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第三章反逆王子
獣王国対ネリーキア王国5
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「陛下!遅ればせながら参上致しました!」
「久しいな獅子王リチャード。」
(久しぶりだから張り切ってんな。)
2mを遥かに超えた体躯を誇るリチャードが1.6mのエラクレスに跪く姿は中々に奇妙な光景だ。
(せめて180cm…いや、175cmは欲しいな…。)
身長に対して少々コンプレックスがあるエラクレスはそう思った。
戦争中なのに呑気なものである。
「お前が離れて獅子王国は大丈夫なのか?」
「はっ!ご心配には及びませぬ。万事、不足はありませぬ!」
「そうか、まあお前が言うのなら大丈夫だろう。」
エラクレスは『ふぅー』と息を吐いて玉座の背もたれに深くもたれかかった。
(リチャード…スゲェよ。俺を獣王と認めた事によって生じた難題を短期間で解決しやがった。元々代々獣王を自称していた獅子人は圧倒的に反リチャード、反俺の勢力が根付いたが、それを俺の力を一切頼らずに解決し、獅子王国の内情を安定させた。)
リチャードの王としての力量の高さが伺える。
「娘は陛下のお役に立っておりますかな。」
「それ聞くの何回目だよ。メリアはよくやってくれているよ。」
「ハハッ、そうですな。」
それからリチャードと簡単な会話を交わし、一段落した時…
「それでは、私も前線へ向かいます。ちょうど獅子軍が出張ってるようですので。」
と言って立ち上がると足速に退出した。
それを見届けたエラクレスは空間魔法を使い映像を映し出す。
「はぁ…頼むから一度もまともな決戦をせずに終わってくれるなよ。」
その映像には敗走してなんとかノース館に逃げ込んだラントの姿があった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ハァハァハァ…着いた…か…。」
ラントは退却して無事に館までたどり着いた。
「こ…ここで…後続の味方とぉ…退却してくるぅ…軍勢を…ハァ…待ちましょう…。」
取り巻きの一人が息を切らしながら進言する。ラントはそれには応えなかったが、それを用いるつもりだ。
(伯父上はご無事だろうか…。)
取り敢えず身の安全を確保した今、彼の頭の中はそれだけであった。だからこれ以上退却する気は毛頭ない。
「おおっ!これはこれは殿下ではありませんか?!」
やっとの思いで館に辿り着き、休憩していた一行に声をかけてきた男がいた。
「す、ススス、ストラス伯!」
ラントの会いたくないランキング2位のジョシュア・ド・ストラスである。1位は当然エラクレスである。
「功名心に駆られ、敵を所詮獣と宣い、ヴァムード公爵や第二、第三騎士団と共闘なさっても負け…失礼、苦戦なさっているようですなぁ?」
ジョシュアはここぞとばかりにラントの心を抉った。敗北の後に仲間同士で何をやっていると言いたくなるが、これは仕返しであった。
フェンネがエラクレスの捕虜になり、鞭打ちツアーを王城で晒されたあの時、あの日以降フェンネ、即ちジョシュアの権威は失墜し、ジョシュア達フェンネ派はラント派から罵詈雑言の嵐を食らっていた。しかも、その件に関してフェンネ2世は箝口令を出したもののラント派はフェンネの醜態を庶民に漏らして更なる追い討ちをかけた。
今や市中ではフェンネは『脱糞王子』として知られ、当然その後ろ盾であるジョシュア達も笑い者であった。
故に彼はラントをとにかくイジる…自分の領土がゴブリンに荒らされているとも知らずに。
「いやはや、ラント殿下がこのようなことをなさっては兄であるフェンネ殿下も気が気でないでしょうな~。」
この言葉にラント達はブチギレた。
「キ!ぎざばぁあぁ!」
(誰があんなクソ野郎なんかに…!)
ラントの雄叫びを合図に取り巻き達がジョシュアに異議を唱える。
「いかに伯と言えども言葉に過ぎるのではないか?」
「何が?兄が弟を心配に思うのは当然だが?」
「勝敗は時の運!仲間の負け戦を責めるなど言語道断!」
「はて?私は苦戦と言っただけだが?誰が負け戦と?ああ、貴殿が今言ったな。ワッハッハ!」
「「「ぐぬぬぬ……」」」
言えば言うほど取り巻き達は自ら墓穴を掘るばかり…ジョシュアに高笑いにラントは頭がどうにかなりそうだったが、『自分はフェンネとは違う』という強靭な誇りが彼を思いとどまらせた。
「さて、休みも程々に前線から戻って来つつある軍の再編をしますか。」
…と言ってラントは何事もなかったようにその場を後にした。彼の固く握った拳からは爪が食い込んだことで血が流れていた。
その後ラントが彼の部屋に入ると何かを壊す音がしたとかしないとか。
しかし、その日の夕方にはラント待望のザラーフ侯ライアンが帰還、ラント派は軍の基盤を取り戻した。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「こんな小城!ひと捻りよ!」
「「「ヴァオオオオオオ!!!」」」
狼人と入れ替わりで先鋒を務める獅子人はノース館とエルキュール関の中継地点の城を攻めていた。ラントが居た城である。
ほとんどの敗残兵はこの城が見えると取り敢えず逃げ込むが、エルキュール関と比べてその貧弱さ不安に襲われすぐに出ていく。
よって、今この城に籠もっているのは周辺の農民やノース辺境伯と繋がりの強い貴族、逃げ遅れた者達である。
捕虜から城の貧弱さを知った獅子王女メリアはすぐに攻撃を開始。無視しても良さそうだが、メリアはノース館を攻略する時にこの城がエラクレスの本陣になることを想定していた。
最初の15分で道具と配置を整え、5分後に城壁を制圧。その後10分ほどで完全に制圧した。
「次!次々行くわよ!こんなのじゃ、あの関所を落とした狼人に追いつけないわよ!休みたい者はこの城で休みなさい!」
「「「オオー!!!獣王陛下万歳!!!」」」
メリアの叱咤に獅子人達は万歳で応え、進軍を再開した。
追撃に追撃を重ね、手当たり次第に暴れたもののめぼしい戦果は得られず、そのまま翌日の昼頃に獅子軍はノース館まで到達した。
「誇り高き騎士よ!奮い立て!我らが領地をケダモノ共から守れ!」
…と今まさに絶賛ケダモノ共に領地を襲われているジョシュアが檄を飛ばす。
高く掲げられたストラス家の旗の下、フェンネ派の貴族は獅子軍と交戦した。
「「「うおおおおお!!!」」」
派閥の領袖自らの指揮にフェンネ派の貴族は奮い立った。彼らの多くは先のエルキュール関の戦いを経験しておらず、獣王軍に呑まれていない。それにラント派の失態で気分が良い。士気は十分。
「来たわよ!獅子人の戦をクズどもに教えてやりなさい!」
メリアも軍勢を鼓舞し、獣化と共に突撃する。
ネリーキア軍1万2千対獅子軍5千。ネリーキア軍が倍以上の数的優位を擁している。
ネリーキア騎士は騎士らしくランスチャージで獅子軍に襲いかかる。一方、獅子軍は一定の距離まで近づくと矢を放ちながら退却していく。
(重装備の敵に対してこちらは追撃のために軽装の兵が多いわ。数も劣っているし敵が疲れるまで待ちましょう。)
「む!?い、いかん!敵の罠だ!」
獅子軍の退却を偽装と考えたジョシュアはすぐさま全軍停止を命じた。
しかし、一部の騎士たちはそれをガン無視して突撃を続行。彼らにとって味方というのは武功を奪い合うライバルでもあった。少なくなるなら望むところとしか思ってなかったであろう。
「今よ!」
そんな綻びをメリア達獅子軍は見逃すはずもなく反転攻勢に転じた。突撃してくる騎士達へ射撃を集中させた。それに怯んだところを接近し数の優位で圧倒する。
「むむ?!敵の足が止まった!この機を逃すな!突撃!」
獅子軍が反転攻勢に転じたと見るやいなやジョシュアも再度突撃の号令を発す。
「敵を引きずり出せ!」
メリアは再び退却を命じる。
一度足が止まった騎士は重装備なのもあって速度が上がりにくい。よって速度では軽装の獅子軍に分があった。
「良いぞ、さっきより距離は縮まっている。」
距離が縮まっていることに気を良くしたジョシュアは突撃を続行。しかし、追いつくことはついに無かった。逆に徐々に距離が開き始めてしまった。
「これで終わりよ!疲れ切った敵を完膚なきまで打ち破りなさい!」
好機と捉えたメリアの号令で獅子軍は一斉にネリーキア騎士達へ襲いかかった。
重装備に身を包む騎士と獣戦士が激しくぶつかり合った。勇敢に戦う両軍、疲労困憊のネリーキア騎士と言っても獅子軍の方こそ、そもそも昨日城攻めをしたばかりであり、疲労という点では決して少なくなかった。数的優位のあるネリーキア軍が優位かと思われたが、それでも押し始めたのは獅子軍だった。
再三語った通りネリーキア軍は騎士だけで編成されているのではなく、冒険者や山賊・野盗などアウトローが傭兵として混在している。それに騎士が長距離に及ぶ突撃をしたことで、徒歩の冒険者や魔法使いと引き離されてしまった。
そして例によって騎士たちそのものも個人の武功を求めてバラバラであった。これでも今回はジョシュアがいるから纏っている方である。
それに対して獅子軍は日々を名君リチャードの下で連帯感を持って過ごし、今は獅子王女を指揮官に迎え、総大将は絶対的な獣王である。
「一気に蹴散らしてしまぇい!」
自軍の優位を確信したメリアは更に押し込もうと喝を入れる。
向かってきた騎士のランスを右手の大海竜の剣で捌き、ライキの剣で粉砕する。
(ランスって、意外と脆いのよね。)
メリアは見事な体術で敵の攻撃を躱し接近、ライキの剣を鎧に突き立てる。
電流を流す。
「ぬが…あ…。」
雷龍の剣から放たれる雷撃をモロに食らって耐えられる人間は存在しないだろう。
(持ち手が木製な武器が多いから鎧にした方が確実に殺れるわ。)
メリアとはあのリチャードが主君に推薦するほどの人物であり、強者揃いの獅子人の中でも類稀な武勇の持ち主である。それがエラクレスによって規格外な武器を与えられ更なる強化を受けたわけである。
正直どうしたら良いのかわからない。
騎士の中にはかなり腕が立つのか、何かしらの竜の装備や武器を持つ者も居た。が、そんなのでは対抗できない。
(レベルが違うのだよレベルが。)
空間魔法を使って見ていたエラクレスは思った。
「っ……ぐ…」
乱戦の最中ジョシュアが負傷した。獅子軍の誰かが投げた投斧が彼を捉えた。
「ストラス辺境伯!こちらへ。」
数人の騎士に守られて退却していく。
彼の負傷&戦線離脱によって戦況は動くと思われたが、そうはならなかった。
もはや乱戦状態で、指揮官の指揮など必要としなかったのもあるが、そもそもバラバラに戦う騎士達である。指揮官に従うような者が少ないというのがあった。
それでも指揮官の退場は痛手だったのか、はたまた数人の騎士が指揮官を守って退却したのが痛手なのか。戦況は獅子軍優勢のまま進み退却する騎士も出て来た。
しかし、メリアの下にある古参兵がやって来て言った。
「潮時です。後退しましょう。」
そう言って彼はノース館の方に指を差した。そこからは味方を助けようとしたラント派の貴族が打って出て来ていた。それに加え最初に引き離した徒歩の敵兵も合流している。
「今なら優勢な戦況ですので安全に後退できます。」
敵兵が合流しつつあることも新手が来ていることも今が一番良い退き時であることも才媛の彼女が気づかないわけが無かった。
「だ、で、でも…」
ただ悔しい。先鋒を任されておきながら目立った武功も無く退くことが。獅子王女としてのプライドが…。
「獣王陛下は慎重にとおっしゃいました。負けて帰るよりよほどよろしいかと。」
「うむ…。」
切り札を使ってようやくメリアは撤退に同意。
ここで遂にネリーキア軍はささやかな勝利を手にした。
「久しいな獅子王リチャード。」
(久しぶりだから張り切ってんな。)
2mを遥かに超えた体躯を誇るリチャードが1.6mのエラクレスに跪く姿は中々に奇妙な光景だ。
(せめて180cm…いや、175cmは欲しいな…。)
身長に対して少々コンプレックスがあるエラクレスはそう思った。
戦争中なのに呑気なものである。
「お前が離れて獅子王国は大丈夫なのか?」
「はっ!ご心配には及びませぬ。万事、不足はありませぬ!」
「そうか、まあお前が言うのなら大丈夫だろう。」
エラクレスは『ふぅー』と息を吐いて玉座の背もたれに深くもたれかかった。
(リチャード…スゲェよ。俺を獣王と認めた事によって生じた難題を短期間で解決しやがった。元々代々獣王を自称していた獅子人は圧倒的に反リチャード、反俺の勢力が根付いたが、それを俺の力を一切頼らずに解決し、獅子王国の内情を安定させた。)
リチャードの王としての力量の高さが伺える。
「娘は陛下のお役に立っておりますかな。」
「それ聞くの何回目だよ。メリアはよくやってくれているよ。」
「ハハッ、そうですな。」
それからリチャードと簡単な会話を交わし、一段落した時…
「それでは、私も前線へ向かいます。ちょうど獅子軍が出張ってるようですので。」
と言って立ち上がると足速に退出した。
それを見届けたエラクレスは空間魔法を使い映像を映し出す。
「はぁ…頼むから一度もまともな決戦をせずに終わってくれるなよ。」
その映像には敗走してなんとかノース館に逃げ込んだラントの姿があった。
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「ハァハァハァ…着いた…か…。」
ラントは退却して無事に館までたどり着いた。
「こ…ここで…後続の味方とぉ…退却してくるぅ…軍勢を…ハァ…待ちましょう…。」
取り巻きの一人が息を切らしながら進言する。ラントはそれには応えなかったが、それを用いるつもりだ。
(伯父上はご無事だろうか…。)
取り敢えず身の安全を確保した今、彼の頭の中はそれだけであった。だからこれ以上退却する気は毛頭ない。
「おおっ!これはこれは殿下ではありませんか?!」
やっとの思いで館に辿り着き、休憩していた一行に声をかけてきた男がいた。
「す、ススス、ストラス伯!」
ラントの会いたくないランキング2位のジョシュア・ド・ストラスである。1位は当然エラクレスである。
「功名心に駆られ、敵を所詮獣と宣い、ヴァムード公爵や第二、第三騎士団と共闘なさっても負け…失礼、苦戦なさっているようですなぁ?」
ジョシュアはここぞとばかりにラントの心を抉った。敗北の後に仲間同士で何をやっていると言いたくなるが、これは仕返しであった。
フェンネがエラクレスの捕虜になり、鞭打ちツアーを王城で晒されたあの時、あの日以降フェンネ、即ちジョシュアの権威は失墜し、ジョシュア達フェンネ派はラント派から罵詈雑言の嵐を食らっていた。しかも、その件に関してフェンネ2世は箝口令を出したもののラント派はフェンネの醜態を庶民に漏らして更なる追い討ちをかけた。
今や市中ではフェンネは『脱糞王子』として知られ、当然その後ろ盾であるジョシュア達も笑い者であった。
故に彼はラントをとにかくイジる…自分の領土がゴブリンに荒らされているとも知らずに。
「いやはや、ラント殿下がこのようなことをなさっては兄であるフェンネ殿下も気が気でないでしょうな~。」
この言葉にラント達はブチギレた。
「キ!ぎざばぁあぁ!」
(誰があんなクソ野郎なんかに…!)
ラントの雄叫びを合図に取り巻き達がジョシュアに異議を唱える。
「いかに伯と言えども言葉に過ぎるのではないか?」
「何が?兄が弟を心配に思うのは当然だが?」
「勝敗は時の運!仲間の負け戦を責めるなど言語道断!」
「はて?私は苦戦と言っただけだが?誰が負け戦と?ああ、貴殿が今言ったな。ワッハッハ!」
「「「ぐぬぬぬ……」」」
言えば言うほど取り巻き達は自ら墓穴を掘るばかり…ジョシュアに高笑いにラントは頭がどうにかなりそうだったが、『自分はフェンネとは違う』という強靭な誇りが彼を思いとどまらせた。
「さて、休みも程々に前線から戻って来つつある軍の再編をしますか。」
…と言ってラントは何事もなかったようにその場を後にした。彼の固く握った拳からは爪が食い込んだことで血が流れていた。
その後ラントが彼の部屋に入ると何かを壊す音がしたとかしないとか。
しかし、その日の夕方にはラント待望のザラーフ侯ライアンが帰還、ラント派は軍の基盤を取り戻した。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「こんな小城!ひと捻りよ!」
「「「ヴァオオオオオオ!!!」」」
狼人と入れ替わりで先鋒を務める獅子人はノース館とエルキュール関の中継地点の城を攻めていた。ラントが居た城である。
ほとんどの敗残兵はこの城が見えると取り敢えず逃げ込むが、エルキュール関と比べてその貧弱さ不安に襲われすぐに出ていく。
よって、今この城に籠もっているのは周辺の農民やノース辺境伯と繋がりの強い貴族、逃げ遅れた者達である。
捕虜から城の貧弱さを知った獅子王女メリアはすぐに攻撃を開始。無視しても良さそうだが、メリアはノース館を攻略する時にこの城がエラクレスの本陣になることを想定していた。
最初の15分で道具と配置を整え、5分後に城壁を制圧。その後10分ほどで完全に制圧した。
「次!次々行くわよ!こんなのじゃ、あの関所を落とした狼人に追いつけないわよ!休みたい者はこの城で休みなさい!」
「「「オオー!!!獣王陛下万歳!!!」」」
メリアの叱咤に獅子人達は万歳で応え、進軍を再開した。
追撃に追撃を重ね、手当たり次第に暴れたもののめぼしい戦果は得られず、そのまま翌日の昼頃に獅子軍はノース館まで到達した。
「誇り高き騎士よ!奮い立て!我らが領地をケダモノ共から守れ!」
…と今まさに絶賛ケダモノ共に領地を襲われているジョシュアが檄を飛ばす。
高く掲げられたストラス家の旗の下、フェンネ派の貴族は獅子軍と交戦した。
「「「うおおおおお!!!」」」
派閥の領袖自らの指揮にフェンネ派の貴族は奮い立った。彼らの多くは先のエルキュール関の戦いを経験しておらず、獣王軍に呑まれていない。それにラント派の失態で気分が良い。士気は十分。
「来たわよ!獅子人の戦をクズどもに教えてやりなさい!」
メリアも軍勢を鼓舞し、獣化と共に突撃する。
ネリーキア軍1万2千対獅子軍5千。ネリーキア軍が倍以上の数的優位を擁している。
ネリーキア騎士は騎士らしくランスチャージで獅子軍に襲いかかる。一方、獅子軍は一定の距離まで近づくと矢を放ちながら退却していく。
(重装備の敵に対してこちらは追撃のために軽装の兵が多いわ。数も劣っているし敵が疲れるまで待ちましょう。)
「む!?い、いかん!敵の罠だ!」
獅子軍の退却を偽装と考えたジョシュアはすぐさま全軍停止を命じた。
しかし、一部の騎士たちはそれをガン無視して突撃を続行。彼らにとって味方というのは武功を奪い合うライバルでもあった。少なくなるなら望むところとしか思ってなかったであろう。
「今よ!」
そんな綻びをメリア達獅子軍は見逃すはずもなく反転攻勢に転じた。突撃してくる騎士達へ射撃を集中させた。それに怯んだところを接近し数の優位で圧倒する。
「むむ?!敵の足が止まった!この機を逃すな!突撃!」
獅子軍が反転攻勢に転じたと見るやいなやジョシュアも再度突撃の号令を発す。
「敵を引きずり出せ!」
メリアは再び退却を命じる。
一度足が止まった騎士は重装備なのもあって速度が上がりにくい。よって速度では軽装の獅子軍に分があった。
「良いぞ、さっきより距離は縮まっている。」
距離が縮まっていることに気を良くしたジョシュアは突撃を続行。しかし、追いつくことはついに無かった。逆に徐々に距離が開き始めてしまった。
「これで終わりよ!疲れ切った敵を完膚なきまで打ち破りなさい!」
好機と捉えたメリアの号令で獅子軍は一斉にネリーキア騎士達へ襲いかかった。
重装備に身を包む騎士と獣戦士が激しくぶつかり合った。勇敢に戦う両軍、疲労困憊のネリーキア騎士と言っても獅子軍の方こそ、そもそも昨日城攻めをしたばかりであり、疲労という点では決して少なくなかった。数的優位のあるネリーキア軍が優位かと思われたが、それでも押し始めたのは獅子軍だった。
再三語った通りネリーキア軍は騎士だけで編成されているのではなく、冒険者や山賊・野盗などアウトローが傭兵として混在している。それに騎士が長距離に及ぶ突撃をしたことで、徒歩の冒険者や魔法使いと引き離されてしまった。
そして例によって騎士たちそのものも個人の武功を求めてバラバラであった。これでも今回はジョシュアがいるから纏っている方である。
それに対して獅子軍は日々を名君リチャードの下で連帯感を持って過ごし、今は獅子王女を指揮官に迎え、総大将は絶対的な獣王である。
「一気に蹴散らしてしまぇい!」
自軍の優位を確信したメリアは更に押し込もうと喝を入れる。
向かってきた騎士のランスを右手の大海竜の剣で捌き、ライキの剣で粉砕する。
(ランスって、意外と脆いのよね。)
メリアは見事な体術で敵の攻撃を躱し接近、ライキの剣を鎧に突き立てる。
電流を流す。
「ぬが…あ…。」
雷龍の剣から放たれる雷撃をモロに食らって耐えられる人間は存在しないだろう。
(持ち手が木製な武器が多いから鎧にした方が確実に殺れるわ。)
メリアとはあのリチャードが主君に推薦するほどの人物であり、強者揃いの獅子人の中でも類稀な武勇の持ち主である。それがエラクレスによって規格外な武器を与えられ更なる強化を受けたわけである。
正直どうしたら良いのかわからない。
騎士の中にはかなり腕が立つのか、何かしらの竜の装備や武器を持つ者も居た。が、そんなのでは対抗できない。
(レベルが違うのだよレベルが。)
空間魔法を使って見ていたエラクレスは思った。
「っ……ぐ…」
乱戦の最中ジョシュアが負傷した。獅子軍の誰かが投げた投斧が彼を捉えた。
「ストラス辺境伯!こちらへ。」
数人の騎士に守られて退却していく。
彼の負傷&戦線離脱によって戦況は動くと思われたが、そうはならなかった。
もはや乱戦状態で、指揮官の指揮など必要としなかったのもあるが、そもそもバラバラに戦う騎士達である。指揮官に従うような者が少ないというのがあった。
それでも指揮官の退場は痛手だったのか、はたまた数人の騎士が指揮官を守って退却したのが痛手なのか。戦況は獅子軍優勢のまま進み退却する騎士も出て来た。
しかし、メリアの下にある古参兵がやって来て言った。
「潮時です。後退しましょう。」
そう言って彼はノース館の方に指を差した。そこからは味方を助けようとしたラント派の貴族が打って出て来ていた。それに加え最初に引き離した徒歩の敵兵も合流している。
「今なら優勢な戦況ですので安全に後退できます。」
敵兵が合流しつつあることも新手が来ていることも今が一番良い退き時であることも才媛の彼女が気づかないわけが無かった。
「だ、で、でも…」
ただ悔しい。先鋒を任されておきながら目立った武功も無く退くことが。獅子王女としてのプライドが…。
「獣王陛下は慎重にとおっしゃいました。負けて帰るよりよほどよろしいかと。」
「うむ…。」
切り札を使ってようやくメリアは撤退に同意。
ここで遂にネリーキア軍はささやかな勝利を手にした。
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