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継母が出来たら幸せになりました
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伯爵夫人である母が亡くなってから一年。父はあっさりと後妻を迎えた。
ある日突然父の執務室に呼び出され、「今日からこの女性がお前の母だ」なんて言われてもすぐに受け入れられるわけないのだけど、そういう機微はこの人にはわからないらしい。しかも、その後妻の連れ子が義妹になるなんて。
初めて顔を合わせた時、義母も義妹も、なんだか小馬鹿にするような感じの笑みで私を見ていた。父は昔から家のことに関心がなく私は放置されていたので、これは絶対にろくなことにならないぞ、と嫌な予感はしていた。
案の定、義母達と王都の屋敷で一緒に暮らすようになってから、廊下ですれ違うたびに嫌味を言われたり、私だけ粗末な食事を与えられたり、嫌がらせが始まった。父は領地に篭って王都の屋敷を訪れることもない。そのせいか嫌がらせはどんどんエスカレートしていった。
「セシリアお姉様にこんな沢山のドレスは必要ありませんわ。だって、髪の色も目の色も焦げ茶だなんて地味ですし、上質の絹なんて似合いませんもの。麻でできた下女服でも着ていればよろしいのではなくて?」
そう言って義妹にこれまで持っていたドレスは全て奪われ、宝石や化粧品も、全て義妹のものになった。その上、昔住み込みの庭師が住んでいた小屋で暮らすようにと義母に言い渡され、下女のような粗末な麻のワンピースを着て、伯爵令嬢であるにもかかわらず今の私は庶民の庭師のように暮らしている。
その生活は、正直…………最高だった。
私にはなぜか異世界で暮らしていた記憶があり、そのせいか貴族令嬢の生活には全く馴染めなかったのだ。この国の貴族はとにかくコルセットをギチギチに締め上げて細い腰を演出するのが至上という価値観で、それが本当に辛かった。
前世の記憶には、服飾史なる本でコルセットの有害性について読んだ記憶もあった。コルセットの締めすぎで肋骨が肝臓に刺さって死んだとか、生きたまま内臓が腐ってたとか。その上ドレスは信じられないほど大量の布が使われており、暑いし重い。布が多く一度濡れたら中々乾かずカビが生えてしまう上、染色は草花で行われているため洗濯は出来ない。色落ちするからだ。汚れたら香水で汗の匂いを誤魔化すという最悪の対応。夜会服は頻繁に新調するけれど、普段使いのドレスは使い回しのため、常に地獄の臭気に晒されていた。
庶民と違って貴族の女性は常にお化粧をしておかないといけないけれど、この世界の化粧品が本当に安全なのかも信用ができない。商人におしろいの原料を問い合わせたところ、鉛が使われていると言っていた。前世の知識だと鉛には毒性があり、鉛のおしろいを使い続けると神経障害が出て歩けなくなり、最後には衰弱して死ぬそうだ。怖すぎる。
その上、重たいドレスで汗をかきながら宝飾品で飾り立てられる生活を続けた結果、私は金属アレルギーになってしまった。夜会に出るたびに胸元を宝飾品で飾りたてられ、肌が真っ赤にかぶれて痒くて痛くて気が狂いそうになる。
領民の税金で暮らさせてもらっているのだから、令嬢としての義務を果たさなければという責任感だけで耐えてきたけれど、本当はもう限界だった。
それに対して、義妹に本邸を追い出されてからの生活はというと。
服装は麻のワンピース。重量はドレスの十分の一以下で、とても軽い。手洗いで簡単に洗濯出来るので、衛生面もバッチリ。当然コルセットはなく、口から内臓が飛び出るような締め付けの苦しみから解放された。
茶会にも夜会にも出させてもらえないので、宝飾品をつける必要もなし。赤くただれた肌に白粉を叩いて誤魔化し、金属の首飾りを引っさげて皮膚炎を悪化させるなんて拷問はもう受けなくていい。
食事は砂糖と乳脂たっぷりの白パンから、庶民的なオートミールに変えられた。ら、肌が綺麗になった。私はまだ17歳だけれど、貴族特有の砂糖バーン!脂ドーン!な食生活のせいで、肌は荒れ放題だったのに。今じゃすっかりツヤツヤだ。
継子いじめバンザイ!不健康な令嬢生活よさようなら。
この時の私は庶民のように自由な生活にウッキウキだった。まさか自分が作った健康的なワンピースや無害な白粉がヒットしたせいで、再び夜会に引きずり出されるとも知らず。
ある日突然父の執務室に呼び出され、「今日からこの女性がお前の母だ」なんて言われてもすぐに受け入れられるわけないのだけど、そういう機微はこの人にはわからないらしい。しかも、その後妻の連れ子が義妹になるなんて。
初めて顔を合わせた時、義母も義妹も、なんだか小馬鹿にするような感じの笑みで私を見ていた。父は昔から家のことに関心がなく私は放置されていたので、これは絶対にろくなことにならないぞ、と嫌な予感はしていた。
案の定、義母達と王都の屋敷で一緒に暮らすようになってから、廊下ですれ違うたびに嫌味を言われたり、私だけ粗末な食事を与えられたり、嫌がらせが始まった。父は領地に篭って王都の屋敷を訪れることもない。そのせいか嫌がらせはどんどんエスカレートしていった。
「セシリアお姉様にこんな沢山のドレスは必要ありませんわ。だって、髪の色も目の色も焦げ茶だなんて地味ですし、上質の絹なんて似合いませんもの。麻でできた下女服でも着ていればよろしいのではなくて?」
そう言って義妹にこれまで持っていたドレスは全て奪われ、宝石や化粧品も、全て義妹のものになった。その上、昔住み込みの庭師が住んでいた小屋で暮らすようにと義母に言い渡され、下女のような粗末な麻のワンピースを着て、伯爵令嬢であるにもかかわらず今の私は庶民の庭師のように暮らしている。
その生活は、正直…………最高だった。
私にはなぜか異世界で暮らしていた記憶があり、そのせいか貴族令嬢の生活には全く馴染めなかったのだ。この国の貴族はとにかくコルセットをギチギチに締め上げて細い腰を演出するのが至上という価値観で、それが本当に辛かった。
前世の記憶には、服飾史なる本でコルセットの有害性について読んだ記憶もあった。コルセットの締めすぎで肋骨が肝臓に刺さって死んだとか、生きたまま内臓が腐ってたとか。その上ドレスは信じられないほど大量の布が使われており、暑いし重い。布が多く一度濡れたら中々乾かずカビが生えてしまう上、染色は草花で行われているため洗濯は出来ない。色落ちするからだ。汚れたら香水で汗の匂いを誤魔化すという最悪の対応。夜会服は頻繁に新調するけれど、普段使いのドレスは使い回しのため、常に地獄の臭気に晒されていた。
庶民と違って貴族の女性は常にお化粧をしておかないといけないけれど、この世界の化粧品が本当に安全なのかも信用ができない。商人におしろいの原料を問い合わせたところ、鉛が使われていると言っていた。前世の知識だと鉛には毒性があり、鉛のおしろいを使い続けると神経障害が出て歩けなくなり、最後には衰弱して死ぬそうだ。怖すぎる。
その上、重たいドレスで汗をかきながら宝飾品で飾り立てられる生活を続けた結果、私は金属アレルギーになってしまった。夜会に出るたびに胸元を宝飾品で飾りたてられ、肌が真っ赤にかぶれて痒くて痛くて気が狂いそうになる。
領民の税金で暮らさせてもらっているのだから、令嬢としての義務を果たさなければという責任感だけで耐えてきたけれど、本当はもう限界だった。
それに対して、義妹に本邸を追い出されてからの生活はというと。
服装は麻のワンピース。重量はドレスの十分の一以下で、とても軽い。手洗いで簡単に洗濯出来るので、衛生面もバッチリ。当然コルセットはなく、口から内臓が飛び出るような締め付けの苦しみから解放された。
茶会にも夜会にも出させてもらえないので、宝飾品をつける必要もなし。赤くただれた肌に白粉を叩いて誤魔化し、金属の首飾りを引っさげて皮膚炎を悪化させるなんて拷問はもう受けなくていい。
食事は砂糖と乳脂たっぷりの白パンから、庶民的なオートミールに変えられた。ら、肌が綺麗になった。私はまだ17歳だけれど、貴族特有の砂糖バーン!脂ドーン!な食生活のせいで、肌は荒れ放題だったのに。今じゃすっかりツヤツヤだ。
継子いじめバンザイ!不健康な令嬢生活よさようなら。
この時の私は庶民のように自由な生活にウッキウキだった。まさか自分が作った健康的なワンピースや無害な白粉がヒットしたせいで、再び夜会に引きずり出されるとも知らず。
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