46 / 47
最終話 家族のはじまり
しおりを挟む
シャーロットに報告すると、まず驚き、その後喜び、そして最後には涙ながらに抱きついてきた。
「おめでとうございますお母様! わたくし、ずっとお母様には幸せになっていただきたいと思っておりましたの! 自分のことのように嬉しいですわ!」
ダミアンは照れた様子でほのかに頬を染めながら、「ししゃく様は、お父様になってくださるの?」と嬉しそうに呟いた。
「僕、ずっとお父様をしてくれるお父様が欲しかったの。遊んでくれたり、お勉強を見てくださったり……」
その言葉はずしんと私の胸に響いた。ダミアンの実父であるあの元夫は、「お父様をしてくれないお父様」だった。そのことをダミアンは気づいていて、傷ついていたのだろう。
ジェラルド様はダミアンを抱き上げ、その頭をそっと撫でる。
「ダミアン、これからは私が父となろう。遊びたければそうねだっていい。勉強も見よう」
私たちは、血縁の上ではバラバラだ。繋がっているのは私とダミアン、そしてシャーロットとダミアンの二組だけ。
けれど、それでも家族としての強い絆を培うことは可能なのだと、確信できている。
それは、離婚してからみんなと共に困難を乗り越えてきた道程が私たちを繋いでいるからだと思う。
それから私たちは、各種手続きと仕事に追われた。
高位貴族と一代男爵の婚姻だ。当然ながら国王の許可もいる。とはいえ、家の跡目争いを避けたいというジェラルド様の意向は十分汲み取られていて、王家もすげなく却下するようなことはないだろうと思われた。
大変なのは、中継ぎとはいえいずれ伯爵家当主なる方に嫁ぐ分、礼儀作法や社交の知識をさらにブラッシュアップしなければならないことだ。
それもジェラルド様がしっかり手配してくださっているので、前回の結婚と比べればまだマシではあるのだけれど。
ジェラルド様は何くれとなく気を遣ってくださっている。嫁いでくることで大変なのはヴィオラだから、と。
そうして準備を進めていき、結婚式当日。
私はこれまでに自分で開発してきたものの集大成と言える装束を身に纏っていた。
純白の繊細なレースで飾られたエンパイア・ドレスに、胸を支えるための鯨の髭が入った新しい下着。
前回の結婚式よりも遥かに着心地がよくて動きやすい装束に、ほっとため息をつく。これから先、この国の女性がこうやって苦しくなく穏やかに過ごせる服で結婚式を迎えられるようになったら、と思う。
「お母様、素敵です」
ドレスアップした私を見て、シャーロットが涙ぐんでいる。
この子にも随分と心配をかけた。
今まで私は、どんなに我が身を犠牲にしてもこの子を幸せにしよう、と思っていた。けれど、それがシャーロットの負担になっていた部分もあるのだと思う。
私の結婚が決まってからというもの、シャーロットは毎日とても幸せそうにしていた。
心優しく人の幸せを祈れるシャーロットのためには、私自身が幸せであることもまた大切なことなのだろう、と気付かされた。
「シャーロットも、とても綺麗よ」
娘として結婚式に参列するシャーロットは、私と似たデザインの柔らかな桃色のドレスに身を包んでいる。
「ふふ、そんな。今日のお母様に叶う人なんて世界中のどこにもいませんよ」
さあ、行きましょうとシャーロットが手を伸ばしてくる。控え室から出ると、そこにはジェラルド様が待っていた。
「ヴィオラ……。ああ、なんて。その、言葉にならないくらい美しいよ」
いつもなんでも卒なく対処されるジェラルド様が、言葉に詰まりながら褒めてくれる。
それだけで私は幸福感で胸がいっぱいになった。
「おかあさまー! おとうさまー! お花をどうぞ」
ダミアンが胸に挿すための造花を「はいっ」と元気いっぱいに渡してくれる。
私の大切な人たちは皆笑顔で、幸せそうで。
新しい家族の始まりを祝福するが如くに、空は高く晴れ渡っていた。
◆◆◆
あとがき
ここまでお読みいただきありがとうございました。少しでも楽しんでいただけていたら幸いです。
いずれまたランスーン伯爵家のその後や、シャーロットとエルガディットの淡い恋など番外編をあげようと思っているので、その時にはまたお付き合いいただければ嬉しいです。
「おめでとうございますお母様! わたくし、ずっとお母様には幸せになっていただきたいと思っておりましたの! 自分のことのように嬉しいですわ!」
ダミアンは照れた様子でほのかに頬を染めながら、「ししゃく様は、お父様になってくださるの?」と嬉しそうに呟いた。
「僕、ずっとお父様をしてくれるお父様が欲しかったの。遊んでくれたり、お勉強を見てくださったり……」
その言葉はずしんと私の胸に響いた。ダミアンの実父であるあの元夫は、「お父様をしてくれないお父様」だった。そのことをダミアンは気づいていて、傷ついていたのだろう。
ジェラルド様はダミアンを抱き上げ、その頭をそっと撫でる。
「ダミアン、これからは私が父となろう。遊びたければそうねだっていい。勉強も見よう」
私たちは、血縁の上ではバラバラだ。繋がっているのは私とダミアン、そしてシャーロットとダミアンの二組だけ。
けれど、それでも家族としての強い絆を培うことは可能なのだと、確信できている。
それは、離婚してからみんなと共に困難を乗り越えてきた道程が私たちを繋いでいるからだと思う。
それから私たちは、各種手続きと仕事に追われた。
高位貴族と一代男爵の婚姻だ。当然ながら国王の許可もいる。とはいえ、家の跡目争いを避けたいというジェラルド様の意向は十分汲み取られていて、王家もすげなく却下するようなことはないだろうと思われた。
大変なのは、中継ぎとはいえいずれ伯爵家当主なる方に嫁ぐ分、礼儀作法や社交の知識をさらにブラッシュアップしなければならないことだ。
それもジェラルド様がしっかり手配してくださっているので、前回の結婚と比べればまだマシではあるのだけれど。
ジェラルド様は何くれとなく気を遣ってくださっている。嫁いでくることで大変なのはヴィオラだから、と。
そうして準備を進めていき、結婚式当日。
私はこれまでに自分で開発してきたものの集大成と言える装束を身に纏っていた。
純白の繊細なレースで飾られたエンパイア・ドレスに、胸を支えるための鯨の髭が入った新しい下着。
前回の結婚式よりも遥かに着心地がよくて動きやすい装束に、ほっとため息をつく。これから先、この国の女性がこうやって苦しくなく穏やかに過ごせる服で結婚式を迎えられるようになったら、と思う。
「お母様、素敵です」
ドレスアップした私を見て、シャーロットが涙ぐんでいる。
この子にも随分と心配をかけた。
今まで私は、どんなに我が身を犠牲にしてもこの子を幸せにしよう、と思っていた。けれど、それがシャーロットの負担になっていた部分もあるのだと思う。
私の結婚が決まってからというもの、シャーロットは毎日とても幸せそうにしていた。
心優しく人の幸せを祈れるシャーロットのためには、私自身が幸せであることもまた大切なことなのだろう、と気付かされた。
「シャーロットも、とても綺麗よ」
娘として結婚式に参列するシャーロットは、私と似たデザインの柔らかな桃色のドレスに身を包んでいる。
「ふふ、そんな。今日のお母様に叶う人なんて世界中のどこにもいませんよ」
さあ、行きましょうとシャーロットが手を伸ばしてくる。控え室から出ると、そこにはジェラルド様が待っていた。
「ヴィオラ……。ああ、なんて。その、言葉にならないくらい美しいよ」
いつもなんでも卒なく対処されるジェラルド様が、言葉に詰まりながら褒めてくれる。
それだけで私は幸福感で胸がいっぱいになった。
「おかあさまー! おとうさまー! お花をどうぞ」
ダミアンが胸に挿すための造花を「はいっ」と元気いっぱいに渡してくれる。
私の大切な人たちは皆笑顔で、幸せそうで。
新しい家族の始まりを祝福するが如くに、空は高く晴れ渡っていた。
◆◆◆
あとがき
ここまでお読みいただきありがとうございました。少しでも楽しんでいただけていたら幸いです。
いずれまたランスーン伯爵家のその後や、シャーロットとエルガディットの淡い恋など番外編をあげようと思っているので、その時にはまたお付き合いいただければ嬉しいです。
1,592
あなたにおすすめの小説
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます
鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────
私、この子と生きていきますっ!!
シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。
幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。
時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。
やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。
それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。
けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────
生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。
※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
【完結済】王女に夢中な婚約者様、さようなら 〜自分を取り戻したあとの学園生活は幸せです! 〜
鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
王立学園への入学をきっかけに、領地の屋敷から王都のタウンハウスへと引っ越した、ハートリー伯爵家の令嬢ロザリンド。婚約者ルパートとともに始まるはずの学園生活を楽しみにしていた。
けれど現実は、王女殿下のご機嫌を取るための、ルパートからの理不尽な命令の連続。
「かつらと黒縁眼鏡の着用必須」「王女殿下より目立つな」「見目の良い男性、高位貴族の子息らと会話をするな」……。
ルパートから渡された「禁止事項一覧表」に縛られ、ロザリンドは期待とは真逆の、暗黒の学園生活を送ることに。
そんな日々の中での唯一の救いとなったのは、友人となってくれた冷静で聡明な公爵令嬢、ノエリスの存在だった。
学期末、ロザリンドはついにルパートの怒りを買い、婚約破棄を言い渡される。
けれど、深く傷つきながら長期休暇を迎えたロザリンドのもとに届いたのは、兄の友人であり王国騎士団に属する公爵令息クライヴからの婚約の申し出だった。
暗黒の一学期が嘘のように、幸せな長期休暇を過ごしたロザリンド。けれど新学期を迎えると、エメライン王女が接触してきて……。
※10万文字超えそうなので長編に変更します。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
婚約破棄は構いませんが、私が管理していたものは全て引き上げます 〜成金伯爵家令嬢は、もう都合のいい婚約者ではありません〜
藤原遊
ファンタジー
成金と揶揄される伯爵家の令嬢である私は、
名門だが実情はジリ貧な公爵家の令息と婚約していた。
公爵家の財政管理、契約、商会との折衝――
そのすべてを私が担っていたにもかかわらず、
彼は隣国の王女と結ばれることになったと言い出す。
「まあ素敵。では、私たちは円満に婚約解消ですね」
そう思っていたのに、返ってきたのは
「婚約破棄だ。君の不出来が原因だ」という言葉だった。
……はぁ?
有責で婚約破棄されるのなら、
私が“善意で管理していたもの”を引き上げるのは当然でしょう。
資金も、契約も、人脈も――すべて。
成金伯爵家令嬢は、
もう都合のいい婚約者ではありません。
公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
貴方達から離れたら思った以上に幸せです!
なか
恋愛
「君の妹を正妻にしたい。ナターリアは側室になり、僕を支えてくれ」
信じられない要求を口にした夫のヴィクターは、私の妹を抱きしめる。
私の両親も同様に、妹のために受け入れろと口を揃えた。
「お願いお姉様、私だってヴィクター様を愛したいの」
「ナターリア。姉として受け入れてあげなさい」
「そうよ、貴方はお姉ちゃんなのよ」
妹と両親が、好き勝手に私を責める。
昔からこうだった……妹を庇護する両親により、私の人生は全て妹のために捧げていた。
まるで、妹の召使のような半生だった。
ようやくヴィクターと結婚して、解放されたと思っていたのに。
彼を愛して、支え続けてきたのに……
「ナターリア。これからは妹と一緒に幸せになろう」
夫である貴方が私を裏切っておきながら、そんな言葉を吐くのなら。
もう、いいです。
「それなら、私が出て行きます」
……
「「「……え?」」」
予想をしていなかったのか、皆が固まっている。
でも、もう私の考えは変わらない。
撤回はしない、決意は固めた。
私はここから逃げ出して、自由を得てみせる。
だから皆さん、もう関わらないでくださいね。
◇◇◇◇◇◇
設定はゆるめです。
読んでくださると嬉しいです。
悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~
咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」
卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。
しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。
「これで好きな料理が作れる!」
ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。
冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!?
レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。
「君の料理なしでは生きられない」
「一生そばにいてくれ」
と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……?
一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです!
美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる