皇帝再誕 ~もしもルイ・ナポレオンが少年期に近代知識に目覚めていたら~

ぱふもふ

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第一部:皇帝の黎明と絶対王政の再臨

黄金の巨人と、深淵の少年

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1825年12月。
ロンドン、ニュー・コート。ロスチャイルド家の本拠地は、熱を帯びていた。
イングランド銀行が破産寸前まで追い込まれる中、ロンドンのネイサン、パリのジェームス、ウィーンのサロモンら五兄弟は、総力を挙げて欧州中の金(ゴールド)をロンドンへ集約させていた。
「よし、金塊は届く。明日、イングランド銀行の金庫を開かせる。これでこの国の息の根は、我らロチルド(ロスチャイルド)が握ることになる」
ジェームスは勝利を確信していた。だが、その翌朝、彼の元に届いたのは歓喜の報せではなく、一通の電信だった。
『ロスチャイルドが手配した金塊輸送船三隻を、カレー港およびアムステルダム港にて、検疫および密輸の疑いで足止め中。……代わって、シュタイン商会の金塊が、一時間前にイングランド銀行へ搬入された』
「……っ、馬鹿な! なぜシュタインが、我々しか知らないはずの搬入ルートを先回りしている!?」
ジェームスはパリのシュタイン子爵邸へと乗り込んだ。
そこで彼を待っていたのは、暖炉の前で本を読む少年、ルイ・ナポレオンであった。
「……ジェームス殿。血相を変えて、どうされました? イングランド銀行は無事に救われましたよ。……私(シュタイン商会)の金によってね」
「貴様……! あれは我々が、一族の威信をかけて集めた『勝ち筋』だったのだぞ!」
ジェームスは震える指でルイを指した。
ルイは未来知識により、ロスチャイルドが「どのルートで金を集め、誰に賄賂を贈って道を空けさせたか」を完璧に把握していた。そして、掌握済みの警察権力(第7話)を使い、彼らの物流をわずか数時間だけ「合法的に」遅らせたのだ。その数時間の隙に、ルイは自らの金を先に運び込ませ、「国家を救った英雄」の座を奪い取った。
「ジェームス殿。あなたの負けです。……ですが、安心してください。私はあなたたちを破滅させたいわけではない」
ルイは立ち上がり、屈辱に顔を歪める銀行王の目を、冷徹に見据えた。
「あなたの損失は、私が補填しましょう。……ただし、これからは『ロスチャイルドの帝国』ではなく、『私の帝国』の銀行家として、私の指先一つで金を動かしてもらう。……イギリスの救世主の座は譲りましたが、その代わり、あなたたちには『私の帝国の金庫番』という、より巨大な役割を用意しています」
ジェームスは絶句した。
全財産を奪われたわけではない。だが、世界で唯一、自分たちの「先」を行く情報を持つ怪物が、目の前にいる。
この少年を敵に回せば、次に来る波(恐慌)で、一族は確実に沈められるだろう。
「……わかった。認めよう。ボナパルトの甥、君は……我々よりも早く、未来の数字を読んでいる」
一八二五年、冬。
ロスチャイルド家は屈辱の中で、ルイ・ナポレオンとの密約に応じた。
彼らは破滅を免れた。しかし、その圧倒的な資金網は今や、ルイが描く「新帝国」を支えるための巨大なインフラへと組み込まれたのである。
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