メンバー達にとって深刻な問題になっている。
この問題のヤバいところは幼少の頃からエラクレスの教育を担当した側近中の側近のフィリクがガチガチのネリーキア王国価値観の持ち主だという点である。
しかも、エラクレスが政争を極度に嫌っているため表立ってフィリクの更迭をエラクレスに求めることができない。
「エラクレス様、お時間です。」
正装をしたフィリクが呼びに来た。彼も重要人物として出席する。
「わかったすぐに行く。って…お前も高い身分になったんだから他の者に任せれば良いのに変わらないな…。」
「私はエラクレス様の守役です。」
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